魔術との邂逅
不定期更新と謳っておきながらかなりハイペースに投稿してますが、多少書き溜めがあるんで上げてるだけで、それが切れたらメチャクチャ遅くなります。
「はー、今日の授業もつまんなかったー」
ガフゥリ牛の革で出来た鞄を片手にぼやいているこの少女は『チターナ』。イェラとジャリオの娘で今年で64歳である。長寿で名の通ったエルフにとって60代というのは人間にして見ればせいぜい13歳程度だ。そんな彼女は今、村に設立されている学習塾の帰りであった。
「早く帰ってティーちゃんと遊ぼっと」
そうつぶやいたチターナは少し足を早めた。
十数分歩き家に到着したチターナ。
「ただいまー!」
・・・彼女の声に誰も反応しない。
「あれぇ?誰もいないの?」
キョロキョロと見回すが人の気配が無い。このときイェラは川へ、ジャリオは村の警備へ行っていた。
「ティーちゃんなら流石にいるよね。よし」
鞄を自室に放り投げたチターナは早足でティアリスの元へ向かった。
「ん?ティーちゃん何やってるんだろう」
彼女がドアの隙間から見た光景はまだ小さなティアリスが難しい顔をして本とにらめっこしているところだった。
「読めるのかな?」
チターナがティアリスに聞こえないよう声を潜めてそう言うと、ティアリスが人差し指を壁に向けた。
「やみよ、を、てらす、小さ、き、火よ、ともれ。プチ、ファイアー」
ティアリスが片言で呪文を唱えると指先に火が着いた。
「うわぁ、出来ちゃった」
チターナが驚くのも当然である。本来初級魔術であろうとも使えるようになるのは早くて6歳や7歳くらいからである。ましてや人族となればさらに遅い。それなのにティアリスは3歳にして魔術を使ってしまったのだから。
「私でも8歳で初めて出来たのに・・・」
それに比べればティアリスは5つも若くして魔術を使った。『魔術の祖』と呼ばれるエルフでも異常なことを人族がやってしまった。これは歴史的に見ても稀、下手をしたら史上初かもしれない。
ただ、それを唯一見ていたチターナはそんなこと知らないため、この歴史的瞬間が後世に残されることは無かった。
「呪文を唱えてるってことは文字が読めるって事だよね・・・あっ」
チターナは発見した。
「あの脇に抱えてる本、私が小さい頃使ってたやつだ」
いつの間に取ったんだろうと不思議に思っていると。
「 やみよを、てらす。ちいさき、ひよともれ。プチファイアー」
さっきよりも少し流暢に詠唱を済ませ、再びプチファイアーを発動させた。
「おぉー!」
「ぷっ、可愛い」
ティアリスはそこからさらに何回も何回もプチファイアーを発動させた。10回が過ぎたあたりでチターナも流石におかしいと感じた。
「(ん?プチファイアーだからと言ってこんな何回も出来るの?3歳の人族が?)」
彼女の言葉に侮蔑や差別的な意味は無い。ただの一般論である。それ故にこの黒髪の人族、ティアリスの異常性が際立つのだ。
そんな彼女を嘲笑うかのようにプチファイアーを連発させるティアリス。チターナは途中で数えることをやめたが、プチファイアーの回数は既に26回。チターナの魔力限界に近い回数だ。
27回目を直前にティアリスの動きが静止した。突如不安に駆られるチターナ。
「あ、もしかして魔力切れ・・・?」
確かにそう思うのは当然であろう。しかしそうではなかった。
ティアリスが再び人差し指を立て、目をつぶると彼の腕にとてつもなく強い魔力の反応があった。
「え!?何あれ!?」
チターナはつい大声で叫んでしまった。彼女は、いや。エルフと言う種族は魔術の祖と呼ばれるだけあって魔術、魔力について他のどの種族よりも優れている。その要因の一つが『感魔』だ。この感魔はどのエルフも例外無く身に付けている特別な器官で、その名の通り魔力を感じ取る器官だ。詳しく解明はされておらず、エルフ自身もそれの解明を拒んでいる。
感魔は感じ取った魔力を色として視覚情報に彫り込むものだ。例えば誰かが魔術を使おうとした際、感魔が事前に魔力の動きを察知し何らかの色で視認できるようになる。
チターナは感魔で視認したティアリスの魔力は引き寄せられるような白い青、そしてその輝きは太陽よりも眩しかった。即座にチターナは感魔を止め、普通の視界へと戻した。
「な、なんだったの?」
彼女が視線をティアリスに戻す。
彼は首を捻り再び考え直す作業に戻った。
「なんだったんだろう・・・?」
★☆★☆★
「(もっとこう、効率よく素早く送り込む方法は無いものか。この水みたいな感覚が魔力だってことはほぼ確信したんだけど)」
ティアリスは再び頭を傾けた。
自身が魔力だと思っている物がそんなチンケな物ではないと知らず。
「(胸の器みたいなもの・・・)」
そっと自分の胸に手を添えた。ドクンドクンと鼓動が手に伝わった。
「(心臓・・・心臓?)」
ティアリスは閃いた。心臓、液体、伝わる。この三つのキーワードから推測できるものは。
「(そうだ!血液!心臓から血管を通って血液を送り込む!そのイメージでやれば)」
思いつけばすぐに行動に移す。そのくせは前世の若白樺 有名の頃からやっていたことだ。
再び壁に指を向け、イメージする。
「(心臓から、血管を通って、血を流す)」
静かな空間の中で自分の鼓動が大きく聞こえた。ドクン、ドクン、ドクン。
今!
