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story5。接触

 クレストは、黙って組織の本部を出た後、すぐに車に乗り込み、自宅へと向かった。

 そして自宅へ着き、ドアノブに手をかけた瞬間、何か不吉な予感がした。


 クレストは警戒心を強め、拳銃を抜き、一気にドアを開け、靴も脱がずに玄関を通過し部屋のドアも開けた。そこにアリーナはいた。

 だが、その先にあった光景にクレストは驚いた。当然である。誰かも分からない男が、アリーナの頭部に拳銃を突きつけているのだから……


「誰だお前……? アリーナに何をしている!」


 クレストは、怒りをあらわにした状態で、銃口を男に突きつけた。

 銃口を突きつけられた男は、少し苦笑いをした後、静かに口を開いた。


「誰だお前とは残念な話だな。アーチボルトと聞いても分からないかな?」


 とてもやんわりとした口調で放たれたその男の言葉に、クレストは、驚きを隠せなかった。


「アーチボルト……僕が思うアーチボルトであれば、かつて僕の父と肩を並べた伝説の殺し屋。ロジャー・アーチボルト。まさか君は……」


 クレストが恐る恐るそう言うと、その男は、また一つ笑顔を作りながら静かに口を開いた。


「そうそう。よく知ってるじゃないか。そして、君の察しの通り俺は、君の父であるアンディー・オルブライトに、殺しの依頼で死闘の末に殺されたロジャー・アーチボルトの息子のシーザー・アーチボルト。それで間違いないはないな? クレスト・オルブライト君?」


 シーザーが、そう言葉を発した直後。さっきまで意味がわからなそうにしていたアリーナが、謎が解けたというような表情で口を開いた。


「やっと謎が解けたわ。あんたは、父を殺された腹いせにクレストを殺そうとしてるのね。でも、クレストを殺しても意味無いんじゃない? 殺したのはクレストのお父さんなんだし……」


 アリーナがそう言葉を発すると、今度は苦笑いでもなんでもなくシーザーが笑顔を浮かべている。

 そしてシーザーは、何事も無かったかのようにアリーナに銃口を突きつけるのを止め「ごめんな」といいながら、クレストの下へ行くように指をさした。

 アリーナも、意味が分からないようで始めは戸惑っていたが、クレストの下へ戻った。


「どういうつもりだ?」


 クレストは、アリーナが戻ってきた今でもまだ警戒心を解かずに、シーザーに向けて銃口を突きつけるのを止めなかった。


「どうもこうも、あんたが怒ってくれてる時点でその女性を人質にとる意味はないからな。それに俺は、別に親が殺されたからどうとか興味は無い。ただ、俺の父を殺したあんたの父の息子が、どれほどの腕を持っているのか知りたいだけさ」


 シーザーも、銃口のターゲットをクレストへとかえた。

 アリーナは、その光景を見てとても焦っていた。


「ちょっとやめなさいよ! 別にクレストに恨みがないんなら戦う必要なんて無いじゃない。クレストだってほら! 私だって無事なんだし……まずは話し合いましょうよ!」


 アリーナは、二人を止めようと必死になっていると、シーザーが自分の後ろに銃を軽く投げ捨てた。直後。クレストも銃口をシーザーに突きつけるのを止めた。

 その光景を見て、アリーナは安心したように胸を撫で下ろした。


「確かに今は話し合いをしたほうがいいようだ。銃を撃つ気が無い相手にやる気は起きないさ。なぁ、クレスト。なんで撃つ気がないんだ? 多分。君の父親なら、部屋に入ってきた時点で喜んで撃ってただろうぜ?」


