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出どころ知れない異世界より  作者: 耳朶楽
第二章〜後編〜
28/39

別れ

ティアリス達が立ち去った後のジャリオは眠ってから三十分後には目を覚ました。


「あのクソガキ、本当になんだったんだ・・・」


さっきの激戦を思い返し、またその後の問答も思い返してそう呟いた。

立ち上がったジャリオは未だ倒れ伏す自警団の四人に歩み寄った。最初は背後で魔術を撃ったまだ若い青年。


「フェン・・・こいつはこないだゼフんとこの嬢さんと上手くいったって言うのに・・・クソ!」


自分の無力さに思わず地面を殴る。

次に向かったのは二人で仕掛けた顔のよく似た兄弟。


「ギン、ゲン、いつも喧嘩ばかりしてんのに、酔ったときは二人して肩組んで歌ってたじゃねェか・・・」


地面に突き刺さる彼らの剣をグッと引き抜き、最初に突撃していった親しい友人の元へ向かう。


「ダリル・・・俺とお前のツートップで頑張ってきたじゃねェか、俺は・・・俺はお前が居なきゃ・・・」


ジャリオは膝を折ってうつ伏せに倒れる親友を抱き起こした。


「最後に、最後に面と向かって言ってやんな・・・きゃ・・・な?」


涙と鼻水でクシャクシャだったジャリオの顔は一瞬にして驚愕に染まる。

それは何故か。彼に、親友ダリルに、鼓動がある。よく見れば胸もゆっくり上下し、静かに聞けば「すぴー」と鼻息まで聞こえる。


「ま、まさか!」


ジャリオは思わず親友から手を離し、駆け足で兄弟ギンとゲンの元へ。ダリルは急に離されたためドスンと地面に後頭部を打ち付けた。


「ギンも・・・ゲンも・・・!」


心臓が早鐘を打ち、酷く興奮した様子で若い青年フェンの元へ。


「やっぱり・・・・・・生きてる・・・」


フェンの時は暗がりでよく分からず、ギンとゲンの時は涙で潤んでよく見えず、ダリルを抱き起こして初めてわかったのだ。

ジャリオは再び膝を折って地面へへたれると空を見上げて大きく叫んだ。


「や、や、やったぁあああああああああ!!!!」


悲しい涙は嬉し泣きへと変わり、仲間の生存に快哉を叫んだ。二十人いた自警団の生存がたった五人と言う甚大な被害を被ったが、それでも仲間が生きていることは嬉しく、喜ばざるを得なかった。


ひとしきり喜びを噛み締め、やっと落ち着いてきた頃、ふと倒れる赤竜を見て気付いた。


俺はクソガキになんて言ったか。と。


出てけと言った、化け物と罵った、来るなと拒絶した。

村を赤竜の脅威から守り、妻や娘を救い、仲間の無礼を見逃したあの少年(ティアリス)に自分はそう言った。


突如酷い不快感に襲われた。命の恩人に、村の英雄に向かってあんな言葉を。気が動転していたとはいえ、相手が人族とはいえ、俺はあんな事を・・・。


「村長の言った通りじゃねぇか・・・・・・これじゃあ、俺の嫌いな人族と同じだ・・・」


過去に村長サマドに言われた事を思い返して自分が嫌になった。


すると、そばで小さく声が聞こえた。


「んぅ・・・」


「!おい!フェン!聞こえるか?」


「・・・だん、ちょう?」


「そうだ!俺だ!」


「僕は・・・・・・はっ!だ、団長!ドラゴンは!?」


「え?」


ジャリオは思わず耳を疑った。フェンはなんと言った?ドラゴン?それならここで何も出来ず一緒に見ていたじゃないか。


「だからドラゴンですよ!村を襲いに来た!」


「え、あ、それならあそこに・・・」


「へ?うわぁ!?」


くたばる赤竜を見たフェンは驚きひっくり返った。


「だ、団長が倒したんですか!?」


「は?」


やはりコイツ・・・。ジャリオは訝しむような視線を向けてフェンに訊ねた。


「人族のガキがやったって言ったら信じるか?」


「はぁ?こんな時に何ふざけた冗談言ってるんですか?」


どうやら本当に覚えていないようだ、少年(ティアリス)のことを。




その後、残りの三人も目が覚め、尋問にも似た質疑応答が行われた。


Q.最後の記憶はいつか?

