第1話 大会議室にて
「一体どういうことですか!」
ローブを着て杖を持った竜頭の人がメチャメチャ怒ってるな。
なんたって、この竜頭の人の話を根底からひっくり返したわけだしな。
しかも大勢の国民の前で。
頭から湯気が出る勢いで怒ってるようだ。
ちなみにここは先のバルコニーから建物の内側へ入って廊下を少し歩いて案内された先、
大扉を開けるとそこは大きな会議室だった。
かなり大きな円卓に明らかに一つだけ豪華な椅子があり、メイドっぽい女性がそこに案内してくれた。椅子を引いてくれたから、座れってことだよね?
そんな訳でバルコニーにいた全員がこの大会議室に戻ってきたわけなんだが・・・。
俺の左隣りにさっきから怒髪天を突く感じの竜頭の人が座っている。俺の右隣は席が空いている。その向こうは灰色のローブだから、バルコニーで俺の右後ろに並んでいた人たちだな。
・・・あれ? とすると、竜頭の人が左隣に座るとなると、さらにその向こうにクソゴツイ系の6人が並ぶのか? というか並んでるな。
右隣の席は空いたまま。さらに右列に1つ空席がある。とすると、竜頭の人がまとめ役みたいなもので、それとは別に今ここにいない2人を含めて13名の部下がいるってことだ、この俺に。信じられないけど。
「聞いているのですか! 魔王様!」
「あ・・・えーと、何?」
「何?ではありませんぞ! 一体どういうことですか、魔王様!」
「・・・だから、何が?」
「何が?ではありませんぞ! 何がでは!」
椅子に杖を立てかけている竜頭の男は両手で円卓をダンダンと叩きつける。
よっぽどひっくり返されたことが頭に来てるなぁ。
もはや会話が成立しにくいほど怒ってるよ。
「よぉ魔王さんよ」
ついに別のヤツも俺に向かって話しかけてきた。ヤベーなぁ・・・
「俺ぁやっと戦争おっぱじめて人間どもをぶっ殺せると思ってたんだけどよぉ。やめちまうってどー言うことよ?」
ライオンだか獅子だかわからんような顔をした獣人が俺を睨みつける。
「まったくだ。あんな数だけが集まった非力で矮小な人間どもが我が物顔でのさばっていること自体許せるものではないわ!やっと捻り潰してやれると思ったのに!」
俺の1.5倍はありそうな図体の鬼がこっちを睨む。コエー。
「そうね、一体どういう事かしら?」
腕を組んでこちらを睨むメデューサ。蛇も全匹コッチ見てる。コエー。やめて!石になったらどーするの? 魔王だから効かないと信じたい。
「さっきバルコニーで国民に伝えたとおりだ」
こっちを睨んでいた連中が呆気に取られる。
「それでは魔王様は、我々が戦争で一人でも犠牲になることが許せないと?」
サキュバス的なお嬢さんが腕を組みながらこちらに話しかける。
胸を持ち上げるように腕を組んで頂いてありがとうございます!