 シーザーは、少し怒りも含んだ口調で、クレストに問いかけた。


「人を撃つのなんてもうまっぴらだ……それに、君は悪い奴じゃないとわかった。そんな君を撃つ気なんて起きやしないさ」


 シーザーは、今の言葉を聞いた瞬間。袖からスペアの隠し拳銃を取り出し、クレストの頬をかすめるように銃弾を放った。

 予想通り銃弾はクレストの頬をかすめ、頬から少量の血が流れた。

 だが、その突然の行動にアリーナは驚いたが、クレストは微動だにしなかった。


「いきなり撃たれた銃弾から目をはなそうともしねぇ……殺気が無いのを見抜き、殺気があればかわすことも出来たはずだ。父譲りの獣の血を継いでる証拠だ……でも君は、獣になりきれない獣という感じか。ならこれならどうだ。俺は今から横にいるそのアリーナという女性を撃つ。さぁ、どう行動する? 獣になりきれない獣?」


 シーザーは、怒りながら言葉を発し、さっきまでは見せなかったような鋭い目つきで銃口をアリーナへ向けた。

 そのシーザーの行動に、クレストは迷うことなくアリーナの前に立ち、守るように手を横に広げた。

 アリーナは、クレストの行動に焦り「これじゃあんたが死んじゃうでしょ!」と言い、クレストをどかそうとした。

 だがクレストは、首を横に振る。


「これが僕の答えだ。僕は君を撃つ気もないし、アリーナを死なす気も無い。だから、僕が盾になっている間にアリーナを逃がす。これなら僕が死ぬだけで話は済む……」


 その言葉に、アリーナがクレストを思いっきり突き飛ばし、怒りをあらわにしながらクレストに言葉を突きつけた。


「何かっこつけてんのよ! 私を逃がすために自分が身代わりになって死ぬですって? そんなの……そんなの耐えられない。死の身代わりにまでなってもらって生きるほど私の命は高くない! だから……」


 アリーナは、そう言うと、突き倒されて倒れているクレストを引き起こし、思いっきり抱きついた。クレストは、それをはなそうとするが、思いっきり抱きついているのではなれない。


「さぁ、撃ちなさい! これなら二人のどちらにも銃弾が貫通する。どうせ死ぬのなら二人で死ぬわ。クレストも、死ぬのが嫌なら私に言いなさい。すぐにはなすから。あんた、殺し屋辞めてきたんでしょ? あんたの人生はこれから新しく始まるの。だから、ここで死ぬのはいけないと思う。だから、死ぬのは嫌って正直に言いな」


「なら、君はどうなんだ? ここで死んでもいいのか?」


 シーザーが、静かにアリーナに問いかける。

 アリーナは、その問いかけに対し、悩むことなく口を開いた。


「前までずっと思ってたわ。きっとこの山奥から出れる日はこないんだろうって。人に会うのなんて、私を殺しに来る奴以外に出会わないと思ってた。でも、今の状況を見てよ。確かにクレストも、元は私を殺しに来た殺し屋だけど、今は、私を人間として見てくれてる……接してくれてる……自分の命を捨ててまで守ろうとしてくれてる……嬉しいじゃない。こんなことあるわけないと思ってたんですもの。私だってそりゃ死にたくないわよ。でも、命を与えてくれた人に対して死で返すなんてこと……私には耐えられない。それなら私は自らの死を選ぶ……クレストは意地でも殺させない!!」


 アリーナは、シーザーに向けてありったけの言葉をぶつけた。シーザーは、その言葉に対し何も答えず、ただじっと鋭い眼光を銃口の先に向けていた。

 その直後である。クレストがアリーナに何か小さな声で呟いている。クレストが呟き終わると、クレストに抱きついていたアリーナがクレストからはなれた。


 そしてクレストはゆっくりとアリーナの前に立ち、拳銃を抜き、銃口をシーザーに向けた。


「僕は殺し屋を辞めた。だから誰の意思でも無く全て僕の意思。初めてだよ。自分の意思で拳銃を抜いたの。それほど僕は思ってる。ここでアリーナを殺すわけにはいかない。アリーナが僕に死ぬなって言うんだから僕だって死ぬわけにはいかない。さぁ、どうするシーザー。今、アリーナを守るためなら僕は君の望む獣になれる。君は、まだ僕らを狙うかい?」


