第11話:密かな楽しみ
今日の任務「トイレ掃除」を済ませ、俺は毎日の日課であるハローワークに行き求人を探した。
今日もハローワークの入口付近で玄さんと短い情報交換を交わした。
求人の検索結果は相変わらず。めぼしい求人は見つからなかった。もやもやとした感情が俺の心の中を支配する……。
こういう時は憂さ晴らしをするに限る。俺は駅前にある雑居ビルへと向かった。
向かった先は雑居ビルの二階にあるカラオケボックスだ。
俺は月に一、二回、カラオケボックスで一人カラオケを楽しむ。ボスに内緒の密かな楽しみの一つだ。俺の十八番の曲は、レミオロメンの「粉雪」。俺は声が高い方なので「粉雪」のサビの部分も難なく歌える。
個室にこもり一時間、お気に入りの曲を熱唱する。
一人だけのオンステージ。目に見えぬ観客のアンコールの声援に応えて、俺は今日二回目の「粉雪」を熱唱した。
雑居ビルの二階のカラオケボックスで一人カラオケを満喫した後は、三階にある漫画喫茶で漫画を読み耽る。俺のもう一つの密かな楽しみだ。
喫煙席でたばこを吸いながら抹茶ラテを飲みつつ、お気に入りの漫画を読む俺の至福の時間。ああ、俺は今つかの間の自由を満喫している。漫画喫茶で満喫中だ……。
俺の密かな楽しみについては、ボスには秘密にしてある。
ボスは俺の代わりに頑張って仕事をしてくれている。俺は楽しみつつも多少の罪悪感を感じていた。
今日の夕食はハヤシライスでも作ろうかな……。
一昨日カレーを作ったばかりだが、今の俺にできるボスへのせめてもの罪ほろぼしだ。今日はハヤシライスを作ろう。
午後五時半過ぎ、漫画喫茶での満喫タイムを俺は一時間きっかりで切り上げ漫画喫茶を後にした。途中酒屋で第三のビールを買い自宅へと戻った。
自宅へ戻り第三のビールを冷蔵庫にしまいテレビをつけると、どこぞの国王一家が暗殺されたとのニュースが報じられていた。
こういったニュースを見聞きすると、平和な日本で日本人として生まれたことに安堵する。俺が呑気に専業主夫なんてやっていられるのも平和な日本だからかもしれない……。
「さてとっ!」
俺は早速ハヤシライス作りに取り掛かった。
ハヤシライスとカレーライスの作り方はほぼ同じだ。むしろハヤシライスは使う食材が牛肉とタマネギだけだからカレーライスを作るよりも簡単だ。
「ハヤシライスを作るなんざ俺にとっては夕飯前だぜ。ま、ハヤシライスが夕飯になるんだけどな……」
俺は鍋をかき混ぜながらくだらない戯言を独りごちた。
今日は飯を炊く準備も事前に済ませてある。今日のハヤシライス作りはパーフェクトだ。
ハヤシライスを作り終えた後、俺はボスに携帯電話でメールを送った。
『今日はハヤシライスを作ったよ。早めに帰って来てね。』
ボスにメールを送って二、三分の後にボスからの返信メールが届いた。
『竜作、ごめん。今日は残業で遅くなります。先に食べてて。』
……、こんな日もある。
俺は炊飯ジャーで飯を炊き、第三のビールを飲みながら一人でハヤシライスを食った。
「腹は満たされるけどボスと一緒じゃなきゃ心が満たされないんだよ……」
俺は空になった皿を見つめながら小さな声で独りごちた。
ボスと一緒にハヤシライスを食えなかったこと、これは密かな楽しみに対しての神様が与えた小さな罰なんだと俺は思った。




