2話
お店はどうやら薬を売っている店みたいだ。
ただ、店員らしい人は少年だったので悪いことをしてしまったと、イリスは内心で自分を責める。
「悪いな。こいつ、男が苦手みたいでな」
「そういう奴はたまにいるからな。それにホントはこっちが謝んなきゃなんないもんだしな」
にっと店員はイリスに笑いかける。生意気な印象を受けるが不思議と悪くは思わないその笑顔に、イリスはぎこちなく笑い返す。
イリスがしてしまったと思っているのは、入った時にぶつかってしまい睨んだだけなのだ。
他者を安易に信用できないと言っている割に、イリスは他者を傷つけないかと気にする。
アルフレッドはそれでも気にしているイリスの頭に手を置く。
「つってるから、イリス。面白そうなもん売ってるか見てみようぜ」
「・・・分かった」
イリスはアルフレッドの手から逃げるように棚の方へ歩いていく。
店員は気を悪くさせたかと思い、アルフレッドはからかいがいのある奴だと笑う。
「気を悪くさせてしまったか?」
「いや、大丈夫だ。ちょっとどう反応すればいいか分かんないだけみたいだからな」
「ならいいんだけど。それにしても、冒険者だろ?」
「?それがどうかしたか」
「噂、なんだけど隣の国がー」
店員が噂を言い終わる前に、店の奥から一人の女性が出てきた。どことなく冒険者の気配を感じさせる。
「フィリネー、悪いんだけどしばらく店番しててくれないかな」
女性の言葉にフィリネというらしい店員はぶすっとした顔をする。
「ったよレイン。どうせ薬の材料取りに行くんだろ?」
「よく分かっているじゃない。じゃあ、頼んだからねー」
アルフレッドに軽く会釈して、女性は店を出ていく。軽装だから市場か倉庫だろうか。
店員は女性が出て行ってもドアの方を見るアルフレッドに声をかける。
「あれ、がさつだし酒飲みだぞ」
「そっか。でも俺はイリスが好きなんでね」
「一緒に来てる女性か。なら大事にしてやれよな。っと悪い、ほかの客の相手しなきゃなんねえわ」
「おー暇になったら話そうぜ」
店員は護衛を連れて入ってきた貴族らしい女性の元へと行く。
アルフレッドは噂の内容が気になったが、大したものではないだろうと気にしなかった。
イリスはどうしようかと考えていた。この貴族らしい女性の相手を。
女性は悠然と微笑み、話しかけてくる。
「貴方は冒険者の方ですか?」
「・・・そうですけど、何かお気に触るような事でもしましたか?」
イリスの疑心に満ちた視線にも、女性は気にした様子を見せない。
「力をお持ちのようですわね。なのに自分に自信をお持ちでないようなので、どうされたのかと思ってしまって」
余計なお節介かしらと彼女は言う。
初対面であるというのに、そう思わせているということは、よほど分かり易いのだろうか。
イリスはそう思うが、表には出さずに答える。
「自分の行いが正しいのか疑問に思っているだけです」
イリスは視線を女性から外していた。だから、女性が少しだけ表情を変えたことに気付かない。護衛が気づく前に女性は表情を戻す。
「そう。私でよければ話は聞いてあげますわよ?」
女性の申し出にイリスは答えるべきか迷う。
断れば信用されていないとして何かを言われそうな気もするし、かと言って受け入れて何を話せというのだ。
イリスが答えに迷っていると、先ほどの店員がやってくる。
「何かありましたか?姫様」
「いいえ、少し話をしていただけよ。何もないわ」
少年の言葉に女性はゆったりと答える。
「そうでしたか。それで、本日はどのようなご用件でしょうか。視察は先日されたかと思われますが」
「ここの花蜜を使った砂糖菓子が美味しくて。あるかしら?」
話を始めた店員と女性に邪魔をするのも悪いと思い静かに離れる。
アルフレッドの方に行くと、彼はポーションを見ていた。
「・・・解毒剤はどのへんにあると思う?」
「オレに聞くなよ・・・そこの棚にあるみたいだ」
なんで俺にと言いたそうにされるが、彼は一応探してくれた。店員の方を一瞥してから、アルフレッドはイリスを見る。
「そろそろ出るか?」
「いや、鈴の花蜜っていうのを買ってからにする」
「そうか。なら先に出て待っとくな」