新生活
遅くなりました!
スマホ通信制限だったり、クリーンアップでデータ飛んだり、そもそもネタが思いつかなかったりと色々あって投稿遅くなりました。すみません。
アルネージは養子を手に入れたのだった...かに思えた。
一週間が経った。
万全とは言えないが以前よりも回復しているのは明らかで、潰れかけた喉もほぼほぼ治り普通に喋ることも可能となった。しかし失った右腕は流石に回復せず、長期に渡る栄養失調、過度な疲労、最悪の衛生環境で殺されてしまった左の視力も戻ることは無かった。それに二年間で衰えた魔力はそうそうには戻らず、二年前の五分の一程度しか保有出来ていない。それでも一般的な人族の魔力量と比べれば少し多いのだが。
そんなこんなでそろそろリハビリを開始する頃である。
「うっし、今日の診察はこんくらいだな、回復も良好良好」
「ありがとうございます」
「いいっていいって、感謝するならアルネージにでも言っとけ」
「アルネージ様には感謝してもしきれませんよ。しっかり身体が治ったら全力で恩返しをしていこうと思ってます」
ティアリスが本心を口にするとジギルは難しい顔をして首をかしげた。
「...う〜ん」
「どうしたんですか?ジギルさん」
「いや...ティー坊ってよぉ、こないだは普通にタメで喋ってたよなぁ、なんで今更敬語...それもアルネージ“様”って...」
「アルネージ様は貴族、俺は元奴隷、よくて平民で上下関係はハッキリしていると思いますよ?」
「いや、ティー坊の言うことはもっともなんだがよぉ、アイツはなんて言うか...もうちっと近い関係を望んでるんじゃあねぇか?」
「近い関係...というと?」
「そこはほら、親子とか?」
ジギルのその発言にティアリスは小さく吹き出した。
「流石にそれは...俺のような小汚い人間を子に迎え入れようなんて思うはず無いじゃないですか」
「いやぁ〜...どうだかなぁ...は、はは」
「ココに住んで良いって言葉もきっと使用人として住み込みで働いていいって事なんでしょう。働かざる者食うべからずってやつです」
「...」
ジギルはそれ以上何も言えなかった。
ぎこちない動きでドアの方へ向くとうっすらと開いた隙間からアルネージを含むいつもの三人が積み重なるように覗いていた。さながらトーテムポールである。
「(ティー坊思ってたより手強いぞ!?)」
「(もっと粘ってくれ、ただの使用人になってしまったら連中がまた来てしまう)」
「(そうですよ!ジギルさん頑張って!)」
「(ティー君が良いなら私の所に養子に来ていいわよー)」
アイコンタクト&ジェスチャーが飛び交い前線(ティアリスの診察)にいるジギルへ激励が飛ぶ。若干一名全然違うことを言っているが。
「...?何してるんですか?ジギルさん」
「ぅえ!?あ、いや、なんでもないぞ!?」
「声をうわずらせて何言ってるんですか」
「いや、ホント、なんでもないから...」
ジギルの表情に疲れが見えた。それはさながら上司と部下に挟まれる中間管理職である。
ジギルはどうにかすべきと己を奮い立たせ、ティアリスにアクションを起こす。
「そ、そうだティー坊。折角こんないい天気だ、ちょいと散歩でも行くか」
「散歩...ですか?」
「おぅ、大丈夫だ、そう遠くは行かない。せいぜいここの敷地内をぐるりと回るくらいなもんだ」
「ん〜...そうですね、たまにはそういうのもいいかも知れませんね」
「まぁそろそろ始める予定のリハビリも兼ねているからな、キツかったらすぐ言えよ?」
「はい、わかりました」
ティアリスはそう言うと片手で布団をどかし、ベッド横に置いてある革靴を履いた。アルネージからの貰い物である。
「じゃあ行きましょうか」
「おう」
ティアリスは杖を片手にゆっくり歩き始めた。
この時、ドアの向こうから何かがドタドタと走っていったのは蛇足である。
☆★☆★☆
「ん〜、ホントいい天気ですね」
「そうだなぁ、こう天気が良いと眠くなってきちまう」
「寝ないで下さいよ?俺じゃあおぶってけないんですから」
「わあってるよ」
ギルフリッド邸正面玄関から道なりに進んだところにある庭の大きな木の下でティアリスとジギルは座り込んで空を眺めていた。
冬の日向は普段の寒さと相まってより一層暖かく感じる。時折頬を撫でる冷たい風も今は心地よい。ジギルが眠くなると言うのも無理は無い。
現代日本のように自動車やバイク、電車や飛行機と言った騒がしい物もこの世界には当然存在せず、風に揺れる草木の擦れる音や鳥のさえずりがやけに大きく聞こえる。
晴天の下、あまりの心地良さにティアリスも眠たくなった頃。
「?」
彼の“知覚”する範囲内に侵入者が現れた。
アルネージでもマリーダでもサレナでもない。大きな大人の体重とそれに引かれる子供の体重が芝を伝ってティアリスに知らせる。
「(なんだコイツら...客人ではねぇな。侵入者か)」
何も気にする事ではない。素人の足で抜き足差し足歩いているのが丸わかりである。もっとも、ティアリスの前ではどれほどの手練であろうと草木の上ならバレてしまうのだが。
「(退治しとくか?...いや、ホントに客人だったらどうすべきか...やんごとなき理由でこんな怪しい入り方してんのか......)」
ティアリスは悩みに悩んで結果ジギルに尋ねることにした。今日は誰か来る予定があるのか、と。しかし。
「ぐぅぉおおおおおおおお...ひゅぅぴぃ〜......ぐぅぉおおおおおおおお...ひゅぅぴぃ〜.........」
「ダメだコレ」
盛大ないびきが辺りの静けさを消し去る。
「(仕方ない。ちょちょいと引っ掛けて、もしホントに客人だったなら白ばっくれればいいや、どうせ誰も俺の仕業だなんてわかりゃしない)」
ティアリスは芝に魔力を流して怪しい二人組の大きい方の足元に草結びを作成。絶妙なタイミングと場所で大人の方を引っ掛ける。
『んぎゃあ!?』
「あ、掛かった」
遠くから潰れるような男の声が聞こえた。確認しに行こうとティアリスは立ち上がり、その旨をジギルに説明しようと...
