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出どころ知れない異世界より  作者: 耳朶楽
第三章
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大学生活が始まって異常に忙しくなって全然書けなくなりました...

月2本書ければ調子いいくらいになってますよ。頑張ります。

72番はあれ以来度々道楽に呼ばれるようになった。

あれ程までに無慈悲になれるところをワラゥルや観客勢に高く評価されたのだ。

当の本人はまるで機械のように求められただけ奴隷を殺す殺戮マシーンと化していた。

72番が57番を殺し、心が死んだあの日から既に半年。彼の犠牲者の数は両手両足の指を使っても足りないほどである。

奴隷達のあいだで72と言う数字が不吉の象徴とされ、忌み嫌われるようになったのもこの頃である。

そして今日もまた。


「72番」


「...」


看守に呼ばれ、出ろの言葉もなく立ち上がり牢屋を後にする。すぐそばに立て掛けてある“彼の”剣を手に取り道楽へと歩む。

あの日、57番を刺した剣を今の今まで彼は使い続けている。看守達は何度も彼から剣を引き剥がそうとしたが、いつ頃からか断念した。無理やり取ろうとすれば強い力に引っ張られ、奴隷紋を発動させれば自分の身を傷付けながらも剣を抱き締めて離さない。起きているあいだも寝ているあいだも片時も剣を離してはいない。

看守達は困りに困ったが、彼から直接害を受けるわけでもなく、道楽には素直に参加する。気味が悪いと言えばそうなのだが、それが彼らの利益に直結するため最終的決断は放置。


そして幾人も屠れるほどの実力をこの年齢で持っているにも関わらず半年間も買い手が付かないのは観客から寄せられる意見の大半が「強い番犬は欲しいが躾のなっていない狂犬は要らない」だからである。


☆★☆★☆


72番の今日の相手は2人。実の兄弟である奴隷番号36番と37番だ。

病的なまでにひょろっちく腰が曲がった色の白い兄、36番。

見上げても顔が見えないほど巨体で筋骨隆々の無口な弟、37番。


個々の能力もさる事ながら、二人揃った時のコンビネーションは相手する人間にとっては絶望以外の何物でもない。

見かけの割に良く動く兄が相手を撹乱、ナイフ程度の剣で浅傷を付けて体力を奪う。

鈍重な弟は兄の指示に忠実に従い、兄に気を取られている相手を致命の大剣で切り裂く。

これが彼らの戦術である。ただ難点を挙げるとすれば弟の方が兄からの指示が無い限り一切動かないという所だろうか。

そのせいでなかなか買い手が付かず、今の今までここで奴隷として過ごしていた。


その兄弟と72番が今、相見える。


「ほぅ、今日の相手は“あの”坊主か...」


最初に声をあげたのは兄のほうである。弟の肩に乗り、高い位置から72番を見下している。

あの、と言うことは彼らにも72番の噂は伝わっているのだろう。


「たった半年で30以上の奴隷を屠っていると言う鬼人72番、なかなかの大物であるな」


兄がぶつぶつと72番の事を思い返してみる。その顔に不安や焦燥と言った感情は無く、せいぜい手間は掛かるが敵ではない、と言外に主張しているようだった。


「大丈夫だ弟よ、あの程度の小僧我ら2人にとっては溶虫(スライム)も同然よ。あの大物を我らが討ち取れば、我らの評価も鰻登り、すぐに買い手が付いてこのような(かび)臭い場所ともおさらばだ」


そう言うと兄はお得意のナイフを持ち、弟は大剣を担ぎ上げて腰を低く構えた。

対する72番はどこか虚ろな視線を泳がせて構える様子も無く両の手を遊ばせている。右手には誰かがそう呼ぶ“彼の”剣が握られてはいるが。


ここでの勝負にルールは無い、開始のゴングも審判も何も無い。殺すか死ぬか、それだけである。言ってしまえば姿を見せる前に通路の奥から剣を投擲して相手の命を刈り取ってしまっても問題は無い。だがそんな離れ業をやる者は無く、やったとしても避けられるがオチである。


そんな訳で開幕、弟は兄を肩に乗せて72番に正面から突っ込んだ。いつものパターンである。弟の巨体で威圧を掛け、その隙に兄が姿をくらませる。背後から奇襲をかけ翻弄する。今日もそのはずだった。


「...っ!」


ブォン!


