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出どころ知れない異世界より  作者: 耳朶楽
第一章
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でろり濃厚

今回進行が薄めなので二本同日投稿です。一本目はam0時頃、二本目はam6時頃にでもしようかな。

ティアリスが魔力切れで倒れてからほぼ1日。気絶から回復したティアリスを待っていたものは。


「(頭、いった。気持ちわるっ!)」


二日酔いにも似た酷い感覚だった。倦怠感と頭痛と吐き気、つまり魔力切れの症状の代表例だ。

ティアリスが頭をさすりながら起きるとチターナがそれに気付いた。


「あっ、お母さん!ティーちゃん起きたよ!!」


「(お、大声出さんでくれ、ひ、響く・・・)」


チターナに呼ばれ、イェラが調理場から出てきた。


「ティー君・・・」


イェラの後ろに『ゴゴゴ』と効果音が見えるほどの怒気を放っている。


「私が怒っているって、わかるわよね?」


ティアリスは千切れそうになるくらい首を立てに振った。イェラはティアリスの視線と合わせるため腰を下ろし、見るもの全ての全身の毛穴から冷や汗が噴き出すようなプレッシャーを孕む笑みを浮かべた。


「何があったの?話して?」


「は、はい!」


プレッシャーに負けたティアリスは昨日あった事を事細かに話した。




「なる・・・ほど・・・。つまり魔術を使って調子に乗って無詠唱までやってみたら魔力の操作を誤ってあんなことに」


「そ、です」


「・・・・・・はぁ。ティー君ちょっとこっち来なさい」


「い、いたい!腕、強く、ひっぱ、やぁ!」


イェラはティアリスの腕を引っ張り玄関に引っ掛けてあった大きめのコートを被せ外へ連れ出した。


「(は?外?捨てられんの?)」


しかしティアリスの不安は杞憂であった。イェラが人目に付かない裏道を素早く通り行き着いた先は他の家よりも一回り大きい『村長の家』であった。


「村長!村長はどこ!?」


「なんじゃ騒がしい、その声はイェラかのぉ?ワシは居間におるから入ってきなさい」


ずかずかと入り込んでいくイェラに歩幅が合わず足を取られながら引っ張られるティアリスは初めてあの家以外のエルフと出会った。


「ん?イェラ、お主が連れてきたその子は・・・」


「えぇ、ティアリスよ」


「なるほど、あの小僧か」


ティアリスがコートを脱ぐと目の前には年老いたエルフ、しかしその目つきは何かを探るように鋭かった。


「こん、に、ちわ・・・」


「エルフ語も多少喋れるのじゃな。なに、そう警戒するでない、取って食いやせん。ワシはこのウェリナ村の村長『サマド』じゃ」


コートを脱いだことで顕となったティアリスの姿を見てサマドは顔を顰めふむと呟いた。


「イェラ、食料は自由に使ってよい、小僧のために飯を作ってやりなさい」


「えぇ」


イェラはサマドの言葉で調理場へと向かった。

サマドと二人きりになってしまったティアリスは何かあった時のために逃走経路の確保を頭の中で行っていた。


「さて、小僧、お主は確かティアリスと言ったな」


「はい・・・」


「ほほ、まるで女子のような名前じゃのぅ、チターナがつけたのか」


「お、かあさ、と、おね、ちゃ」


「イェラも関わっておったか」


顔をほころばせて笑うサマド。それにティアリスは訝しむように睨む。その様子にサマドはほうと感嘆の声を漏らす


「ティアリス、お主は自分が何か知っておるのか?」


「ひと、ぞく」


「そうじゃ、お主は人族じゃ。じゃあワシら村人はなんじゃ?」


「エルフ、ぞく」


「なかなか聡いのぅ、ならお主、魔術は使えるかね?」


「・・・」


その質問に対してティアリスは少し考えた。自分の情報をこれ以上晒して良いものか、と。


「なに、別にお主が魔術を使えたとてワシは何もせんよ」


ティアリスはその言葉を聞いても不信感は拭えなかった。しかしここで嘘をついたところで何も始まらないと考え答えた。


「すこし・・・」


「少し・・・か」


二人のあいだに沈黙が流れる。

数分が数十分、数時間のように感じた。そんな長い沈黙を破ったのはティアリスでもサマドでもなく、イェラだった。


「はい、ティー君」


カタンと木製の皿に入っていた料理は白いスープだった。シチューのようにも見える。


「どうせジャリオがまともな飯を食わせないようにしていたんじゃろう。ほれ、たんと食え」


そうは言われてもなかなか手をつけないティアリス。警戒しているのだ。前世から染み付いた癖は流石に治そうにも治せない。こんな危険がすぐ隣にあるような世界なら尚更である。

