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Attack of the Killer 観覧車  作者: 熊子
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第六章 陽はまた昇る

 即頭部軽度裂傷、第二胸骨亀裂骨折、右腕打撲。

桐ヶ谷香澄が先の鳥居坂における緊急誘導の際に負った怪我の全てだ。

 幾度も幾度もフェラーリのトップスピードでマリンシティホイールに体当たりを敢行し、終いにはタイヤがバーストしてビルに激突するという大クラッシュまでして、奇跡的とも言える軽傷だ。

 しかし、その結果、香澄の心には大きなダメージがもたらされた。マリンシティホイールの誘導と乗客の救出から降ろされた事実だ。

 守れなかった。香澄は思う。そして思う程に心を闇が蝕む。子供の頃、親族を一度に亡くし、光溢れる日々が暗く閉ざされた日の様に。


 桐ヶ谷香澄は、上司でもある内閣情報調査室室長、元町壬午によって育てられた。両親や親族を事故で失った後、孤児院に入った彼女は、誰とも口を聞かず、遊ばず、学ばず、食事さえ無理に口に運んでやらねば自ら摂る事も無い、そんな状態だった。

 視線は絶えず宙空を彷徨い、空虚という言葉以外に表す言葉は無かった。

 元町は、彼女の母親にかつて恋慕の念を抱いていた。そうした成り行きで、香澄を引き取りたいと願い出たのだ。

 元町の家に連れて来られた後も香澄に変化は無かった。見知らぬ男に引き取られたと言うことであれば、無論、元町がそうしたという事では無いが、性的暴行を心配する事もあるだろうに、そうした仕草も無く、ただただ身じろぎ一つ無く、空虚を見つめ続けていた。

 ある時から、元町は独り言のように香澄に話し掛けるという事を始めた。それは何の効果も無いように見えたが、いつかきっと、何かが起こると元町は信じていた。きっと生きる意志が勝る日が来る、そう信じていた。

 「自分は君のお母さんの事が好きだったんだ。とは言っても想いを伝える事もできなかったし、何より、もう十年も昔の事だけどね」

 そう言って自嘲気味に苦笑を漏らす日もあった。

 「君のお母さんは、それは優秀な人だった。自分は法律を学んでいて、あの人は薬学を学んでいたから、まるで接点は無かったし、遠くから見たり、人から聞き及ぶ事しか出来なかったけれど、それだけで、どれ程に優秀かぐらいは分かった。それに優秀かどうかだけでなく、あの人はいつでも笑っていて、子犬の様に周囲の人も笑顔にさせる様な、天性の雰囲気を持った、とても魅力的な人だったんだ」

 頭脳明晰ながら、不器用で八才の子供に対して、分かりやすい言葉を選ぶなどという事はできない男だ。

 「君の事も調べたよ。お母さんやお父さんの事も。家族みんなの事を、だ」

 それまで何の反応も無かった香澄が『家族』という言葉に、わずかに反応した。

 「お父さんもとても仕事ができた人だったんだね。でも君やお母さんの誕生日を忘れない、優しくて、細やかな気遣いのできる人だった。お母さんが自分の研究より、お父さんと家族になる事を選んだくらいだ、とても素敵な人だったんだろうね。君もお父さんやお母さんの事が大好きで、勉強や運動をたくさん頑張って、友達もたくさん居たそうじゃないか」

 それまで香澄には向き合わず、ソファの隣に座ったまま言葉を紡いでいたが、わずかな反応を感じ取った元町は香澄に顔を向けて続ける。

 「とても良い子だったと聞いている。クラスには君の事を好きな男の子も居たそうだよ。勉強もできて、走るのが速くて、縄跳びも上手かったそうだね。それなら好きになっても仕方ないね。自分がお母さんの事を好きになった時と同じだ」

 今度の笑みは苦笑じゃない。現在の元町からは想像もできない程に、優しく柔和な微笑みだった。

 「お父さんとお母さんも仲が良くて、休みの日にはいろんな所に行ったんだってね。君の家には写真がたくさんあったよ」

 その日の元町には思惑があった。両親や祖父母を亡くした後も、香澄は泣かなかったと聞く。今の状態は事実に対して心が理解を拒否していると言える。それ故に現在は防衛本能が働いて心を閉ざし、生きる気力さえも持てないのだ。ならば荒療治でも良い、事実を認識し、涙を流し、辛い事実を過去にさせる。その手伝いをしなければならない。それこそが自分の成すべき事だ。

