第7話:ボスからのプレゼント~夕食作り~
時計は午後六時を過ぎた。
昼食を食った時に決めた通り、俺はカレー作りに取り掛かった。
今回のカレー作り、失敗は許されない。
なぜならば、さきほどおやつの時間に誤ってポテトチップスを食べてしまったことをカレーを作ったことでチャラにしたいという思惑があるからだ。
食器戸棚の引き出しの中からカレールウを一箱取り出し、箱の裏面の説明文にひと通り目を通す。
材料に不足はない。俺はキッチン脇に置いてあるバスケットの中からタマネギ三個とジャガイモ二個を取り出し、冷蔵庫の野菜室からニンジンを一本、冷凍庫から冷凍されている豚肉のパックを取り出した。
豚肉を電子レンジで解凍している間にタマネギ、ジャガイモ、ニンジンをひと口大の大きさに切っていく。その後解凍した豚肉をこれまた同じくひと口大の大きさに切っていく。
厚手の鍋に油を垂らしひと口大に切った具材を放り込みじっくりと炒めてから水を加える。
沸騰したらアクを取り、約二十分ほど煮込む。
煮込みが終わったら一旦火を止めてカレールウを割り入れてよく溶かす。
仕上げに時々かきまぜながら煮込み、とろみがついたらできあがりだ。
包丁の扱いさえ注意すれば小学五年生でもできるはずだ。俺の手にかかれば朝飯前、いや夕飯前だ。
俺は一仕事やり終えた達成感を感じつつ、携帯電話とたばことライターを持ってベランダに向かった。
俺はたばこを吸いながらボスにメールを送った。
『カレー作ったよ。残業はほどほどにして早く帰って来てね。』
二本目のたばこに火をつけたところでボスから返信メールが届いた。
『えーっ! ハヤシライスの方が良かった! って言うのはウソ♪ 初日から張り切ってるじゃん! えらいえらい! 今買い物してるところ。もう少ししたら帰ります。ご飯炊く準備した? ご飯炊く準備忘れるのはありがちパターンだよ!』
おっと、飯を炊く準備をすっかり忘れてた。危うくカレーライスがカレースープになるところだった。
『すっかり忘れてた。ナイスフォローに感謝します。』
二本目のたばこを吸いながらボスに返信メールを送った。
二本目のたばこを吸い終えると俺はキッチンに戻り炊飯ジャーの釜に米三合と水を入れ飯を炊く準備した。
飯を炊く準備をして三十分ほど経った頃、ボスが帰って来た。
「ただいま~」
「おかえり~」
ボスはハイヒールをスリッパに履き替えパタパタとダイニングに入って来た。
「今夜はカレーだって? 作ってくれてありがとね。何か変わったことあった?」
女の勘なのだろうか? 率先してカレーを作ったことで何か怪しまれている……。
「実は恭子の大好きなポテトチップス少し食べちゃった。ごめん!」
「……。いいわ、三袋もあるし。それよりもこれ、竜作にプレゼント!」
ボスから小さな包みを手渡された。
「開けてみて」
「うん!」
俺は小さな包みを丁寧に開けた。開けてみると中にはエプロンが入っていた。
「それ、竜作専用のエプロン。私のとお揃いだよ!」
「あ、ありがとう」
「なにそれ? 感情がこもってないなぁ……」
「い、いや嬉しいよ。嬉しいんだけど、これまでエプロンを着けたことがあまりないからイマイチピンとこなくて……」
「そっか、エプロンって便利だから今日から使って。夕食後の食器洗いが待ってるから」
「う、うん……」
その後一息ついてから飯を炊き二人仲良くカレーを食べた。
夕食後、食後の一服を吸いにベランダに向かった。
俺はため息とともにたばこの煙を吐き出した。
やれやれ、ボスは本気で俺に専業主夫をやってもらいたいらしい……。
明日以降のことを考えると俺は少しだけ憂鬱な気分になった。