第10話 冒険者たち、それぞれの依頼をこなす
<探索者>に連れられてマコたち5人は薬草を取りに森までやって来た。
「この森にも獣や魔獣が出ることは出る。よく出るのはEランクのフォレスト・ウルフ、同じくEランクのホーンラビットなどかな。たまにDランクのワイルド・ボアが出たりするけど、ワイルド・ボアは見た目以上に危険だから、最初は見かけても手を出さずにやり過ごすか、逃げるようにね」
「戦ってはダメなのです?」
マコは小首を傾げる。
「ワイルド・ボアは体力がある上に突進力がすごいから、正面から体当たりされると一撃で死んでしまうことだってあるんだ。大きいのになると2m超える個体もいるしね。でも肉はうまくてギルドでも肉、キバ、毛皮といい値で買い取ってくれるから、狩ることが出来ればおいしい獲物なんだけどね」
トマスは以前ワイルド・ボアに突進され、危うくぺしゃんこにされそうになるという苦い経験があった。その時の事を思い出してしまい、遠い目をして語る。
「なるほどです。勉強になります。なんとしてもワイルド・ボアを狩りたいのです」
「まずは薬草からだよ。慌てないで一つ一つ依頼をこなして経験を積んでいこう」
トマスは自分自身にも言い聞かせるようにマコたちに答えた。
「はいなのです!」
マコたちは元気に薬草取りに勤しむのだった。
-そのころ ガウルの町 冒険者ギルド
「や、や、お疲れさん! ワイルド・ボアの群れの討伐はうまくいったかい?」
冒険者ギルドのカウンターの奥から、大柄な女盗賊といった感じの人物が揉み手をしながら慌てて出てくる。
ガウルの町冒険者ギルドのギルドマスター、カチアナである。
「ああ、結構な群れだったな。情報の精度がイマイチではないのか? あの数だとDランク程度の冒険者4~5人のグループだと、まず間違いなく討伐失敗か死んでいるぞ?」
どこか一国のお姫様と言っても過言ではないほどの美しさを誇る美女ダークエルフから底冷えするほどの視線を受け、冷汗が止まらないカチアナ。
「や、すまないね。調査スタッフにはよく言っておくからさっ」
揉み手を止めずに顔色を窺うように取り繕うギルドマスター、カチアナ。
現在冒険者ギルドの建物内は他に3~4組の冒険者が酒場のテーブルでたむろしているが、ギルドマスターの見たことも無いような低姿勢の対応と、これまた見たことも無いような美女5人組の冒険者の組み合わせに一体何事なのかと興味津々に耳を傾け情報を収集しようとしていた。
だが、このうちの1組は知っていた。この5人が先日冒険者ギルドでDランクグループ2組11名を相手に大暴れしたことを。その後ギルドマスターのカチアナが涙目になってその対応について謝罪させられていたことを。
あまりの美人さに我慢できずと声をかけようとした別テーブルの冒険者に鋭く釘を刺す。
「おいっ!やめとけ! あれは<死の姫>だぞ!」
その言葉にテーブルの冒険者全員が固まる。
「え・・・? あのギルド登録初日でちょっかいをかけたDランクの冒険者11人を瞬殺して再起不能にした挙句、ギルドマスターを威圧で屈服させたっていう・・・?」
「そうだ、その<死の姫>だぞ! 下手にちょっかいかけたらマジで殺されるぞ!」
立ち上がりかけた男はそっと座りなおし、持っていたエールのジョッキに口を付け、チビリと飲んだ。男も噂では聞いていた。登録初日からギルドで大暴れしてギルドマスターですら涙目になって屈服した事件。非常に美しい女たちということでその話を聞いた冒険者連中はその美女たちを<死の姫>と呼んでいた。
「それで? 討伐したワイルドボアの買取を頼みたいのだが?」
5人の中でも、明らかにリーダーと思われる先頭の美女が申し出る。
ちなみに彼女たちは前回と今回、二度のギルド訪問において、一度も自分たちの名前を名乗っていない。だが、ギルドマスターのカチアナとその他ギルドスタッフはもちろん知っている。暴れられた後で彼女たちが書いた冒険者申込書を穴が開くほど見直して危険人物たちだという認識をスタッフ全員に植え付けたからだ。
リーダー格と思われる長身美女エルファ、必ず従者のように付き添う少女ラナ、エルファと同じダークエルフのアミス、ロングヘアで右目が隠れているエリシア、小柄な金髪の少女リンス。この5人はヤバイと。
「おい! この前登録したばっかの連中がワイルドボア討伐っておかしいじゃねーか!