 触れられたくない部分に乱暴に触れ、悲しみによる怒りを自分に向けさせる事ができれば、きっとこの子は、かつて愛した、今でも自らの心の底に住まう女性の子供は、生きる気力を取り戻せる。憎まれても構わない。ただ、その力を与えたかったのだ。

 元町の瞳が見開かれる。香澄の唇が戦慄いて絞る様に声を押し出した。

 「おかあさん」

 掠れて細い、弱々しい声だった。

 それ以来、ほんの少しずつだが香澄は生気を取り戻していき、半年程経ったある日、遂には香澄の頬が涙に濡れた。

 翌朝、仕事に向かう道すがら、スーツのポケットの中に覚えの無い紙片が元町の指に当たった。内閣情報調査室の捜査官という立場にある元町はハッとした。自らの記憶にない物が衣服に紛れるという事は、戦慄以外の何事でもない。恐る恐る取り出したその中には、幼い少女特有の丸い文字で『またお母さんのはなし、きかせてね』とあった。

 心からの安堵と、一年近くの間、何より欲した少女の前を向いた意志を同時に感じ、元町は路上の花壇に

腰を降ろし、人知れず笑っていた。


 マリンシティホイールの事故が発生してから三日目の朝は鈍色の空から重たく落ちる雨で始まった。

 私は生きる意志と、生きる意味をあの人に貰ったのに。

 怪我なんて殆どどうという事も無い程の軽傷だった。唯一折れていたのは肋骨で、多少の痛みこそあれ、動くに支障は無い。

 生きる為の意志は幼少の頃、元町が父や母の話を繰り返ししてくれた事で、思い出させてくれた。そして生きる意味は、その後の生活の中で知った、元町が人生を懸けて守る、この国の平和を願う想いの助けになる事だった。

 元町は自らの仕事を香澄に語る事は無かった。無論、職業柄、身内にであっても話すことが出来ないという面もあったが、それ以上に、香澄が自分に恩を感じている事は分かっていたし、そうした関係にある自分が話せば、その可能性を狭めてしまう恐れがあった。香澄には自由に生きて欲しいと思っていた。しかし香澄は、そうした元町の優しさにこそ癒され、その想いにこそ憧れたのである。

 結果、米国の大学に進み、物理学の博士号と国際自動車ライセンスを取って帰国後、元町が面接官を勤めるその場に、就職希望者として現れ、大層驚かせた。

 そして元町と職場を同じにし、元町が一線級以上の捜査官であることを知り、香澄の抱く憧れは、より一層強くなるのだ。

 元町の室長就任から遅れながらも、実務チームのエースとして、最年少で副室長になれた事は、香澄にとって誇りであり、国と国民を守る事こそが、自らの生きる意味になったのである。

 だからマリンシティホイールの一件は、そんな香澄にとっての初めての敗北であり、同時に、生きる意味を失う事であり、心を闇に閉ざしていたあの頃に戻る様な、心の傷たり得ていた。

 ガシャッという音を立てて病室の扉が開かれる。

 負の感情により、思索の闇に引き落とされようとしていた香澄が反射的に、扉から踊り入った人物を見る。元町が肩で息をしていた。

 「香澄、ここを出るぞ、準備しろ」

 直接言われはしていないが、桐ヶ谷香澄は現在は幽閉状態にあると言って過言ではない。表面上はマリンシティホイールを誘導し、乗客を幾度も救ったものの、負傷した功労者として、不審者などに曝されぬ様、警察官による警備がされている事になっているが、その実、警備と言うより香澄が勝手に外出などせぬ様にと配置された見張り役である。

 無論、元町の様な立場にある者なら、正規の手続きを踏めば、香澄を見舞う事もできる。しかし、今この場に居る元町は肩で息ををしている。手続きを介し悠長に歩いて来たという風ではない。

 「内調の捜査官達で病院の正面玄関で騒ぎを起こしている。見張り役の警察官達の注意はこちらから逸れている。自分がここにノーチェックで来られたのが何よりの証拠だ。早くしろ。そうそう長くは保たん」

