第9話 冒険者として登録しよう(狸人族編)
拙作としては少し文章が長めです(約4500字程度)。
-ウォルフガング王国 南部 ビーグルの町-
カランカラン
冒険者ギルドの入り口扉の扉が開く。
いつもなら冒険者ギルド受付にはギルド嬢の中でも看板娘のミランダとその同僚が合わせて2名から3名で待機している。
だが、悪いことは重なるものなのか、雇っているギルドの受付嬢5名は本日全員休みとなっていた。体調不良1名、明確に風邪を引いて寝込んだのが2名、公休2名。
そんなわけで現在、冒険者ギルドには受付嬢が誰も居らず、ギルドマスターのランディルがドーンとカウンターに肘をついて座っていた。
このカウンターは冒険者ギルドでは珍しく冒険側も職員側も座って対応できる高さになっている。
職員側が立っていると一日中立ち仕事になってしまい負担が大きい。その場合、職員側のフロアを一段高く設計し、冒険者側は立った高さにカウンターを設置し、職員側は座って対応できるようにするのが普通だが、この冒険者ギルドはその設計をせずにフラットなフロアで建ててしまっていた。
そのため、ミランダ達ギルド嬢の改善希望を受けて検討したランディルは、一段高く改装するよりも安く済む低いカウンターを用意し、冒険者側も座れるようにしたのだ。
混雑が激しい大都市の冒険者ギルドであれば回転が悪くなりそうなものであるが、生憎とこのビーグルの町は辺境ともいえる場所にあり、冒険者が訪れるのも一日平均数組程度と大したことはないため、問題なく対応できていた。
受付嬢たちからも評判が良く、ランディルは低くなったカウンターを手で摩りニマニマしていた。
ちなみにランディルは筋骨隆々の大男。鼻下の立派な口髭に完全に禿げ上がったスキンヘッドと、どこからどうみてもイカツい男である。ニマニマしているのは気持ち悪い以外の何物でもなく、依頼完了報告と素材の買取依頼に来た冒険者Dランクパーティー<探索者>の4人組も、思わずカウンターに直行できずに隣の酒場のテーブルに逃げるように移動して一息入れている。
ランディルもギルドの受付嬢が全員休みとなっているこの状態を唯々諾々と受け入れるつもりはなく、男性職員に公休をとっている2名の受付嬢に連絡を取りに行ってもらっているが、1名はすでに出かけたらしく留守だったとの報告が上がっている。もう1人と連絡が取れなければ、最悪は本日1日受付嬢無しでギルド運営を乗り切らなければならない。
「まあ、そんなに大した話ではないんだがな・・・」
今度は両肘をカウンターに突きながらランディルがぼやいていたところ、先述のカランカランという扉が開いたことを告げるベルの音とともに小柄な少女たちが5名ほど入って来たのだった。
「た、たのも~~~~~」
ガクッ。
思わずギルドマスターであるランディルは両肘をついて両手で支えていた顎を落とす。
長年ギルドマスターをやっているが、扉を開けて開口一番「たのも~」とはさすがに経験がなかった。流れの武芸者の腕自慢か何かかと思えば、入ってきたのは小柄な少女が5名ばかり。一体何事か?
「ぼ、冒険者登録をお願いしたいのですぅ~」
ここの冒険者ギルドは田舎の中でも特に田舎、まさしく辺境と呼ばれる位置にある。
そういう意味ではここを専属として冒険者ギルドに登録している冒険者は少ない。
それだけに専属の冒険者たちはまるで家族同然のような付き合いになる。
王都のような大きな町であれば冒険者同士のギスギスした関係や新人をからかったり脅したりといった風潮もあるが、ここでは無い。ランディス自体がまずそんな対応を認めないし、起こさせない。
そういった意味では、小柄な少女たちが冒険者ギルドに入って来ていきなり他の冒険者に絡まれたり脅されたりと言った様なことはなかった。
おいおい、新人登録希望かよ、と思いながら改めて小柄な少女たちを見回す。
よく見れば、タヌキのような丸い耳がピコピコと動いている。
5人とも同じ狸人族のようだ。亜人が比較的多いこのウォルフガング王国の辺境でも
狸人族が5人も集まって冒険者になろうというのは聞いたことがない。
「冒険者になりたいのか?」
ランディスは取りあえず聞いてみた。
「はいなのです。マコは冒険者になってお金を稼がなければならないのですぅ」
なんだい、訳ありかい・・・。
ランディスは溜息を吐く。もっとも冒険者になりたいヤツにまともな理由がある方が珍しい。多くは一獲千金の夢を追う者達であり、それ以外は金に困ってなんとかまとまった金を手に入れるために危険な冒険者に身を窶す場合が多い。
ましてこの少女たちが金に困って冒険者をやりたいとは・・・。
「冒険者は危険だぞ? お嬢ちゃんたちにはキビシーんじゃねーかなぁ・・・。
何なら冒険者の酒場のウェイトレスとか、隣の宿屋の掃除作業員とか、口を利いてやろうか? 5人全員雇ってもらえるかどうかわからんが・・・」
カウンターの横には酒場も兼用したテーブルが3つほど並んでいる。冒険者たちが酒を飲んだり食事をしたり打ち合わせをしたりするスペースである。現在は1つのテーブルには先ほどカウンターを避けた<探索者>が座っていた。その連中もランディスの言葉にウンウンと頷いていた。
「ダメなのです!普通のお仕事ではお金が溜まらないのです。魔獣を狩ってたくさんのお金に変えないと旦那様の期待に応えられないのです!」
あれほど事前に「旦那様」は禁止されたはずなのに、あっさりと出てしまうマコ。
しかもこの「旦那様」、違う意味で爆弾を落とす。
