第26話 そのころの公都
時は少し遡る。
新太とドーラが公都を散策に出た頃、ギルドマスター・ライディーンは公都の衛兵統括官に会いに来ていた。
「聖女のキャラバンが盗賊30人規模に襲われたとの報告が入ったのだが、そちらに情報は来ているか?」
「なんですと!? そのような情報届いておりませんぞ!」
この衛兵統括官は公都の衛兵を取りまとめる現場のトップで、ライディーンとも既知であった。
「俺のところに、今朝聖女の馬車を襲った盗賊30人を返り討ちにしたという魔法剣士がやって来てな」
「一人で盗賊30人を・・・!」
「うむ、女を一人連れていたが、その女は戦闘に手を出していないと言っておったのでな、一人で戦ったようだ。盗賊の利き腕の手首を切り落とし、熱湯の魔法で股間を火傷させたとか」
「聞くとべらぼうな戦闘力ですな。ぜひ衛兵に欲しい逸材ですが」
「申し訳ないな、冒険者ギルドで登録してもらったばかりだ」
「でしょうなあ、それほどの逸材、ギルドマスター殿ならば手放したくないでしょうし」
二人してそれぞれニヤリと笑う。
生きのいい若い奴らが大好きなベテランどもであった。
「ところで、聖女のキャラバンを護衛していた騎士共が、助けた冒険者に礼を言うどころか、盗賊と共謀して聖女に取り入ろうとしたなんて因縁をつけて来たらしいんだ」
「それはひどい! 大体そこまで盗賊に攻撃を仕掛けている時点で共謀何てありえないでしょうに」
手首を切り落とされているのだ。手当を放置すれば死に至る可能性が高いし、手当てをしてもダメージは深い。それで共謀などとは通常は考えられない。
「どうもキナ臭い話なんだよな。ただ聖騎士たちがプライドや立場だけを考えて無礼な態度を取っているなら、まだマシだが。ヘタすると、聖女を絡めて変な陰謀が張り巡らされていなければいいが・・・」
「おいおい・・・、ウィリバアル・メルカー神聖国内の陰謀を何でヤーウェイン・リー王国を挟んでさらに遠いラインハルト公国で張り巡らされなきゃならんのだ・・・、勘弁してもらいたいね」
そこへ怒鳴り声が聞こえる。
「盗賊の首を30人分持ってきたのだ。報奨金を早く払ったらどうなんだ」
ライディーンと衛兵統括官は顔を見合わせた。
入口へ行けば、衛兵と白いフルプレートの騎士3名が言い争っていた。
「だから、どこでどう襲われたか聞いてるんですよ。聞き取り調査できなければ報奨金の申請は出来ませんよ?」
「盗賊の首がある事が何よりの証拠だろう!それ以外に何が必要だと言うのだ!」
「随分と威勢がいいなぁ、おい」
ライディーンが前に出る。
「聞き取り調査の協力を拒否される場合はこちらも盗賊の報奨可否判定を行えませんが?」
衛兵統括官も前に出る。
「誰だ貴様!」
「公都の衛兵を預かる衛兵統括官のドーソンと申します。そちらは?」
「私はウィリバアル・メルカー神聖国、聖女護衛隊隊長のゲスガー・チョーウ・シニノール男爵家長子である!本来ならば平民である貴様らなどウィリバアル・メルカー神聖国内では口をきける立場にないのだ!こうしてわざわざ出向いてやっていることに感謝しろ!だいたいこのように聖女様のキャラバンが盗賊に襲われるなど言語道断である!これはラインハルト公国へ正式に抗議させていただかなければならんなぁ」
嫌らしい笑みを浮かべるゲスガー。
「どうぞご自由に。こちらと致しましては、ウィリバアル・メルカー神聖国から聖女のキャラバンが来ている事すら情報に上がっておりませんでしたが、そもそも正式な外交ルートでお越しになっていらっしゃるので?」
「なんだと!」
「ところでよお、その盗賊ってお前ら騎士が倒したわけ?」
ライディーンが会話に割り込む。
「当然だ!それ以外に何がある!」
「その首、顔にほとんど傷がついてないよな。抵抗させずに一気に首を切り落としたか?」
「そうだ、それだけで我が剣技の奥が見えようというものだ」
どや顔で言い放つゲスガー。
「そうかよ、ところでうちの冒険者が今朝、盗賊を30人ほどぶっ倒して聖女のキャラバンを救ったんだが、碌にその護衛騎士たちからお礼も言われず逆に怪しまれたからほっぽリ出してきたって報告受けてんだけどよ、それってお前さんたちだよな?」
