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かしこいキリン

 マライカがしばらく歩いていると、道の先に首の長い、体に茶色のはん点のある動物がいました。大きな体をしていますが、その背丈は高い木のてっぺんと同じぐらいです。きっとワシが言っていたキリンでしょう。

 マライカに気づいたキリンは言いました。


「こんにちは!今からどこに行くのですか?」


 マライカはキリンがうそぶいているというワシの言葉を思い出しましたがそんなこと気にしません。マライカに向けられたキリンの瞳が優しいので、マライカはキリンと話したいと思いました。


「冬の国へ行こうと思っています」


 マライカが答えるとキリンは長い首を下にさげてマライカの顔と顔をあわせました。


「冬の国、ですか?」


 キリンは長いまつげをまたたかせました。どうやら女の子のようです。マライカよりすこし年上ぐらいかもしれません。


「冬の国へ行って雪が本当に存在するのかどうか知りたいんです。雪があるところにきっとお父さんがいるから」


 ですがワシは雪も冬の国も存在しないと言いました。世界中を飛び回っているあのワシですら見たことがないのですから、もしかすると本当に雪はないのかもしれないとマライカの心には不安がうずまいています。


「雪は存在しますよ」


 キリンは言いました。

 どうしてキリンは雪のことを知っているのでしょう?マライカは驚きました。それもどうしてはっきりと言うことができるのでしょうか。


「空を見てください」


 キリンは長い首をピンと伸ばし顔を空へむけました。マライカも空を見上げます。青い空にはいくつもの大きな雲が浮かんでいます。


「雪はあの白い雲たちから生まれるんです。雲には雪の種となる小さな氷の粒があって、空がとてもとても寒くなると、雲は大地を凍りつかせないためにその種をたくさんばらまくのだそうです。それが空から地面へ落ちながら柔らかい花のような雪になる。だからあなたの住む暖かな夏の国では降らず、寒い冬の国でしか雪は見られないんですよ」


 マライカはなるほどと思いました。


「でもキリンさん。キリンさんはどうして雪のことをよく知っているの?見たことがあるの?」

「ええ、ありますよ。だけど近くで見たことはありません。ただ、雨季が終わりしばらくすると、あの遠い先に見える山のいただきが白く変わるんです。それがどうしてなのか知りたくてあの山に行ったことのある動物たちにたずねてみました。するとゾウが、あれは雪だということや、雪が空からどうやって降ってくるのかを教えてくれたんです」


 マライカは嬉しくなりました。キリンもキリン以外の動物たちも雪を見たことがあるようです。どうやら雪は人間が考え出したものではなく、ちゃんとこの世に存在するようです。


「じゃあどうしてワシのおじさんは世界中を飛び回っているのに雪を見たことがないんだろう?」


 キリンは少し考えたあと言いました。


「たぶんそれはきっと、彼は寒さが苦手だからじゃないでしょうか。確かに彼はかしこくて、知恵のあるワシです。でもわしは若い時から寒いのが嫌いなんじゃと言ってましたから、世界を飛び回っていても気づかないうちに寒い場所を避けてしまっているのかもしれませんね」

「それじゃ、雪の降らないところばかりをワシのおじさんは飛んでしまってるんだね」


 ワシが冬の国に行き着いたこともなければ雪を見たことがないのもうなずけます。それでも自分はなんでも知っていると思っていたのですから不思議なものです。見えているものだけで判断してしまうのは人だけではなかったようです。


どれほどのことを知っているかだけでなく、知らないことを知ろうとする気持ち。そして見るもの聞くものが、たとえそれが見えないものであったとしても真実かどうかを考えることができる。それが本当のかしこさなのかもしれません。

 マライカは雪について教えてくれたキリンに感謝しました。


「キリンさん、よかったらこれ飲んでください」


 マライカは水を入れた革袋を差し出しました。ですがキリンは長い首を横に小さく振りました。


「私は教えてもらったことを同じようにあなたに伝えただけです。それより、この先の道のりがどれほどになるのか分からないのではありませんか?ここで水を飲んでしまったらあなたの分がなくなってしまう。そんなことできません。どうぞこのまま山のふもとをめざしてください。きっと私に雪のことを教えてくれたゾウに会えることでしょう」


 マライカはキリンに別れをつげ、言われた通り山のふもとをめざして歩きはじめました。

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