「な、何ぃ!旦那様だと・・・!」
「あ、あんなかわいい子たちを働かせるダンナだと・・・!」
「揺するまじ、ダンナ!クズだぜ!」
「やっちまいやすか?アニキ!」
椅子から崩れ落ちて四つん這いになっている冒険者<探索者>たち。
彼らからすでに「旦那様」である魔王はクズ指定を受けた。
ランディスもさすがに「旦那様」には驚く。
「おいおい、旦那様って、旦那は仕事してないのか?」
とりあえず疑問に思ったことを聞いてみるランディス。
「旦那様はお国の仕事が忙しいのです。お国は食料も少なく、大変なのです。私たちが頑張ってお金を稼がなくてはならないのです!」
ふんすっ!と両手に拳を握って力を入れるマコ。
庇護欲をそそるキャラ間違いなしである。
このビーグルの町はランディスを筆頭に暑苦しい男冒険者が大半を占める町である。
これを見越してのマコたちの配置。まごうことなき魔王はあざとさMAXである。
「まあなんだ、とにかく冒険者登録してみるか。最初は魔獣討伐のような危険な依頼ではなく、細々とした雑用とか、薬草取りとかをこなして、冒険者稼業に慣れてもらうがな」
「はいなのです!頑張るのです!」
ランディスの言葉にさらにふんすっ!と力を入れるマコ。
「それじゃあこの申込用紙に記入してくれ。字は書けるか?」
「大丈夫なのです!」
それぞれに記入していく少女たち。
「改めて自己紹介しよう。俺がこの冒険者ギルドのギルドマスター、ランディスだ」
「狸人族のマコなのです!」
「ミーナです!」
「ムーコです!」
「メイナです!」
「モモカです!」
「みんな姉妹なのか?」
「はいなのです!私がおねーちゃんなのです!」
どの娘も身長から体格からまったく変わらない娘たちだ。お姉ちゃんと言われても全くぴんと来ない。
「お前たちは最下級のGクラスからスタートする。受けられる依頼はあの壁に貼ってある内容のうち、Gランク欄のものと、もう一つ上のFランクまでとなっている」
ランディスの指さす方を見ると、壁にいくつかの依頼書が貼ってある。
「Gランク・・・『薬草の採取①』『薬草の採取②』『薬草の採取③』『お家の掃除』『お家の修理』・・・」
「Fランクには『ゴブリンの討伐』がありますね」
マコの読み上げたGランクの依頼には魔獣の討伐は無かったが、ミーナのチェックしたFランク依頼には魔獣であるゴブリンを討伐するという依頼があった。
「まずは薬草の採取三種類をすべて受けてもらう。そこの先輩冒険者グループ<探索者>に案内させよう。薬草は間違いやすい別の草もあるし、良く取れる場所もあるから、まずは<探索者>と一緒に仕事を受けて慣れてみろ。いいか<探索者>、新人教育も先輩の仕事だぞ」
「お、おう!任せとけ!」
「先輩!よろしくお願いするのです」
「「「「お願いします」」」」
マコたち少女が一斉に頭を下げる。
「お、おお!俺たち<探索者>に任せてくれ。いっぱしの冒険者になるまでしっかり面倒見てやるぜ!」
<探索者>のリーダー、トマスは舞い上がり気味に答える。先ほど四人とも四つん這いで絶望していた人物と同一とは思えない元気さだ。確かにマコちゃんには旦那様がいるかもしれないが、他に四人も美少女と呼べる娘たちがいるのだ。ちなみにトマス達<探索者>には狸人族の真ん丸なタヌキ耳やモフモフとした尻尾は嫌悪ではなくご褒美の部類に入るようだ。
そんな様子を暖かい目で見守っていたランディス。先輩冒険者グループ<探索者>はそれほど強くない。リーダーのトマスのみがEランクに昇格しており、その他3人はまだFランクの連中だ。だが、それだけに地元密着で細々とした雑用も良くこなし、その仕事ぶりは信用が高い。<探索者>の連中に任せておけば大事にはならないだろうと思いながら、マコたちが書いた冒険者申し込み書に目を通す。
「こ、これは・・・?」
5人が書いた申込書には名前の他に出身地や得意な武器、魔法などの能力を記載する欄も設けている。これは冒険者ギルドとして冒険者の能力を認識しておきたいからだ。もちろん正直にすべてを記載しているとは限らないわけだが、それでも今後の依頼のこなし方をみながら、力をつけて来たころにはどのような依頼を斡旋していくのが良いか考える判断の一つにもなる。それが・・・
「マコはショートスピアによる近接戦闘に炎の魔術、ミーナは同じくショートスピアによる近接戦闘の他に精霊術(水、風)、ムーコはハンドアックス(両手持ち)による近接戦闘専門、メイナは神聖術、モモカはショートボウによる遠距離戦闘、狩人としての実績、短剣による近接戦闘。こりゃあまるで、最初からこの5人が一流の冒険者としてやっていけるよう集められたとしか思えないような・・・」
姉妹と言ったが、それは本当に血の繋がった姉妹ではなく・・・
ランディスが顎に手を当てて思考にふけっているとトマスが声をかける。
「よし、早速これから薬草の採取に出かけてみよう」
「はいなのです!初めての依頼受注なのです!」
やる気になるマコたちはともかく、<探索者>のリーダー、トマスまでもがちょっと浮ついているように見える。
「おいおい、先輩冒険者であるトマス達まで浮ついてもらっては困るぞ。しっかり冒険者のイロハを教えてやってくれ」
「了解です!ギルドマスター!」
ビッと右手を突き出し、サムズアップするトマス。<探索者>しかいなかったとはいえ、彼らに任せることに一抹の不安を覚えるランディスであった。
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