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出どころ知れない異世界より  作者: 耳朶楽
第三章
33/39

何が1週間以内だ!ガッツリ遅れてるじゃねぇか!!

スンマセン、内容はとっくに完成してたんですけど投稿するの忘れてました。

※あと今回少しショッキングなシーンがあります。

平和。なんて素晴らしい言葉だろうか。

その一言が人々に安寧を与え、何事も無い日常を表している。それはもはや芸術と言っていいほど美しい。

して芸術とは大抵、作者の没後に評価されるものである。芸術と表した平和にも言える。平和とは過ぎ去った後に気付き、美化されるものだ。あの頃はよかった、昔はよかった。など、人間は古きを美化し、新しきものと区別する。

そう。芸術も、平和も、失って初めて素晴らしいものだと理解するものだ。


「だから私は、あの子達2人に芸術の素晴らしさを教えてあげようと思うの」


ワラゥルが言った。

背丈が小さく、なのに横には広い丸々とした体を持ち、気品のある金髪は統一された長さに整えられていた。鼻が低く、奥二重の目は顔の肉で押され細く薄く伸び、髪と同じ金色のまつ毛はクルンとカールしていた。男性でありながら女性のような雰囲気を持つワラゥルはこう言葉を続けた。


「奴隷でありながらあの子達は今、幸せの真っ只中にいるわ、だから私は気付かせてあげようと思うの。そのひとときがどれだけ素晴らしいものかを」


傍らにいるこれまたでっぷりと太った初老の男がワラゥルの言葉を賛美する。


「いやはや、奴隷にまでお目を掛けていらっしゃるワラゥル様にワタクシとても感激致しました」


「そうでしょう?」


ワラゥルはそう言うと、その場に集まるワラゥル商会の上役数人に言い放った。


「平和の素晴らしさ、芸術の素晴らしさ、それらを教えてあげましょう」


深夜の一室で、ワラゥル達の声が響いた。


☆★☆★☆


今まさに幸せの絶頂にいると自負するのはティアリスとマミュリエである。

薄汚れた布切れ一枚を身にまとった少年少女は身を寄せ合い、お互いをお互いで暖めあっていた。そこに言葉は無い。話すことも無い。全て話してしまったからだ。この牢屋に来てからも、来る前も。何もかも一切合切喋り尽くしてしまった。