鼓動のタイミングに合わせて血液と共に魔力を送り込む。
「(来た)」
ティアリスのイメージ通り一瞬で魔力は指先に集まった。
「(そしてコレに火を着ける。熱を与えて、着火!)」
ボァアアアア
「え?」
火は着いた。だがそれは彼が予想していたライターの火のようなものではなく、まさしく“バーナー”工事や工場で使うような溶接用のバーナー。色は赤や黄と言った暖色は一切含まれておらず真っ青。
「え?え?」
プチファイアーはどういうわけかバーナーへを進化を遂げていた。
「あ!危なっ!!」
急いで魔力の供給を止め、火を消そうとする。が、早まる鼓動に乗せて魔力が延々と流れ出る。過剰に集まった魔力はバーナーに吸われ火力を増した。
「まだ上げるの!?」
この時既に喋っている言葉は日本語である。それだけ混乱していたのだろう。
火力の増したバーナーの火は次第に天井に伸びて行った。木製の天井をチリチリと焼く音を立てる。
正直これほどの火力となると熱した部分を即座に炭化させるため燃える事は無かった、それだけが救いだろう。
そうこうしているうちにティアリスの魔力は物凄い勢いで消費されていき、使い尽くした。
「あ、消え・・・た・・・・・・」
バタンと後ろに倒れたティアリス。魔力切れである。
★☆★☆★
そして、この一連の流れを見ていた人物。チターナは。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
理解が追いついていなかった。
★☆★☆★
水汲みを終え、家路に着くイェラ。
「ふぅ、ティー君のこと、ホントどうしようかしら」
厄介な悩みの種に頭を抱えるイェラは家のドアに手をかけ。
「ただいまー。チターナ帰って・・・」
「おか、お母さん!ティーちゃんが!ティーちゃんがぁ!!」
大泣きする娘にたじろぐイェラ。
「ちょ、ちょっと、何があったのよ!落ち着いて!」
「て、ティーちゃんが!プチファイアーで、ぶわぁって!そしたらパタンってぇ!!」
「わ、わかったから落ち着いて!」
チターナが落ち着くのに数分を要し、涙声のまま事情を聞くことにした。
「で、何があったのよ」
「う"ん。ティーちゃんがね魔術づがっだの、ズビ」
「魔術?」
「プチファイアー使ったの・・・」
「え、だってティー君まだ3歳よ、いくらプチファイアーでもそんな・・・」
「うん。でも使ったの・・・」
「それで倒れたの?」
「ううん、その後何回も使ってた・・・」
「何回も!?」
「20回くらい・・・」
「20!?」
ありえない、イェラはそう考えたがチターナの泣き顔から見て嘘とは到底思えない。
「と、とりあえずティー君の様子を見るわ、物置?」
「うん」
イェラは目を擦る娘の手を引いてティアリスの寝ている物置へと向かった。
「な、なんなのよ・・・これ」
物置のドアを開けたイェラの目に飛び込んできたものは壁や天井や床に走る真っ黒い炭、それとその部屋の真ん中で本を抱えて白目を剥いて倒れるティアリスの姿だった。
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