声も無く72番は己の剣を投げた。ブンブンと回転しながら正確無比に2人のいる所へ飛んでいく。


「っ!?弟よ避けろ!」


兄の方はすぐさま退避、しかし弟の方は。


「ぽがっ」


危険を察知ししゃがんで避けようとするも判断が遅れ、勢い良く投げられた彼の剣は弟の口に侵入した後貫通、脊髄をいとも容易く破壊した。その結果弟は間抜けな声を最後に絶命。死後硬直で固まった弟はピンと背伸びで前に倒れ、地面が彼(72番)の剣の柄を押し込んだ。


「ざ、ザヴィ!!!」


咄嗟に飛んで避けた兄は未だ滞空して、弟の名を叫んだ。


対する72番はまたも驚きの行動に打って出た。


「...」


72番は跳んだ。たった今突き刺した剣の刃を上手いこと足場に跳んだ。向かう先は落下し始めた兄の方。


「く、来るな!!」


「...」


兄は急速に接近する72番にナイフを投げた。火事場のなんとやらだろうか、かなりのスピードを乗せて真っ直ぐ72番に向かう。

72番は半身をずらして真正面からは避ける。右肩のつけ根にナイフは深々と刺さり血しぶきを飛ばした。しかし尚もその軌道は変わらず兄へ接近した。


ガッ


「ひぃ!?」


72番は兄の片足を掴み反転。器用に空中で身体をひねり、兄を地面に向けて叩きつける。落ちる先はもちろん天に向かってそそり立つ剣。

ジタバタと空中で藻掻くもそれで軌道が変わるわけもなく背中から腹部にかけて貫かれた兄の口から血が溢れた。


「ぐふっ...」


それだけでは納まらない。投げ終えた72番はどうなるか、答えは落下である。それも2人の上に。


ドスンッ


「ぐぶぅ!?」


小さい身体でもそれなりの高さから落ちればそれなりの衝撃である。より一層深く剣が押し込まれた兄は目を見開き痙攣、失禁。既に彼の死は目に見えている。


だが。


兄弟の上から降りた72番はだらりと力無く垂れる兄の両足を掴み。


「な...にを...」


力一杯に引っ張った。

辛うじて意識を取り戻した兄は腹から上を綺麗に縦に引き裂かれ、何本もの肋を砕き、半分になった腸や胃から半ば融解した物がドロリと流れ、左右の肺は内部から観察が出来るようになり、肩口を最後に分裂を終えた。


「............」


周囲は静寂に包まれた。驚きが隠せないのだ。

観客も。

看守も。

ワラゥルも。

亡き兄弟も。

誰しも72番の事を強いと認識はしていた。しかし同じくらいあの兄弟も強いと考えていた。

この半年間無類の強さを見せていた72番の苦戦と言う物が見たかったワラゥル達は同程度の評価を持つ兄弟を彼の相手として起用したが。結果はどうであろうか、あまりに呆気なくかたが着いた。

出会ってたった1分の出来事はあまりに内容が濃すぎる。


強者と戦う72番を見たかった。


二体一を打開する72番が見たかった。


苦戦する72番が見たかった。


苦痛に顔が歪む72番が見たかった。


その結果がこれだ。一瞬。いつも通りの秒殺。いや、いつも以上である。強さはもちろん優雅さ、残虐さ、怖さ、全てにおいて普段を超えている。だからと言って彼自身にその疲労は見えるか、否。

いつも通りである。


「...」


ドサッ


ググッ


ズヌ...


