エピローグ
十二月、ボスと俺はガルジヤ王国にバカンスに来ていた。
ボスと俺がガルジヤ王国に入国すると国王宮殿での晩餐会と歓迎パレードが催される。
エドガー、シュウゴ、ロウの三人はハデス国王補佐官の補佐のもと、喧々諤々しながらもなんとかガルジヤ王国の執務を執り行っているそうだ。
エドガー、シュウゴ、ロウの三人の新国王の計らいにより、「もう使う主がいないから」という理由で、第一王子と第二王子が使っていた邸宅を譲り受けた。どちらの邸宅も執事とメイド付きの大豪邸だ。二つの大豪邸を持っていても用途に困ると思った俺は、第一王子の邸宅を俺達夫婦の別荘として使い、第二王子の邸宅は株式会社ピースメーカーの福利厚生施設として譲った。
エドガー、シュウゴ、ロウの三人は、トミーズキッチンのジューシーハンバーグをとても気に入ったらしく、トミーズキッチンを運営する本社に対してガルジヤ王国に支店を出店してもらえるように交渉中とのことだ。
今ボスと俺は、俺達の別荘となった第一王子の邸宅のプールで、酒を飲みながら水遊びに興じている。
「竹田様、剣崎様カラオ電話ガ入ッテオリマス」
「ああ、ありがとう」
『はい、竹田です。……、おお、そうか! ありがとう! 恩に着るよ!』
「剣崎さんからの電話、何の話なの?」
「虎之介の計らいでピースメーカーへの再就職が決まった! 虎之介と同じ警備主任の肩書きだ!」
「竜作、それって危険な仕事じゃないの? 竜作にはもう危険な目にあってほしくないわ」
「警備主任だから監督職だよ。俺が危険な目に合うことは無いと思うよ」
「それを聞いて安心したわ! それじゃ乾杯しなくちゃ! それでは、竜作の再就職を祝って乾杯!」
「乾杯!」
「竜作、再就職しても主夫業はやってもらうからね。お互い協力して家事をこなしていきましょうね」
「は、はーい……」
「それにしても何でもメイドさんがやってくれて至れり尽くせり! ガルジヤ王国でのバカンス、病みつきになりそうよ! 竜作が国王をやっていた頃は毎日こんな生活をしていたの?」
「国王の執務をこなしながらだったから、今ほどのんびりは過ごせなかったけど、それなりに楽しんでいたよ」
「私が日本で仕事している間に楽しんでいたのね! そんなのずるいわ!」
「まあまあ、国王の執務も大変だったんだから。今回のバカンスの費用は全てガルジヤ王国が出してくれているんだから、思い切り楽しもう!」
ボスと俺は二週間のガルジヤ王国でのバカンスを思い切り楽しんだ。
ガルジヤ王国でのバカンスから帰国して一週間後の金曜日の午後八時過ぎ。ガルジヤ王国の大使館から電話があった。
『はい、竹田です』
『ガルジヤ王国国王補佐官ノハデスデス。急ナ話デ申シ訳アリマセンガ、明日ノ土曜日午後二時ニ使イノ車ヲ向カワセマスノデ、ガルジヤ王国ノ大使館ニオ二人デオ越シイタダケナイデショウカ?』
『要件は何ですか?』
『要件ハ明日マデオ楽シミデス。楽シミニシテイテクダサイ。ソレデハコレニテ失礼シマス』
そう言うとハデス国王補佐官は静かに電話を切った。
「竜作、誰からの電話だったの?」
「ガルジヤ王国のハデス国王補佐官からだった。明日使いの車をよこすから大使館に二人で来てほしいって」
「あら、要件は何かしら?」
「明日までお楽しみだってさ」
ガルジヤ王国は俺達夫婦にこれまで至れり尽くせりもてなしをしてくれている。これ以上何をしてくれるというのだろうか? 俺は半分期待を抱きつつ、半分不安を抱きつつ、早めに床についた。
翌日の土曜日午後二時。自宅マンションのエントランスに設置されているインターホンが鳴った。
『竹田様、ガルジヤ王国大使館ノ使イノ者デス。オ迎エニアガリマシタ』
『はい、今下に降ります。少々お待ちください』
ボスと俺はちょっとお洒落な服を着て自宅マンションのエントランスに向かった。
エントランスに着くと三人の大使館からの使いの者が待っていた。
自宅マンションの玄関を出ると、自宅マンションの前の道路には一台のリムジンが停まっていた。
「ドウゾ、オ乗リクダサイ」
使いの者に言われるがままボスと俺はリムジンに乗り込んだ。俺達が乗り込むと続けて三人の使いの者が乗り込み、リムジンは静かに走りだした。
大使館に向かう車中で使いの者にシャンパンを勧められた。ボスと俺は勧められるがままにシャンパンを飲んだ。
俺達の乗るリムジンはガルジヤ王国の大使館に着いた。今回はボス救出作戦の時と違って使いの者に案内されて正面入口から入った。
向かった先は大使執務室。使いの者の一人がドアをノックする。
『竹田竜作様と竹田恭子様をお連れしました』
『うむ、中へお通ししてくれ』
「竜作様、恭子様、中ヘオ入リクダサイ」
使いの者の一人に促されて大使執務室に入ると、エドガー、シュウゴ、ロウの三人の国王とハデス国王補佐官が執務テーブルの前に並んで立って待っていた。
「竜作様、恭子様、オ待チシテオリマシタ」
ハデス国王補佐官が言った。
「四人お揃いで今日は何の御用ですか?」
「今日ハガルジヤ王国ノ全国民ノ総意ヲオ伝エニヤッテ参リマシタ」
ロウが言った
「ガルジヤ王国全国民の総意?」
「ハイ!」
俺の疑問にシュウゴが返事をした。
すると、ハデス国王補佐官が両手で大事そうに持っていた書状を読み上げ始めた。
「任命状、竹田竜作様、竹田恭子様、ガルジヤ王国全国民ノ総意ニヨリ、竹田竜作様ヲ特別国王、竹田恭子様ヲ特別王妃ニ任命致シマス」
「へっ?」
「我々ヨリモ高イ地位ノ王位ヲ新タニ設ケマシタ。ガルジヤ王国全国民三千万人ノ総意デス。是非トモ即位シテイタダキタイ!」
ボスと俺は悩みに悩んだが、エドガー、シュウゴ、ロウの三人の国王とハデス国王補佐官の熱意にほだされて特別国王と特別王妃になることを了承した。
特別国王になってからの俺の生活は一変し、二ヶ月に一回のペースでガルジヤ王国を訪問している。
俺は専業主夫から、ガルジヤ王国の特別国王と、株式会社ピースメーカーの警備主任と、兼業主夫の三足の草鞋を履くことになっちまった……。
お~い、誰か俺の代わりをやってくれ~!
<了>
読者の皆様、最後までお読みいただきありがとうございました。




