第9話:スーパーの特売日は主婦達の戦場~買い物~
今朝もしっかり朝食を作りボスを笑顔で送り出した。
昼食には昨日の夕食のカレーの残りをしっかり食った。
午後一時、俺は今近所のスーパー「スーパーヨコカワ」の向かいにあるたばこ屋の軒先でたばこを吸っている。
今日は六月十七日、七のつく日はスーパーヨコカワの特売日だ。
スーパーヨコカワの営業時間は朝九時から夜九時半まで。ボスの仕事帰りでも買い物に来れるので重宝している。
スーパーヨコカワの入口付近は人で溢れている。俺はもう既にたばこ屋の軒先でたばこを四本吸っている。それというのも俺は人混みが大の苦手だ。あの人混みの中に入っていく勇気がない……。
スーパーヨコカワへはこれまでにも何度か一人で買い物に来ている。今日が初めてってわけじゃない。
しかし、これまでに一度だけ七のつく日に買い物をして主婦達の勢いに圧倒された記憶が焼き付いている。それ以来、七のつく日の買い物はボスに任せていた。
週末にボスと二人で買い物に来る際も、ボスに買い物を任せて俺はたばこ屋の軒先でたばこを吸いながらボスが買い物を終えて出てくるのを待つのがパターンと化していた。
そう、俺はこれまで極力スーパーヨコカワでの買い物を避けてきたのだ。
「スーパーの特売日は主婦達の戦場よ。竜作、グッドラック!」
ボスが朝出かける前に俺にかけてくれた言葉が脳裏によみがえる。
落ち着け、竜作。クールにいこうぜ、竜作……。
ガキのはじめてのおつかいじゃないんだ。買い物くらいクールにこなしてみせるぜ!
俺は意を決してスーパーヨコカワに入っていった。
店内に入るとどこもかしこも主婦達でごった返している。
買い物カゴを右手に持ち、左手でジーンズの左前ポケットから買い物メモを取り出す。この買い物メモの通りに商品を買い物カゴに入れて精算すれば終わりだ。おっと、「特別ボーナス」を買うのも忘れてはいけない。要注意だ。
俺の言う「特別ボーナス」とは、五個入りの豆大福と三本入りのみたらし団子のことだ。
実は俺は甘いもの好きだ。他の商品を買い忘れても特別ボーナスのゲットは俺にとっては最重要項目だ。ボスからも買うことについては了承を得ている。
入口付近は野菜コーナーだ。キャベツ、ニンジン、ジャガイモ、タマネギを次々と買い物カゴに入れていく。
人混みをかき分け肉類のコーナーに移り豚肉と焼売を買い物カゴに入れていく。
再び人混みをかき分けてパンコーナーに移り六枚切りの食パン三斤と特別ボーナスの豆大福とみたらし団子をゲット。
俺はパンコーナーの左隣のアイスコーナーにふと視線を向けた。
何? アイスが四割引きだって? そんな情報ボスから聞いてないぞ!
今日は暑い。ボスの分も買えば特別ボーナス以外のご褒美を買っても問題ないだろう。
俺は六本入りのチョコアイスバーを買い物カゴに入れた。
最後に卵と納豆を買い物カゴに入れ、買い物カゴの中身と買い物メモの商品項目を照合した。
よし、買い忘れは無い! 後は精算だ! 俺はレジへ向かった。
レジへ向かうとどのレジも長蛇の列を作っていた。精算を待つ列の最後尾は縦長の店内の最奥まで続いていた。
これだよ、人混みの他にもこれも嫌なんだよ。この無駄に待たされる時間が嫌いなんだよ……。
俺は長蛇の列の中でも一番短そうな列の最後尾に並んだ。
今日はアイスも買っているんだ。あんまり待たされるとアイスが溶けちまう……。
精算の列に並んで待つこと十五分、やっと俺の順番が回ってきた。
レジ打ちのおばちゃんは、素早く商品をポスレジのスキャナーでスキャンしていく。
「お会計、千八百九円です!」
レジ打ちのおばちゃんはせっかちに精算金額を俺に告げた。
俺は財布から二千円を取り出しトレーに置いた。
「百九十一円のお返しです。ありがとうございました!」
レジ打ちのおばちゃんは勢い良くレシートとお釣りを俺に手渡した。危うくお釣りを落としそうになってしまった。
精算を済ませて買った商品をレジ袋に入れる。これもまた一苦労だ。俺は買った商品を丁寧にレジ袋二袋に収め入れ店を後にした。
キャベツが重い。レジ袋が指に食い込む……。
自宅に戻り買った商品を冷蔵庫やキッチン脇のバスケット等の所定の場所に収めてからチョコアイスバーを一本取り出しベランダに向かった。
戦いが終わった……。今日はもう何もやる気がしない……。
俺はチョコアイスバーを咥えながらしばしの間放心状態に陥った。