「ぐぅぉおおおおおおおお...」
せずにそのまま向かった。
二人組のいる所は館の裏口方面。そこへ向かったティアリスが見たものは。
「な、なんだこれはぁ!?解けないぶひぃ!?」
「お、お父ちゃま!落ち着いて下され!解けなくなってしまいます!」
豚が二匹騒いでいるところだった。
「何やってんだ、アンタら」
「「ぶひぃ!?」」
仁王立ちするティアリスを見た豚は驚きの声・・・鳴き声を上げた。
目を見開いて動揺する豚(大)は震える指先をティアリスに向けて叫んだ。
「お、お前こそ何者ぶひぃ!ここはアルネージ・ギルフリッド殿の自宅ぶひぃ!」
「そうだそうだ!それになんだお前のその口の聞き方!貴族であるお父ちゃまに失礼であろう!」
豚がブヒブヒと鳴いている。ティアリスは以前たらふく食ったオークの方が愛嬌もあったと考えていた。
「あぁ、貴族様でしたか。てっきり不届きな侵入者かと思いまして、申し訳ありません。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「お、お父ちゃまのことを知らないだと!?」
「まぁ落ち着くぶひカッツよ、これも私の努力の至らなさが生んだ結果ぶひ...それだけ私はまだ上を目指せるということぶひ!」
「お、お父ちゃま...カッコイイです!」
「どうでもいいから早く名乗ってくんないかなぁ」
「なんだと!?」
「あ、すみません、ちょっと素が」
「ぶひぃ!?」
あーだこーだ問答を繰り返していると。
「何の騒ぎだ!って、ブタノチョーリ殿!?なぜこんなところに?」
「おぉ!アルネージ殿!貴殿もこの小僧に何か言って欲しいぶひ!この小僧、さっきから私達をバカにするようなことばかり言うんだぶひぃ!!」
そう言ってブタノチョーリと呼ばれた貴族の男はビシッとティアリスを指さす。
「ティアリスが?何があったんだ?」
「あぁ、アルネージ様、実はこの者達が裏手の塀をよじ登って侵入してきたのが偶然見えてしまったものですから、不届者と思いこうして尋問をしていたところです」
「なに!?」
「「ぶひぃ!?」」
アルネージはキツい視線をブタノチョーリに向ける。
「壁をよじ登って来たとはどういう事ですかなブタノチョーリ殿...」
「う...う、嘘だぶひ!!その小僧が嘘をついているぶひ!私達はそんなことしていないぶひぃ!!」
「なんなら案内しましょうか、結構派手に落ちていましたし、おそらく壁の向こうによじ登った際に付いた跡があると思うのですが」
「「ぶひぃ!?」」
ブタノチョーリ達の顔に冷や汗が...脂汗が伝い、次第に顔色が悪くなっていく。
ブタノチョーリが必死に考えて発した言葉がこれだ。
「そ、そもそもその小僧はなんなんだぶひぃ!?さっきからぺちゃくちゃとありもしない事をほざいてばかり、一体どこの誰なんだぶひぃ!?」
見事な論点のすげ替え。これにはティアリスもアルネージも、隣の小さい豚も唖然を禁じえなかった。
だが聡明なアルネージはこの言葉を利用しようと考えた。ここでティアリスの事を養子だと明言してしまえばこの場も、今後も万事収まると思い、口を開いた。
「彼は...「自己紹介が遅れましたブタノチョーリ様、私は先日アルネージ様に保護してもらいましたティアリスと申します。今はこの怪我で働けませんが、治った暁にはこの身を扮してここ、ギルフリッド邸に仕えさせて頂こうと思っております。以後、お見知りおきを」......」
突然のティアリスの爆弾投下。いや、どちらかと言うと消火剤の投下である。折角のチャンスを一瞬で消してしまう強力な消火剤。
アルネージは一言も喋れず頭を抱えた。
ドヤ顔で説明するティアリスにブタノチョーリは言った。
「し、使用人だったぶひか...」
「えぇはい、先程の無礼、申し訳ありませんでした」
話が進んで行くことにアルネージは待ったも掛けられず傍観するほか無かった。
「それでブタノチョーリ様?今日はどう言った要件で来られたのでしょうか」
「おぉそうぶひ、アルネージ殿、実は貴殿に紹介したい者が居るんだぶひ、ほらカッツ、自己紹介を」
