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出どころ知れない異世界より  作者: 耳朶楽
第二章
22/39

樹属性の弊害

樹の間最奥部。

木爺と死別した二人は彼の残した手記を取りに奥へと進んでいた。

そこにはざっと四畳半の空間と中心に切り株のような台座、その上に(くだん)の手記が置かれていた。部屋と言うにはあまりに生活感の無い空間であった。


「これか、木爺の言っていた物は」


長年放置された形跡のある手帳。表紙は緑に苔むしており、革紐の結びは劣化により触れた先からポロポロと崩れ去った。しかし中身はかなり状態が良く、経年劣化の影響を受けずにいた。


『―樹属性を受け継ぎし者へ―』


初頁には一言そう書かれていた。やはり見た事の無い文字であったが。


『樹属性とは全ての属性に勝りし最強の属性である。

火、水、風、土の四属性は勿論、光、闇の二属性をも凌ぐ。


この樹属性に既存の詠唱、魔法陣は必要とせず、術者の想像を具現とする。

その差は大きく、常に相手に先制を取れる事は魔術師として最高の一言に尽きる』


そこでティアリスの表情に不安の色が浮かんだ。


「ん?無詠唱・・・」


バーナー、絶対零度、吸縮、採掘・・・・・・。ここまでの試練を切り抜けてきたティアリスは既に無詠唱を駆使している。しまくっている。


そこでふと、ジャリオの家で読んだ魔術の教本の一文を思い出した。


「『その歴史は未だ浅く、一般的になったのはつい300年前からである』・・・・・・・・・・・・あれ?」


急に焦ったようにティアリスは手記へ目を移した。


『現在、詠唱を必要としない人間はテスィシート王国初代国王のみである』


「テスィシート王国・・・シャスティナから聞いたことがあるぞ、確か800年前からある国だったか・・・あれ?てことはコレ・・・」


お察しの通り、無詠唱繁栄時以前に書かれた物である。


「最強って言い張ってた理由がコレか!?コレだけなのか!?」


手記に急いで目を通すと、他の属性との利点がそれ以上書かれてはいなかった。


「ま、マジか・・・」


意気消沈。気力を無くしたティアリスはどうでも良さそうなところを盛大に省いて読み進めることにした。


『樹属性が扱える物は“木”だけではなく、草や根、葉、果実、種、花などの植物全般を扱える。ここからはその使用例を伝えよう。


木撃(ウッドシュート)

一抱えほどの太さを持つ丸田を対象に向けて打ち出す。』


「ちょっと待て、樹属性なのに木を一度丸田に加工してから使うのか?」


その問いに答えてくれる者はいないため、確認のしようがない。


矢枝(ブランチアロー)

細い枝を矢のように射出する。貫通力が高い。


種弾(シードバレット)

種を素早く撃ち出し、小ささと圧倒的な速力で不可視の攻撃をする。』


などなど、樹属性魔術の代表例のようなものがつらつらと記されていた。

詠唱も魔法陣も無いため、あくまでこれらは木爺の使っていた樹属性魔術の一例に過ぎない。しかしそんな中、一際目を引くものがあった。


「『メモリーツリー』・・・あぁ、試験の時とかに役立つアレか、歴史の勉強とかで良くやったわ・・・ってそれじゃなくて」


『・メモリーツリー

対象者の記憶を操作することが出来る大型の魔術。記憶の改竄、消去、引出し、封印など、記憶に関する様々なことを操作出来る。大量の魔力を消費する。』


「記憶を操作する・・・ねぇ。反則じゃねぇのコレ」


ペラりと次頁をめくるとメモリーツリーに関する追記がされていた。


『メモリーツリーは術者に対する負担が大きい。大量の魔力を消費するのもそうだが、対象者へ長時間触れていなければならない。その間一切の行動は制限される上、操作出来るのは一人だけということになる。これを読んでいる次なる継承者はどうかこのメモリーツリーを改善できるようにお願いしたい。』


「・・・使い道あんのかこれ」


パラパラと頁をめくり、めぼしい項目は無かったと判断したティアリスは手記を懐に入れて立ち去った。


入ってきた扉を開けるとそこは見覚えのある地下の部屋。梯子から上を覗くと空は真っ暗で夜だと言うことがわかった。


「あ〜つっかれたぁあああ。さっさと帰って寝るぞ」


「キャンキャン!」


ティアリスは花子を小脇に抱えて梯子を登った。


暗い森の中を抜けて家に帰ったティアリス。疲れた身体を癒すべく、土属性製ドラム缶風呂に湯を張ろうとした。だが・・・。


「あん?なんでだ?“魔術が組めねぇ”」


お湯を作るためには火属性と水属性の混合魔術を使うのが一般的である。ティアリスも今までその一般に沿った形でお湯を作っていた。だが今は混合魔術どころか一種類すら行使出来ない。火属性も水属性も出すことが出来なくなっていた。


「お、おいおい、どういうことだよ。えっと・・・確か『闇夜を照らす小さき火よ灯れ、プチファイアー』」


不発。指先に魔力が集まる感覚は伝わるが、そこから何も起きずに霧散してしまう。魔力さえ足りていれば発動できるハズの詠唱でも失敗した。魔力が無い訳ではない。プチファイアーすらも発動出来ない魔力量になっていればそもそもティアリスは魔力切れの症状を引き起こして床に伏せているところだ。