 香澄の心が折れそうになると、全てを投げ打って駆けつけてくれる。それはあの少女時代から何一つ変わっていない。親子ほども歳は離れているが、この不器用なヒーローに、香澄が密かに恋心を抱いていたとしても、何ら不思議はない。

 「貴方って方は···」

 幼い頃香澄を絶望の淵から掬い上げた時の熱さは、現在、内閣情報調査室室長という重責から来る鉄面皮の下に隠されていたが、それは隠れていただけで、失った訳ではない。その事を他の誰あろう香澄が感じ取った。

 「準備は既に出来ています。行きましょう」

 胸の奥でグッと込み上げる、暖かな感情を圧し殺して香澄が言った。


 元町を中心にした内閣情報調査室による香澄の奪還が行われていた頃、拓夢と玲奈の投稿したブログ記事がインターネット上を賑わせていた。

 『今日はファンの皆さんには、とてもショッキングな事を伝えねばなりません』

として始まった記事は、先に下島によって報道がなされた事により、一つクッションがあったとは言え、本人が認めたという事実は拓夢や玲奈のファンにはとてもとても大きな衝撃としてインターネット上を駆け抜けたが、すぐに現在起きている、マリンシティホイールの救出事案にまつわる、陰謀めいた事実と、今や日本国内において知らぬ者無しとまでなった、桐ヶ谷香澄捜査官の現場復帰を望む乗客達の想いへの同調に取って代わった。

 『今日はファンの皆さんには、とてもショッキングな事を伝えねばなりません。

 僕とアイドルの井沢玲奈さんは付き合っています。きっかけは、記憶にもまだ新しい、玲奈のアダルトビデオ出演疑惑の後です。兼ねてから僕は玲奈のファンの一人で、あの窮地を助けてあげられればと思い、あのパフォーマンスめいたインタビューを行った訳ですが、その結果、彼女を助けたに留まらず、一人の男性、一人の女性として向き合えた事は、大変な幸運だったと思っています。

 これからも僕は玲奈と二人で人生を歩んでいきたい。けれど、今このままじゃ、それも不可能になるかもしれません。

 先に報道のあった通り、僕らは今、マリンシティホイールの中に、その身を置いています。

 今現在まで僕らや、他の乗客の方々が無事にあるのは、皆さんもご存知な、桐ヶ谷香澄さんのお力による物がとてもおおきいと思っています。桐ヶ谷さんが居なければ、その機転をきかせた誘導が無ければ、あの崩壊事故後、お台場の海にマリンシティホイールは沈み、僕らは溺死していたでしょう。先日のけやき坂作戦の際、鳥居坂への滑落した時もそうです。それにそもそもあの作戦は、他の誰よりも現場で状況を見て知っていた桐ヶ谷さんによる発案ではなく、どういった流れかは分かりませんが、文部科学省、及び文部科学大臣の毒島代議士の指示で立案されたものであるという事も判明しています。桐ヶ谷さんの誘導は正確にして緻密で、そうした横槍とも言える外部からトップダウンでもたらされた作戦指示書に書かれた数値と、寸分違わぬ角度、速度であったとも、マネージャーを通して、先に報道された記者の方から聞いています。更には危険と無茶を承知で、車による体当たりという方法で僕らを救ってくれたのは、誰あろう桐ヶ谷さんです。その桐ヶ谷さんが負傷されたと聞いた時は、我が事のように心配し不安に思いましたが、大きな怪我ではないと聞き、保身の為ではなく、ただただ恩人の無事に胸を撫で下ろした気分でした。

 そんな桐ヶ谷さんが、けやき坂作戦の失敗を理由に、マリンシティホイール乗客の救出作戦から降ろされました。負傷による作戦実施の困難ではなく、作戦の失敗が理由で、です。

 それはおかしい。先にも書いた様に、桐ヶ谷さんは失敗なんて何一つしてません。それどころか欠陥のあった指示書により起きた、鳥居坂への滑落という二次災害にも対処してみせた、最大の功労者です。

 更に言えば、欠陥のある指示を桐ヶ谷さんに押し付けて、結果的には桐ヶ谷さんに負傷までさせ、僕ら乗客を危険に晒したのは、文部科学省です。にも関わらず、桐ヶ谷さんの後釜に、その文部科学省の政務次官である薮下代議士が着任されました。

