第13話 偽りの騎士団、その実力大変危険につき
「で、報酬は問題解決後の話でいいか?」
銀色の騎士がドーガに問いかける。
「い、いや・・・、まあ急いでいるからそうしてくれるとありがたいが・・・、いいのか? 通常冒険者たちは達成条件と報酬をきっちり決めないと動かないものなんだが・・・」
ドーガが説明する。
冒険者たちは慈善事業で命を懸けるわけではない。彼らも生活があり、生きて行くために報酬は必須なのだ。そして、依頼の達成条件、つまり完了したとはっきりわかる条件も確定が必須だ。そうでなければ、どれだけ仕事をしても「依頼者」からまだ終わっていない、などと因縁を付けられて依頼が完了しない、などという可能性もあるのだ。
「だが、ギルドマスター・ドーガ殿。今回の依頼はギルドマスター直々のモノであろう?達成条件も基本的にはフォレスト・ウルフも盗賊団も殲滅が目標になるだろう。違うか?」
「・・・いや、その通りだ」
「であれば少しでも早く対処したほうが良かろう。それに、ギルドマスター直々の緊急依頼なのだ。事前に交渉しなくともその報酬は我々の期待できるものだろうよ。それだけの度量がギルドマスターにはあると思うんだがね」
存外に「お前の器が試されてますよ」的な反応を見せるキース。
「・・・くっくっく! いいだろう。しっかりこの緊急クエストを対処してくれ。必ずお前たちが満足できる報酬を準備しよう」
そう言って副ギルドマスター・シーモが持ってきたCランク用ギルドカードを受け取り、ギルドマスターとして魔力を込める。
「“代行者”のギルドカードだ」
キース達8人分をそれぞれに渡していく。
「そういや、まだ名前を聞いてなかったな」
「キースだ」
ドーガの問いに、本名で答えるキース。魔王様より、特に偽名を使う必要はないと言われている。別に本名でも困らないらしい。
「頼むぞ、キース」
「ああ、任せておいてくれ」
二人はガッチリと握手をした。
「で、どうやって対処する?」
ドーガの問いにキースが指示を出す。
「トルネラ、クエント」
「「はっ」」
「お前達は二人でフォレスト・ウルフの対処を頼む」
「「了解しました」」
騎士二名でフォレスト・ウルフの群れに対処しようとする騎士団。
「まてまて!たった二人でフォレスト・ウルフの群れを討伐しようってのか? 無茶が過ぎるぜ! 何十頭といたんだぞ!」
フォレスト・ウルフの群れを確認してきた冒険者たちが騒ぎ出す。それにはキースは答えずに質問をする。
「フォレスト・ウルフは金になるのか?」
「ああ、それほど高い買取ではないが、毛皮や牙、肉は買い取れるぞ」
ドーガの回答にキースは考えを巡らす。
「トルネラ、クエント。殲滅が条件だが、出来る限り火魔法は使うな。剣技と風魔法を中心に対処せよ」
「「ははっ!」」
「ドーガ殿。もし手が空いている者達が居たら、荷車などを用意いただけませんかな?我々荷物を運ぶのは苦手でして。とりあえず討伐したフォレスト・ウルフを持ち帰って頂きたいのだが。手間賃はフォレスト・ウルフ買取の一割くらいで対応頂けるとありがたいが」
ドーガは呆気に取られた。すでにフォレスト・ウルフを殲滅した後の心配をしているではないか。一体騎士団とはどれほどの実力を持ち合わせているのか・・・
「ああ、それでいいぜ。シーモ。動ける冒険者の中でその条件でOKな連中に声をかけてくれ」
「わかりました」
「さて、残り6名は盗賊団の殲滅に向かうとしよう。スマンが誰か一人、その砦とやらに案内を頼めないだろうか?」
キースは銀仮面の顔をぐるりと回して誰かいないか探すふりをする。
「それには及ばん。ギルドから案内を出す。ルーカス!キース達騎士団を案内しろ」
ルーカスと呼ばれた皮鎧の軽戦士がギルドの奥から出て来た。