「はいお父ちゃま。お初にお目にかかりますアルネージ・ギルフリッド伯爵、トンソック・ブタノチョーリが息子のカッツ・ブタノチョーリです」
カッツはとても綺麗なお辞儀をアルネージにした。
「ぶっひっひ、どうぶひかアルネージ殿、我が息子カッツを養子に取ってみてはいかがぶひ?この歳でこれ程までに洗練された礼を出来るのはこのテスィシートでもほんの一握りぶひよ、貴殿のような聡明な男の跡継ぎに持ってこいだと思わんぶひか?」
下卑た笑みで近付いてくるトンソックにアルネージは口の端をヒクヒクと動かす。
「え、えぇ...とても素晴らしい動きだと...思います...」
「そうぶひそうぶひ、どうぶひ?この際この場で決めてしまっては...」
「いや、私はまだ跡継ぎを考えている余裕なんて無いですから、この間のワラゥル商会の件も片付いてないですし!」
「ぶひぃ...そうぶひ?ならしょうがないぶひね、仕事に一段落着いたら連絡していただければすぐにでも養子の手続きをするぶひぃ」
「え、えぇ...その時が来たら...よろしくお願いします.........」
アルネージはくたびれた表情でブタノチョーリ親子を見送る。
トンソックは良い返事が聞けるとホクホク顔で、カッツはとても良い笑顔で見えなくなる最後まで手を振り続けていた。
「はぁ...」
「お疲れでしたら少しお休みになられては?」
「え、あぁ、うん...この後は騎士隊の訓練だから...休めないかな...はぁ...」
アルネージは暗い背中で館へ戻っていった。
☆★☆★☆
無論今までの事をティアリスが気付いていないわけが無く。
最初の一週間で既にアルネージ達の『ティアリスをこのまま養子にしちゃおう作戦』の概要はティアリスに筒抜けである。
石と木で出来たこの家、骨組みとして使われている木に手を添えればどこに何があるかはまるっときりっとお見通しである。試しにティアリスがこの家の構造を知ろうとやってみた結果、アルネージ達の会話が壁を通して聞こえてきたのだ。
「ティアリスをどうにか養子に取らねば」
「でも昨日の感じだと割と好印象ですよね」
「そうさなぁ、アルネージのあのセリフ、かなり響いただろうなぁ、俺もちょいとキちまった程だし」
「あのセリフ・・・即興で出てくるんだから流石は王国の騎士統括よねぇ」
「だから掘り返さないでくれ」
「あらぁ?別におかしなこと言ってないわよ?」
「そうですよあなた、私はあの言葉に惚れ直した程です」
「おぉ、惚気かぁ?」
「あぁもう、やかましい!」
等々。長々と雑談を交えた計画が語られた。
・最終目標はティアリス少年をギルフリッド家の養子にする事。
・さりげない誘導で家族意識を持たせる。
・なるべく家族らしさを出すため敬語は極力避ける。
・外部にティアリスの存在を漏らさないようにする。(万が一ティアリスが誘拐などされてしまえば本作戦は水の泡となる)
・養子のために必要な物があれば随時揃えていく。
などなど。
途中酒も混じっていたためマトモな意見を抜粋した物が上記のものである。
ティアリスはこれを聞いて特にショックを受けた様子は無い。むしろ養子に迎えてくれるのなら万々歳。諸手を上げて喜ぶ所存である。
しかしなぜそうしないか、ティアリスの無意識な防衛本能がそうさせているのだ。
奴隷時のあの感覚、大切なモノがぶち壊された時の生々しい喪失感が忘れようにも忘れられない。
ティアリスの無意識がその感覚を再び味わいたくないと防衛線を張っている、ギルフリッド夫妻と養子とはいえ家族になることを、大切な関係となることを拒んでいる。
そのため、そういった関係に近付こうとした時、ティアリスは条件反射的に遠ざかるような言葉や行動を選択してしまう悲しい“習慣”。
ティアリスは、それに気付いていなかった。
というわけで今回から4章です。
一応生存確認用にツイッターやってますので、よろしければ見てやってください。進行状況とかもツイートしてますので。
https://twitter.com/jidaraku46naro?s=09