「まさか・・・・・・・・・」


そのまさかである。


「属性を付与出来ない?」








この世界における“魔力”と“属性”の関係は、いわば透明な水と絵の具である。


魔力を透明な水とすると、必要な分の水を取り出して属性と言うなの絵の具を混ぜて属性を付与するのだ。

透明な水(魔力)に赤い絵の具(火属性)を混ぜて赤い水(火属性の魔力)を作り出す。それを筆(術者)に付けて描きたい物(使いたい魔術)を描く。

それがこの世界の魔術を発動させるまでのプロセスである。

現在ティアリスの身に起きている異変は絵の具を混ぜられないという物だ。もっと明確に言うと“絵の具が無い”のだ。


火属性、水属性、風属性、土属性。全てを試したがティアリスは何一つ扱えなかった。今まで頼ってきたバーナーから産まれて初めて使ったプチファイアーまで何から何まで使えなくなっていた。


ただし無属性を除いて。


無属性は絵の具を必要としない属性であり、単純な魔力のみで構成されている魔術なのだ。絵の具が無くなったティアリスは透明な水でしか絵を描けなくなってしまった。


「そん・・・な・・・・・・・・・。あ!あれは!樹属性は!」


ついさっき手に入れた樹属性と言う絵の具。詠唱が存在しないため属性ごとの“癖”を見つけられないせいか異常なまでの集中と気が遠くなるような試行錯誤が必要だった。


癖、とはティアリスが魔術を無詠唱で使うようになってから見つけた属性ごとの僅かな違いである。

火属性であれば属性を付与するタイミングでモワッとした感覚だったり、水属性なら魔力を溜めてる時、徐々に底冷えするような感覚があったり。

詠唱で魔術を発動した際に感覚を掴むと、無詠唱であっても癖に沿って魔術を行使することでイメージ通りの属性が扱えたのだ。


しかし今回の樹属性はそもそも詠唱が無い。手本として扱う魔術が無いから癖を掴めない。

何十、何百と言う試行錯誤の末、ティアリスはある感覚を思い返した。


「・・・そうだ、あの、心臓を締め付けられたような痛み。“根を張る”ような感覚。あれだ」


イメージがあれば後はそれに沿うだけ。手の平を雑草につけ、手元に根を張るような癖の魔力を通した。


シュル・・・


「お?」


ウネウネ・・・


「おぉ!なら、こうして・・・」


シュッ!


雑草はウネウネと動き、ティアリスのイメージに沿ってムチを打つような動きをした。


「樹属性は出来たか、そりゃあ出来なきゃ可笑しいってもんだろ」


苦労してクリアしたんだし、と後に続けて、樹属性が使えたことに一先ず安心するティアリス。

そして今我が身に何が起こっているのか気になり、改めて手記を読み返した。

パララララーっと速読法もかくやと言うべき速さで何周も何周も見返して見つけたたった一文。


『樹属性を手に入れた者は、火、水、風、土、光、闇の属性を宿すスロットを全て樹属性に置き換える。』


「は?」


属性を宿すスロット。魔力を持つ生き物には例外無く魔力に属性を付与する能力が備わっている。その能力に、付与出来る属性に大小の差こそあれど、それが皆無と言う生物は存在しない。

そして今、ティアリスが持つ属性は各色の絵の具が置いてあるハズの所に樹属性と言う一色のみをたっぷり六色分埋められている。

この世界の言葉で表現するならば『一途』。一つの属性しか使えない者をこう呼ぶ。

一途になったティアリスが使える属性は唯一の樹属性。世間では全く認知されていないため、荒事に巻き込まれないよう秘匿するとティアリスの扱える属性は実質無属性のみである。

しかし無属性は基本誰でも使えるもの。先の説明で言うなら水であり、水すなわち純粋な魔力である。『魔力を持つ生き物には例外無く魔力に属性を付与する能力が備わっている。』そう書いたように、誰しも無属性以外の属性を必ず1つは扱える。

つまり樹属性を制限してしまうと、これまた六属性の何一つ扱えないような異端な者として見られる。


樹属性を一言でまとめるなら。


「なんてもんくれやがったんだ!!クソ木爺ぃぃぃいいいいいい!!!!!」


叫びたくなる程余計な物である。


とはいえ、損ばかりでは無い。

六属性分の容量を全て樹属性が占めていると言うことは、樹属性の出力も通常の属性の六倍という事である。

ティアリスは元がエルフ並の魔力量を持っているため、六倍の出力ともなれば相当なものである。・・・・・・ただ、使いこなせれば。の話だ。

現在残存している樹属性に関する書物は木爺の手記のみ。魔法陣や詠唱の類は存在しないため全てがオリジナル。手探り状態でのスタートで、何が正解かもわからない。他の属性との混合が出来ないせいで多様性にも欠ける。そもそも消費する魔力が他のそれと比べてケタ違いに多いのが難点である。


「やべぇな、明日から狩り・・・どうしようかな・・・」


まず初めに考えたのは食事の問題であった。

保存している食材はh「あぁ!!」

突然大声を上げたティアリス。語りの最中にセリフを挟んでくる無神経さにはむしろ脱帽の域である。


「食材・・・保存効かねぇじゃん・・・・・・」


今までティアリスは倉庫の中を魔術の冷気で冷やしていたため食材がすぐに腐ると言う事は無かった。だが今はその冷気を作り出せない。基本的に食材を乾燥させるか燻すかの二択でしか保存できなくなってしまった。魔物の素材もまた然り。売るために凍らせていた生肉は自然解凍が始まっていた。


樹属性の弊害は大きかった。

年末です。

色々とやりたい事の多い今日この頃。実は受験生の私もそろそろ本気を出さねばならない時期です。

これから一、二ヶ月の間この作品を一時放置させていただきます。ですがある程度貯まっているストックをだいたい週一ペースくらいに予約投稿しておこうと思います。ですのでコメント等の返信は出来ませんが、今後ともこの「出どころ知れない異世界より」をお楽しみ下さい。次回からは第二章(後編)です。

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