「そうだ。俺はお前たちが兵士一人、国民一人たりとも戦争で死ぬなどという事は許さん」
腕を組み、できる限り偉そうに答える。魔王様たるもの威厳が大事だ。
「それだと、戦争なぞ出来ませんわなぁ・・・。兵士が一人も死なぬとはどれほどの計略を立てても難しかろう」
灰色のローブを来た顔の見えない男が喋った。あ、顔が見えなかったけど、声を聞くと男だな。年も上の方のようだ。
「馬鹿な!じゃあ人間どもに攻め込まれたら無抵抗で殺されろってのか?」
獅子の人その顔やめて!コエーから。
「もちろんそのような訳なかろう。我々に牙を向ける愚か者どもにかける慈悲などない。
攻め込まれれば攻め込んだことを心底後悔させてやるまでだ」
出来るだけ邪悪にニヤリと笑って見せる。
鬼も獅子もちょっとビビッて引いたように見える。よかった。
「その意味では、軍部の中でも精鋭を選りすぐり防衛にあたる連中には、今までより厳しい訓練を課してより精鋭に鍛え上げる。防衛のための闘いならば、最初から入念な戦略を練ることができる。防衛戦とはいえ、我が国の兵士が死ぬことは許さん。そのことをよく刷り込ませ、兵士はより戦闘技術を、軍師はその戦略を研鑽せよ」
言い放つ俺に獅子も鬼もメデューサも目が点になる。
攻めて来たら容赦しなくていいけど自分たちは一人も死ぬなって言ってる。
結構無茶ぶりだな。
「ぼ・・・防衛戦でも兵士たちに死ぬことは許さぬと・・・?」
メデューサが信じられないといった感じで問いかけてくる。
「そうだ。防衛戦でも死ぬことは許さぬ。その意味では俺は人間の国へ戦争を仕掛ける以上に厳しいことを言っているつもりだ。拠点を預かる指揮官にはそれだけの責任を課す。結果として兵がどれだけ被害を被っても拠点が落ちなければ良い、などという判断は今後一切ない。どれだけ人間どもに攻め込まれても頑強に跳ね返し、こちらの人的被害はゼロを貫く。一人でも死者が出れば、それは負け戦と同意義だと知れ! 拠点を預かる指揮官が部下にいる者たちはよくその事をわからせよ。その意味では今までよりもより精鋭を選び抜き、戦闘訓練は極めて高いレベルを目標とせよ。言っている事は簡単ではないことは重々承知しているつもりだが、これも人間界に攻め込んで殺し合いをしろ、という命令よりはずっと生産的で意味のあることだろう。訓練で死ぬようなことは無いようにしてくれればな」
腕を組みながら出来るだけ仰々しく宣う。こういうのは勢いと威厳が大事だ。
今の俺の説明に「獅子」「鬼」「メデューサ」の3人が黙り込んだ。脳筋な戦闘派はこの3人ぽいな。
「しかし防衛はわかりますが、人間国への対応はどうするのですか?」
イケメン騎士が問いかけてくる。コイツは見た目の通りに柔らかい感じだな。
「そうですなぁ。戦争を仕掛けない以上、国土は増えませんな。現状北の大地では取れる穀物も限られており、何より不足がち。戦争以外にて対応があるとのお話しでしたが、対策は急務ですぞ」
灰色のローブを来た魔導士風の男(声がおっさん)が発言する。最もなことだ。よく見えているようだ。この男にはいろいろと相談してもいいかもしれない。
「私は魔王様の判断がすばらしくご英断であったと思いますわ。戦争で無駄な死者が増えることは国力の減退に直結します。ぜひそれ以外での魔王様の叡智をお聞かせ願えればと思います」
ボン・キュッ・ボンなお嬢さんが恭しく俺に向かって頭を下げる。いい娘やなー。
「はっ!おめえの眷族で人間国の偉い連中を誑し込んでくるって作戦じゃねーかぁ?
サキュバスの本領発揮ってか? はっはっは!」
獅子の野郎が無遠慮にもそんなことを言う。
ボン・キュッ・ボンなお嬢さんがまるでゴミでも見るかのように獅子を睨むが、
俺の方を向き直し、
「我が眷族の力が必要であればいかようにもお申し付けください」
と頭を下げる。だが、頭を下げる瞬間の表情がわずかに苦しそうに見えた。
「不要である。いや、お前の力は必要だが、そのような下種な戦略は取らぬ。強制的な魅了は一時凌ぎにはなっても、恒久的な対策にはならぬ」
「なんと・・・」
お嬢さんがびっくりしたような表情で俺を見つめる。
少なくとも自分たちの力が一時凌ぎだからいらないと言われて怒っているわけではないようだ。どうも俺が考えていることがどこまでを見透して話しているのか、その先が知れなくて驚いているようだ。
「・・・我々のような種族は『マナ』を吸収出来れば食事自体は必要ない。その意味ではこの北の大地は奥深い森林や切り立った山々から濃密な『マナ』が発生するため、生活自体には困らぬところがある」
へ、そうなんだ。『マナ』とやらが吸収できるならメシいらないんだ。ちょっと味気ない気もするけどなぁ。この全身黒鎧、怖すぎると思ってたけど、飯食べないんだなぁ。相当食べそうなガタイしてるけど。2m軽く超えてるよね?
