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出どころ知れない異世界より  作者: 耳朶楽
第一章
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闘森人

サマドの家で魔力を測ってからほぼ一年、イェラによる魔術の練習やチターナ先生のエルフ語教室、他にもジャリオに対してイェラとチターナによる「ティーちゃん(君)待遇改善運動」が3ヶ月に渡り行われ、ティアリスは物置から空き部屋を提供されたり食生活の改善をしたりした。

そしてティアリスの魔力がエルフ並、もしくはそれ以上だと言うことはサマド、イェラとの3人だけの秘密としてる。チターナは薄々感づいてるようだが直接アプローチがあるわけではないので放置。

そんな大小様々な出来事があった一年だが特に今までと代わり映えのない毎日を送っているティアリスであった。


そしてある日。エルフ語で書かれた魔術に関する本を読んでいたティアリスは珍しく村が騒がしく、盛り上がっている様子に疑問を抱いた。


「なんだろう」


この1年でエルフ語も上達したティアリスは流暢にそう呟いて窓から外を覗いた。しかし騒ぎの根源が建物に隠れて見えなかったため興味を無くし壁に寄りかかるように読書に戻った。


★☆★☆★


時間は少し戻り10分前。


「いきなりアタシが帰ってきたらみんな驚くだろぉーなぁー」


どこかウキウキとしながらウェリナ村へ向かって1人歩いているのは『シャスティナ』。数年前に旅に出て冒険者を生業にしていたエルフだ。

エルフ特有の長い金髪は動きを阻害しないために短く切りそろえられ、魔術を得意とするエルフでありながらその肉体は筋肉で固められている。そして彼女の得物は全く魔術とは関係がない1本の長槍。エルフにしては特異であった。


シャスティナが村へ向けて歩いていると。


「グルルルルルゥゥウウウ・・・!」


草むらを飛び出し目の前に『恐狼(ドレッドウルフ)』が姿を現した。


恐狼(ドレッドウルフ)とは、文字通り“恐怖の狼”。群れは作らず主に単体で行動する。恐怖の名を持つ所以はその鳴き声にある。恐狼(ドレッドウルフ)の声門には特殊な魔術を発声させる器官が存在し、その鳴き声を聞いたものはたちまち恐怖し立ちすくみ、腰を抜かし動けなくなる。

しかし恐狼(ドレッドウルフ)の恐ろしさはこれだけではない。単純に強く賢く俊敏なのだ。並の冒険者では束になったところで一匹相手に傷一つ付けることは叶わない。故に冒険者の暗黙の了解として「A級未満の冒険者がドレッドウルフに出会ったら気づかれる前に逃げろ」というモノがある。とどのつまりメチャクチャ強いのだ。


「おぉ?恐狼(ドレッドウルフ)か、こりゃあ村に帰る前にとんだ土産が出来たなぁ」


シャスティナはそんな恐狼(ドレッドウルフ)に対して“狩るもの”の目を向けた。


「そのまま逃げねぇでアタシの長槍の餌食となってくれ」


シャスティナ威嚇を続ける恐狼(ドレッドウルフ)に向けて背負っていた長槍を取り出す。とてもよく手入れのされている長槍は傷などは一切無い。しかしその槍から感じるは歴戦をくぐり抜けた貫禄。その強烈なプレッシャーに晒された恐狼(ドレッドウルフ)は若干引け腰で、恐怖を名にもつ獣が恐怖している始末だ。

シャスティナはその槍で自身の周りに綺麗に円を書き、恐狼(ドレッドウルフ)に構え静止した。

そんな拮抗状態の中先に動き出したのは恐狼(ドレッドウルフ)、目にも止まらぬ速さでシャスティナにサイドから攻めいる。しかし。


「ぉせえ!」


シャスティナが大きく槍を振り回すと、ソレを察知した恐狼(ドレッドウルフ)が身の危険を感じ上へ跳んだ。また、そんなスキを逃すようなシャスティナではない。振り切った槍の遠心力に任せてグルリと一回転。そしてそのまま空中にいる恐狼(ドレッドウルフ)の脳天を“蹴った”。

恐狼(ドレッドウルフ)はたまらず地面にたたき落とされ「グキャッ」という音を立てた。シャスティナは倒れ伏す恐狼(ドレッドウルフ)に向けて言った。


「終いだ」


槍を頭に突き立てた。


しんと静まり返ったシャスティナの周囲には最初に描いた円、恐狼(ドレッドウルフ)との戦いでところどころ消えかけているが問題なのはそこでは無い、一歩たりとも円からはみ出していないのだ。人が二人入るだけで精一杯の小さな円、そこから出ないと言う“チャレンジ”を恐狼(ドレッドウルフ)相手に“試した”のだ。


