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第29話:反撃

「ギャアー!」

 悲鳴の主はイブリース王子だった。拳銃から発射された弾丸はボスにはあたらなかった。イブリース王子が持っていった拳銃は床に転げ落ち、拳銃を握っていた右手には一本のナイフが突き刺さっていた。ナイフは大使執務室内に飛び込んできた住崎さんが投げたものだった。

「な、何者だ?」

(わたくし)住崎麗香(すみざきれいか)と申します。コードネームは『キャサリン』。以後お見知り置きを……」

「キャ、キャサリン、助かったよ……」

「竹田様、すいません。人質救出作戦が少々手間取りました。敵味方双方とも死亡者はゼロです」

「ありがとう。ギリギリセーフだ……」

「お、お前達、此奴(こやつ)を、竹田竜作を捕らえろ!」

 イブリース王子はへたり込みながらも大使執務室内にいるネクタイゴリラ達に命令した。

「イブリース王子、モウアナタノ命令ニハ従ワナイ!」

 イブリース王子の命令に対してエドガーが反論した。

「な、何だと?」

「……、イブリース王子……。俺、お前に用事があるんだ……」

 俺は両手を縛っていたロープをほどき、ふらつきながらもゆっくりとへたり込んでいるイブリース王子のもとに近づいた。

「お前、恭子を殺そうとしやがった……。俺の恭子を殺そうとしやがった……」

「よ、余に手を出せば国際問題だぞ! わ、わかっているのか?」

「国際問題? そんなこと関係ねえよ……」

 俺はへたり込んでいるイブリース王子の胸ぐらを掴み無理やり立たせた後、ボディブローを一発ぶち込んだ。その直後イブリース王子の体がくの字に曲がった。

「まだまだこれからだぜ……」

「お、お、お前達、此奴(こやつ)を捕らえろ! 捕らえれば何でも褒美をくれてやるぞ!」

 イブリース王子は中腰で膝を両手で持つ姿勢で大使執務室内にいる部下達に言った。

「部下の手を借りずに自分の手でやり返してこいよ……」

「……ガ欲シイ……」

 エドガーが小さな声で言った。

「エ、エドガー大尉、聞こえんぞ! もっと大きな声で話せ!」

「イブリース王子、アナタノ命ガ欲シイ。国王ト王妃ト五人ノ王子ヲ殺シタ罪ヲ、アナタノ命デ償ッテホシイ!」

「な、何だと? 余が王子だとわかって言っているのか?」

「うるせえよ、クソ王子!」

 俺はイブリース王子の右頬をぶん殴った。殴られたイブリース王子は左に倒れこんだ。

「まだ俺の怒りはおさまらねえよ……」

 倒れこんだイブリース王子を無理やり立たせて膝蹴りを入れた。イブリース王子の表情が苦痛で歪む。

 俺はイブリース王子に対して正拳突きと膝蹴りと背負い投げを繰り返し浴びせ続けた。

「竹田様、お止めください。それ以上やればイブリース王子が死んでしまいます!」

 住崎さんが俺に攻撃をやめるように言ってきた。しかし、俺の怒りはおさまらない……。

「住崎、ダメだ。あいつキレちまってる。竜作はキレると怒りがおさまるまで止められないんだ……」

「お前が国王になったらガルジヤ王国の国民はたまったもんじゃない! お前が国王になるくらいだったら俺がなった方がマシだ! やってやるよ! 俺が! ガルジヤ王国の! 国王に! なって! やるよ!」

