第26話:交流
昼飯を食べ終えた俺達はドリンクバーを追加注文し、ネクタイゴリラ達に彼らのボスであるイブリース王子のこと、イブリース王子の周辺に関することを詳しく聞いた。
「そういや、お前らの名前を聞いていなかったな。名前を教えてくれよ」
「エドガー……」
「シュウゴ……」
「ロウ……」
ネクタイゴリラ達三人の名前は、一際でかい短髪頭の奴がエドガー、きっちりした七三分けの髪型の奴がシュウゴ、肩にかかるほどの長髪の奴がロウと言った。
エドガー、シュウゴ、ロウの三人の話によると、イブリース王子は極秘で来日してガルジヤ王国の大使館に滞在していると言う。イブリース王子が直接エドガー、シュウゴ、ロウのA班及び、ボスに張り付いているB班に命令を下しているそうだ。エドガー、シュウゴ、ロウの三人と同様に、ボスに張り付いているネクタイゴリラ達も家族を人質にとられて仕方なく任務についているそうだ。イブリース王子の周辺は常時十人のSP(セキュリティポリス)が警護にあたっているとのことだが、SP達も嫌々ながら警護にあたっていると言う。
「それにしてもイブリース王子ってのは人望が無いね。自分が国王になりたいから両親と兄達を殺したと噂されるだけのことはある……」
「ソノ噂ハ本当ダ。ソノ証拠ニオレ達ニ君達夫婦ノ暗殺指令ガ下ッテイル……」
噂の真偽についてエドガーが答えた。
「部下達の家族を人質に取って無理やり従わせるっていうやり方が気に入らねえ。住崎さん、どうにかならんものかね?」
「……、そうですね……。人質に取られているご家族がどこにいるか知っていますか?」
「……、多分、ガルジヤ王国ノ北部ニアル強制収容所ニ収容サレテイルト思ウ……」
住崎さんの問いかけに対してロウが答えた。
「……、そうですか。それならば人質救出作戦を検討してみましょう……」
「ホ、本当カ? ブラッディ・キャサリン!」
住崎さんの言葉を聞いてシュウゴが口を開いた。
「……、今から計画を練れば近日中には人質になっているご家族を救出できるでしょう……」
「住崎さん、日本の中堅どころの警備会社の社員達が、外国にいる人質の救出なんてできるの?」
「……、ええ、可能です。我が社の社員の中には元自衛隊員の方や、元軍人や元傭兵をやっていた外国人社員が多数在籍しています。それに私のコネクションを利用すれば、すぐにでも昔の傭兵仲間が三十人ほど武装して集まってくれます……」
「それは心強いね」
「ソレヲ聞イテ少シ安心シタ。安心シタラマタ腹ガ減ッテキタ……」
「おいおい、エドガー、まだ食う気かよ? ジューシーハンバーグのおかわりは勘弁してくれよ。サラダバーとライスで我慢しろ。ライスにはカレーがかけ放題だから」
「ワカッタ」
そう言うとエドガーは、店内の一角にあるサラダバーに食べ物を物色しに行った。
「我々ノ家族達ガ救出サレルノデアレバ、イブリース王子ノ命令ニ従ワナケレバナラナイ理由ハ何一ツ無イ!」
シュウゴが言った。
「ソウダ!」
シュウゴの言葉にロウが呼応した。
「恭子に張り付いてる奴らにも人質救出作戦のこと教えてやれよ!」
「……、ソウシタイノダガ、オレ達A班ト、君ノ奥サンヲマークシテイルB班トハ、特ニ接スル機会ガ無イ。命令モイブリース王子ガ個別ニ下シテイル……」
俺の提案に対してロウが答えた。
「そっか、恭子に張り付いている奴らは相変わらず危険な奴らのままか……」
「今夜ニデモB班ノメンバートノ接触ヲ試ミル。彼ラモ人質救出作戦ノコトヲ聞ケバ喜ブハズダ」
俺の漏らした不安な言葉に対してシュウゴが答えた。
「……、ここは一つ万全を期すために私のコネクションを利用しましょう……」
そう言うと住崎さんはスマートフォンを取り出し、どこかに電話をかけ始めた。英語やフランス語など様々な言語を使って複数人の相手と連絡を取っている。
住崎さんが電話している間、俺とエドガー、シュウゴ、ロウの四人は、お互いの家族のことやそれぞれ自分のことについて話していた。彼らは筋肉バカかと思いきや、ガルジヤ王国の国立防衛大学をトップクラスの成績で卒業したエリート兵士だと言う。あと、四人ともカミさんの尻に敷かれているという共通点が判明した。
