表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スフィナ  作者: 須箕渓
6/6

5話

王都の公園は木が多く植えられ、一部は林だ。

夕暮れ、ロベリアはその日もその林に足を踏み入れていた。一人の女性に会うために。

迷子になりながらも少し開けた場所につく。

その開けた場所には、予想通り女性が一人でいた。

おそらく貴族のお嬢様だろうに、護衛も付けずに。

今日も声をかけないでおこうと思っていた。が、声を殺して泣いている姿にかつての自分を重ねて、声をかけていた。


「・・・姫、またこんな所に来て。何かあったんですか?」


女性は驚いたように肩が震えた。そして恐る恐るという様に、ロベリアに顔を向ける。

今度はロベリアが驚く番だった。女性はこの国の王女のエルザだったからだ。しかし驚きを隠し、できるだけ優しく微笑みを浮かべる。


「あなたは・・・?どうしてここに」


「どうしてと言われましても・・・この林に入ると毎度毎度迷子になってここに来るので」


女性の問いにロベリアは素直に答える。身分は答えないが。

ロベリアが迷子というと、女性――エルザはさらに驚いたように目を丸くする。


「ひ、人払いの結界を張っていたのに迷子で、ですか。まだまだ修練が必要なようですわね」


何かがショックだったようで、エルザはがっくりと肩を落とす。しかし、何かに気づいたように慌てて顔を上げる。


「も、もしかして”また”という事は、これまでもここに来ていたという事なのでしょう!何故話しかけてくれなかったのです!」


「泣いていらっしゃったので見られたくないのかと・・・」


「そ、それはそうですけれど・・・。それならばまた場所を変えなければいけないではありませんか」


怒ったと思えば、今度は悲しみで目を潤ませる。エルザという女性はコロコロと表情を変える。

ロベリアはどうしようと頭を抱えているエルザに、笑みをこぼす。


「何がおかしいのですか」


「いえ、よく表情の変わる方だな、と思いまして。

それで、人気のない場所に人払いの結界を張ってまで、どうして泣いているのですか?」


ロベリアの問いかけにエルザは言葉に詰まる。

聞かれたくないことだったのだろうか。ロベリアは内心で首を傾げていると、エルザは困ったような悲しそうな、どちらとも取れる表情になる。


「大したことはないのです。ただ、もしかしたら大きな事が起こるかも知れないだけなの」


「確証のないことで泣きたくなるのですかか?」


「・・・あなたが自分のことを話してくれるのなら私も話します」




人気がなく、しかし最短の道のりをロベリアは走る。向かう先は王都からは離れた、国境付近の砦だった。

先程までのエルザとの会話を思い出す。


『リカルネがスフィネを支配するつもりで攻めてきている』


その事にロベリアは歯を食いしばる。彼にとってはこの国は唯の観光に来ただけのところなのだ。

けれど、どうしてか認めたくはないと思ってしまった。この国が他国の手によって変えられてしまうという事が。

本来ならば他国の者が介入すべきことではない。しかし、彼女の、エルザの無力さを嘆く姿を見て、理解してしまった。

かつて、イリスが失ってしまったものを彼女はまだ持っていることを羨む気持ちを抱いていることを。

左耳の青いイヤリングから慣れ親しんでいる老人の声がする。この老人とはロベリアの魔法の師匠のリルド・ラウという大賢者だ。


『お前さんは本当に分かっておるのか?』


「勿論。あの砦で食い止める事に成功してしまえば、私は、ロベリアはこの国に縛られてしまう」


ロベリアのあっさりとした返答にリルドはしばし沈黙する。そして、ため息をつく。


『分かっていると言うのならば、どうして国を助けようとする?』


「エルザという女性が、あまりにもかつての自分と重なってしまって。だから、私は同情しているのでしょう」


『儂には理解できんのう、お前さんのその感情は』


心底理解できないという声音だ。しかしその中に優しさを確かに孕んでいた。

ロベリアは話しながらも砦へと向かっていた。特殊な魔法によって強化された肉体を酷使して。


「ええ、私もこうでなければ理解しなかったでしょうね」


理解したくもなかった。そんな思いを胸に。


『して、何か策はあるのか?』


「ええ一応は。ただ、成功するかはわかりません」


『ふむ、ということは「瘢痕の御者」を扱うということじゃな』


『瘢痕の御者』というのは、ロベリアとしての職であるネクロマンサーで扱うスキルだ。強大な力なのだが、発動が成功しようと失敗しようと、使用者の魂を蝕む。


「そうです。生きていられる保証はないので、言っておきます。私はー」


『言わんでもわかる。お前さんとの契約は切れるから好きにしろ、じゃろう?』


ロベリアの言葉を遮って言ったリルドに、ロベリアは何も言わなかった。

夜が明けて昼を過ぎた頃、ロベリアは一つの建物を見つける。おそらく砦だろう。

しかしロベリアはそれを越え、戦地となっている場所に降り立つ。

そして悠然と微笑み、よく通る声で言う。


「さて、遊びましょうか。リカルネの皆さん」


おそらく彼女が彼としては最後となる、命をかけた戦闘が始まる。

ひとまずの終了。次から数話、蛇足扱いになるだろう話を投稿するかもしれない

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