 薮下代議士には、救援物資を頂くシステムを整えて頂いたり、良くして頂いては居ますが、それと救助の為の現場指揮とでは話が違います。

 政府関係者の方が、僕の記事を見ているとは思いませんが、もし、この想いが伝わるのであれば、今一度、桐ヶ谷さんのお力をお貸しいただきたいと思います。これは、先にも書いた薮下代議士により救援物資と一緒に整えて頂いた、乗客同士がスカイプによる連絡網にて、他の乗客の方々とも話し合った結果であり、乗客全員の総意と受け取って頂ければと思います。』

 その記事は、ツイッターやフェイスブックといった大手SNSを中心に、大々的に拡散されていた。

 最初は藤井と同じ場にあった、エツコをはじめとした、乗客の関係者達から始まった拡散だった。

 各種ニュースサイトでも取り上げられ、下島擁する新聞社がインターネットに限らず、紙面でも取り上げた事で、上位メディアであるテレビにおける報道にも波及していた。藤井マネージャーによるふとした疑問から生じた波は、多くの人々を巻き込み、さざ波程度だった当初から、わずか一日半で列島を駆け巡る大波になったのである。


 朝からの雨は本降りになっていた。

 元町の駆るセダンは、雨粒の弾ける黎明の道を切り裂いて、青山にあるかつて元町が香澄と共に暮らしていたマンションに向かっていた。

 その車中、二人は無言だった。

 まるで、その後の事を予見したかの様に。

 マンションに着くと、元町は香澄にシャワーを促した。確かにけやき坂作戦、ひいては鳥居坂での緊急措置、病院に収容されたあの時から、一度も入っていない。

 シャワーの最中、香澄はこれからどうなるのかと考えていた。

 正直な所、薮下にはマリンシティホイールは止められないと思う。

 政治家というよりは、役人タイプの薮下では、救助より救援を優先させ、いたずらに長期化させてしまう恐れがある。今乗客が望むのは、確かに救援物資かもしれない。空腹や乾きに、人はそうそう長くは耐えられない。それは薮下にも分かるだろうから、何か、そう例えばドローンなどを使った物資の輸送を思い付くだろう。天現寺方面に向かったマリンシティホイールを誘導する術は、香澄自身が引き継いだノウハウがある。無理な転身をしなければ、すぐに転倒とはならないはずだ。

 しかし、と思う。

 しかし常識に縛られた頭では、あれを止める策は思い付かないだろう。自分が現場を離れて約四十時間。現在地はどこだろう。何処にあったところで、自分ならば。

 そこまで考えて香澄は思考を止める。

 やめよう。無駄だ。ワタシは降ろされたのだ。

 シャワーヘッドからとめどなく落ち続ける湯を止め、脱衣所に戻る。

 質のいいふっくらとしたバスタオルと、換えの服と下着が設えてある。

 元町が買った訳ではないだろう。内閣情報調査室の女性職員が持ってきたのであろうが、香澄は、鉄面皮の元町が女性の下着店で、あれこれと選ぶ姿を想像して、少し笑った。すぐに自嘲の笑みに変わったが。

 「そのままで良い。聞いてくれ」

 脱衣所の外、扉一枚を隔てて、元町の気配があった。

 「桐ヶ谷捜査官、いや、香澄」

 その声色は、内閣情報調査室室長のそれや、養父のそれでも無かった。

 「お前は自分の最高の同士だ。それに自慢の娘だ。強く、賢く、優しい。だが、そう背負い込むな。お前がマリンシティホイールの乗客を助けたい気持ちは分かる。自分だって、その気持ちに変わりは無い。だが自分の失策で、その立場を追われてしまった。謝罪の言葉もない。すまなかったな」