 クレストの目に嘘は無かった。アリーナも、そのクレストの目を見て恐怖を覚えた。それほどクレストの目は獣の目をしていたのだ。なんの躊躇も無く殺せる獣の目を……

 その目を見たシーザーは、少しの沈黙の後、さっきの拳銃と同じように後ろに投げ捨て、もう抵抗しないというように手を上げ、降参の意思を表した。


 その姿を見て、クレストは突きつけている拳銃を下に落とし、何もしないという意思を表した。

 するとシーザーは、突然大きなため息を吐いた。


「俺の負けだな。柄にも無くびびっちまったよ。気迫に押されちゃどうやっても勝てねぇわ。でも、あんたの目の獣は凄かったのに、殺される気はしなかった。まぁ、勝てる気は無くしたけどな」


 シーザーは、そう言葉を発すると、アリーナにまた一言「ごめんな」と言い、クレストの家から立ち去ろうとした。だが、それをアリーナが止めた。


「ちょっとお茶でも飲んでいかない?」


 アリーナがそう言うと、クレストも何も迷う様子も無く首を縦に振った。そんな二人を見て、シーザーは唖然としている。


「おいおい。ここで言う台詞としちゃ、もう二度と近づくな! とか、物でも投げるのが普通だぜ? それが、茶でもいかがですか? とはどういうこった……俺は、そこの女性を狙った敵だぜ? 茶なんてもらえっかよ……」


 シーザーは、呆れた様子でそう言うと、また部屋から立ち去ろうとした。だが、クレストとアリーナがそれを止める。


「確かにさっきまでは敵だったけど……でも、結果的には何も無かったんだし。僕の中ではもう戦友気分だよ」


 アリーナもクレストに続いて言葉を発する。


「そうよ。もしあんたが本当に悪い奴なら既に銃を撃ってると思う。しかも、なんかいちいちごめんって私に気遣ってくれてるでしょ? 敵には見えないのよ。それにさっきも言ったとおり、人とちゃんと話せるとか思ってなかったから、出来るなら贅沢に色んな人と話してみたいと思ってさ。だからお茶でもどうかと」


 シーザーは、呆れたような素振りを見せたものの、少し嬉しそうな表情で返事を返し、お茶を飲んでいくことにした。

 三人はそれから二時間ほどの雑談をし、楽しくやっていたのだが、急にシーザーが真面目な表情になったので会話が止まった。


 そして、界隈が止まった直後にシーザーが静かに口を開いた。


「ふと思ったのだが、アリーナは、急に化け物のような生物に変身しちゃうんだったよな?」


「そ…そうだけど、それがどうかしたの?」


 シーザーの急な質問に、アリーナは戸惑いながらも返事を返した。


「俺の知り合いに医者がいてな。一度、君の病気を見てもらおうかなと。おっと、別に表沙汰になるような事にはならないから心配しないでくれよ。それは、保障する」


 このシーザーの発言に、アリーナは興奮を隠せなかった。


「えっ!? ちょっとそれどういうこと!! もしかして、わたしのこの病気が治るってこと!?」


 アリーナは、シーザーの胸倉をつかんで揺するようにしながら大声でそう言葉を発した。

 シーザーは「一度落ち着け!」と言い、胸倉をつかんでいる手を無理やり離し、一呼吸おいた後、口を開いた。


「さぁ……それはわからないが、一度診てもらって損は無いと思うが。どうする? 診てもらうか?」


 シーザーの発言に、アリーナは首を縦に何度も振り「うん!」と答えた。そんなアリーナを見て、クレストも首を縦に振った。


 そして、シーザーが言う医者に診てもらうことに決めた三人は、早速クレストの車に乗り込み、シーザーが言う医者がいる場所に車を進める……


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