ルーカスはセガンタルの町冒険者ギルドの専属と呼ばれる冒険者である。
ギルドに雇われている形を取っており、依頼を受けない代わりにギルドから給料をもらうようになっている。基本的には軽い依頼で誰も受けないから処理するとか、新人冒険者の教育係的な役割が多い。
「案内は良いが、戦闘はさすがにごめんだぜ。というか、アンタ達本当に100人以上の盗賊団に6名で殴り込む気かい?」
「もちろんだ。早速出かけるとしよう。案内を頼むよ」
ルーカスの問いに何の問題もないとばかりに軽く答えてギルドを出て行こうとするキース達。ルーカスはギルドマスターのドーガに目を向けるが、ドーガも黙って頷くだけ。
ルーカスは騎士団の連中の実力が本物であるよう、神に祈った。
「・・・本当に大丈夫なのかよ?」
「知らねーよ。でもギルドマスターからの依頼だし、仕方ねーだろ」
「それに、本当にフォレスト・ウルフの死骸を運ぶだけで一割もらえるんでしょ。仕事としては楽じゃない」
戦士のポン、剣士のカン、女盗賊のチー、Eランクの3人組は荷車を2台引きながら南西の森に向かっていた。街道にまで出て来たフォレスト・ウルフの群れを騎士団2名で迎撃に出たという。倒したフォレスト・ウルフの死骸をギルドまで運ぶ仕事をギルドマスターから直接受けたのだが、果たして騎士団2名で本当にフォレスト・ウルフの群れを殲滅できるのか?ポン・カン・チーの3名は正直信じられなかった。
だが、信じられなかったのは目の前の光景であった。
3人が現場に着いた時には、ほぼ戦闘が終わっていた。
「剣技<地平斬>!」
一人の騎士が大型のグレード・ソードを横なぎに一振りする。
その一撃から発生した衝撃波は地面と平行に広がり、狼たちを一気に両断した。
そして、動いているフォレスト・ウルフは1匹もいなくなった。
「マ、マジか・・・?」
ポン・カン・チーの3人は騎士団の2名がギルドを出て行くのをギルド内で見ていた。
前回の依頼でヘマをしていた3人はギルドマスターに声をかけられ、ギルド裏においてある荷車2台を持って追いかけて来た。
騎士団の2名は馬に乗っていたようなので、自分たちよりは早いのはわかる。
だが、すでに殲滅完了しているとは・・・。
ブンッとグレード・ソードを一振りして血糊を振り払うと背中に装着しなおす騎士。
迫力がありすぎて3人には声をかけられなかった。
「よう、クエント。手ごたえどーよ?」
クエントと呼ばれた騎士は、背中に大剣を背負いなおすと振り返った。
「ん~、狼なんぞに手ごたえないっしょ」
肩を竦めるクエント。
「トルネラだって技3連撃で終わらせてるじゃん」
「あーあ、隊長に指名されたけど、あっちの方が面白かったんじゃないかなー?」
「まあ、これからも依頼はあるだろうから、慌てることはないっしょ」
もう何十匹いるかわからないほど倒されたフォレスト・ウルフの前で気の抜けた会話をする騎士2人。ポン・カン・チーの3人は一言も発することが出来なかった。
「おっ? もしかして狼回収に来てくれた人たち?」
トルネラと呼ばれた騎士が3人に気づいた。
「あ、ははは、はいっ! そうです!」
カチカチになって答えるポン。
「そんな緊張せんでえーよ。フォレスト・ウルフはもうみんな死んでるから大丈夫だよ」
「じゃ、あと任せていーかな?」
「あ、はい! 回収させて頂きます!」
颯爽と馬に乗って帰って行く2人の騎士。
「信じられねーくらい強ぇなぁ・・・」
3人はフォレスト・ウルフの死骸を黙々と荷車に回収しながら、それでもまだ自分たちが見たものが信じられなかった。
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