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出どころ知れない異世界より  作者: 耳朶楽
第一章
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人族の少年

第一章始まりです。

世界最大の人族の国、800年を超える歴史を持つテスィシート王国北西部に存在する広大な森林地帯、通称「森人の隠れ家」文字通り森人(エルフ)が住まうとされている。エルフはとても排他的で、プライドが高く、人の何倍も長生きである。故に部外者が侵入しようものならエルフ達の迷いの魔術によって延々と魔物の住まう森を徘徊する事になると言われている。その噂が事実なら、一体誰が言い伝えたものなのだろうか。

そんなエルフの森に1人のイレギュラーが存在した。


「おか、さ。どこ、行かれ、ます?」


「今から川へ水を汲みに行くのよ」


「ぼく、も。おてつだ、する!」


そう片言のエルフ語で言ったのはこの少年、年は3つほど。ボロボロの布キレを纏い、ボサボサと伸びきった黒髪のくせっ毛は目元を完全に隠し、まるでケモノのようだ。マトモな食事を摂っていないせいか身は痩せ細っている。


「だ、ダメよ。お外は危険がいっぱいなの、まだ貴方には早いわ!」


どこか焦った様子で答えるのは甕を抱えた大人のエルフ。名を『イェラ』と言う。


「そ、ですか・・・。わかり、ま、した」


少年はどこか不貞腐れてそう言い、自室である物置へと向かった。

彼はこの森で唯一エルフの村に住んでいる人族。イェラとその娘から名付けられた名を『ティアリス』といった。まるで女の子のような名前だが、れっきとした男である。


ティアリスが去った後、川へ向かったイェラは。


「はぁ、ティー君を拾ってもうじき3年、あの人も未だにティー君の事を敵視するし、外にも出してあげられない。ご飯も残りカスしか食べさせてあげられないし髪を切ることも許してくれないからあんなになっちゃって。可哀想、まるで奴隷と同じじゃない」


はぁともう一度深くため息を吐き、甕に水を入れているとそこへ1人の老エルフが近付いた。


「ほほ、イェラじゃないか」


「あら、村長。こんなところでどうされたのかしら?」


「いや何、ちょいとお主に聞きたいことがあってのう」


村長はそう言いイェラに耳打ちした。


「あの坊主はどうしておる?」


やっぱりか、とイェラは顔に出さず辟易した。


「あの子は特になんにも無いわ、強いて言うなら外へ出たがっているところかしら」


「ふむ、そうか」


「それと、そろそろ村の人たちの中に薄々感づいてる人が増えてきたわ」


「やはり隠し通せそうにないか」


「あの子も育ち盛りで成長が早いわ、あんな狭い物置に収まっていられるのも時間の問題ね」


村長は少しのあいだ考えると、イェラに1つ提案した。


「そろそろ村の皆に打ち明けるべきかもしれん」


「そんなことをして大丈夫かしら」


「おそらく良いことにはならんじゃろう。しかしこのまま隠してても同じことじゃろう」


「そうね・・・」


イェラは落胆した。


「たとえ悪い事となったとしても、お主の家族だけはワシが安全を保証しよう」


「あの子も?」


「流石にあの坊主を助ける事は出来んじゃろう、ワシにもエルフの村の長と言う立場がある」


「そう・・・。そうね」


「うむ、そういうことで話は終わりじゃ。引き止めて悪かったのう」


「そう思っているのならあの子をどうにかして下さいな」


「それは無理じゃ」


村長はそう言い放つと去って行った。


★☆★☆★


一方イェラに留守番をさせられた少年、ティアリスは。


「(やっぱり今日もダメか)」


モサモサと髪を揺らして1人家の中を歩いていた。


「(しゃーない。今日も今日とて本でも読むか)」


ティアリスはそう決意し、数日前にこの家の大黒柱である『ジャリオ』の部屋からくすねた魔術の教本を自室で読むことにした。


「(字もだいぶ読めるようになってきた。喋るのは・・・まだまだだけど・・・)」


先ほどのイェラとの会話を思い出し、あまりの拙さに顔を羞恥に染めた。


「(さ、さて!気を取り直して本だ本!)」


ティアリスはこれまたくすねた古いエルフ語の教科書を取り出し読み進めた。


『人族ごときでも理解出来る。エルフが教える魔術』


「(相変わらずなんてタイトルだ、そもそもエルフ語で書かれてる時点で人族に教える気ゼロだろ)」


数項に渡る著者のどうでもいい導入をすっ飛ばし、本編へ読み進めた。


『魔術とは、魔力を代償として起こす世界の神秘である。なぜそのような現象が起こるかは未だ解明がされておらず、不明だ。

魔術には[属性]という物が存在する。火、水、風、土、光、闇の6つだ。そして例外として無属性なるものも存在するがこれは未だ謎が多い。

発動させる条件として代表的なのは[詠唱]や[魔法陣]などが有名だ。

詠唱は文字通り呪文を唱えて発動させることだ。この時、詠唱を言い切ると同時に発動者の保持する魔力を必要分消費する。つまり一定の魔力さえあれば誰でも発動させることが可能というわけだ。

