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出どころ知れない異世界より  作者: 耳朶楽
第三章
36/39

終幕

サブタイが終わりっぽいですけどまだまだ続きますよ!今回もグロデスクな表現がありますので、ご覧になる時は一つ深呼吸でもしてから見てください。

足のおぼつかないティアリスはふらふらと立ち上がり言った言葉。


「だれ、が...死神、だっ...」


ほぼ一年ぶりに発せられた声は酷く嗄れて、掠れた声は声変わりもしていない少年の物であろうと周囲に多大な恐怖を与えた。


「(死にたくない...)」


ぼやける片目で一角闘牛(モノタウロス)を睨むと、一角闘牛(モノタウロス)は怖じ気付くように一歩下がった。


「(身体が軽い。腕、無くなったからか?)」


既に無い右腕を、普段扱うように、腕があると

仮定して握って、離して、また握る。激しい痛みが脳髄に突き刺さる、だが反応はしない。慣れてしまったのだ、痛みに。


受け入れた。


痛みを、苦しみを、悲しみを、全て。

受け入れてしまえばこんなモノ、どうということはない。

それを当たり前と、当然と受け取ればそれで。

走れば膝に負担がかかるように、空気を吸えば胸が膨らむように、立ち上がるのに多少の疲労を伴うように。

全部当たり前、ならコレも当たり前にしてしまえばいい。

腕が痛むのは当たり前、死を悲しむのは当たり前、独りが苦しいのも当たり前。

ならば当たり前に一々反応をするのはどうなんだろうか。あまりにも、無意味だ。

息をする度に「肺に空気が入って膨張して酸素が肺胞に入り...」とは思わないだろう、たった一言声を出す時に「“おはよう”と言いたいから“お”の次は“は”で...」と気にしないだろう。何か特別な状態でなければ、何もかもが当たり前の当然なのだ。

ちぎり取った腕が痛むのも、想い人や友人を失って悲しむのも当たり前。

ならばその当たり前の当然に一々反応をすることは“無意味”だ。


そう思ってしまえば、今の彼の状態は普段通りだ。

腕が無いのも、血が吹き出すのも、骨が折れているのも、片目が使い物にならないのも全て。

“当たり前”なのだ。彼の、基準点が今、こことなった。


ならむしろ、崩魔鉄の手錠が片方機能していない今、多少の魔力が戻ってきた今、彼は“調子が良い”とさえ言える。彼が身体が軽いと感じたのもそのせいだ。


「(まだ死にたくない、19番の願いを守れなかったこと、21番の最後を見届けることすら出来なかったこと、57番を、マミを守れなかったこと、殺してしまったこと。全部全部、生きて償う。19番の“生きろ”って最後の願いを、これだけは守る。そのために...)」


ティアリスは鷹の様の目を鋭く、矢のように視線で一角闘牛(モノタウロス)を射抜く。


「(まだ死ねないっ!)」


刹那。爆発したかのような音を鳴らし、ティアリスは持てる力の全てを注いで一角闘牛(モノタウロス)の角に押し出すような蹴りを入れる。

瞬間移動と思わせる速さで肉薄し、無意識に発動させている筋肉増強がそれを可能にした。


「BmoO!?」


「へし...折れろ」


並の生物であれば首が飛ぶ程の蹴りを一角闘牛(モノタウロス)の角は受け止めた。

やはりこの異常な強度を突破することは出来なかった。だが、それを支える身体はそうではない。強烈な蹴りの衝撃は一角闘牛(モノタウロス)の身体、特に首に壊滅的なダメージを与えた。

首を起点にくの字に曲がり、勢いを抑えきれず後ろに吹き飛ばされ、壁に激突した。背中で壁を押しつぶし、ズルズルと滑りながらドスンと尻餅を付く。ティアリスにした事を綺麗にしっぺ返しされた図である。


「寝てる暇...あんの...か?」


いつの間にかその目の前で仁王立ちするティアリスの手には、これまたいつの間に拾ったのか自分の腕が。断面から白い骨が飛び出しており、その先は割れて尖っている。

ティアリスは何のためらいもなくその腕を一角闘牛(モノタウロス)の目に突き立てた。


「BmoooOOOOOOOOOO!?!?!?」


聞く者の心臓を揺らすような叫び声を上げながら痛みで立ち上がる一角闘牛(モノタウロス)の顔には一本の人の腕が突き刺さり、動く度に手首が振れる。


「はは、面白い...じゃん」


それを見たティアリスは自分の腕であるにも関わらず指を指して薄ら笑いをした。


「Bmmmm.....BmooooooooooOOOOOO!!!!!!」


怒りにうち震える一角闘牛(モノタウロス)は腰を低く構え、全力の突進を準備した。


「BmooooooOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!」


一目見てそれが全力の突進であることがわかる。向こうの壁などまるで気にした様子もなく、寸分違わずティアリスのみをロックオンした一角闘牛(モノタウロス)は両手を広げて迫った。


