3話
この王都の市場には東が海に面しているためか、海産物が見られる。流石に生魚は近くの川魚であるが。
薬屋を出た後市場に行きたいと言い出したイリスに、アルフレッドは聞く。
「なんで市場に行きたいなんて言い出したんだ?」
「ここだと海産物が売られているからあの子達に食べさせたいなって思って」
イリスは乾燥された海藻やイカ、タコといった物を見てみたり、小物を買ったりとしながら答える。タコやイカを買おうとした時、アルフレッドは流石に引いたが。
「そうか。・・・それにしてもお前って何でも食べようとするよな」
「だって見た目はえげつない物でも食べてみたら美味しいっていうのが結構あるし。さっきのタコだって美味しいよ。最初は勇気が必要だったけど」
食べた事あるのかよとアルフレッドはツッコミを入れたかった。だが、自分たちの泊まる宿は郷土料理が売りだというのを思い出し、何も言わなかった。
「昨日の夕飯に少しだけど出ていたよ。食感が美味しかった」
イリスは簡単に言ってアルフレッドに荷物を持たせる。謀ったなと恨めしい視線をアルフレッドはイリスに向けるが、彼女はどこ吹く風だ。
ふと、買った小物を見てアルフレッドは首を傾げた。
「なあ、これらってさ、何に使うんだ?」
イリスの買った小物は、半分ほどが糸や布などの裁縫道具で、残りは魚の鱗やガラスの破片といった捨てられてしまいそうな物だ。
アルフレッドの疑問にイリスは振り向く。
「ああそれはね、ちょっと特殊な魔法を使うのに必要なんだ。他にも使うけどそれが一番かな」
「ふーん。お前っていろんなやつ使えるもんな」
「っていっても回復魔法は苦手なんだけどね。ちっさい怪我しか治せない」
「それだけでも十分だと思うがな」
何気ない会話を楽しみながら、二人は市場をでて宿屋に戻っていく。そろそろ日が傾いてくる時間なのだ。
隣に並んで歩くイリスにアルフレッドは気付かれぬようにため息をつく。
イリスは男性が嫌いだ。過去に何かあったからだろうとは思うが、あまり話したがらない。
話したくないのなら聞くつもりはない。だが、いつも困っている人を助けて無茶をするのは過去が理由のはずだ。
「・・・なあ。お前は今回くらいはゆっくりしろよ?この間も大怪我してたみたいだし」
「確約はできないよ。隣のリカルネが最近阿呆に代替わりしたから」
「何で代替わりでなんだ?」
代替わりでどうして約束はできないのかと首をかしげる。
阿呆と罵っているので無能なのだろうか。そうアルフレッドは思う。
「自分の欲のためになら国を滅ぼす奴。先代はゴタゴタに乗じて国に攻めてきたのを全部やり返してただけだから、今代のやつはきっと近いうちに来る」
その為に来たわけじゃないけどと彼女は付け加えたが、とんでもない事を聞いた気がする。アルフレッドは苦笑をもらした。
「そうか。俺は遺跡以外のとこはあんま分かんねえな」
「君はそれでいいんだよ、アルフレッド」
その時のロベリアの瞳は悲しみに揺れていた。
二十代と思われる男性が王座でふんぞり返る。そして男性は自分が呼び出した初老の男性に鷹揚に命令を下す。
「早急に軍をまとめ、フィリネに進軍せよ。あの場所を捨て置くのは勿体ないからなあ」
「・・・仰せのままに」
男性は醜く笑い、初老の男性は一礼し退室する。
宰相は王の欲に呑まれた目に密かにため息をつくのだった。