第8話:専業主夫初日終了
ボスが風呂に入っている間にプレゼントされたエプロンを着けてキッチンで食器洗いを済ませる。
皿にこびりついたカレーの油汚れがひどかったが、俺の手にかかれば全く問題ないことだ。
まぁ、俺の皿洗いのテクニック云々よりも食器用洗剤の洗浄力のおかげなのだが……。
専業主夫としての初日最後の仕事を終えた。
俺はボスが風呂から上がってくるのをベランダでたばこを吸いながら待った。
一仕事終えた後に吸うたばこは格別に美味い。
俺はたばこを咥えながら大きく伸びをした。
「竜作~、お風呂上がったわよ。次どうぞ~」
「おう、すぐ入るよ」
俺が無職になってから極力一番風呂はボスに入ってもらっている。
今我が家の家計を支えているのはボスだ。ボスが一番風呂に入るのは当然の権利だと思ったからだ。
シャンプーで髪を洗い、ボディソープで体を洗ってから湯船に浸かる。
風呂は良い。一日の疲れを癒やすには風呂に浸かるに限る。
風呂から上がると俺はバスタオルで髪を拭きながらキッチンに向かい冷蔵庫から第三のビールを取り出した。ボスはダイニングテーブルの椅子に座りテレビを見ている。
「私も飲もうかな。竜作、私の分も取ってよ」
「ああ」
俺は冷蔵庫からもう一缶第三のビールを取り出しボスに手渡した。
「ありがとう。ポテトチップス食べる?」
「ああ」
「封を開けたら早く食べないと湿気っちゃうからね~」
「……、ごめん」
俺は短く謝罪の言葉を述べ、ダイニングテーブルの椅子に座った。
「それじゃ竜作、専業主夫初日お疲れ様でした。乾杯!」
「乾杯!」
「専業主夫としての初日はどうだった?」
「今日から新たに朝食作りが加わって、あと夕食にカレーを作っただけで、その他にやったことと言えば洗濯ぐらいかな……」
「あら、そう。やることは他にもたくさんあるわよ。買い物や部屋の掃除でしょ、部屋の掃除は最低週に二回はやってもらいたいわ。それにトイレ掃除でしょ、玄関まわりの掃除でしょ、窓拭きでしょ、それからキッチンの換気扇の掃除でしょ、夏に備えてエアコンのフィルターも掃除してもらわなきゃ。あとそれから……」
ボスは第三のビールを飲みポテトチップスをつまみながら、家事の細かい項目を列挙していった。
「おいおい恭子、そんなにたくさんはできないよ。聞いただけで頭がパンクしちまいそうだ……」
「あら、一度にやろうと思うからできないのよ。毎日一つずつこなしていけばそれほど大変じゃないわ」
「そういうもんかね?」
「そういうものよ」
「それじゃ明日は何をやればいい?」
「明日はスーパーへの買い物が最重要項目ね。明日はスーパーの特売日なの!」
「特売日かぁ……。俺一人で大丈夫かな?」
「大丈夫よ、期待してるわよ、竜作!」
「う、うん」
そんな話をしているうちに第三のビールとポテチップスの袋は空になった。
「私もう寝るわ。竜作も早く寝てね。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
俺は第三のビールの空き缶とポテトチップスの空き袋を始末した後、今日最後の一服を吸いにベランダに向かった。
たばこに火をつける。時計は午後十時を過ぎた。辺りは静まり返っている。
「明日からが本番だな……」
月明かりに照らされながら俺は小さく独りごちた。




