4話
それから二、三日は王都の様々な所を見に行った。
とは言っても、まだ平民では観光は手が出せないほどの事なので行く所は限られているのだが。
その日は久々にロベリアの姿になり、アルフレッドと外に出ていた。
「今日くらいは私が奢ろうか?アルフレッド」
「頼むわ・・・流石にそろそろ依頼か何かこなさないと金がねえ」
しょんぼりという言葉が合いそうなほど、今のアルフレッドは落ち込んでいた。そんな風になるのも無理はないかとロベリアは思う。この三日ほどはロベリアは、イリスで彼を荷物持ちにしたり食事を奢らせていたのだから。屋台のお菓子は流石にイリスが買っていたが。
アルフレッドの様子に微笑みながらロベリアは前から思っていた事を口にする。
「アルフレッド、君はいつくらいに海を渡るつもりなんだい?」
「んー今日か明日くらいかねえ。でもちゃんとそのくらいの金は持ってるから気にしなくていいぞ」
自信を持って言うアルフレッドにロベリアはとても心配になる。
自分では思っていないようだが、彼は方向音痴な上に何かと厄介事に巻き込まれやすい。
ミイラの女性に好かれて土地からの解放を望まれたり、迷子に声を掛ければ誘拐犯に間違われたりなど。とにかくネタに困らな・・騙しやすいような雰囲気を彼は持っているのだ。だが、いつも無事でいられるのは彼を助けたいと思わせるような性格の持ち主だからだろう。
考えていることが顔に出ていたのか、アルフレッドはロベリアをじっと見る。
「ロベリア、変なこと考えてんだろ?」
「いいや、君はいい意味でも悪い意味でも好かれやすいと思っていただけだ」
「それ、褒めてんのか?いや褒めてくれてくれてるんだなきっと」
「けなしてはいないよ」
前向きに捉えようとするアルフレッドに、ロベリアはつい笑ってしまう。
「・・・ロベリアって最近は機嫌いいよな。何でだ?」
「そう見えるのかい?」
「ああ。見失ってたものを見つけられた、みたいな感じだ」
「そうかい?気のせいじゃないかな」
ロベリアはとぼけるようにはぐらかす。合ってはいないが大きく違っているわけではないので、否定しない。アルフレッドはしばらくロベリアを見つめていたが、やがて別の話題を口にする。
「まあ、いいか。そういえば、お前って夕方にどっかに出かけてるみたいだけどなんでなんだ?」
「ああそれは城へ行くところに公園があるだろう?そこへ散歩に行っているんだ」
散歩という言葉にアルフレッドは驚いたような表情になる。
「え、散歩?意外だな。お前の事だから怪しげな店にでも行ってるのかと」
「最初の2日はそうだったよ。けれど今は公園で話を聞いたり情報を集めたりね」
彼は私をなんだと思っているんだとロベリアは思いながら答えた。
ロベリアの理由を聞いて、アルフレッドは納得したようだ。冒険者にとっては情報収集というのは基本なのだから。
「なんだ、そういうことか。なら納得だな」
「他に何だと思っているんだい君は」
「人を真面目に口説いてそいつが困っていたら助けるようなことかな」
アルフレッドの無自覚に確信をついた言葉に、ロベリアは表情をこわばらせる。しかしアルフレッドは気づかずに話を続けている。
「あーでも俺んときみたいにそうする必要がないもんな、今んとこ」
「そう、だね」
ロベリアはぎこちなく返す。知らない、ということは時に残酷な言葉を発するのだ。
顔色の悪くなったロベリアに、アルフレッドは心配する。
「あ、悪い何か思い出させたか?宿で休むか?」
「いや、大丈夫、問題ない。今日はどこに行こうか」
スフィナの国王、ローフィリアは自分の聞いたことが信じられなかった。周囲に居る者も動揺しているようだ。
リカルネがこちらに軍を送っているということに。
ローフィリアは表情に出さずに、黙らせる。
「静まらぬか。して、それはまことか」
「はい、確かに。こちらへ参る前に国境を接する砦の騎士団にはその旨を伝えております」
報告をする騎士に、ローフィリアは判断は間違っていないと内心で思う。戦争は例え強国が攻めたのだとしても、勝った方が正義なのだから。せめてもの抵抗はすべきだ。
「して騎士団長はなんと?」
「『おそらく一方的に蹂躙されるだろうが時間は稼ぐ』と。事を起こすにしても、早急な判断をすべきです」
「そうか。ならば大臣、市民に無用な外出は控えるようにと伝えておけ」
大臣は短く返答する。
「仰せのままに」
部屋の前で偶然話を聞いていたエルザは何処かへ向かうのだった。