A.赤竜が村を襲って来て、シャスティナと共闘した時。

Q.誰が倒したか?

A.団長?

Q.黒髪の人族のガキを知っているか?

A.誰すかそれ?


四人が四人とも同じ所から同じ記憶が欠如していた。さらにティアリスのことも。数年前のあの騒動も無かったことになっている。

ジャリオは居ても立っても居られず村へ走った。

いつの間にか鎮火している村を駆け、他の連中を探す。記憶を引っ張り出して向かった先はあのボロ屋、確かティアリスの誘導でそこへ向かったはずだと考え。


「なんだこりゃあ?」


そこにあった物はボロ屋ではなく下部が異様に膨らんだ大樹。淡い緑の光を放っており、何処か神聖な雰囲気がある。

ジャリオが木に近付き、そっと手で触れると。


グググ・・・


「うぉお!?なんだァ!?」


触れた所から縦に裂けて人が一人通れる程度の隙間が出来た。


「中・・・があるのか」


恐る恐る中を覗くと意外にも明るく、そこには何十人もの村人が眠っていた。


「お、おい!大丈夫か!?」


ジャリオは偶然側に眠っていた妻イェラに駆け寄り肩を揺らす。

起きない。

頬を叩く。

起きない。

頭を掴んで揺らす。


「ふん!」


「んぐぉ!?」


パチリと目を覚ました最愛の妻から誠綺麗な正拳突きが土手っ腹に炸裂した。


「いきなり何するのよ!」


「コッチの台詞だァ!」


などと言う騒動ありつつ、後から追い付いてきた自警団四人とともに村人達を無事救出、全員が目を覚ました。

そして。


「なぁ、本当に覚えてないのか?」


「しつこいわね、何の話?」


「だから、何年か前うちで人族のガキを匿ってただろ!?」


「はい?何を言ってるの?」


「チターナも覚えてるだろ!?」


「え・・・?私知らないよ?」


誰一人覚えていなかった。イェラもチターナもサマドもシャスティナも誰一人として。

まるで自分の事を狂人かのような目で見てくる事に耐え切れず、これ以上は自分の首を締めると考え、その場ではもうその事を追及することはなかった。


自宅へ戻ったジャリオは疲れた身体を引き摺ってベッドへ倒れ込んだ。


「なんだってんだよ・・・」


言い知れぬ恐ろしさと喪失感を胸に、ジャリオは眠った。



翌朝。赤竜による被害の復興や、怪我人や故人の対応などなど村全体が騒がしかったが、ジャリオは抜け出し、未だ倒れ伏す赤竜の死体を見に行った。

半分近く溶けた氷で赤竜の身体は傷まずに済んでいた。そしてやはり目を引く木の手。ガッシリと赤竜の両翼を掴んだまま一種の芸術品のように静止している。

そしてこれを見る限り昨日のことは夢でないことは明確だ。自分だけが違う世界に来てしまったという可能性は否定された。

続いて向かったのはあの大樹だ。


「あれは?」


そこには小さな先客がいた。黒い毛並みはところどころ煤けており、昨日の戦闘を物々しく語っている。


「よぉ」


「ルル・・・」


ジャリオは花子の横へ並んで立って大樹(ハウスツリー)を見上げる。


「・・・誰も覚えてねぇんだ、アイツのこと」


「・・・・・・・・・」


「村長もイェラも、シャスティナもチターナも誰も」


返事は無い。だが言葉は聞いているらしく、耳をしきりに動かしている。


「謝りてェんだ、昨日の事。感謝してェんだ・・・」


すると、花子はジャリオのズボンの裾に噛み付き、引っ張った。


「来い・・・ってことか」


花子に付いて森の奥深くへ進む、その先にはティアリス宅がある。


「こんなとこに家?」