当初俺達の座っているテーブル席にはただならぬ緊張感が漂っていたが、今では和やかな雰囲気を感じさせていた。虎之介の部下達六人が座る席の方は入店当初と変わらず、エドガー、シュウゴ、ロウの三人の行動を警戒している。
「……、人質救出作戦の日時が決まりました。作戦開始日は今日から四日後の八月一日金曜日、開始時刻は日本時間の午後十時、現地時間では午後六時三十分です。私の傭兵仲間二十七名が作戦実行にあたります……」
「おう、住崎さんは相変わらず手際がいいね!」
「……、お褒めのお言葉、恐縮です……」
「オオ! オレ達家族ノ無事ガ分カレバ、オレ達ハ武装蜂起スル! イブリース王子ニ殺サレタ国王ト王妃ト五人ノ王子達ノ敵ヲ取ル!」
人質救出作戦の日時が決まったことを聞きエドガーが言った。
「おいおい、派手なドンパチは日本国内では止めてくれよ。警察に逮捕されるくらいじゃ済まねえぞ……」
「……、ワカッタ。派手ナ行動ハ控エル……」
その後の話し合いの結果、イブリース王子に人質に取られているネクタイゴリラ達の家族の無事が確認出来次第、イブリース王子の身柄を拘束しガルジヤ王国に強制送還。その後、法廷の場で国王一家暗殺の罪を認めさせ、然るべき罰を与えるということに決まった。
エドガーの話によると、ガルジヤ王国に死刑制度は無く、その代わりに最長三百年の禁固刑があるとのことだった。
「フア~……」
話がまとまったところでシュウゴが大きなあくびを一つ漏らした。
「スマン。空腹ガ満タサレタノト、人質ニ取ラレテイル家族ノ救出作戦ガ実行サレルノヲ聞イテ少シ気ガ緩ンダ……」
「ソレニシテモ、竜作。君ノ周囲ヲ警護スル者達ハ一体何者ダ? 何者カニ監視、包囲サレテイル中デノ君ノ監視ハ、正直言ッテ生キタ心地ガシナカッタ……」
ロウが俺に質問してきた。
「彼らは株式会社ピースメーカー、民間の警備会社の社員達だ」
「民間ノ警備会社? マルデ軍隊ニ包囲サレテイルカノ様ナ気分ダッタヨ……」
エドガーが言った。
「……、くれぐれも言っておきますが、今後も私達はあなた達三人の監視を続けます。竹田様に敵意を示せば人質救出作戦は中止させていただきます」
住崎さんは、エドガー、シュウゴ、ロウに対して釘をさした。
「……、ワカッタ。先程モ話シタガ元々オレ達ハ竜作ニ対シテ敵意ハ無イ」
住崎さんの釘をさす発言に対してエドガーが答えた。
「後ハ我ガガルジヤ王国ノ次期国王ニツイテダ。竜作、我ガガルジヤ王国ノ国王ニナッテモラエナイダロウカ……」
エドガーが俺に言った。
「俺がガルジヤ王国の国王? 無理だよ。俺はそんなに器の大きい男じゃないよ。それに俺は日本人だぜ。外国人が国王っていうのもおかしいと思うぜ」
「ソウダナ、他国ノ一般人ニ我ガガルジヤ王国ノ国王ニナッテモラオウトイウ話ガ、元々無理ナ願イダ。次期国王ノ件ニツイテハ、本国ニイルハデス国王補佐官ト協議シテ決メルコトニシヨウ。王族ノ血は絶エルコトニナルカモシレンガナ……」
「そうしてもらえると助かるよ」
シュウゴの言葉を聞き、俺は安堵した。
話がまとまったところで俺達はトミーズキッチンを後にした。
「お前達三人はミニバンの中で昼寝でもしててくれ。お前達に張り付かれていて息がつまる思いをしてたんだ」
「……、ワカッタ、ソウスル」
俺の言葉にエドガーが答えた。
翌日から人質救出作戦決行日まで四日間、俺はボスから与えられる任務を午前中に終わらせ、午後はボスが帰宅するまでの間、俺と住崎さんとエドガー、シュウゴ、ロウの五人で、駅前のファミレス「トミーズキッチン」で昼飯を食いお茶を飲みながら雑談をして過ごした。この四日間の間にシュウゴが、ボスに張り付いているネクタイゴリラ達B班と接触をはかり、人質救出作戦が決行されることを伝えた。シュウゴの話を聞きB班の奴らは皆一様に喜んだそうだ。
八月一日金曜日午後六時過ぎ。俺達はトミーズキッチンを後にし、俺は自宅に戻り、住崎さんはアジトに戻り、エドガー、シュウゴ、ロウの三人はミニバンに乗り込み、人質救出作戦決行開始時間を待っていた。
しかし、午後八時半過ぎ。人質救出作戦決行を一時間半前に控えていた中で事件が起こった……。