「ホント...マジ邪魔...」


ティアリスの左手が深緑(しんりょく)に一瞬輝く、開かれた左手の中には一粒の種。

魔力が込められると急速に成長し、すぐに枯れ果ててしまう特徴を持つ種。成長した最大の大きさはせいぜい大人の身長程度、具体的には160〜180cm程の大きさしかない。目の前の一角闘牛(モノタウロス)からしてみれば半分しかない。


ティアリスは再びそれを握り直すと、差し迫る一角闘牛(モノタウロス)を迎え撃つように構えた。

接触時、ティアリスは身を屈め、掴みかかる一角闘牛(モノタウロス)の腕の下を通ると、握った拳を。


一角闘牛(モノタウロス)の顎の下へと突っ込んだ。


筋肉増強の施された腕は一角闘牛(モノタウロス)の顎を持ち上げ、突進の勢いを利用して仰向けに倒した。


まるでコントのように綺麗に転がされた一角闘牛(モノタウロス)を見て、観客たちは目を点にする。

一角闘牛(モノタウロス)の足下程度しかない少年があの巨体をいとも簡単にひっくり返した。

それはもはや魔法である。魔術(ファンタジー)が跋扈するこの世界で魔法(トリック)を提唱するのもおかしな話だが、そう見えてしまうのだからしょうがない。


ティアリスは倒れた一角闘牛(モノタウロス)の顎の下に狙いを定め拳を一突き。柔らかい皮膚はいとも容易く貫かれ、舌を押し上げて丁度喉の上の部分に到達した。


「(脳味噌掻き回してやる)」


一角闘牛(モノタウロス)の身体の中でスッと開かれた手から種が落とされる。そしてティアリスが魔力を込めると。


「Ggmo!?!?」


喉の上部に種は根を張り、根は口内を蹂躙、突き破った肉の先には新たな肉、つまり脳がある。根は脳を包むように張り、そのまま掻き乱した。

一方幹は喉を通り途中途中で枝を伸ばす。枝は心臓を貫き、肺を貫き、胃を貫き、ありとあらゆる臓器を破壊した。

首や胸や腹や背から枝が飛び出し、赤い雫がそれを伝う。日を浴びず、病的に色の白い若葉は真紅に染まり、真っ赤な花を咲かせた。


「ふぅ...」


腕を引き抜いたティアリスは濡れた手を振り、血を飛ばす。

既に成長を終えた木は枯れて縮み、一角闘牛(モノタウロス)の身体の奥底に沈んでいた。


「......っぐ!」


唐突な頭痛と眩暈がティアリスを襲う。久々に味わう魔力切れだ。

痛む頭を血濡れの手で覆い、弱々しい足取りでティアリスは遊戯場を後にした。


残されたのは穴だらけの一角闘牛(モノタウロス)とその目に突き刺さる己の右腕、様々な表情で固まる観客たちと同じ表情をするワラゥル達だった。


☆★☆★☆


「(頭が...痛い...)」


ペタペタと裸足で石畳の廊下を歩くティアリスは既に限界が近い。一刻も早く治療と休憩が必要である。


「(まだ、やる事がある...)」


悲鳴を上げる身体を引きずり、重い足取りで何とか自身の牢屋へと到着した。

壁を背に座り込むティアリスは薄れつつある意識で再び無理をする。


「(素種子(ベースシード)...生成...。追跡...、花粉...、さっきの...、木の花...、伸びる...、根を張る...、捕えて...、殺す...)」


明確なイメージのもと出来上がった種は一角闘牛(モノタウロス)の血で赤黒い見た目をしていた。

残された魔力を使って作り出したそれはワラゥルを殺すための種。


さっきの戦いで一角闘牛(モノタウロス)を殺した木は、花に目には見えない程小さい花粉がついており、花が咲いた瞬間あの空間に撒き散らした。この種はその花粉を吸った者を捉えて魔力を込めた分だけ追跡することが可能なのだ。


ティアリスは既にワラゥルが花粉を吸ったことを魔力を通じて確認してある。

後はこの種で地の果まで追い掛けるだけである。

だがすぐに実行する事は出来ない。今の生成で魔力をほとんど消費してしまった。追い掛けるほどの魔力は残されていない。

故にティアリスは眠った。

魔力が回復するのを待った。恐らく一日経てば追い掛けるのに十分な魔力は貯まるだろう。そう確信して、眠った。


























だが、ここで緊急事態が発生した。


まだ3時間しか経っていないその時、ワラゥルが上の階に走っていくのが感じ取れた。

このままでは魔力が回復する前に逃げられてしまう。そう考えたティアリスはすぐさま種でワラゥルを追い掛けた。

魔力は万全でないが、今追わなければ一生辿り着けない。

逃げられてしまえば花粉との距離が離れすぎてしまうため察知が出来ない、時間が経ち過ぎてしまえば花粉に含まれる魔力が底をついてしまう。

だから今、この瞬間のこの魔力で賭けに出たのだ。


「(逃げるな...追え...追いかけろ...)」


ティアリスの魔力を消費して地下の壁の中を伝う根はぐんと伸びる。距離的にワラゥルは既に建物外にいる。

走って逃げるのがティアリスには手に取るように分かった。だが、何から逃げているのかはわからなかった。

根とワラゥルの距離が遠い、このままでは追い付かず、折角物にしたチャンスも水の泡となってしまう。残された魔力はあと僅か。ワラゥルには届かない。もう無理だと絶望しかけたその時。


