第8話 ダークエルフ達、冒険者になる
-ウォルフガング王国 ガウルの町 冒険者ギルド-
カランカラン
ギルドの扉を開けて入ってきたのは、見目麗しい美女5名。
そのうち3人はダークエルフのようだ。
「ピュ~~~~~」
受付となりの酒場にあるテーブルで朝から飲んでいた冒険者グループの一人が口笛を鳴らす。
その美女たちはそんな男たちの視線を無視してギルドの受付までやって来た。
「冒険者登録を頼みたい」
「ヒュウ!こりゃいいや!」
「ああ、冒険者登録だってよ!」
「こりゃしっかり先輩として教育してやらねぇとなぁ!」
下卑た視線をこちらに向けながら好き放題言い散らかす男たち。
「あ、あの・・・」
ずいぶんと気弱そうな受付の女性は少女と言ってもよいくらいの年齢に見える。
こんな娘であのような粗野な連中の相手が務まるのだろうかと心配になる。
「かまわない。早く登録をお願いする」
下種な連中など眼中にないとばかりに手続きを進めるように言う美女。
「は、はい。それではこちらにお一人様1枚ずつ記入をお願い致します。文字は書けますか?」
「問題ない」
「記入できない部分やわからない部分は空欄でも構いません。最悪お名前だけでも記載ください」
「わかった」
美女たち5人は記入用紙を書き上げると受付嬢に渡す。
受付嬢はざっと5人が書いた記入用紙を見る。
一番先頭にいて話しかけて来た美女がリーダーらしいエルファ。
その横で従者のように付き従っている小柄な少女ラナ。
その後ろに佇み、エルファと同じような格好をしているアミス。
この3名がダークエルフのようだ。
その横に右目が髪で隠れて見えないこの5人の中では一番お姉さんに見えるエリシア。
最後に魔術師のような恰好をしている金髪のスレンダー少女リンス。
「・・・はい、確認できました。ギルドカードを製作いたします。少し時間がかかりますので先に冒険者ギルドの規約を簡単にご説明いたします」
ざっと規約の説明を受ける美女5名。
「ご質問は?」
「いや、特にない。冒険者ギルド内での暴力はご法度、だが冒険者同士の諍いには基本ギルドは介在しない。いわゆる自己責任というやつだな」
申し込みの欄外に書かれた冒険者ギルドの禁止事項、言わゆるルールを素早く読み込んで理解したリーダーらしき美女が答える。
「・・・はい、その通りです」
外野からヤジが飛んでいたことを踏まえても、登録が終われば冒険者ギルドに登録した会員同士の争いになってしまう。『自己責任』の言葉の持つ意味合いを考え、この美女たちかこれから巻き込まれるであろう悲劇に思いを馳せてしまう受付嬢。
「いや、わかりやすくて結構」
ニヤリと笑うリーダー格らしい美女。美しくも戦慄を覚える妖艶な笑みに受付嬢はぶるりと身を震わす。
「それでギルドカードを発行いたします。皆様はこれから初めて冒険者となられますので、スタートのGランクからとなります」
と言って黒っぽい金属のカードが手渡される。
「そちらのカードを持って魔力を流して見てください」
言われた通りに魔力を流して見ると、不思議なことに名前とGランクの文字が浮かび上がる。
「そのカードは持ち主の魔力および、冒険者ギルドにあるカードチェック用の魔道具以外では見ることが出来ませんのでご安心ください。但し、その黒っぽいカードはDランクまでで、Cランクは銅製、Bランクは銀製、Aランクは金製の物になり、カードに魔力を流さなくても色だけで上位ランク者だと分かるようになります。Sランクという白銀製のカードもあるのですが、伝説級の活躍者でないとSランクには到達できません」
「そうなのか、そのSランクに到達した者はいるのか?」
「はい、全世界でも5人しかいません。うち1名はこのウォルフガング王国にいます」
「ほう、その者は・・・」
「ギャハハ!Sランクなんて聞いてどーすんだよ。それよりこっち来て先輩に酌の一つでもしろや!」
話を続けようとした美女に男が絡んでくる。
「ふむ、先ほどのギルドルールの説明には先輩に酌をしなければならないような項目はなかったはずだが?」
「うるせー!そんなの関係ねぇ!俺たちDランクパーティ<森の王>に逆らってここで生きて行けると思うなよ!」
リーダーらしき美女は首だけ後ろに回し、仲間に話しかける。