背中に背負った大剣も真っ黒だし。どんなけ黒好きなのって話だ。
「シェタッフガルド! ナイトメア族のお前はいいかもしれないが、俺はそうはいかねーんだよ!」
獅子が叫ぶ。いかにも肉スキそうだもんね、アンタ。
「そうね、どうせ食べるならおいしいものを食べたいしね」
メデューサも同調する。
「ギュピー」
「ええっ!?」
変な声が建物の外から聞こえて来た。
サキュバスお嬢さんが窓際まで歩いていく。
「あら、アトラスはお野菜があれば大丈夫なの?」
「ギュピー」
なんだか嬉しそうに鳴き声?を上げる一つ目巨人。
もしかして建物の外で体操座りしてこちらを覗いているのが幹部の一人なの?
「なんだよ、アトラスのヤツ! あんなガタイしてるくせに菜食主義で小食ってサギだろがよ!」
「まったくだな」
獅子がイラついたように怒鳴り、鬼が同調する。
うん、詐欺だねそりゃ。
「いつもいつも花ばっかいじってやがって。巨大な棍棒持って立ってるだけで相手が逃げて行くから将軍の席にいられるだけじゃねーか。実際虫も殺せねぇってバレたら速攻で狩られるだろうよ」
獅子が忌々しそうに吐き捨てる。
え~、マジか。チョー優しいじゃん、アトラス君。ちょっとお友達になれそうな気がしてきたよ。体長13mとか、どうコミュニケーション取っていいかわかんないけど。
「アトラス君。君は土いじりが好きかね?」
俺は窓まで歩いて行ってアトラスと呼ばれた巨人に話しかける。
「ギュピー!」
両手を万歳のように上げて喜んでいるように見えるアトラス君。
「あら、大地の神とも呼ばれるだけあるわね。大地が大好きなのね」
「畑を耕すのも大丈夫かな?」
「ギュピギュピー!」
右腕をぐっと持ち上げるように力こぶを作って任せろアピールをしてくるアトラス君。
ほんに君はえーやつや。文句ばっか垂れる鬼や獅子とは段違いだな。
「魔王様よぉ。一体何を考えてんだ?」
獅子が呆れた。
「この国の問題点はどこにあると思う?」
席に戻った俺は唐突に語り掛ける。そして円卓の全員を見回す。あ、アトラス君が興味深そうに窓から覗いてるね。
「ああ? 国が狭ぇから打って出るんだろがよ」
獅子が言う。
「人間どもを根絶やしにして我らが楽園を作らねば!」
鬼が声高々に叫ぶ。
「第一は食料不足でしょうね。民の隅々まで食料が行き渡っていない現状があります」
サキュバスのお嬢さんが言う。
「国内での消費が上がらないから生産能力も上がりませんわな、ついでに言うと娯楽も無いですしなぁ」
灰色のローブが言う。
「ですから!人間の国へ攻め込まねばならないのです!」
竜頭が円卓をドン!とげんこつで叩き、声を上げる。
「よし、わかった。それでは人間の国を含めた世界地図とこの国の国力を検討する資料を用意せよ」
「は?」
竜頭は訳が分からないといった感じで聞き返す。
「お前は相手の情報もわからずに戦争をするのか? そしてこの国の情報だ。食糧、国民数、税金、兵士数、その他数字化できるものはすべてだ。攻め込んだ後この国は残りの者で維持できるのか? 攻め込んだ者は奪い取った国を運営していけるのか? さらに別の人間国が徒党を組んで攻めてきたりしないのか?」
「・・・・・・」
全員が黙り込む。
「・・・はぁ。まあよい。続きは資料がそろってからだ」
俺は告げた。
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