中に入っていくと、生活感溢れる狭い家だ。ジャリオの家よりも一回り二回り小さくも機能的で使い回しの良さそうな間取り。


「ここにアイツが住んでたのか・・・」


そう考えると何処か感慨深い。自分が追い出した少年がこうして生きた形跡を見れるというのは身勝手ながらなかなかに壮観だ。


「バウ」


「ん?」


花子の一声に視線を向けると、部屋の中心にある丸い机の更に真ん中に広く根を張った不思議な種が一粒。

花子が前足をぺしっと根に添えて魔力を流し込んだ。感魔による光でジャリオは目を細めると、魔力を流し終えたのか花子が前足を離した。

すると、種が割れ、中からウネウネと緑色の芽が現れた。それは伸縮を重ね次第に人形を形成した。

丸い頭に身体と腕、下半身はそのまま卓上に張る根だ。簡易的な形の人形は目も耳も鼻も無いが小さくも口はあった。その口がそっと開くと言葉を紡いだ。


『これは俺、ティアリスが録音した音声だ。一方的に話すだけで返事も出来ない。

まず始めに。ごめんな、花子。ずっと二人って約束、破るハメになった。これは完全に俺のエゴだ。俺が、俺自身を納得出来ないから自分を鍛えに旅に出る。俺一人でだ。

これまで三年間俺とお前の二人で色んな困難を乗り越えてきたよな、けどやっぱりそれだけだと実力不足を感じるんだ。

以前の俺ならば問題は無かった、けど、樹属性を手にしてから俺とお前の間に大きな差が出来た。俺はそれが負い目なんだ。使いきれない力でお前と一緒に狩りをすることは出来ない、俺達は二人で一緒じゃなければならない、どっちかが主力でどっちかがサポートに徹するなんて論外だ、俺達は二人がメインで二人がサポート、二人が前衛で二人が後衛なんだ。どっちも実力が拮抗してなきゃダメなんだ、片方が出来ることはもう片方も出来なきゃいけない。そうじゃなきゃ、どうしようもない状況で俺達が分断されたとき、一人じゃどうしようもなくなる。二人で一人前という言葉は半人前が二人で一人前じゃない、一人前が二人いて一人前、それが俺達だ。

今の俺にそれが出来ない、いつまでも上を行くお前に今の俺は追いつけないんだ。だからと言ってお前が俺に合わせる必要は無いし、俺に対する侮辱だ。

だから俺はお前に追いつけるよう一人で旅修行をする。いつかお前に釣り合う男になって帰ってくる。

それまでお前も強くなれ、俺は相当強くなって帰るつもりだ。逆にお前が俺より弱かったらガッカリだぞ?

この森に留まるも良し、俺と同じように何処かへ旅に出るも良し。好きにしろ。

・・・まぁ、あと、なんだ。最後になんか言いたかったんだけど思いつかねぇな。あぁあ!そうだ。村の連中にはよろしく言っといてくれ・・・って言っても喋れないか。まぁ、もし旅立つ前とかに誰か来たらコレを見せといてくれ。

・・・話す事、無くなったな。じゃあ終いにするぞ、次合う時を楽しみにしてろ、じゃあな。』


そうして、芽は人形を解け、再び小さな種へと戻った。


「・・・色々、聞きたい事はあるけど、そうか。そういうことか」


「ぐぅ・・・」


「で、お前は旅に出るのか?」


ジャリオがそう訊ねると花子は首を横に振った。ここに残ると言うことだ。


「そうか・・・・・・・・・」


少し長めの沈黙。しんと静まり返った場で声を出したのはジャリオ、ただ一言だけ。


「帰ってきたら教えてくれ」


ただそれだけ言ってジャリオは部屋を出た。


☆★☆★☆


時は数刻前、ティアリス。


眠る花子に静かに別れを告げて、予め見つけておいたエルフの迷結界の抜け道を通って無事森の外へ出た。思いの外時間が掛かったせいで日は傾きつつある。早いとこ寝床を確保しなければ。そう思いティアリスは夕暮れを歩んだ。