「ふむ・・・これが主様のおっしゃられていた『テンプレ』というやつだな」
「はい、まさしくそうかと」
従者のように控える小柄な少女が答える。
「しかし主様の慧眼には舌を巻くばかりだ。まるで予言者のようではないか。おっしゃられていた通りの事が起こるとは」
「・・・本当にそうですわね。あの方の覚醒には驚くばかりですわ」
右目が髪の毛で隠れて見えない長身のお姉さま風の美女も同意する。
「すばらしい・・・、我がか・・・いや、主様」
一番後ろに控えたスレンダーな金髪少女が両手を胸の前で組み、天井を見上げ恍惚の表情を晒す。下手をするとちょっとイッちゃっているようにも見えるが。
美女たちが男を下げずんだ目で見ながら会話をする。
もちろん主様、あの方、とは我らが魔王様の事である。
人間の町に行った際に「魔王様」と口走ってはトラブルの元、と魔王様自身が呼び方を変えるよう指示していた。その際に各々で呼び名を決めているが、「旦那様」「ダーリン」「神」などは却下している。ちなみに先ほど一番後ろにいたリンスは「か」まで言いかけている。あと少しでアウトである。
「何ごちゃごちゃ言ってやがる!早く酌をしろって言ってんだろうが!」
「ギルド嬢よ、ギルド内での暴力はご法度とのことだが、身を守るために致し方ない場合は緊急措置的に許されると考えてよいか?」
「え・・・、ええ、身を守るためでしたら・・・」
ドギマギして慌てて答える受付嬢。
「もう一つ。それによる戦闘でギルド内の備品が破損したり建物が倒壊した場合、その賠償責任は原因を作ったであろう襲って来た側にあるということでよいか?」
「あ、えと・・・そうですね・・・?」
若い受付嬢は自信なく後ろを振り返って聞く。するといつの間に来たのか大柄な女戦士のような人物がカウンター奥から出てきていた。
「いいんじゃねーかな。それだけの覚悟があってケンカ売ってんだろーよ。なあ<森の王>」
「へへっ!さすがギルドマスターのカチアナさんだ。話が分かるぜ!」
下卑た男は腰からダガーを抜くと刃を舐め始める。
後ろのテーブルから<森の王>の仲間らしい5人の男が立ち上がる。さらに奥のテーブルからも別のグループと思わしき5人が立ち上がってこちらへ向かって来ようとする。
「こんなおいしいパーティに参加しないわけにはいかねーよなぁ、ははっ!」
「・・・ふむ、ギルドマスターとやらがこの連中を容認しているのか? となれば、ここは冒険者ギルドではなく盗賊ギルドか悪党ギルドだったか。登録に来る場所を間違えたか?」
「ぷぷっ!」
美女リーダーのエルファの言葉に従者のように付き従う少女ラナは思わず笑ってしまう。
「それより相手は11人ですよ? 一人だけ3人も叩きのめせるラッキーな人が出ますよね? 私3人でいいですか?」
一番小さい少女と言ってもよい感じの娘ラナから発せられたセリフとは思えない内容に悪党たちの顔が引きつる。
「いやいや、そんなおいしい真似は許さんよ。ここは年長者に譲ってもらいたいものだな」
右目が髪で隠れてみえない美女、エリシアがさらりと年長者の権利を主張する。
「てめえらぁ・・・ふざけんじゃねーよ!」
ついにキレたチンピラの一人が真正面から先頭のエルファに向かって突っ込んでいったのだが、なぜか目の前にはエルファの右足がすでに天高く振り上げられていた。
ズドムッ!!
振り下ろされた踵に頭をつぶされるチンピラ。その一撃はすさまじく、床に顔をめり込ませている。歯が飛び散っているところを見ると、前歯は全滅だろう。
「「「「なっ!」」」」
「で、下卑た下種共の歓迎パーティとやらはこれで終わりか?」
チンピラを踏みつけたまま、女王様のようなセリフを吐くエルファ。
「ふざけんな!てめえら、やっちまえ!」
「「「おおっ!」」」
「いかにもやられ役の三下っぽいセリフであるな」
「まさに」
エリシアとラナの言葉を聞いて妖艶に笑う美女たち。
この冒険者ギルドに始めて来たばかりで起こした騒動が、まさに今後消えることなき伝説として語り継がれることになる美女5人組の初登場シーンとして、戯曲化すらされることになろうとは、この時誰も知る由もない事であった。
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