第12話 偽りの騎士団、登場
ラインハルト公国 セガンタルの町。
ここの冒険者ギルドは非常に強力なレベルの冒険者がそろっている。
何せ、このセガンタルの町は魔国への入口とも呼ばれるハーオス山の麓にある。そしてラインハルト公国の公都を背に背負っている位置にあるのだ。と言っても、公都までには大きな森が隔てており、最近では魔国側の山から出てくる魔物より、公都側の森から出てくる魔物の方が圧倒的に多い。これは、公都側の町や村が公都に近づけないように魔物狩りを行えば行うほどこの魔国に近い位置にあるセガンタルの町へ魔物が接近してくるようになるのだ。皮肉としか言いようがない。
「おい! 公都の王城に救援依頼は出してあるんだろうな!」
セガンタルの町、冒険者ギルドのギルドマスター、ドーガはカウンターを殴りつけながら怒鳴った。
「ええっ! 王城は元より、公都の冒険者ギルド本部にももう3度も腕利きの冒険者を派遣してくれるよう依頼はしてありますよ! 返事はトンと来ませんがね!」
副ギルドマスターのシーモが怒鳴り返す。
「くそったれ! 公都の連中はこの町の重要性を認識してるのか!? ここが壊滅すれば魔国から魔族軍が侵攻してくるかもしれないんだぞ!」
ドーガの口から苛立った独り言がまき散らされる。冒険者ギルドの他の職員もドーガと同じ意見である。ただ、遠い公都からはその重要性が見えず、手が差し伸べられないのである。
そこへまたケガをした冒険者が運ばれてくる。
「まずい!南西の森からフォレストウルフの群れが出てきている。放置すると町まで来るかもしれん」
右手から血を流した剣士が叫ぶ。
「なんだと!」
フォレストウルフは単体~数匹程度であればそれほど慌てることはない。だが、群れを作ったフォレストウルフは非常に危険な存在となる。
そこへ斥候役で依頼を受けていた冒険者が飛び込んでくる。
「大変だ!」
最初に入って来た盗賊風の男が叫ぶ。
「これ以上大変なことがあるか!」
問題ばかり起きているのに、一向に本部や公都から援軍が来ない。
ギルドマスター・ドーガのイライラは頂点に達していた。調査依頼を受けて仕事をしてきて報告に来たのにいきなり怒鳴られる盗賊風の男はツイていないとしか言いようがない。
「な、なんだよ。調査依頼を受けて南東の街道の森を調査してきたんだよ。そしたらヤバイ状況がわかったから・・・」
怒鳴られたので少々縮こまってしまいながら報告する盗賊風の男。
この調査依頼は南東の森の街道で商隊が襲われる事件が続発、冒険者のパーティを護衛に雇っていた商隊さえも襲われて戻ってこないという噂が流れていた。
その調査に向かわせたのだが・・・
「で、どうだったんだ?」
ドーガは睨むように先を促す。
「も、森の奥の打ち捨てられた昔の砦に盗賊たちが集まっていました。その数・・・100人以上!」
「な、なんだとぉ!」
盗賊自体はそれほど珍しいものでもない。やはり辺境ともなると、公都近くほどの治安を確保することは難しい。だが、盗賊団が100人以上などと、それほどの巨大な組織は聞いたことが無かった。もはや国軍が討伐に出なければならないレベルである。
「くっ・・・、通りで南東の街道から来る商隊が激減したわけだ」
ドーガは頭を抱えた。そのほとんどが盗賊たちに襲われて捕まっているか殺されたのだろう。荷物もすべて奪われて。それが事実なら一刻も早く盗賊の根城を急襲して討伐を行わなければならない。もしかしたら連れて行かれた人間がまだ生きているかもしれないのだ。
だが、現在このセガンタルの冒険者ギルドにはそれほどの戦力はない。それ以前に、魔物が増える一方の最近、多くの冒険者たちがケガをしており、まともに動ける人数が激減していた。
「なんてこった・・・」
「すぐに公都に再度使いを出しますか?」
副ギルドマスターのシーモが提案してくる。それしか手がないが、南東の森の街道は盗賊に抑えられているだろう。南西の森の街道はフォレストウルフの群れが出てきているという。どちらにしても突破するだけでも生半可なことではない。
