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第28話:悪魔の王子

 大使館の専用駐車場にミニバンを停めると、俺はエドガー、シュウゴ、ロウに連れられて行く形で通用門から大使館の中へ入った。

「俺をどこへ連れて行く気だ?」

 俺はエドガーに質問した。

「大使執務室ダ。ソコニ恭子王女ハ閉ジ込メラレテイル」

 大使執務室へ向かう廊下の所々にはSP(セキュリティポリス)と思しき人物が立っていた。

 大使執務室のドアの前に着くとエドガーがドアをノックした。

『誰だ?』

『A班のエドガー大尉です。竹田竜作を連行しました』

『入れ!』

『はい!』

 俺とエドガー、シュウゴ、ロウの四人は大使執務室に入った。

 大使執務室に入って俺の目に真っ先に入って来たのは、執務テーブルの前の床に座らされ、口を粘着テープで塞がれ両手をロープで縛られた上に着衣は下着だけにされているボスの姿だった。

「き、恭子!」

 俺の呼びかけに対してボスがうめき声をあげた。

「おお、感動のご対面だ。少し話をさせてあげよう」

 そう言うとボスに拳銃を突きつけている男は、ボスの口を塞いでいる粘着テープを荒っぽく剥がした。

「りゅ、竜作、こいつ私がガルジヤ王国の第一王女で、竜作が国王候補だなんて言ってる! そんな話嘘でしょ?」

「……、いや、恭子、そいつの言ってる話は本当だ……。おい、お前がイブリース・ガルジヤ王子か?」

「いかにも。余がガルジヤ王国第六王子、イブリース・ガルジヤだ」

「流暢な日本語を話すんだな。そんなことより恭子を放せ!」

「姉上を解放するかは、お前の返事次第だ。それにしても姉上はそそる体つきをしている……」

 そう言うとイブリース王子はボスの右頬をいやらしく舐め上げた。

「や、やめろ! 恭子に手を出すな!」

「それでは竹田竜作、この場でガルジヤ王国の王位継承権を放棄しろ。王位継承権を放棄すれば姉上を解放しよう」

「……、王位継承権を放棄しないと言ったら?」

「二人とも殺す!」

「俺が王位継承権を放棄すれば本当に恭子を解放してくれるんだろうな?」

「ああ、解放する。姉上は余の(めかけ)の一人に加えてやる。嬉しく思え。竹田竜作、お前の命は余の気分次第だ」

「な、何だと?」

「王位継承権を放棄すれば姉上は解放するのだからそれで良いじゃないか。おとなしくこちらに来て誓約書にサインをしたまえ」

『剣崎だ。大使館内の大使執務室以外は制圧した。人質救出作戦とのタイミングを見計らって大使執務室に突入する準備ができてる。人質救出作戦はまだ開始していない。もう少し辛抱してくれ』

 俺とイブリース王子とのやり取りの途中で左耳に装着している小型イヤホンから虎之介の状況報告が入った。俺は人質救出作戦が開始されるまでの時間の引き伸ばしを試みた。

「……、一つ教えてくれ。国王一家を暗殺した首謀者はイブリース王子、お前なのか?」

「いかにも。余の邸宅でパーティーを開くと言ったら、父上も母上も五人の兄達ものこのことやって来おった。皆が余の邸宅に入ったところで邸宅ごと爆破してやったわ! 余の邸宅を爆破するのは少し躊躇(ちゅうちょ)したがな」

「実の両親と兄達の命より邸宅の方が大事なのかよ? お前は実の両親と兄達を殺して心が痛まないのか?」

「余はそんな感情を持ちあわせておらん。貴様、先程から余のことを『お前』、『お前』と言っておるが、口の利き方がなってないぞ。エドガー大尉、此奴(こやつ)を痛めつけろ!」

「……、イブリース王子、王位継承権ヲ放棄サセテコノ二人ヲ解放シマショウ……」

「エドガー大尉、余に指図をするな。家族がどうなっても良いのか?」

 そう言うとイブリース王子は執務室の正面に設置されているスクリーンの電源を入れた。スクリーンにはネクタイゴリラ達の家族と思しき人質の姿が分割されて映しだされていた。

「ア、アイラ!」

 エドガーが家族の名前を叫ぶ。シュウゴ、ロウ、その他の大使執務室内にいるネクタイゴリラ達も口々に家族の名前を呼んだ。

「エドガー大尉、やれ!」

「……、ハ、ハイ……」

「や、やめて! 竜作に手を出さないで!」

 ボスが叫んだ。

「うるさい! 黙れ!」

 イブリース王子がボスの右頬を思い切り叩いた。

「やめろ! 恭子に手を出すな!」

「おお、お互いがお互いをかばい合う。美しき夫婦愛だな。シュウゴ中尉、ロウ中尉、此奴を身動きできないように後ろから締め上げろ! エドガー大尉、さっさとやれ!」

「……、ハ、ハイ……」

「……、お手柔らかに頼むよ……」

 無理な願いだとわかっていながら俺はエドガーにお願いしたが、願い虚しく容赦の無いエドガーのパンチと膝蹴りの応酬が俺を襲った。

「や、やめて! お願い! やめて!」

「……、スマナイ、オレノツマガ、アイラガ人質ニ取ラレテイルンダ……」

 人質救出作戦の開始はまだか? このままだとエドガーのパンチと膝蹴りで俺がくたばっちまう……

 エドガーのパンチと膝蹴りを何十発食らっただろうか? 意識が遠退きそうな中でふと執務室正面のスクリーンを見ると、分割表示されていた画面が一つずつ消えていった。

 分割表示されていた画面が全て消えた後、俺の左耳に装着している小型イヤホンから住崎さんの連絡が入った。

『人質救出作戦、無事完了しました。人質の方々は全員救出しました』

「エドガー! みんな! 人質になっていた家族は無事に救出されたぞ!」

 俺は力を振り絞って叫んだ。ネクタイゴリラ達は一様に歓声の声をあげた。エドガーは俺の言葉を聞き、俺を殴るのをやめた。

「な、何だと?」

 イブリース王子はスクリーンと俺の顔の両方を交互に見ていた。

「よ、余の部下達の人質を解放しても姉上が人質であることに変わりはないわ! 妾などどうでもいい! こうなったら姉上の方から殺してやる! 余がガルジヤ王国の国王となるのだ!」

 イブリース王子はボスを立たせて拳銃の銃口をボスの頭に向けた。

「や、やめろー!」

 俺が叫んだ後、一発の銃声と悲鳴が大使執務室内に響いた……。

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