そして時は数時間後。夜だ。結局宿どころか町も村も何一つ見当たらない。街道のようなものをただひたすら進んでいるからいずれどっかしらに到着するはずだ。いずれ。


「つ、疲れた・・・もうちょい家で寝てりゃ良かった」


だが今更引き返すわけにも行くまい。ティアリスは自分に鞭打って歩みを進めた。

すると、遠い景色に橙色の光が見える。人だ、人がいるぞ!そう確信すると足取りは軽くなり、火を囲む彼らの元へ駆けた。


「すいませーん」


「「「?」」」


火を囲むのは三人の男。一人は背が小さく横に大きい丸々として小綺麗な衣装に身を包んだ貴族風の男、その向かいに座り込むのは筋骨隆々の厳つい男、荒くれ者と言った表現が妙に似合う。そして最後の一人は顔まで隠す全身真っ黒の衣装を纏い、異常にこちらを警戒するやり手の男。小太りの男の後ろに立っていた。


「すいません、ここから町までってどれぐらい・・・?」


様子がおかしい。ティアリスの言葉を聞いて首を傾げては頭に?を浮かべていた。

小太りの男と荒くれ者風の男が身を寄せて何かを話し合っている。話が一段落ついたのか、小太りの男が前に出て話し出した。


『えっと、キミはどこから来たんですか?人族語は話せますか?』


どこか女性っぽい雰囲気のある言葉遣いだ。

それよりも気になったのは「人族語」と言う単語。ティアリスが今話している言語は。


「(あぁ、エルフ語だ、そういや)」


聞けば何故か理解出来るあの感覚。樹の試練で感じたあの感覚だ。

だがどうしよう、ティアリスはエルフ語こそマスターしたが人族語は何故か理解出来るだけで話せるわけではない。まさかの弊害である。


しかし、不思議なことに言いたい事を思い浮かべると口が勝手に、母国語を話すように自然に口を開く。


「ここから町までってどれくらいですか?」


「なんですか、普通に話せるじゃありませんか」


「え?あ、あはは〜いや、長い間別の国で暮らしてましてね」


「さっきの感じだとドワーフの言葉に近いですが少し違いますね・・・」


流石にエルフ語だと言ってしまうのはまずいだろうか、そう考えてティアリスは誤魔化す。


「と、特に田舎の方でして、同じドワーフ語でも伝わらないんですよぉ〜」


「まぁ、そうでしたか。えっと町までですよね、この道をこのまま真っ直ぐ行けば二日ほどでテスィシートですよ」


「あ、そうですか。ありがとうございます」


「いえいえ、困った時は助け合わないと。で、今から行くんですか?」


「え?えぇまぁ、早く着くに越した事は無いですし」


二人でとはいえ赤竜(レッドベビー)を屠ったティアリスだ。罷り間違ってもそんじょそこらの魔物には負けないだろう。


「この夜道では流石に危険ですよ、いくら街道とはいえ夜になると活発になる魔物もいますし、それにまだ子供じゃないですか、一大人としてそんな危険な事は許可出来ません」


「そ、そうですか・・・」


小太りの男が一つ提案を持ち掛けた。


「私達もテスィシートへ向かっているのですよ、明朝馬車で出発しますので御一緒にどうですか?」


「え?いいんですか?」


「えぇ勿論。私はワラゥル。『ワラゥル・セースマン』、テスィシートでワラゥル商会と言う店のオーナーを務めています」


某有名な黒いスーツを着た男が頭に過ぎった。


「こっちは用心棒兼私の部下として雇っている」


「ゲモンだ」


荒くれ者風の男はゲモンと言う名らしい。


「私の後ろにいるのが同じく用心棒の『墨霧』さん」


「・・・」