しかしイェラには今まで養ってくれた感謝の念があるため邪険にも出来ず、渋々スプーンに手を伸ばしスープを恐る恐るすすった。


「おい、し・・・」


ティアリスはあまりの美味しさに誰の声も耳には入らず、一心不乱に口へ掻き込んだ。

そんなティアリスを尻目にイェラはサマドに真剣な眼差しで声をかけた。


「それでね、村長。やって欲しいことがあるのよ」


「あぁわかっておる。さしずめ魔力量を測定して欲しいとかじゃろ」


「話が早くて助かるわ」


サマドはちょっと待っておれと一言言い残し奥の部屋へと何かを取りに行った。その直後、ティアリスからイェラにおかわりの催促が入った。

数分後、奥から戻ってきたサマドは古びた透明の器を持ってきた。その形はまるで金魚鉢、丸みを帯びたフォルムに口は波打ったように加工されている。


「なん、これ?」


丁度2杯目のスープを飲み干したティアリスはサマドに詳細を訊ねた。


「これはのぉ、お主の魔力を測定することが出来る道具じゃ。ほれ、両手をこの器に添えてみ」


ティアリスは言われるがまま小さな両手を金魚鉢の側面に添えた。すると。


「うわ、わっ」


彼の手から物凄い勢いで吸い取られる感覚、昨日感じた魔力と同じだ。

魔力が吸い取られるにつれ金魚鉢にも変化が起きる。底からゴポゴポと音を立て何処からともなく水が溢れてきた。

勢いよく溢れる水だったが鉢の半分を過ぎた所で勢いを無くし、そのまま増えなくなった。


「ほほぅ、エルフ基準の測定器で半分以上とは、人族にしてみれば随分と多めじゃな」


「そうね、それにまだこの年齢よ、これからもっと増えるわ」


「つかれ、た・・・」


ティアリスはズキズキと痛む頭を抑えそう呟いた。


「あぁゴメンナサイね、はいこれ飲んで」


イェラがそう言って渡したものは何ともゲテモノ色醸し出す深緑色に金属光沢を纏った半ゲル状の液体。飲んでと渡されたものの本能的にそれを受け付けられなかった。


「大丈夫よ、ただのポーションよ」


ヘラヘラと笑いながら言う姿をティアリスはどっかの骸骨と重ねていた。緑色の液体と言う点において謎の共通点を持っているし。

グイグイと押し付けられるティアリスは観念し、恐る恐るそれを口にした。


「にがぁ・・・」


デロりと口からこぼれるゲル状の液体、まるでエイリアンだ。


「うふふ、子供にはまだ早かったかしら」


微笑むイェラの姿がティアリスからは恐怖でしかなかった。


「それは飲んだ者の魔力を回復するポーションじゃ、枯渇気味のお主には丁度いいじゃろ」


ティアリスそう言われ痛む頭を治すべく渋々飲むことにした。

数口飲むことでコーヒーや緑茶、麦酒にも似た深みを早くも見つけたティアリスは後半ぐびぐびとポーションを飲んでいた。不満点としては喉の奥にねっとり絡みつく感じが気持ち悪い所だろう。


「んっぐ、んっぐ・・・ぷへぇぇえ」


ティアリスの満足そうな表情を見てサマドは好々爺じみた風に声をかけた。


「いい飲みっぷりじゃのぉ、気に入ったか?」


「うん・・・」


「そうかそうか、もう一本飲むか?」


非常に魅力的な提案ではあるがイェラがそれを止めた。


「だーめ、ポーションは一日一本だけ。魔力の過剰摂取は身体に毒よ」


エナジードリンクみたいだとティアリスは思った。


「さて、魔力も測り終わったわけじゃ、今後について話し合おうと思うのじゃが」


「そうね、一度ハッキリさせておく必要があるわね」


ここで言う「今後」とはもちろんティアリスのことだ。

このまま秘匿にし続けるか公開するか、魔術を教えるか否か、教えるとすれば誰が指導するかなどなど挙げていけばキリがない。

いくつもの議論の末、結局彼の存在はこれまで通り隠し、一定の年齢になれば村人に紹介すると言うことで落ち着いた。


村長の家を出る頃には既に日は傾き夜も更けんとする時刻だ。


「あらあら、随分と遅くなっちゃったわね、早く帰りましょうか」


うんと頷いたティアリスは手を引かれ家路に着いた。













そして誰も気が付かなかった。サマドもイェラも、ティアリス本人も“今日目が覚めた時には彼の魔力は枯渇状態であったことに”。


はたしてそれは彼の魔力量がケタ違いに多いのか、もしくは回復のスピードが極端に早いのか、その両方か。誰も知る由もなかった。

誤字脱字意見感想気になる点がありましたらご連絡くれると幸いです。


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