異世界で銃を使う事になったけどラノベ主人公のようにはうまくいきませんでした。
ほとんど設定をまとめたかのような内容なのでちっとも面白くないです。
温かい目でお願いします。
鳥達の囀りと風に揺れる葉音だけが鳴る森の中。
木々の隙間から入る日の光に照らされる先には人とはかけ離れたモノが居た。
先の尖った耳に皺だらけの顔。並びの悪い歯には汚い物がこびり付いており、髪の毛1本無い頭には皺と血管が浮いていた。
その手には1本の剣が握られており、所々に浮いた錆と刃こぼれがまるで手入れのされていない事を物語る。
そこからもわかるように彼は自身の得物にあまり関心が無い様子が見て取れた。
【ゴブリン】
彼らの種族はこの世界の人間達からそう呼ばれている。
小悪魔というよりは山賊などに近い者であり、よく人間や他の種族を襲っては物を奪い、食し、犯していたりしているいわゆるモンスター。その行いから彼らは討伐対象とされ、増えては駆逐され増えては駆逐されを繰り返していると聞いた。
獲物を探しているのか、ただこの森に迷い込んできただけなのか。
彼にしかわからないがその森の中に居る事だけは事実である。
木の枝が風に揺られる音の中、微かに感じた匂いに違和感を感じた彼は片手に持っていた剣を両手で持ち直して警戒態勢に入る。
「グゥ?」
自らの持つ第六感に従って本能的にそちらを向いた瞬間、その意識は聞き慣れない大きな破裂音が森の中に鳴り響くと共に奪われた。
周囲の木の根本に降り掛かるのは血飛沫と肉片と化した先程まで頭だった一部分と思しき何か。一瞬のうちに生命を維持できなくなる程の損傷を負った筈の頭は意思を失った事に気づかず膝から崩れ落ち、その後もなお身体はその場で数秒間に渡りビクビクと痙攣を起こしていた。
その様子を見届け、木の枝を飛び移る人影がその現場へと降り立つ。
目の前には額から後頭部に渡って粘土のように裂けた頭になってしまったゴブリン。そしてその周辺の草木にはどんなゾンビ映画よりも鮮明に血液らしきものが飛び散り、付着していた。
「うへぇ……まぁいつ見ても……グロテスクだな」
そう一人ごちり、腰の後ろに手を回すとそこに水平になるよう固定された鞘から1本のナイフを取り出す。しかしそれはナイフとは名ばかりの片刃の刃を持った短剣と言った方が正しかった。
(解体用に1本切れるナイフ欲しいなぁ)
それをゴブリンの胸に突き立て、体重を掛けて一気に刺し込む。肉の裂けていく音と骨が外れる音が中で幾度となく響くが、気にする事無く解体を行っていく。
ふと作業中、背負っていた小さなリュックがガサゴソと揺れ動く。
表面をボコボコとつつく様にして動く様子から中に生物が入っている事は誰にでもわかるだろう。
( ・・)?
ピョコッと効果音が付きそうな勢いで顔を出したのはまるで顔文字のように丸いふたつの目を持った生き物。白く透き通ったその姿は固体というよりは液体に近い。よくファンタジーでは最初の敵だったりする【スライム】である。
「出てきても何も無いぞ?」
リュックの上にある口からスライムらしく液状になって這い出てくると、何処ぞの金持ちの着けるファーマフラーの如く両肩と首に渡ってしがみついてくる。
しかし本当に何も食べる物も無いのでただじっと作業を見るだけらしい。ちなみに彼には狙撃の際には二脚や土嚢のように銃を支えてもらっている。
しかも彼には心臓など振動する器官を持っていないからか、一切ブレの無い固定となるのでその能力にはよく頼らせてもらっている。なお彼はモンスターだからか魔力などの物質が見えるらしく、強力な魔物などが付近に現れた際には教えてくれるなどといった猟犬でいうところのポイント犬に近い存在といえるだろう。
次第に辺りに広がり始めた悪臭が鼻を刺す。涙を浮かべながら胸骨や肋骨を外すとそこには生命の維持には必要不可欠な臓器が収められていた。ほぼ全ての動物にある臓器、心臓だ。
それに刃を入れて真っ二つに裂く。中に入っていた血液がドロリとこぼれ出ると、その中にひとつ赤黒い血液ではないひとつの石のようなものがその肉壁に付いていた。
(うわー案の定ちっさい魔石……ま、ゴブリンだし当たり前か)
異世界あるある。魔力を帯びた石である。
「あっ、ダーメだって。これは食っちゃいけないんだぞ」
次第に腕にまとわりつき始めた彼を牽制し、ちょうどエアーガンに使う6mmBB弾程の大きさをもった魔石を腰のポケットにしまう。
この王道ともいえる異世界に生まれ落ちて17年。俺はこの世界では存在する筈の無かった武器を使っている。
親の関係上生まれつき魔力を持っていなかった俺は自らの身体と道具に頼る他無かった。同じ村の周りの友達はちょっとした攻撃魔法なら使いこなし、幼馴染みはそれをも超える割とすごい魔法使いときたもんだ。
最初は自分の事が信じられなかった。