「・・・・・・」
その報告が上がっていると想像すらしなかったのか絶句するゲスガー。
そこへ、近所の防具屋の親父が飛び込んできた。
「衛兵さん、助けてくださいよぉ」
どうしたのか泣き言を言っている。普段しっかりした親父だけに珍しかった。
「どうしたのだ?」
ドーソンはゲスガーをひとまず置き、親父に向き合う。
「どこぞの騎士さんが盗賊を倒したらしく、防具や武器を買い取りに持ち込んできたんだよ。防具には派手な傷が無く、状態自体は良いものが多かったんだが、いかんせん血で汚れまくっている上に、物自体はそれほどいい物でもなくて、あまりいい値を付けられなかったんだが、そうしたら買取金額が低すぎるって怒りだしてね・・・、しまいに剣を抜かれそうになったんで逃げて来たのさ」
「そりゃタチが悪い」
と、言いながらゲスガーを横目で見るドーソン。
「こら、早くこちらの言い値で買い取らんか!」
と、ドヤドヤと騎士が3名ほど入って来た。
「あ、隊長、買い取り金額で飲みに行くんですよね?」
ライディーンもドーソンもさらにゲスガーを睨みつける。
「とりあえず、防具の買い取りは親父の提示金額で納得出来ないなら取引不成立。剣を抜くようならこの町の安全を預かる衛兵隊を預かるものとしてお前たちを拘束する。盗賊の件は状況を調査せねば対応できん。最も、話を聞けば助けてもらった上にまるで火事場泥棒でもしたような状況に聞こえるがな」
「なんだと、貴様ァ!」
激高するゲスガー。
だが、ライディーンもドーソンもゲスカー程度の怒声に気圧されることなく、逆に歴戦の勇姿たる泰然自若とした雰囲気を崩さない。
「で、どうするつもりなんだよ?お前」
「調書の協力は?」
顔を真っ赤にしてイラつくゲスガーだったが、
「ふん!もういいわ!こんな低能な連中と付き合ってなどいられるか! 行くぞ!」
そう言って踵を返し衛兵詰め所を出て行くゲスガー。
「親父、適正額を払ってやれ」
「ああ、こちらです」
その金の袋をひったくるように掴むと、部下も出て行った。
その姿を見送った後、残された30人分の首が入った袋を見ながら、溜息を吐くドーソン。
「この首を改めた後処分しておいてくれ」
「はっ!」
「何だがキナ臭い感じがプンプンしてきやがったな・・・」
「王都の警備を任される立場としては実に頭が痛い問題だな・・・」
ライディーンの言葉にドーソンは深く溜息をまた吐くのであった。
・・・・・・
「ん~~~~~?」
「公王様! 公務を、公務をお願い致します!」
「ん~~~、そこに置いておいて」
「そういって前回の分も手付かずではありませんか! お願いですから公務を滞らせないでください!」
「わかってるよ~」
と、言いながら全く公務の資料を見ない公王。
公王の手元にあるのは・・・
「う~ん、ポーンをこう進めて、ビショップがこう動くから・・・」
「魔王様の嗜み」、所謂チェスであった。
公王は一人でチェス盤に置いた駒を動かしながら、ゲーム戦略を練っていた。
「一体いつまでその「魔王様の嗜み」とやらをやり続けるのです! 昼食も取っていないと報告が来ておりますぞ!」
側近ががなり立てる。
それはそうだ、公王は時間のほとんどを「魔王様の嗜み」につぎ込むほどハマってしまっていた。
「「魔王様の嗜み」にハマりまくって公務が滞り、国の力が減退すれば、正しく「魔王様」とやらの思うつぼでしょうな!」
かなり頭に来ていたといえ、側近の嫌みとしては強烈な言い回しに公王は苦笑した。
「これを本当に魔王とやらが作ったのであれば・・・天才だな。会談を申し込んでも良い」
「公王!本気でおっしゃられているのですかな!」
「まあまあ、戦争などと野蛮な殺し合いに発展するより、話し合いで両国がうまくいくような事があれば、それに越した事はないではないか」
怒り心頭の側近に対しで、公王は落ち着かせるように言葉を紡いだ。
「そんな楽観的な話が現実になればありがたいことですが・・・」
側近は溜息を吐いた。
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