今はただ、何も無い時間をのうのうと過ごしたい。お互いの存在を肌で感じていたい。それだけである。



しかし。現実とはかくも残酷なもの。



「57番、出ろ」


看守の冷たい一言が牢屋に入り込んだ。


「...いや」


「出ろ」


「いやっ」


「57番、“出ろ”」


「いっ!?」


マミュリエの肩にある57の文字が赤く光る。奴隷紋を発動させたのだ。


「い、いやぁ!」


嫌がるマミュリエ。そんな愛しの彼女が連れて行かれるのを黙って見ていられるティアリスではない。


「離せよ」


「っ!?」


ぞっとするほど冷たい物言いと、背後から振り下ろされる崩魔鉄の塊に看守は瞬時に反応して身を引いた。


「貴様...反抗するというのか」


「俺はもう大事な人を失いたくないだけだ。連れてくなら他所にしろ」


「そういうわけにも、いかないんだ。...来い」


看守が呟くと全身に黒い服を纏った人物がティアリスの背後に現れた。


「テメェはあん時の!!」


「...」


相も変わらず無言。布の隙間から覗く瞳に光は無く、どこまでも深い深淵に染まっていた。

体格の割に強い力で組み伏せられたティアリスは泣き喚くマミュリエが連れて行かれるのを血涙を流し見る事しか出来なかった。


「離せぇ!離せっつってんだろうが!!マミが!マミを離せぇえええええ!!!」


「ティアくん!助けて!いやぁ!」


「“喚くな”奴隷共が」


奴隷紋が再び発動し、2人は声を発せなくなった。ティアリスは黒衣の男に抑えられ、マミュリエは看守に腕を引かれ。消えた。

何も出来なかった。また。

格子は閉められ、黒衣の男もいつの間にかいなくなり、残ったものは血涙を流すティアリスと酷い喪失感だけであった。


そこへ現れたのはいつものニヤニヤ顔が腹立たしいワラゥルである。


「こんにちは、72番」


「...何だ、クソッタレが」


「まあまあ、なんて汚い言葉遣い。親の顔が見てみたいですよ、あっそう言えばいませんでしたね、親」


くすくすと笑うワラゥルにティアリスの堪忍袋の緒が悲鳴をあげる。


「まぁ安心してください。あの子にはもう一度会えますよ」


「そんなわけあるか、マミは戦う力の無いただの女の子だぞ、殺し合いだなんて...出来るわけが無い」


「そうですねぇ、ですがきっと会えますよ。待っていれば」


「信じられるか、テメェが殺し合いなんか始めなければこんな事にはならなかったんだ。テメェのせいだ」


獣のように鋭い目付きでティアリスはワラゥルを睨む。当のワラゥルは平然とした顔でその視線を受け入れていた。


「私は奴隷の皆さんに芸術の素晴らしさを教えているだけですよ」


「芸術?」


「えぇ、芸術の真の素晴らしさを教えているのです。まぁ、貴方にもいずれ教えて差し上げましょう」


ワラゥルは高笑いをしながらその場を去っていった。



それから数時間が経った。マミュリエは帰ってこない。


翌日。まだ帰ってこない。


その翌日。帰ってこない。


さらにその翌日。帰ってこない。


もはや生存は絶望的で、ティアリスも既に諦めの感情がある。


「ごめん、ごめんなさい。19番、21番、マミを、57番を守れなかった。託してくれたのに。約束したのに。守ってくれって。守ってやるって。約束...したのに...」


ピキ


ティアリスは膝を抱えた。喪失感を胸に、悔しさと懺悔を胸に。世界を憎んだ。


そんな時。


「72番、出ろ」


あの看守だ。マミュリエを連れていったあの看守がぬけぬけと戻ってきた。


「...ふざけるな。誰が...行くか」


「いいから来い、ワラゥル様が貴様じゃないとダメだと言っておられるのだ、来い」


「いやだ...」


「“来い”!」


奴隷紋が発動。ジンジンと焼けるような痛みが72の字から発せられ、耐え難い痛みにティアリスは暗い表情のまま、渋々付いていくことになった。

思い返せば牢屋に入れられて初めての外である。


捕まってほぼ半年。ずっと牢屋の中で過ごし続け、筋肉も落ちて栄養もしっかり取れていないティアリスの足取りはおぼつかなかった。


初めての道楽。初めての遊戯場。半年も暗い牢屋にいたティアリスにとってはそこの明かりは眩しすぎた。痛む目を抑えて少しずつ少しずつ明るさに慣らしていく。そんな時、新たに足音が聞こえた。対戦相手、敵の姿を霞む目で確認すると。


「マ・・・ミ?」


そう、そこにはマミュリエが立っていた。愛しいマミュリエがそこに。だがその姿はあまりにも酷かった。


元のくすんだ金髪にはなにやら白く干からびたものが付着し、ボロボロの布切れも辛うじて秘部を隠している程度でしかなく、俯く顔は赤く上気して肩で息をしている。そして目を引くのは彼女の股ぐら、白濁した半透明の液体がコポコポと音を立てて流れ出ていた。


「お、おい、マミ?」


ティアリスが震える声を掛けるとマミュリエは身体をビクリと揺らし、顔を上げた。

顔を上げた彼女の表情は蕩けて、口の端から涎が垂れ、瞳に光が無かった。


「あ、“72番”くーん。久しぶりぃ〜」


「...は?」


ピキ


ティアリスは耳を疑った。あんなにも自分の事をティアと愛称で呼んでいた彼女が今、72番と呼んだ。


「マミ...今...」


「ん〜?マミってだぁれ?」


ピシッ


「ま、マミはお前だよ、マミュリエを略してマミ、そう...決めたじゃんか」


「あっははー、ダメだよ72番くん。マミュリエは“前の”わたしの名前、今のわたしは57番だよぉ?」


ピキッ


「“ご主人様”から貰った大切なお名前だよ〜」


「ご主人...様?」


「そうだよ、ワラゥルご主人様」


ビキ


ティアリスは壊れた玩具のようにぎこちなく首を動かしワラゥルに視線を向ける。血走った眼で、視線だけで人を射殺さんとする眼力で。獣が如く。


「ワラゥル...?テメェ...マミに何しやがった...?」


震える声で訊ねる。怒りで頭に血が上り、顔面を真っ赤に染め、今にも血管から血が噴き出そうだ。


「いえいえ、私は教えてあげただけですよ。世界にはいろいろな幸せがあると。特に...」


ニヤニヤと笑っていた目をさらに細めて。


「性の快楽と言う幸せを教えてあげたのですよ、彼女に」


「テメェェェエエエエエ!!!!!」


ティアリスが叫ぶが奴隷が触れることを許されない特等席でワラゥルはさして気にした様子も無く懐から粉の入った瓶を取り出した。

それに反応を示したのはティアリスではなくマミュリエ。


「あ...おかし...」


「これは新たに仕入れた特別な媚薬です。そのまま飲ませたり、水に溶かして飲ませたり、注射で身体に入れたり。まぁ、様々な方法で使える便利な物です。私はこれを彼女に“おかし”と称して三日間与え続けました。最初こそ激しい快楽に耐えていたんですが、それでは可哀想だと思いまして、私の部下達の慰み者として手伝っていただきました」