ワイルドボアの討伐って確か最低でもDランクだったろーが!」
クエスト受注のランクがおかしいことに気づく冒険者。
それを口に指を当てて静かにするように窘める男。
「連中はDランクだった<森の王>を瞬殺してるんだ。ギルドマスターの権限で詫びも含めてDランク登録でスタートしてるって話だぜ」
「マジかよ!」
そんな話が酒場のカウンターでこそこそと行われているとは知らずに、ギルドマスターに処理を頼むエルファ。
「ああ、このカウンターに出してくれ。数も多かったみたいだし、イロつけて買い取るよ」
「ん? ここに出していいのか?」
「ああ、査定するスタッフ呼んで来るから」
ギルドマスターのカチアナはカウンター裏のギルドスタッフを呼ぼうとカウンターの内側に入った。
バキバキバキッ!
何事かと思って振り向いたカチアナの見た光景は衝撃だった。
カウンターが2mを超える巨大なワイルドボアに押し潰されていた。
「後21匹いるのだが、ホントにここに全部出してよいのか?」
平然と聞いてくるエルファに開いた口がふさがらないカチアナ。
普通ワイルドボアは討伐部位の牙を買い取りに出す。解体が出来る冒険者は毛皮と肉も出すが、通常は解体後の処理品を出すものだ。ただ、パーティの人数がいる場合は倒したワイルドボアをまるまる担いでくる場合も無いではない。ギルドは獣や魔獣の解体も請け負っているからだ。
だが彼女たちは手ぶらだった。だからカチアナは牙くらいしか持ってこなかったと思ってしまったのだ。だが、いつの間にかワイルドボア本体が飛び出してきた。
「まさか、これは・・・」
驚愕の表情を浮かべるギルドマスター・カチアナ。
「ええ、私のスキル<異空間収納>ですわ」
しゃらりと話すお姉さまキャラのエリシア。相変わらず右目は髪に隠れて見えていない。
「ええっ!?」
カチアナの驚きは天元突破だ。<異空間収納>のスキルはレアのなかでもかなりレアだ。大商人などでは持っている人間もいると噂で聞く程度。というか<異空間収納>があるから大商人になれたのかもしれない。
酒場の冒険者たちもざわざわが止まらない。
「おいおいマジかよ・・・」
「伝説級のレアスキルだぜ」
「なんとかお近づきになれないもんかな・・・」
男たちがガチで美女ゲットのための計画を練り出す。
「と、とにかく裏の解体倉庫の方に回ってくれないかい? そっちでワイルドボアを受け取ることにするよ」
カチアナは壊れたカウンターを迂回して奥の解体倉庫へ続く扉を開ける。
「ではこのワイルドボア、一度収納してしまいますわね」
と言って手をかざすエリシア。
一瞬にして消えるワイルドボア。
「「「おおおっ!」」」
今度は全員が注目していたため、目の前で<異空間収納>の発動を見ることが出来た。
一瞬の光の後、本当にワイルドボアが目の前で消えることにより、否が応でも<異空間収納>の事実を認識させられる一同。
「めちゃくちゃ美人で、強くて、レアスキルもあるって・・・」
「すごすぎね?」
冒険者たちは溜め息しか出ないのであった。
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