墨霧と呼ばれた黒衣の男は無言でティアリスを睨んだだけだった。


「俺はティアリスって言います」


「ティアリス君ね、女の子みたいなお名前ね」


「よく言われます」


そこから火を囲みながらティアリスに対する質問責めが始まった。

テスィシートに何をしに行くのか、子供が一人で旅をする理由は何かなどなど。

その後は交代で眠り夜の見張りをするはずなのだが、ワラゥルの進言で「子供は気にせず眠ってて下さい」とのこと。自分の背が低い理由は子供時代夜更かしを続けていたからだと言う持論を展開してティアリスを寝かせた。ティアリス自身も赤竜との戦い、メモリー・ツリーの行使、長時間の移動などなどあり、ぐっすり眠った。


翌朝。未だ眠るティアリスは馬車は動くと同時に目を覚ました。


「よくお眠りでしたね」


とワラゥルに言われた。


ゆっくりと馬車に揺られること半日、数回魔物との戦闘があったがゲモンと墨霧の二人で対処可能で、手伝うこともなくのんびりと過ごしていた。

再び夜だ。既に遠くにテスィシートの城壁のような物が見える。ワラゥルによれば明日の午前中にはテスィシートに入れるとのこと。夕食の後は昨日と同じく寝かされた。ずっと馬車に乗っていただけだが、慣れない人には馬車はそれだけで疲れる代物だ。ガタガタと整備されていない道をゆく馬車にサスペンションやスプリングと言った衝撃緩和の機能は勿論無く、痛む尻をさすりながらティアリスは眠りについた。





ふと、ティアリスは目が覚めた。なにやら寝心地が悪い、窮屈で苦しい。眠い目を擦ろうと手を上げようとするが。


カシャン


「ん?」


カシャン、カシャン


思うように手が上がらない。動かす度に金属音がする。それに・・・馬車が動いている。


「んーっ!?」


口には布が巻かれ、視界は真っ暗、目隠しをされているようだ。


すると、ここ二日聞き慣れた声。


「あら、目が覚めましたか」


「んー!」


「五月蝿いです・・・ね!」


バスンと腹に衝撃が走る。


「んん!!」


「まぁまぁ、しぶといですねぇ、それなりに鍛えているんでしょうね」


どうやらティアリスはワラゥルに捕まってしまったらしい。手錠、目隠し、猿轡、足にも錠が掛けられており思うように動かせない。なぜこんなになるまで気が付かなかったのか、それは勿論樹属性のせいである。

なんとかしてこの状況を脱しなければ。ティアリスは後ろに回されている手を動かし、腰の袋に伸ばす。


「(無い・・・)」


無かった。取られてしまっていた。


「そうそう、アナタの持ってた袋、あれなんですか?中には何かの種ばかりで、どうするおつもりで?」


クスクスと嘲笑うワラゥルにティアリスの怒りはより強いモノとなる。


「(クッソ!こういう事を無くすためにあの森を出たんだろうが!)」


「あぁ、アナタには私が何を商いしてるかお教えしましょう。それはね、アナタみたいな価値のありそうな“人”を売っているんですよ」


つまり奴隷商人だ。だが今のティアリスはそんなこと聞いている余裕なんて微塵も無く、樹属性を駆使していた。


「(素種子(ベースシード)!クソ!魔力が練れねぇ!!)」


ティアリスの手に嵌められた手錠は“崩魔鉄(ほうまてつ)”製。体内に流れる魔力を扱えなくし、徐々に外部へ放出する崩魔鉄で作られている。


「(んにゃろぉおおお!!!)」


ティアリスは無理矢理大量の魔力を流し込む。その量は先日のメモリー・ツリーを超えている。すると・・・


ピキッ


「ん?」


バキン!!


