第23話 戸隠新太、ギルドの受付嬢にアドバイスする
「と、いうわけでギルドに登録を頼みたいのだが」
誰も並んでいない受付嬢の前に来て椅子に座る新太。
ボサボサ髪に大きめの丸眼鏡をかけてやぼったい服を着た受付嬢は、明らかに暗そうなイメージだ。
それにしても、魔王様の嗜みと名付けた所謂チェスをゼゼコペンギンに販売依頼して儲けようとした我らが魔王様であったが、僅かな期間でラインハルト公国の首都でも大流行りになっているとはさすがの魔王様でもびっくりである。
ちなみに、新太がチェスで無双できたのはもちろん本人が地球時代に好きだったこともあるのだが、エクストラスキル<魔王の思考>を発動したことによるものだ。これは並行思考と同じようなものであるが、魔王の思考だけあって、ピンポイントで指示を出すと、求める結果への解法が頭に浮かぶようになる。
はっきり言ってぶっちぎりのチート能力である。
そんな新太たちは当初の予定を遂行すべく、最初に気になった受付カウンターの中でまったく並んでいない丸眼鏡の受付嬢の前に行って申し込みを頼んだ。
「ふぇっ・・・あううう・・・も、申し込みでしょうか・・・」
「そう、俺は新太。戸隠新太だ。こっちはドロステラ。二人とも冒険者の登録を申し込みたいのだが」
「あ、うう・・・、も、申し込みですね・・・で、ではこ、こちらの用紙に・・・ご、ご記入をおね、お願い・・・します・・・」
「?」
新太は振り返ってドーラを見る。この受付嬢はなぜこんなにあわあわしているのだろうか? その疑問を顔に出してドーラを見たので、ドーラは受付嬢に話しかける。
「どうされたのですか? 何か問題がありますでしょうか?」
「あうう、い、いえ・・・問題など・・・あ、ありません・・・」
「?」
今度はドーラが新太を見る。この受付嬢は一体どうしてここまでオドオドしているのか?
「もしかして、間違っていたら申し訳ないんだが・・・人と話すの苦手?」
ビクッ!
全身でびっくりを表すほどの反応を示した受付嬢はふるふると震えながらも頷く。
「そ、そうなんです・・・、こんな仕事をさせても、貰ってるのですが・・・未だに慣れず、うまく話せなくて、仕事も失敗ばかりで・・・」
「ああ、そうなんだ。だから君の前に人が並ばなかったのかな?」
「あうう・・・、話がうまく出来ず、どもっちゃって、皆さんを怒らせちゃうことばかりで・・・」
グスグスと泣き始める受付嬢。
ドーラがハンカチを渡す。もしかして漫画の如くビビィと鼻でもかむのかと思ったが、そんなことはなく、そっと目頭を押さえただけだったので、どことなくホッとしたような残念なような微妙な表情をする新太であった。
「うーん、今は特にどもらずにちゃんと喋れているよ?」
「えっ・・・?」
「自分の気持ちを話す今はちゃんと喋ることが出来ているから、元々はちゃんと喋られるんだろうね。それがうまく喋れなくなるということは、何か説明したりといった、自分の気持ちではなく、お仕事の話なんかをしなくちゃいけない時に、緊張して話がうまく出来なくなるんじゃないかな?」
新太はそう分析する。
「あうう・・・、やっぱりこの仕事は向いていないということでしょうか・・・」
落ち込む受付嬢に新太はにっこり微笑んで告げる。
「そんなことはないさ。うまく説明できないのなら、練習すればいいんだから」
何でもない事の様にそう語る新太を見つめる受付嬢。
「君の名は?」
「あ、シエラです。シエラ・バルドフェルドです」
「すごく強そうな家名だね。名前はかわいいけど」
「か、かわいい・・・。あ、そうなんです。父はすごく強いのでよく似合っている家名だと思いますけど・・・、私には重すぎますね」
えへへと苦笑気味に笑うシエラ。丸眼鏡とボサっとした髪形でやぼったく見えるが、よく見ればかなり美人だ。
「ふむ、君は女の子なんだし、家名が重ければいい人を見つけて結婚して家名を変えてしまえばいいと思うぞ」
「ふええ! 結婚ですか?」
ドンッ!