 俺の渾身のボディブローを連続で食らい、イブリース王子は失神して倒れこんだ。

「今から俺がガルジヤ王国の国王だ! 文句のある奴はかかって来い!」

 俺は仁王立ちして宣言した。

「ちょ、ちょっと、竜作、嘘でしょ?」

「ホント! 俺、嘘言わない!」

 俺の宣言を聞くと大使執務室内にいたイブリース王子の部下達は、俺に対して皆片膝をついて頭を深く下げた。

「シュウゴ、イブリース王子の両手を縛ってくれ」

「ハッ!」

 俺の指示に従ってシュウゴはイブリース王子の両手をロープで縛った。

 俺はボスに駆け寄り、ボスの両手を縛っていたロープをほどき、ロウから借りたスーツの上着を下着姿のボスにかけてやった。

 エドガーは執務テーブルに備え付けの電話をスピーカーモードにしてガルジヤ王国にいるハデス国王補佐官に連絡を取っていた。

『ハデス国王補佐官ですか? こちらエドガー大尉です。先程、竹田竜作様がガルジヤ王国の国王に即位されると宣言なさいました』

『何? それは本当か? ぜひとも竹田様と話がしたい』

『どうも、竹田竜作です』

『ハジメマシテ。ワタクシ、ガルジヤ王国国王補佐官ノハデスト申シマス。コノ度ハ我ガガルジヤ王国ノ国王ニナラレルトゴ決断イタダキ、マコトニ感謝シテオリマス』

『俺なんかが国王になっちゃって良いんですか?』

『竹田様ニツイテハ申シ訳アリマセンガ調ベサセテイタダキマシタ。竹田様ハ充分ニ我ガガルジヤ王国ノ国王ニナル素養ヲオ持チデス。安心シテガルジヤ王国ノ今後ヲオ任セデキマス』

『そうですか。そう言ってくれると嬉しいです』

 ハデス国王補佐官と電話で話していると失神していたイブリース王子が目を覚ました。イブリース王子は俺を見て怯えた表情をしている。

「竜作国王、最初ノ執務デス。イブリース王子ニ罰ヲ与エテクダサイ」

 エドガーが俺に言った。

「……、わかった。イブリース王子、国王一家暗殺事件及び俺達夫婦の暗殺未遂の罪により、お前の持つ王位継承権ならびに王子の座を剥奪する! そしてお前を禁固三百年の刑に処す! エドガー、イブリース王子を拘留しろ!」

「ヒ、ヒーッ!」

 俺が与えた罰を聞き、イブリース王子は悲鳴をあげた。

「それだけじゃ済まさないわ!」

 そう言うとボスはイブリース王子に駆け寄り、イブリース王子の腹に膝蹴りを入れた。ボスの一撃でイブリース王子は再び失神した。

『ハデス国王補佐官、イブリース王子への罰はこんなもんでどうでしょうか?』

『上出来デス、竜作国王。明日ニデモオ迎エノ飛行機ト、イブリース王子ヲ護送スル飛行機ヲ日本ニ向カワセマス。オ会イデキルノヲ楽シミニシテオリマスゾ。ソレデハコレニテ失礼シマス』

 そう言うとハデス国王補佐官は電話を切った。

「竜作、お疲れ。恭子さんを危険な目にあわせて済まなかった……」

 虎之介が俺に労いの言葉と詫びの言葉を言った。

「エドガーのパンチと膝蹴りを食らって体中が痛えよ……」

「ス、スマナイ。オレモ必死ダッタ……」

「まあ、危機一髪だったがなんとか一件落着だ!」

「竜作、俺の車で家まで送るよ。住崎、作戦終了だ。『戦闘モード』をオフにしてくれ」

「了解しました」

「一件落着じゃないわよ! お気に入りのスーツがズタズタに切り裂かれちゃったわ! それに竜作、ガルジヤ王国の国王になるなんて勝手に決めちゃって、あなたに国王なんて務まるの?」

「……、自信は無いけど宣言した以上やってみるつもりだよ」

「本当に竜作は頭に血がのぼると後先のことを考えないんだから……」

「お説教は自宅に帰ってからゆっくりと聞かせていただきます……」

「さあ、送っていくよ」

 虎之介に促されてボスと住崎さんと俺はガルジヤ王国の大使館を後にした。自宅へと帰る車中、俺は延々とボスのお説教を受けていた……。

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