前述の通り恐狼(ドレッドウルフ)は恐怖の象徴、ギルドの制定した危険度ランクでもFランクのゴブリンやスライムから数えてAランク、強いはずなのだ。

だがそんな恐狼(ドレッドウルフ)も彼女の前ではただの雑魚、その場から動かずとも相手取ることが可能なのだ。


これがシャスティナ、世にも珍しい“闘う森人(エルフ)”の実力であり、AⅢランクの力量である。

魔術を使わず、流派を背負わず、己の肉体と槍一本に積み上げた経験と培った技術を篭める。それが彼女の戦闘スタイルだ。


「ふぃー、まっこんなもんかな」


突き刺した槍を引き抜き自分に課した課題を無事クリアしている事に満足する。


「おっと、そろそろ日が傾いちまう、ささっと剥ぎ取って村へ帰んねぇと」


そしてシャスティナはナイフで恐狼(ドレッドウルフ)の牙と毛皮を剥ぎ取り、袋に詰め込むと少し早足でウェリナ村へ向かうのであった。





ウェリナ村を囲む木の柵が見え、高鳴る胸の鼓動に思いを馳せ、久々の故郷へと帰ってきた。


「おぉー、やっぱりなんも変わんねぇなぁ!」


彼女の記憶の中のウェリナ村と今見ているウェリナ村の景色がそっくりそのままだったことに感動を覚えしんみりと門の前に佇んでいると、一人の男エルフが声を掛けた。


「おいそこのおま・・・ってシャスティナじゃねぇか!!帰ってきたのか!?」


「んお?おぉ!その声はジャリオ!久しぶり!!」


「久しぶりってよぉ、何年ぶりだよ」


「ざっと5年くらいか?」


「バッカ!8年だよ8年」


「そんな経ってたのか!」


「あいっかわらず馬鹿のまんまかよ」


「久しぶりに帰ってきた幼馴染みに掛ける言葉かよ」


そう、何を隠そうシャスティナとジャリオは幼馴染み。ガキ大将だったジャリオと男勝りなシャスティナは気が合う兄弟のような仲だった。


しばらく久しい再開に華咲かせてジャリオはシャスティナを村に入れた。そして大きく一言。


「シャスティナが帰ってきたぞォオオオオ!!!!」


すると、その声を聞いた村人たちが次々と家からシャスティナを確認し駆け寄ってくる。そして5分と経たないうちにジャリオとシャスティナの周りに人だかりが出来た。その中にはチターナやイェラも含まれていた。


「シャスティナ!帰ってきたのね!」


「久しぶりじゃねぇか!!」


「ウェリナ村の英雄のおかえりだ!!」


「「「シャス姉おかえりー!!」」」


あまりの騒々しさに思わずたじろぐシャスティナ、そんな彼女の前に人の波を割って歩いてきたのはサマドだった。


「村長か、帰ってきた」


「おかえりじゃ、シャスティナ。積もる話もあるじゃろう」


「そうだなぁ、あっそうだそうだ。コレお土産」


そう言って取り出したのは先ほど呆気なく散った恐狼(ドレッドウルフ)の毛皮だった。


「これは・・・恐狼(ドレッドウルフ)か!?」


「おう、ちょっとそこで取ってきた」


「ちょっとそこでって・・・やはりあの噂は本当じゃったのか・・・?」


「噂って?」


「あぁ、こっちの話じゃ。とりあえず長旅で疲れたじゃろう、一度家に帰ったらどうじゃ?」


「そうだな!母さんにも会いたいしな」


そう言うとシャスティナは数年ぶりに帰る家へと足を向けた。

彼女の家は丁度ジャリオの家の隣である。


「んあ?」


「どうした?」


突然何かに気付くシャスティナにジャリオは訊ねた。彼女の視線が自身の家ではなくジャリオの家を捉えていたからである。

しかしすぐに顔をほころばせ満面の笑みでジャリオに話しかけた。


「んだよジャリオ、アタシがいねぇあいだに二人目が出来たのか、おめでとさん」


彼女のその発言を聞いたジャリオは顔をポカンとさせ、間抜けな面を見せていた。そして同じくそれを聞いた村人達も頭の上にハテナを浮かべている。その中で彼女の言っていることを理解した三人、イェラ、チターナ、サマドは三者三様に反応した。イェラはしまったと口を抑え、チターナはガタガタと震え、サマドは顔をしかめ眉間を指で抑えた。

もちろんその二人目とはティアリスのことである。シャスティナはジャリオの家に見知らぬ気配を感じ、それが子供の気配であるとわかり、ジャリオとイェラのあいだに生まれた第二児だと判断したのだ。

そして村人達はティアリスのそん時を知らされておらず彼女の言っていることの意味がわからなかった。


彼女の言った言葉の意味を少し遅れて理解したジャリオは一瞬顔をしかめたあと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「二人目、ではないが。そうだなァ、ちょっとこの機会に紹介してやるよ」


ジャリオはそう言い残すと村人を引き連れ自分の家に向かった。


★☆★☆★


魔術の本を読んでいたティアリスはいくつもの足音が近づいてくるのが聞こえた。それが気になり警戒しながら窓からコッソリと覗くと。


「あぁ?人族の・・・ガキ?」


引き締まった身体の女エルフがいた。

誤字脱字意見感想気になる点がありましたらご連絡くれると幸いです。


時刻指定で投稿なんて出来るんですね、今このあとがき書いてる時に気付きました。

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