「(止ま...た?)」


ワラゥルが足を止めたのだ。地上で動きを止めた、足踏みをしてクルクルと回っていることが分かった。


「(なに......やって...まずい...意識...が)」


ふらつくティアリス。余計なことを考えている暇は無い、残りの魔力を全て注いで根は勢いを増した。


「(行けっ...!)」


地上へと出た根は、ワラゥルを捕らえた。ワラゥルの足首に絡みつき、動きを封じた。


「(最後...死ね...ッ!)」


ティアリスは魔力を込めた。しかし。


「(あ...れ?)」


ガクンと身体から力が抜けるティアリス。激しい頭痛はより一層強さを増し、意識を蹴り飛ばした。


「く......っそ...」


冷たい牢屋にティアリスの哀しい声が染み込んだ。


☆★☆★☆


どれだけ気を失っていただろうか。ティアリスにそれを知る術は無い。

霞む視界と薄ぼけた耳、嗅ぎ取れない鼻だけが少しだけ回復し、生きているのか死んでいるのかわからない状態をティアリスは朦朧とした意識で体感していた。


「(あぁ.........死んだ...か...?)」


瞬きすら出来ない。


「(死ぬ...死んだ...?)」


勝手に流れ込んでくる風と、勝手に流れ出る息だけで呼吸をしている。


「(嫌...だ。生きなきゃ......)」


痛みも感じない。


「(だれ...か...)」


生きたい。


「(だれか...)」


生きたい。


「(助け...て......)」


生きたい...。


そう願った時、ボヤける視界に人影が映り込んだ。


自然と喉が音を出した。


「だれ...だ...」


人影は何かを喋っている。だが分からない、聞き取れない。

影は大きくなり、ティアリスの身体に触れた。


「い、痛い...」


刺激が走った。影はその言葉を聞いて身を引いた。

何かを口走っているが聞き取れない、それどころか触れられた痛みでさらに意識が遠のく。

影は大声で何かを言うとティアリスの身体を持ち上げた。

痛い。触れられた所が痛い。重力に引かれて痛い。身体が揺れて痛い。

様々な痛いがティアリスに降りかかり、僅かに残された意識も半分近く何処かへ飛んでいった。

ティアリスは本心そのまま呟いた。狂ったように。

誰に聞かせるわけでも、そもそも口にする気もなかった。


「生きな...きゃ、生き...だ、あいつらの...ために...生きて...生きて...つぐな...だ...」


生きなきゃ、生きるんだ、あいつらのために生きて、生きて償うんだ。


世界が黒く染まるなか、虚空に3人の顔が浮かんだ。ティアリスはそれに手を伸ばし、意識を手放した。


☆★☆★☆


そうして、ティアリスは影、つまり騎士様に連れられて今に至るってわけですな」


「ちょ、ちょ、ちょっとまて。なんか語り方がおかしくないか?なんでそんな“あの少年を視点にした話し方”なんだ?」


アルネージは思わず突っかかった。それもそのはず。今目の前にいる老人が話した話はどこか語りが入っている。まるで小説を朗読しているような話し方、それにどうあっても老人が知りえない情報が語られた。

一角闘牛(モノタウロス)との戦いの時、なぜ少年が魔力を取り戻したと知っているのか。なぜ少年が“種”とやらを生成し、操ったのか。なぜ牢屋に戻った少年がワラゥルをそんな方法で殺そうとしたのか。

誰も知らないし“知れない”。知ることが出来ない情報を老人は何故か知っていて、ごく自然に話に混ぜていた。

そもそも魔力で植物を操れるなんて聞いたことが無いし、種を自分で生成するなんてありえるはずがない。

何者なのかとアルネージとネイヴは目の前の老人を見つめ、瞬き一回。


「オラはただの“死神”だでよ」


「「んな!?」」


再び開けた視界に老人の姿は無く、背後から聞こえる不思議な喋り方をする声が聞こえた。

振り返るとそこには珍妙奇天烈な格好をした骸骨がドアノブに手をかけていた。


「ほな、オラはもう行くで」


「ま、待て!」


「あぁ、省いたとこが聞きたがったら後で文にして送っとってやるっちゃ」


骸骨はそれだけ言うと平然とドアを出て廊下に姿を消した。

アルネージが一拍遅れて骸骨の消えた廊下に出ると、そこには誰も居らず、ただ暗い廊下が続いていただけだった。


「な、何だったんだ...あれは...」


☆★☆★☆


河原で胡座をかきながら一人緑茶を啜る死神。


「こげなとこで死なれっと困んだっぺさ...」


口角をつり上げてそう嘯いた。

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