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1.三毛猫さんと結婚しました

 うちの三毛猫さん、実は尻尾が二股に分かれている。

「ねー、お母さん。大ちゃんて猫又じゃないのー?」

「そうかもしれないわねー」

 気がついた時にはうちにいて、ずっと一緒に暮らしてる。長生きしてくれるといいな、なんてのんきに考えていた。



 クリスマスちょっと前に20歳になった。

 半纏を羽織り、実家のこたつでみかんを食べるのは至福の一時。

「なー」

 声を上げて三毛猫さんが膝に乗っかってきた。そのまま丸まる。

「大ちゃん重いよー」

 にこにこしながらその毛を撫でる。こたつとみかんと私と猫さん。なんて贅沢なんだろう。

「ゆか、成人したか」

 三毛猫さんを膝に乗せたまままたみかんを食べていたら、聞いたことのない声がして私は目をぱちぱちさせた。周りを見回す。誰もいない。

「誰?」

「成人したのかと聞いている」

 また声がした。男性の、すごく耳にいい声だ。

 あれ? と思った。

「大ちゃん?」

「返事は?」

「はい、しました」

「そうか」

 三毛猫さんは満足そうに目を伏せた。

「大ちゃんがしゃべった?」

 二股に分かれている尻尾に触れようとしたら尻尾でぺいっと軽く叩かれた。

「大ちゃん?」

 声をかけるとうるさそうに薄めを開け、そのまま大きくあくびをし、また丸くなる。

 その後はいくら声をかけても相手をしてくれなかった。気がついたらみかんが少し乾燥していて、なんともいえない顔をすることになった。

 まさかね。



 大学三年生の夏、試験が終わって実家でぼうっとしていたら母が呆れたような顔でため息をついた。

「ねぇ、ゆか。彼氏とかいないの?」

 唐突な問いに、飲んでいたアイスティーを噴き出しそうになった。

「え? あ、うん……いない」

「あらそう。じゃあ予定通りこの冬にでも大介さんと結婚かしらね」


 はい?


 母は言うだけ言って台所で洗い物を始めた。

 固まっている私の横を三毛猫さんが通り過ぎ、台所へ向かう。母は三毛猫さんの姿を認めるとこう話しかけた。

「あ、大介さん。この冬か、年度末にはお式を挙げてほしいの。ゆかのこと、ちゃんと口説いといてね」

「ご母堂、感謝する」

「命の恩人なんだから大介さんが感謝することないわよー」

 そういえばうちの三毛猫さんの名前は”大介”だった。つーかなんで普通に話してるの。三毛猫さんも声帯とかどうなってんの。

 内心パニックを起こしている私に、

「やっとそなたを娶れるな」

 三毛猫さんはそう言って、立派な二股の尻尾を振った。



 で、なんというか私が混乱している間にいろいろ決まり、三毛猫さんと結婚することになった。

 三毛猫さんはやっぱり猫又という妖怪で、人型もとれるという話だったが、「人型をとるとゆかを襲ってしまう可能性が高いのでな」と言われたので土下座して猫の姿でいてもらうことにした。

「でもなんで大ちゃんと結婚?」

「あんたが小学二年生ぐらいの時のこと覚えてないの? 近所の山道で足滑らせて落ちそうになったことあったでしょ?」

「そんなことあったっけ?」

 山道、というと近くにあるぽこっとした丘というか大きめの岩山が浮かぶ。あそこで危ない目にあったのだろうか。

 えーと、小学生の頃、小学生の頃……。

 無理矢理記憶を探り、思い出そうとしてみる。

 と、白い長髪の……美人さんに顔を覗き込まれている情景が浮かんだ。

 あれ? あれ、あれ?

 私は首を傾げた。

 そういえばあの時。



「危ないではないか」

「……うわぁ、お兄さんキレイ!」

「聞いておるのか」

 メンクイの私は美形のお兄さんの髪を掴んでしまった。

「あ。た、助けてくれてありがとう、ございました……」

「雨上がりは道がもろい。気をつけよ」

「あ、あのお礼に、お礼に……」

「子どもがそんなことを考えずともよい」

 瞳がなんだか人ではないみたいで。白いさらさらの長髪には黒とオレンジ色のメッシュが入っていて。

 ここでこの人を離したらもう二度と会えないような、そんな気がして。

「あのっ! お兄さんのお嫁さんになってあげる!」

 お兄さんの目が丸くなった。そして私をぎゅうと抱きしめて笑い出す。

「そなたがわしの嫁に?」

「笑うなんてひどい! ……だめ?」

「よかろう。そなたが成人した際恋人もおらず、結婚もしていなければわしの嫁にしてやろうではないか」

「約束だよ!」

「ああ、約束したぞ」

 そう言ってお兄さんは猫みたいに目を細めたのだった。



 あの日、雨上がりでもろくなっている山道を友だちと上っていた。確か雨上がりに丘のてっぺんに行くと綺麗な虹が見られると聞いて。そこで私は確か足を滑らせて、まっさかさまに落ちたのだった。

 それを崖の途中で助けてくれたのが美形のお兄さん。

 見慣れない美しさにすわ白馬の王子さまか! と思っても無理はないだろう。自分を助けてくれた素敵な人をゲットしたいと思うのは女の本能だと思う。小学生でも女は女だ。

 美しいお兄さんはあの後私を抱いたまま跳躍し、山道に戻った。友だちと一緒だということを伝えたらその友だちにも挨拶をしてくれて……。

 何故かその後の記憶が曖昧模糊である。で、気がついたら尻尾が二股の三毛猫さんがうちにいた。

 そうだ、あの時崖から落ちそうになったのではない。実際に落ちたのだ。

「……思い出した。すんごく美形のお兄さん。あの人が大ちゃんだったの?」

「そういうことになるな」

「小学生の言葉を真に受けて結婚かぁ。でもそれもいいかも。大ちゃん、これからよろしくね!」

「……そなたは変わらぬな」

 不思議なのは両親も兄弟も、式場の人たちも猫又さんと結婚することになんら抵抗がなかったことだ。どうも妖怪と人間の結婚は現在でもないこともなく、本人たちが想い合っているならかまわないらしい。

 想い合ってる? まぁ私も猫又さんが人型をとっていないから実感はないけど。

 でも、実際結婚式で人型をとり白いタキシード姿になった猫又さんを見て、私は顔が赤くなるのを止められなかった。

 やヴぁい、格好いい、美しすぎる。

 そのあわあわしている状態のまま初夜に突入し、あれよあれよという間においしくいただかれてしまったのだった。

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