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プロローグ
彼は大雨の中、そこに立ち尽くしていた。
雨具の類は一切持っていなかったが、彼は雨を防ごうとも避けようともせず、た
だただ虚空を見つめているのみであった。
当然服や髪は大いに濡れているが、彼はそれを全く気にする様子は無い。
幾人かの、彼の目撃者は当然彼を不審に思ったが、彼があまりにも不自然な様相を呈していたため、誰も声をかけることはできなかった。
もしかしたら、涙を流していたのかも知れない。
けれどそれは、雨にかき消されて、誰一人として見ることはできなかった。