崩魔鉄の手錠が流される魔力の量に耐え切れず砕け散った。


「なんです!?」


自由になった両手で目隠しと猿轡を外し、射殺さんとする視線でワラゥルを睨む。


「崩魔鉄製ですよ!?」


「んなこと知るかってんだ!!舐めた事しやがって!」


目の前のワラゥルに生成した種を銃弾が如き速さで撃ち込まんとした時。


「あがぁ!?」


「・・・」


突如背後に現れた墨霧がティアリスを羽交い締めにする。完全な不意打ちを喰らったティアリスはワラゥルを狙うことを諦め墨霧の腕を外そうとする。


「・・・!」


「ガッ!?」


しかし墨霧はティアリスの首を絞めたまま馬車を飛び出し、夜の平原へと場を移した。


「墨霧さん!殺してはいけません!崩魔鉄を砕く魔力、そしてエルフ語を喋れる(・・・・・・・・)価値ある商品、壊してはいけません!!」


「な!?」


その言葉にティアリスは思わず反応する。


「驚きましたか?何故私がアナタの秘密を知っているのか」


そうだ、少し考えれば分かった事だ。エルフ語で話しかけられた時点で分かる人間には分かる。それにワラゥルは奴隷商人であり、過去にエルフも商品として扱った事がある。エルフ語を聞き出していないはずがない。そもそも、この土地で知らない言語を話して来て、その少年がやってきた方向があの“森人の隠れ家”とあってはもう言い逃れがきかない。


「(ちっ!浅はかだった)」


ティアリスは苦しい首を一先ず後回しにし、その手を地面に着けた。


「・・・!?」


気配を察知した墨霧はいち早くティアリスから離脱。迫り来る草原の根を寸での所で躱す。


「やってくれたなぁ・・・糞野郎が!!」


額に青筋立てたティアリスはそこらじゅうから根を拝借、墨霧を包み込もうと迫る。


「・・・!」


墨霧はその場を大きく飛び退き難なくそれを避けた、かに思えた。


「・・・!」


地面に吸い込まれるように衝突した根はまるでバケツから零れた水のように一面に広がり、墨霧を追いかけ、その足に絡み付いた。


「そのまま地面に叩きつけてやる」


ブオンと音を立てて墨霧は大きく振られ、鞭先の重りのような役割を果たし地面に直下する。


パンッ


そんな乾いた音が聞こえた。


「・・・・・・・・・」


墨霧が非常に小さな声で何かを呟くと刹那、その姿を消した。


「なに!?」


掴んでいたはずの根も、標的を失い空を切る。

静寂と闇が辺りを包み込み、ティアリスを脅かす。

そして気付く。


辺りが完全に闇である事に。


景色が消え、地面が消え、空が消え、月が消えた。

更に言えばワラゥルの姿も消えた。

完全なる黒の世界に、ティアリスは迷い込んでしまったのだ。


「どこ行きやがった!!」


振り返るもそこはやはり闇。次第に恐怖心が募ってゆく。ストレスによる汗が滲み、額を伝う。

ティアリスはその汗を手で払おうとした。すると。


「あん?黒・・・い?」


汗を拭った手には黒い引き伸ばされた後がある。それは正しく。


「墨・・・がっ!?」


突如背中に激痛が走り、身体が一瞬にして痙攣、ティアリスはなす術なく倒れた。

その姿を見つめる墨霧の目は、酷く悲しいものだった。

第二章(後編)終了。


2/7 追記

気分転換に少し様子見程度に今後の補足をしようと思います。

まず現在までに投稿してきた話の誤字脱字の確認と修正、「・・・」と表記している部分を「...」に総入れ替えし多少見やすく、話の内容の一部修正等を受験終了後、具体的にはあと1週間後くらいに行います。それまで最新話の投稿は一時停止させていただきます。とはいえ、そう何ヶ月も休止はしません。2、3週間ほどの休止になります。

現状、第3章の構想はある程度決まっているのですがまだ執筆はしていないのでどうかご容赦。

一つだけ言えることは、第3章は少し暗い内容になる予定です。次回投稿までお楽しみに。

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