「一体どうしたら・・・」
カランカラン
「ん? やけに物々しいな。冒険者ギルドってのは結構殺伐としたところなんだな」
「いや、隊長。ただ忙しいだけなのかもしれませんよ?」
ドヤドヤと入ってくる銀色の騎士たち。いや、<全身鎧>の男たちだからガチャガチャと金属音がうるさいのだが。
「お・・・おおおっ!!!」
ギルドマスターのドーガがカウンターを飛び越えて今入って来た騎士の元へ走り出す。
先頭の<全身鎧>に銀仮面を付けた全身銀色の騎士の肩を掴む。
「あ、あんた公軍騎士団の騎士か!」
いきなり揺さぶられる全身銀鎧。というかこの騎士、もちろんイケメン剣士、魔国12将軍序列9位の男、キース・フォン・オーフェンスその人である。
「あ、ああ。そうだけど・・・」
「隊長、栄誉ある公軍騎士団の隊長なんですから、もう少し威厳を持ってですね・・・」
などと部下に文句を言われている。すてに騎士団のイメージトレーニングをしてきているキース達である。もちろん魔王様の肝いりアドバイスによるものである。
「あ、あんたら、俺の出した要請が通って救援に来てくれたのか!」
嬉しそうに肩を揺するドーガ。
「わ、悪いんだがその要請とやらはわからんのだ・・・。俺たちはただ、休暇を取って辺境の町や村を回って、騎士団の治安維持が届いていないところがあれば力になれればと・・・」
全身銀鎧の説明にポカーンとする。
この騎士、今何と言ったか?
救援要請は聞いていない。
休暇を取って辺境に来た。
騎士団の治安維持が届いていないところで力になりたい。
つまり・・・助けてくれるってことか? しかも自分たちの意思で?
「なあアンタ・・・つまり、助けてくれるってことでいいんだよな?」
あまりのドーガの真剣な目に若干引きつりながらキースは答える。
「ああ、俺たちの助けがいるならばな」
ニヤリと笑うキース。だが、フルフェイスヘルメットのような銀仮面の兜は全く表情を伝わらせない。
「この町は今死ぬほどアンタ達の助けが必要なんだ。頼んでもいいか?」
「ああ。だが俺たちは休暇で来ている。そういうわけで給金が出ていないわけでだな・・・」
キースの遠回しなアピールにドーガが獰猛な笑みを浮かべる。
「くっくっく! このピンチを乗り切れるなら悪魔でも公都騎士団でも躊躇なく契約してやるぜ!」
「ギルドマスター、その言いぐさはどうかと思いますがねぇ」
副ギルドマスター・シーモのツッコミにドーガは声を荒げる。
「うるせぇ! 全ての責任は俺がとる! Cランクのギルドカードを持ってこい! 期間限定でギルドマスターの代理権限を持つ“代行者”の発行を行う!」
「ええっ!」
「早くしろ!」
「は、はい!」
シーモが慌ててカウンターの奥の部屋に戻って行く。
「どうせ、実際の魔力登録は行えねぇだろ?騎士団所属ならよ」
ニヤっと笑うドーガ。
「働いてもらって依頼料だけ払う形でもいいんだが、村の出入りやギルド依頼で動いている事の証明など、ギルドカードがある方が便利だろう。ほとんど偽造みたいなもんだが、無いよりはマシだろう」
「・・・ありがたい。期待に沿えるよう努力してみよう。・・・ガッチリ報酬を稼げるようにな」
ドーガは目の前の全身銀鎧が笑ったように感じた。ドーガが公都で見た騎士団の連中はいけ好かない野郎ばかりだった。こんな冒険者臭い男気に溢れるヤツが騎士団にいるとは・・・ドーガはなぜか目の前の男たちがたまらなく好きになりそうだった。
自分の拳を銀鎧の胸にゴンッと当てる。
「頼むぜ・・・騎士団」
「・・・任せておけ」
なんやかんやで、よくわからないうちに偽造の身分証まで用意して仕事を斡旋してもらえることになった。キースはどうやって仕事を回してもらおうかいろいろと作戦を練っていたのだが、全て無駄になってしまったと若干寂しく感じている自分に苦笑した。
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