魔力が無い……異世界ファンタジーで魔法使いになる道を俺は幼少の頃にパッタリと閉ざされた。
しかしそれは案外助かったのかもしれない。
何故なら俺は村の皆の中で【隠れんぼ】が一番上手だからだ。
子供の頃は最強の隠れん坊として君臨していたが、ある程度成長してからでもそれはほとんど変わる事は無かった。
こちらを見つける鬼が友達から獲物へとただすり変わっただけだった。
「うし……これでよし!」
魔石を取り除いた後のゴブリンに用は無く、その死体は軽く土中に埋めた。あとは精霊やら微生物などが分解してくれる。気の毒だったのはこのゴブリンとその血液を浴びた木ぐらいだ……まだ臭う。
本当ならスライムらしく消化させる……なんて事も可能だが、可愛いコイツに醜いゴブリンを取り込ませるのは少し気が引けた。ネズミ捕りに掛かったネズミの死骸の処理を飼っている猫にやらせられるだろうか。
否、自分には無理である。
それはそうと俺の装備。木を基調とした武器ではあるが黒い棒状の金属が装着されているこれは、この世界には少ない飛び道具だった。しかも攻撃の際に魔法の類いを一切使わない、技術の結晶ともいうべきモノ。
【明治十八年】
【大日本帝國村田銃】
そう刻印された銃を持ち、槓杆をゆっくり引く。弾かれずに後退してきた空薬莢を手に取ると服の胸元に設けられている弾帯のように縫い付けられた弾差しに差し込む。
そして新しい実包を腰のポーチから取り出すと、薬室前に。
そこから引き金を引きながら槓杆を送る事で撃針をセットしない状態で装填を終えた。
「……さてと」
先程使っていたナイフもとい短剣は【十八年式銃剣】であり、主に近接格闘の際に使用する唯一の武器だ。
全長は58cmにも及びこの世界の基準だと小型ナイフと長剣の間くらいといったところで少し長めの短剣といったところ。
足下の柔らかい土に何度か深くそれを突き刺して刀身に付いた血糊を擦り取り、付いた土を指で拭う。
腰に水平に取り付けた鞘にその刃を収めたところで木に手を掛ける。人の体重にも折れる事無く耐えられそうな枝を掴むと同時に木の幹を蹴る。片手に先程殺したゴブリンの剣を握っているのだが大した支障ではなかった。
あっという間に高さ5m程までスルスルと登ると、今度は大きめの枝を飛び移っていく。下は薮や小さな木が沢山あり、上を飛び移った方が移動に掛かる時間が少ないからだ。
それに俺のいる村では無闇に動植物を傷付ける事は御法度とされてる。まぁ実際は何かが必要とあればすぐに刈り取ってくるぐらいアバウトなのだが、石油製品などの類いは一切存在しないので致し方無い。
(お、木の実なってる。確かアレ食えるんだよな……)
道草食ったからか家に着く頃には既に夕暮れ時になっていた。
以前の世界ならカラスが鳴き、帰宅する子供の声があったものだが……案外この世界もあまり変わらず似通ったところがある。
「ただいまー」
「おかえりー。今日は遅かったわね?」
この世界での母親。綺麗な黒色の髪と瞳が俺とこの人に血の繋がりがある事の何よりもの証拠だ。
「寄り道してきた。この前言ってた薬草だよ」
そう言って摘んで来た薬草を渡す。見た目はコミカンソウに似たものだが、これをすり潰しただけでも傷などに塗ると治りが早まるそうだ。さしずめ【回復草】といったところで、こちらの言葉では独特の名前だった。
「おかえり。今日はどうだった?」
彼はこの世界での実の父親。母さんとは違ってその髪は金色で、瞳は緑色。そして一番の特徴は耳の先が尖っている事だ。あまり似てない親子だがれっきとした家族である。ちなみに職業は家具職人。
「ん、ゴブリンだけだったよ」
「そうか、すっかりお前もあの人みたいになってきたな」
この村に住む大半の人はエルフと呼ばれる種族で、父さんがそうだ。
人間の特徴を持つ俺と母さんは珍しい。俺が幼い頃には爺ちゃんも居たのだが、寿命からか自称95歳の時に眠る様に息を引き取った。
爺ちゃんはどうやら日本兵だったようで、よく動物を狩ってきたりこの銃を大事そうに磨いていた頃あの姿はまだ瞼の裏に焼き付いている。
日本兵と言われれば大体の人は第二次世界大戦を思い浮かぶだろうが、あの人の話によるとどうやら日清戦争か日露戦争らしかった。祖国の周辺国と戦っていたという事は確かだ。
この世界に来た経緯は本人からは明確な答えは聞いておらず、子供の俺相手だからか「遠い所から流れ着いた」程度にしか説明されていない。俺自身いきなり転生者だと語る事が正しいのかわからなかったし、その頃は「俺」を普通に「もう1人の自分の記憶」と認識していた。
そして何故爺ちゃんはこの世界の言葉を使えているのか。それが謎だったが答えを知っている本人はもうこの世にいない為、お蔵入りした。よく「神様は本当にいる」と耳にタコができそうな程繰り返していたのでこちらの世界へと転移する際に何かあったのかもしれない。もしかしたらただの子供騙しかもしれないが。