72番は臓器を撒き散らす兄をどかし、うつ伏せで倒れる弟の頭を持ち上げ、自身の剣を引き抜いた。

真っ赤に染まる血濡れの剣は危険な美しさを持っていた。しかし彼は何の気にせず剣を乾いた地面に転がす。砂が付着し、それを手で払う。幾度か繰り返すと剣にまとわりついた血はほぼほぼ取り除かれ、若干の赤い染みを残しながら元の鈍色を取り戻した。


72番はその剣を手に、一人牢屋へ戻って行った。


☆★☆★☆


「悪い、ちょっと待ってくれ...」


「うぷっ」


「大丈夫ですか?騎士様方」


青い顔をして口元を抑えるアルネージとネイヴ。コルダは心配そうに二人を見やる。


「それ、全部本当なのか...?」


「話を持ってきた看守の盛り具合にもよりますが...、女の子の話と兄弟の話は本当でございます」


「なぜ...言いきれるうぷっ...ですか?」


「見ていたからですよ、あの後に私の道楽がありまして、控えから見ていたんで」


「そ、そうか...」


「お辛いならここでお止めになりますか?」


「...いや、続けてくれ」


「団長!?」


「彼を知ることで我々が放置したせいで犠牲になった者のことを知れるのだ、これは我々が負うべき罰でもある」


アルネージが未だ青い顔でネイヴにそう語る。ネイヴもまたその言葉に諭されたのか、1度は立ちかけた椅子に座り直した。


「騎士様方はお優しいのですね」


「何処が優しいだ、こんな事態になっておきながら何も出来なかった我々の何処が」


「そういうところですよ、己の至らぬ所を罪と認め、改善に努めようとするところが。それも私達のような薄汚い奴隷のために」


「奴隷だろうが貴族だろうが関係ない。悪は悪と切り捨てる、善は善と手を取り合う。それが王国騎士としての使命だ」


「数多くの命を奪った私達でもですか」


「...突き詰めればそういうことなのだろう。悪は悪でやんごとない理由があるのかもしれない。守ったと思った善は実は悪で、罰した悪は悪に見えていただけ、なんてことも世の中には沢山あるのだろう」


アルネージは一拍置いて再び語り始めた。


「だが、悪は悪だ。たとえそれが善であろうと俺の目には悪と映った。だから成敗する」


「それは...聞きようによってはご自分が法だと...」


「そうかもしれない。だが俺にはそうすることしか出来ない。善悪の匙加減なんてものは見る者によって大きく変わる、仕方がないことだ。なんせ我々はたかが人間にしか過ぎない。現在過去未来全てを見通せる神ではないのだ。そこにどんな背景があろうと我々にはわからない。我々が知るのはたった今見ている景色だけだ。そこでしか、我々は判断が出来ない」


「...」


「だが我々は最大限人々の善を救い、悪を滅しているつもりだ。それがどこか見当違いな事でもな、我々は我々が出来る最大限をやっている」


「では、私達は騎士様にとって善なのでしょうか、悪なのでしょうか」


「善である...と言うのはいささか言い難い。だが少なくとも悪ではないと保証しよう。人殺しを強要されたからと言ってしていいものではない。しかしそうしなければ自分が死ぬ。もし俺がその立場になったなら、俺は目の前の人間を切る」


強い決意の表れを感じた。


「そうですか、その言葉が聞けて良かったです。今、私達を守ってくれている方々の意志が知れて、本当に」


コルダは目を細め、感謝の言葉を綴った。


「では、そろそろ続きをお話致しましょうかね」


「え、いや、それはその。もうちょっとあいだを置いてだな」


「そ、そうですよ、コルダさんも長時間お話されてお疲れでしょう?」


「そうですな、老体にはきつぅございます」


「でしたら!」


「ですので、早めに話し終えてしまいましょう」


コルダの言葉に2人はげんなりとした。


「大丈夫ですよ、ここからは細かい話を省いて最後だけお話します。省いた部分は後々文書にして送らせればよろしいかと。すぐに慌ただしくなります、私も村に残した家族に無事を知らせたいんです」


「そ、そうか。なら...、すぅ〜、はぁ〜。よし、頼む」


「わかりました。では先程の話から半年後。今日の事です...

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