何やら奥の部屋で柱でもゲンコツでぶったたいたような派手な音が聞こえる。
とりあえずそれをスルーして新太は続ける。
「まあ、仕事の説明が慣れなくて緊張しちゃうからうまく話せないんだったら、練習に付き合うよ。ギルドの申込書を説明してもらってもいいかな?」
「ははは、はいっ!」
そうして時間をかけて同じ説明を繰り返しながら、うまく話せないところは新太がアドバイスし、表情やしぐさのアドバイスはドーラが行った。
そうこうする事小一時間。
シエラは受付嬢としての基本的な説明をつっかえずに説明できるようになった。
一度もトチらずに説明できたことに自分でもびっくりするくらいの笑顔がでる。
「よく出来たね、シエラ。これで説明は完璧だよ。それでは最後の特別サービスだ。ドーラ。ギルドの部屋を借りて、彼女のメイクアップと服装改善をよろしく。とりあえず服装はドーラのために買った服から一着見繕ってもらって構わないか?」
やぼったい見た目を改善すれば自信にもなるかと思い、ドーラにそんな提案をする新太。
「お任せください。誰だかわからないくらいに変身させて見せますわ!」
ふんすっと両手でグーを握り、力を籠めるドーラ。
「ふええ~、誰だかわからないのは困りますぅ~」
泣き言をいうシエラをズルズルと引きずって奥の部屋の一室に籠った二人は、十分くらいで出て来た。
「うおおっ!」
「すげえ美人!誰だ?」
「あんな娘いたか?」
ギルド内がざわつく。ボサボサ頭をアップにして、後ろでまとめさせたようだ。服装も白いブラウスと短めの明るい色のスカートに改めて全体的にふんわり明るいイメージに仕上がっている。さっきまでの暗いイメージなど微塵も感じられない。改めてびっくりするな。素材がいいのかドーラの腕がいいのか・・・。新太は驚きを隠せなかった。
ドーラに連れられてカウンターに戻って来たシエラは、ぺこりと頭を下げる。
「お待たせいたしました」
「うん、改めて自己紹介するね。俺は新太。戸隠新太だ。ギルドへ冒険者の申請を行いに来た。よろしく頼むよ」
「同じくドロステラですわ。ドーラと呼んでくださいね。新太様同じく、申請をお願い致します」
「ふええ・・・新太さ~ん・・・」
すごく丁寧に、また優しく接してもらい、その上自分の至らない部分を克服する手伝いまでしてくれた二人に感動が止まらないシエラ。
「こらこら、登録手続きをしてもらうんだ。練習の成果を見せてくれなきゃ困るぞ?」
笑いながらシエラに突っ込む新太。
「はいっ!しっかり対応させて頂きますね。それではこちらの申し込み用紙に上から順にご記入をお願い致します。書けない箇所は未記入でも構いません。不明な点や疑問点はお尋ねください。代筆は必要になりますでしょうか?」
すらすらと説明するシエラ。もう大丈夫なようだ。
「いや、代筆は大丈夫。自分で記入するよ」
そう言ってすらすらと記入して行く。名前はともかく、種族は未記入にしておく。得意な技術は刀による近接戦闘、魔法と記入する。ドロステラも似たような内容で記入させる。
「戦闘経験の所だけど、過去の戦闘実績を記載すればいいのかな?」
「そうですね、盗賊や魔獣の討伐実績などがあればご記入ください。ギルドにて参考にいたします」
そうシエラが説明したので、新太は今朝方戦ったばかりの盗賊について記載する。
そうしてシエラに提出した。
申込書を確認していたシエラだったが、
「えっ・・・、今朝盗賊と戦闘したのですか? この町の外れの街道で? しかも約30人を相手に?」
「私は見ているだけでしたが。何せ新太様が一人できれいさっぱり討伐されてしまいましたので」
ドーラがにっこりしながら説明を補足する。
「そうだな、一応一人も殺してないぞ。盗賊が襲っていた相手が面倒臭そうな奴らだったから、助けた後ほっぽって来たけどな」
あんぐりと口を開けるシエラ。ちょっとかわいい。別に何をするでもないので、脇腹を抓らないで頂けますでしょうか、ドーラさん。
「ギ、ギルドマスターを呼んできますので、少しお待ちくださいっ!」
慌てて席を立ち奥の部屋へ駆け込むシエラ。
盗賊退治がそんなに大変なことだったかな?とドーラを見るが、ドーラも小首を傾げて可愛い顔を向けるだけだった。
まだまだ冒険者登録が終わらないと、新太は溜息を吐いた。
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