なお、爺ちゃんは村の近くに聳える切り立った山に工房を開いているドワーフの職人達とも交流があった為、この銃の弾丸を作る際はそこを頼っている。おかげで俺もそこのおっちゃん達と交流しており、時には撃針やバネ、そして時には銃身を作ってもらっている。なお、腔綫を刻む際はコールドハンマー法などではなく職人の手により1本ずつ刻まれるカッター法で行われている。正直化け物レベルである。
父さんは銃に興味はあっても使い方が覚えられなかったらしく、それに加えて弓の方が命中率が高かったらしい。やはりというかエルフだからかもしれない。
母さんはそもそも銃に興味を示さない。爺ちゃんは「女は家を守る」の考えを持ってた人のようで、婆ちゃんによる花嫁修業の手伝いをしていたようで狩りの仕方などは全く教えていなかったらしい。教えられたのはせいぜい動物の解体の仕方だとか。
明治時代の人である爺ちゃんが娘の花嫁修業を手伝う事にまずビックリだが当時の人としては相当な変わり者として見られる事だろう。そもそも男性が台所に立つことが禁じられた「男子厨房に入らず」が昔は概念としてあったのだから。
「よいしょっと……」
原則として土足厳禁になっている自分の部屋に入ると、床に座り込む。
傍らに置かれた道具箱の蓋を開け、みすぼらしい服のような1枚の布を取り出す。ボロボロの布だが汚れを落とす為の物なのでどうせ使い捨てで終わる。
銃口下にある槊杖(洗い矢)を引き抜くと、先端に布ではなくブラシ(こちらはエルフ製)を取り付ける。まずはカスをこそぎ落とす為だ。
銃の左側面にある2本あるマイナスネジのうち上の方をネジ回しで取ると、ガチャリと槓杆を引いてボルトとそれに付いていた金具を共に本体から外す。
薬室から後ろに渡って邪魔するものが一切無くなったところで薬室から銃口へと先程のブラシ付きの洗い矢を突っ込んで往復させると、銃口からパラパラと火薬による発射カスがこぼれ落ちるがそれは極少量。
今日の発射弾数はたったの一発のみだったからであり、いつもはこの数倍は汚れているところだ。しかし射撃後の手入れは欠かせない。
洗い矢の先のブラシを外し、開いている穴にボロ布を通した後に油を染み込ませる。一部分が薄茶色に染まった物を先程と同じように回しながら差し込む。
銃身内の清掃を終えたら、撃針など機関部を同じようにカスを落として油を引く。
「…………よしっ」
銃剣にも目を通す。刃こぼれなどの損傷は無いか、刀身に歪みは無いかを確認すると、薄く油を塗った後に鞘へと収める。
この刀身はドワーフ製なので本当の十八年式銃剣とは材質から異なる。金属の硬さ、粘りけや組織構成なども色々と違うのでぶっちゃけいつ折れるかわからない。
爺ちゃんは日本刀に憧れはしたらしいが、その詳しい製造方法などがわからなかったらしく断念していた。日本人なら刀に憧れるのはごく自然な事だろう……。なお、俺にも製造方法なんてわからない。
そもそもこの世界に日本刀が通ずるのか。独特の剣術に加え敵兵は鎧である事も多く、何より相手の剣は「引き切る」ではなく「叩き切る」事に重きを置いている為によく鍔迫り合いになったりする。相手のロングソードの厚い刀身と刀の鋭い刀身が当たればどうなるかは明白だろう。その為使用者には相当な練度と身体能力が必要とされる。
転生者にも関わらず何のチート能力も持っていない俺はとてもじゃないがやる気は起きなかった。剣術はそれなりに教えてもらってはいるが、居合いや剣道などではなくこの世界に元からある剣術と槍術を少しかじった程度しか会得していない。しかもそのほとんどは回避と防御、返し技ばかりで何とへっぴり腰な事か。
元々そんなに自分から攻め入るタイプではない事は自覚している。こんな性格だからか「ガンガンいこうぜ」な行動は全然起こせていない。「いのちをだいじに」しか考えられない。
ラノベ主人公のように次から次へとハプニングがやって来ないわけだ。自分から回避していたのだから。
今の暮らしのまま森の奥深くであるこの村に住み続けるのも良いだろう。しかし前世がこことは違う世界の元人間としてはこの世界をいつか回って見てみたい、そうも思っていた。
ここから先の人生どうなるか。不安は山ほどあるが好奇心の方が勝っていた。
前々から異世界×現代兵器が書きたかったのですが……何故こうなったし。
特典無しで良いんじゃね?→創造とか召喚不可能なら製造すれば→なら簡潔な構造が良いよな→火縄銃?いや濡れたらダメだ→せめて金属薬莢で→スナイドル銃→なんなら日本設定したいな→村田銃
……ってな具合で行き着きました。無茶なのは知ってます、でも実際作るのは主人公ではなくドワーフ……たぶん大丈夫(適当