第1話:最初の任務~朝食作り~
昨晩、寝る間際にボスから一言。
「竜作、明日から専業主夫なんだから朝食の準備よろしくね」
「えっ、あっ、うん……」
「あと掃除、洗濯、買い物もやってもらわなきゃ!」
「徐々にやっていくよ。俺もう寝るよ。おやすみ」
「おやすみなさい」
専業主夫初日、最初の任務は「朝食作り」だ。
昨日までの俺は、ボスが会社に出かけた後の九時頃に起き出し、食卓に置かれているボスが朝食を食べるのに使った食器類をヒントに朝食が何であるかを推理して食べていた。
まあ、推理するほどもなく我が家の朝食は十中八九トーストに目玉焼きなんだけど……。
しかし、今日から朝食作りは俺の任務だ。俺は眠い目をこすりつつ昨日より二時間早く七時に起きて朝食の準備に取り掛かった。
結婚する前は一人暮らしで家事の一通りをこなしていたんだ。問題なくやれるはずさ。
我が家の朝食はトーストに目玉焼きがメインなのだが、ボスと俺、お互いに好みの差があって準備には割と手間がかかる。
トーストはボスはバターを塗ってチーズを乗せるが、俺はバターを塗らずにチーズを乗せる。
パンが二枚同時に焼けるトースターなのでパンを焼くのは簡単だ。
問題は目玉焼きだ。
目玉焼きはハムエッグかベーコンエッグだが今日はハムエッグだ。
ボスと俺とでは目玉焼きの焼き方が異なる。
ボスの好みはサニーサイドアップ|(片面焼き)で、俺はターンオーバー|(両面焼き)が好みだ。
目玉焼きを焼いている間にコーヒーメーカーでコーヒーを淹れる。
俺はブラックで飲むが、ボスはコーヒーが苦手なのでコーヒーに粉末のココアを混ぜる。
以前「それ美味いのか?」とボスに訝しげに聞いてみたことがある。
「あら、美味しいわよ。良かったら飲んでみる?」とすぐに返事が返ってきた。
飲んでみたら意外と美味かった。今では俺もたまにココアのコーヒー割りを飲んでいる。
これで今朝の朝食はできあがり。自分で作るのは久しぶりなので今朝は少々手間取ったが明日からは慣れていくことだろう。
時間は七時十五分、そろそろボスを起こさなければならない。
俺はボスをそっと起こす。ボスは低血圧で朝は非常に機嫌が悪い。
「恭子おはよう、朝食の準備ができたよ」
「う、う~ん、おはよう竜作。初日からできるとは感心感心!」
今朝のボスは機嫌が良いようだ。ほっと一安心。
ボスが洗顔した後、ボスと俺は食卓を囲んだ。
「いただきます!」
「いただきます!」
「うん、美味しい! これからもこの調子で頼むよ。新米専業主夫くん!」
「へ~い、頑張りま~す!」
しばしの食休みの後、テレビでイケメン俳優が料理をするコーナーが始まるとボスはそそくさと身支度を整え始めた。
俺はおもむろに食べ終えた後の食器をキッチンで洗い始めた。
「それじゃ竜作、行ってきます!」
慌ただしくボスが玄関から出て行く。
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
聞こえたかはわからないが挨拶を返す。
専業主夫初日の最初の任務、「朝食作り」は無事に終えることができた。
俺は小さな達成感を感じつつ、ベランダに出てたばこを一本吸った。