ビキッ


「一度コトをいたしてしまえば彼女は部下達のを貪り続けましたよ、もう貴方のことなんてスッカリ忘れた様子でした」


「...............」


ティアリスは無言であった。無表情であった。無心であった。

怒りが頂点に達し、尚も気持ちが昂り続けた彼の心はキャパシティをオーバーした。

悪意に満ちた事態の数々にとうとう彼の精神は拒絶反応を起こした。


「ふん...」


その反応をつまらないと感じたワラゥルはマミュリエに、いや。57番に言った。


「57番、彼を殺せばもっといっぱいおかしをあげましょう。もっともっと激しい快楽を与えましょう」


「ホント!?」


57番の眼に迷いは無い。子供のように無邪気に、子供らしからぬ淫美さで頬を緩める。

彼女にとってティアリスを殺すこととは快楽の前では羽虫と同程度の価値でしかないのだ。

ウキウキ顔で重い剣をよろつきつつも手にし。


「ごめんね72番くん、わたしのおかしのために死んで?」


大きく力一杯ティアリスに振り下ろした。


☆★☆★☆


あぁもう、折れた。それはもうポッキリと折れた。マミが、連れてかれて、俺は何も出来ないで。

汚され、犯され...。

あぁ、ホント俺、何の為にこの世界にいるんだよ。せっかく二度目の人生貰ってさぁ、何が出来るんだよ、俺は。

マミを守れなくて、あの世に行っても2人に顔向け出来ねぇじゃねぇか。

またか、また俺は何もせず、理不尽で殺されるのか。

前の人生もあの化け物に殺されて、いろんな人に迷惑かけながら死んでった。


局長やオペレーターにはいつもいつも俺の身勝手に付き合わせてたなぁ、プリンのお礼も言ってねぇし。

翔も獏も海咲も風莉も、あんとき一緒にカラオケ行ってればこうなんなかったのか?かもしれねぇ。


二度目か、誰にも別れもお礼も言わずこの世を去るのは。21番もこんな気持ちだったのかね。19番、お前には謝っても謝り切れねぇよ、マミを守ってくれって、頼ってくれたのにさ、結局俺は何も出来なかった守ることも、助けることも。







助ける?






☆★☆★☆


「死んで?」


57番が振り下ろした剣は真っ直ぐティアリスの頭への軌跡を辿り、真っ赤な血の華を咲かせ


「あれ?」


る事は無かった。


「もぉ、72番くん、何で避けちゃうの?」


「...け...だ」


「え?」


ボソボソと羽虫の飛ぶ音のように小さな声に57番は思わず聞き返す。


「たすけるんだ...たすけるんだ...たすけるんだ...」


幽鬼が如くぬらりと面を上げた“72番”の目は深い深い井戸の底の様に暗くて冷たい。目を合わせ続けていれば確実に精神がやられてしまうような、そんな目をしていた。


「たすけるんだ...マミを...」


ドッ!


踏み込んだ72番の背後には踏み抜いた地面が粉塵を巻き上げて仮面姿の観客達に降り掛かった。当の本人は猪のような迫力をもつ直線軌道を描き57番に突進する。


「ひっ」


57番が声を漏らす。それがどちらの声か、57番かマミュリエか。72番にはわからなかった。


既に快楽の為なら人を殺すことも、愛しい人を殺すことを躊躇わないような57番は直剣を両手で真上に持ち上げ、突進する72番にタイミングを合わせて振り下ろす。

そんな拙い攻撃が過去にグリフォンと手負いだったとはいえ赤竜を討伐した72(ティアリス)に届くわけもなく。


「ぇぶっ!?」


57番は72番の全体重が乗ったタックルを喰らい、後ろへ吹き飛ばされた。カランと乾いた音を立てて直剣は地面に落ち、残酷にも72番の手が届くすぐそこまで。


「たすけるんだ...あいつらから、この世界から...」


72番は何を気にすることもなく剣を拾い、過去に19番がしたように彼女の胸に突き立てた。

心臓を狙ったわけではないが、それでも幼い少女を殺す分には十分であった。

血が激しく噴き出すわけではなくじんわりと傷口から溢れる真っ赤な血を見て57番は青ざめ、72番は無表情だ。


「あ、あぁ...!ごほっ!」


57番の口から血が吐き出され、72番の顔を汚す。尚も無表情を貫く72番に残された僅かな“ティアリス”は57番の次の言葉に揺さぶられる。



「あぁ...たす...けて」



凍りついた(ティアリス)が若干目を覚まし、57番の後に続く言葉を聞いた。


「はっ、マミ!俺がわかるか!?マ...」


「たすけて...“ご主人様”」




パキン...






彼は砕け散った。




大変な展開にしてしまった。。。

この後どう続けりゃいいんだこれ

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