次に魔法陣、これは何かを媒体に書かれた魔法陣に指定の魔力を注ぐことで発動する。ここで言う媒体と言うのは様々で、紙、木の板、石板、壁画などなど。魔法陣のメリットは詠唱と比べ、正確な魔法陣さえ持っていればいつでも即座に発動できるところだ。しかし、数に限りがあるという点や、正確でないと発動しない点、荷物としてかさばることが障害となっている。』


「(まぁ、ここら辺は前世で知り合いから借りたファンタジー小説と同じだな)」


『詠唱をある程度突き詰めると[無詠唱]という技術が身に付く。その歴史は未だ浅く、一般的になったのはつい300年前からである。無詠唱はその名の通り詠唱を必要としないで魔術を発動させることだ。人族であれば宮廷魔術師や、A級冒険者以上のごく一部が扱えるようになる。エルフでならおよそ50人に1人の割合で使えるようになる。』


「(無詠唱、ね。てかエルフにはそんなしょっちゅう無詠唱使えるようなやつがいるのか、これも人族が虐げられる理由なのか)」


しばらく魔術とは何か、について語られていたがティアリスはそこら辺を流し読みして本題にたどり着いた。


『では、ここからは実際に魔術を使ってみよう。


〜初級編〜

[火]

・プチファイアー

指先に小さな火を灯す魔術。生活の中で使う程度ならこれで十分。

詠唱

[闇夜を照らす小さき火よ灯れ プチファイアー]

初歩の初歩のため、詠唱が非常に短い。この程度であれば無詠唱は誰でも出来るようになる。』


「(プチファイアーね、OK)」


ティアリスは手で銃を作るように人差し指を外に向け詠唱を始めた。


「やみよ、を、てらす、小さ、き、火よ、ともれ。プチ、ファイアー」


やはり片言ではあったが詠唱には成功したようだ。小さくポッと音を立て、ライター程の火がティアリスの指先に灯った。


「おぉー」


初めての魔術に思わず感嘆の声を上げた。

プチファイアーの火はそのまま燃え続き、30秒ほど経過したら消えてしまった。


「やみよを、てらす。ちいさき、ひよともれ。プチファイアー」


2度目ということで若干片言加減が緩和された詠唱を唱えた。


ポッ


「おぉー!」


そしてまた30秒で消える。そんなことをかれこれ20回ほど繰り返してティアリスはいくつかの検証結果を考えた。


「(魔術を使う度に空腹感にも似た感覚が増していく、それに魔術は全く同じものが毎回出来る。ゲームの魔法みたく不変だ)」


顎に手を添えて考えるティアリス。


「(次からはちょっと違うアプローチを試してみるか)」


ティアリスはさっきと同じように人差し指を立て、ギュッと目をつぶり意識を指先に集中させた。


「(さっきプチファイアーを使った時、身体から何かが吸い取られる感覚があった。それをイメージで再現してみれば・・・)」


すると、ティアリスに不思議な感覚がよぎった。


「(体の中、中心のほう。心臓らへんに何かが溜まってる気がした。容量の半分くらい、フラスコに液体が溜まってるみたいだ)」


ティアリスはその感覚を忘れないうちに次のステップへと行動を移した。


「(次は指先にこの感覚を伸ばす感じで・・・全部じゃなくて少しだけ・・・)」


ティアリスの右腕にまたも不思議な感覚。胸の中の器から水が指先へと右腕の中を伝い届くイメージ。


「(この指先へと伝う何かが魔力なんだろうか・・・)」


ゆっくりゆっくりと朝露が葉を伝うように指先へ集まる。ティアリスの前世でも感じたことのない感覚。ただひとつ・・・。


「(それにしても・・・・・・遅い)」


そう、遅いのだ。あまりにも。

感覚自体は水が伝うイメージなのだがそのスピードがあまりにも遅い。約3分ほど流し込むが指先まで届いていない。腕の3分の2ほどのところまでしか進んでいない。


「(このイメージはやめだ。もっと効率のいい方法を考えよう)」


そう思い彼はまた深く考え始めた。


某オンラインゲームの秋イベントの備えをサボったため盛大に爆死してます。


誤字脱字意見感想気になる点がありましたらご連絡くれると幸いです。

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