第13話:再会と忠告~タイガー&ドラゴン~
専業主夫を始めてから一ヶ月が過ぎた。
七のつく日のスーパーヨコカワの特売日の混雑ぶりには未だに慣れないが、ルーチンワークの朝食作り、洗濯、部屋の掃除、トイレ掃除、浴室掃除はそつなくこなしていた。
その他の任務としては、キッチンのシンクの掃除、ガスコンロの掃除、窓拭き、玄関まわりの掃除、エアコンのフィルター掃除を行った。
中でも一番苦労したのはエアコンのフィルター掃除だ。
我が家にはリビングと寝室と俺の部屋の三部屋にエアコンが設置されている。
掃除を手早く済ませようと思い、全てのエアコンのフィルターを外してまとめて掃除したら、とんでもないことになっちまった。
我が家のエアコンはそれぞれ別のメーカーのエアコンで、掃除をしていざ取り付けようとしたら、どのフィルターがどのエアコンのフィルターだかわからなくなっちまった。
フィルターの取り付けに手間取り大幅に時間をロスした。結局一台ずつ掃除した方がはるかに時間はかからなかった。
午後一時、俺は今ハローワークに行く途中にある公園のベンチに座りながら第三のビールを飲んでいる。
俺の再就職の戦績はこの一ヶ月で五つの連敗を増やし、累計二十五連敗目となった。
飲まずにいられない。飲まなきゃやってられない……。
それにしても気がかりなことがある。
三週間ほど前から俺の周りに住宅街には不釣り合いな黒いスーツを着てサングラスをかけた奴らを見かけるようになった。
どうやら俺は監視されているようだ……。
今日も公園の目立たない所に二、三人張り付いているようだ。
巻くか? しかし巻いたところで多分俺の家は知れている。それなら接敵して素性を吐かせるか?
どうする?
「隣、座ってもいいかい?」
第三のビールを飲みながら考えあぐねていると、突然俺は声をかけられた。
「ああ、どうぞ」
俺は声の主の顔も見ずに真っ直ぐ前を向いたまま答えた。聞き覚えのある声だ。
「久しぶりだな、竜作」
俺はその声を聞きベンチの右隣に座る声の主の顔を見た。
「虎之介じゃないか! どうしてこんな所に?」
「ま、ま、ま、ま、ノーリアクションで頼むよ」
「お、おう……」
声の主は、剣崎虎之介。俺が平和玩具株式会社でボディガードサービスをやっていた頃の相棒だ。
「昼間から飲むビールは最高か? 俺にも一本くれよ」
「第三のビールだが最高といえば最高だ。専業主夫の特権みたいなもんだ」
俺はベンチの左脇に置いておいたレジ袋から第三のビールを一本取り出し、虎之介に手渡した。
「ぷはっ! うめぇ~!」
「相変わらず美味そうに飲むな。お前は今も平和玩具に勤めているのか?」
俺の問いかけに対して虎之介は、ジャケットのポケットから取り出した名刺で答えた。
「株式会社ピースメーカー。警備主任、剣崎虎之介……」
「平和玩具のボディガードサービスが盛況でな、中堅の警備会社を買収し子会社化してピースメーカーを立ち上げた。俺はそこに出向になった」
「へー、それほどボディガードサービスは盛況なのか?」
「ああ、今までのメンバーでは人出が足りないくらいにな」
「ところで虎之介、ここまで第三のビールをご馳走になりに来たわけじゃないだろ? 要件を話せよ」
「まあな。竜作、専業主夫にはもう慣れたか?」
「まあまあってところだな。再就職先を探しているんだが、どこもかしこも書類選考で落とされちまう……」
「ああ、そうだろうな。そういう仕組みになってる。悪いことは言わねえ、専業主夫に専念しろ」
「えっ?」
「書類の内容云々の問題じゃない。履歴書の氏名欄に『竹田竜作』と書かれていたら即落とされる仕組みになってる」
「それは一体どういうわけだ?」
「平和玩具がお前を再就職させないように手を回してる」
「一体なぜ? なぜ平和玩具が俺の再就職を妨害するんだ?」
「それは俺にもわからない」
「…………」
しばしの沈黙。俺は第三のビールを飲んで喉を潤した。
「三週間ほど前から俺の周りを黒スーツにグラサンかけた奴らがうろついている。そいつらはもしかしてお前の部下か?」
「住宅街にそんな野暮な格好して張り付くのは素人のやることだ。俺の部下じゃない」
「そうか……」
「しかし、恭子さんの周りにも同じような奴らがうろついている。現在正体を探っているところだ」
「えっ? 恭子の周りにも?」
「ああ、でも安心しろ。恭子さんには俺の部下の中でも精鋭の奴らに護衛させてあるから」
「護衛って何人だ?」
「ツーマンセル|(二人一組)をダブル|(二班)」
「そっか、それを聞いて少し安心したよ。信頼してるぜ、ピースメーカー!」
「おう!」
「俺には何人の護衛が付いてるんだ? 物騒な世の中だ、俺にもツーマンセルを一班くらい付けてもらいたいぜ」
「竜作、お前にはツーマンセル|(二人一組)がトリプル|(三班)で張り付いている」
「えっ? ツーマンセル|(二人一組)がトリプル|(三班)?」
「そうだ」
「ところで俺達夫婦に護衛を付けている雇用主は一体誰なんだ?」
「雇用主は平和玩具株式会社の平沼雄一社長だ」
「えっ? 雄一社長が?」
「とにかく、お前達夫婦が何者かに狙われているのは確かだ。俺達も最善を尽くす。竜作、お前も気をつけろよ」
「あ、ああ……」
「げふっ! ご馳走さん! 第三のビール美味かったよ」
俺が呆然とする中、虎之介は第三のビールの空き缶を残して立ち去った。
雄一社長はなぜ俺の再就職を妨害する? なぜ俺達夫婦に護衛を付ける?
俺はしばし呆然とした後、心を落ち着かせるためにたばこを吸い始めた。
落ち着け、竜作。クールにいこうぜ、竜作……。
竜作の再就職を阻み、竜作夫婦に護衛を付ける平和玩具株式会社の平沼雄一社長の狙いとは!?
竜作夫婦は一体何者に狙われているのか!?