 カチャという音を立てて、扉が開く。

 一糸纏わぬ香澄が瞳を潤ませて立っていた。

 「服を着ろ」

 咄嗟に瞼を閉じて元町が言う。

 「室長」

 香澄は少なくとも仕事中は、元町をそう呼ぶ。

 「元町さん」

 孤児院から掬い上げられ、家族になって以来、プライベートでは、そう呼んだ。

 「壬午さん」

 初めてだった。呼ぶのも、呼ばれるのも。

 顔を背けながら、元町が目を見開いた。

 「こんな時に茶化すな。それより早く服を」

 言いかけた元町の唇が塞がれた。熱く湿っていた。香澄の唇だった。

 「お前っ、なに」

 をしているんだ、と続ける筈だった元町の機先を征して香澄が言う。

 「ワタシね、ずっと好きだったの。子供の頃、助けてくれて、自由に生きろって言ってくれて、学校もやりたい事も、全部させてくれた。でもそれは、感謝でしかなくって、好きだっていう感情は、もっと別の所から来てるの。こんなにもワタシに良くしてくれる貴方が、その命と人生を懸けている、国と人民の平和を守る仕事、どんな物なのか知りたかったのに、一回も話してくれなかった。今となっては、家族にであっても、守秘義務で絶対に話せないって分かったけど、子供の頃は少し寂しかった。アニメの中のヒーローは、平和の為に命を懸けて、ヒロインを守る為に傷ついて、平和と引き換えに死んじゃう。ワタシは守られるだけのヒロインじゃ嫌だと思った。ヒーローと並んで立つ人になりたかった。だから、ね。さっきの『最高の同士だ』っていうの、すごく嬉しかった。愛の告白より、もっと、ね」

 そう言って香澄は額を元町の腹に押し付けた。

 「自分は、お前の母が好きだったという話、昔したな? あの人は本当に周囲に安らぎと笑いを与える、女神の様だったんだ。でもそれだけじゃ足りないと。薬学を学び、今笑顔じゃない人にも、笑顔をあげたいってそう言っていたんだ。なんだか、被るな。」

 被る? 何と? と香澄は思って元町の顔を見た。

 「フフッ、お前とだよ。お前と暮らした日々は、昔から人付き合いのあまり得意じゃなかった自分にとっては、この上なく楽しかった。心が安らいで、日々がキラキラしていたよ。大人になって、面接に来たお前を見た時には心底驚いた。学生時代の自分の女神に瓜二つだったからな。いや、違うな。あの人の笑顔は何処か控えめだったが、お前の場合は、皆に率先して光る太陽の様な笑顔だ。香澄」

 一呼吸置いて元町が続ける。

 「自分は、お前が好きだ。養父としてではない。あの人の代わりでもない。桐ヶ谷香澄、お前が好きなんだ。初めて受ける告白が、こんなオジサンで悪いな」

 そう言って笑った元町は、かつて見たことが無いほどに晴れやかな笑みだった。

 「そんなオジサンが好きなんだもん、しょうがないよね」

 香澄も笑顔だった。


 長い口付けを電子音が邪魔をする。

 元町のスマートフォンだ。

 かけてきた相手は、文部科学省政務次官、薮下だった。

 「元町室長、桐ヶ谷捜査官は何処だ」

 「知っているにせよ、報告する義務はありませんね」

 「······」

 「薮下代議士?」

 「···恥を偲んで頼みたい。桐ヶ谷捜査官の力が必要だ。頼む。乗客や国民もそれを望んでいる。今一度、今一度現場指揮に立ってほしい。頼む」

 終いには聞き取れぬ程にか細い声で、薮下が懇願した。スマートフォン越しに鼻を啜る音さえ聴こえる。涙しているのかも知れない。

 香澄が元町の手からスマートフォンを奪う。

 「お電話替わりました、桐ヶ谷です。薮下代議士、状況に説明を願います」

お待たせしました。最新話の更新です。

遂に最後の大団円に向かう話まで来ました。


お気づきの方もいらっしゃるかも知れませんが、今回のサブタイトルは、PS2のゲーム、大神のラストバトルBGMのタイトルからお借りしました。

私はサブタイトルは、本文を書いている最中に決めるのですが、今回に限っては、こういう展開にする事を決めた時から、この『陽はまた昇る』にしようと心に決めていました。

今回は執筆中、その大神のサントラをヘビロテしてました。あのラストバトルのテンションを、私の小説からほんの僅かでも垣間見て頂ければ幸いです。


また今回を含む3話は、お盆休み期間という事もあり、普段ではできない速度で執筆致しましたが、次回からはまた、いつも通りの週一ないし、落としたら二週間に一回ペースに戻ります。

なるべく落とさない様に頑張りますが、遅れているなと思ったら、お察し頂けると幸いです。

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