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出どころ知れない異世界より  作者: 耳朶楽
第二章
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木爺

「やっと・・・来たか・・・・・・・・・」


木に埋まった老人は今にも死にそうな声でそう言った。


「お、おいアンタ、大丈夫か?」


「あぁあ、だい・・・じょうぶさ。久しぶりだな・・・・・・・・・・・・人が来る・・・なんて」


所々に間を空けて喋る老人は見た目こそやせ細り、しゃがれた声が痛々しく、生きていることが不思議なほどである。だが二人を見つめる、特にティアリスを見つめるその目は野獣のようにギラギラと光り、生への渇望・・・と言うには異なる印象を受けるモノが垣間見えた。


「アンタ、何者だ?こんな所にいて」


「・・・お、ワシは・・・・・・・・・そうだな・・・木に埋まったジジイだから・・・『木爺(もくじい)』とでも呼んでくれ・・・」


「も、木爺・・・」


「君は・・・名前は・・・なんて・・・」


「あぁ、俺はティアリスと呼ばれてる」


「ティア・・・リス。ティアリス・・・・・・・・・・・・」


「おぅ、そうだ。んで、コッチのが花子、まだ子供だが立派な恐狼(ドレッドウルフ)だ」


「きゃん!」


花子が元気よく鳴いて返事をするが、木爺はブツブツとティアリスの名前を繰り返し呟いている。


「おい、大丈夫か?」


「あ、あぁ・・・なに、大丈夫だ・・・」


「そうか、ならいいが。・・・・・・それで、アンタはなんでこんな所に?」


「それは・・・ワシが・・・・・・『樹属性』の・・・継承者だから・・・だ」


「樹属性?」


「あぁ、樹属性は・・・選ばれた者・・・にしか継承者出来ない・・・・・・“最強”の属性だ・・・」


「最強?木なんて火をつければ燃えるし、水に沈めれば腐るし、強い嵐で折れちまう。とても最強とは思えないが?」


「それは・・・間違いだな・・・。生木は・・・そう簡単に燃えない・・・。水中でも・・・腐るのは表面・・・。風に・・・飛ばされるのは・・・根を張りきれて・・・いないだけ・・・だ」


少し語調を強くし、息も絶え絶えにそう否定した木爺。だがその威勢もすぐに落ち着いた。


「ワシは・・・ここに身を隠し・・・試練と称して・・・次の樹属性継承者を・・・求めていたのだ」


「俺らが通ってきた物はそういうことか」


「君達は・・・乗り越えて来た・・・そして・・・ワシの命も・・・ここまでだ・・・」


「は?」


「ワシは・・・継承者に継がせるために・・・今・・・生きている・・・。そういう・・・契約だ・・・・・・。君に・・・樹属性を渡したら・・・ワシはもう・・・・・・死ぬ」


「な、ならそんなもん要らねぇよ!アンタの命と引き換えになんてしたら、寝覚めが悪くなっちまう」


「なら・・・・・・・・・・・・ワシをこのまま・・・・・・ここに縛り付けるのか・・・?」


ティアリスはその言葉にハッとした。


「ワシは・・・何百年も前から・・・ここにいる・・・。この何も無い部屋で・・・たった一人・・・延々と・・・・・・・・・」


木爺は悲しげで、寂しげな声でそう告げた。


「ティアリス、ワシを・・・ワシをここから・・・出してくれ」


「・・・・・・・・・だが・・・」


「知り合いなぞとっくに死んだ・・・・・・ワシを覚えているやつなんて・・・もう、この世界には・・・居ない。だから・・・だからティアリス・・・・・・・・・頼む。老人の願いだ、ワシを・・・殺してくれ」


ティアリスは、たった今会ったばかりのこの老人に酷く思うモノがあった。それが何かは分からない。だが、ティアリスは木爺を救わねば、と強く思った。ゆえに・・・。


「・・・分かった。アンタを殺せばいいんだな」


「あぁ・・・ワシが死ねば、君の前に樹属性の“種”が現れる・・・・・・それが、継承の証だ・・・」


「継承の証、ね」


「それを手にすれば・・・ティアリス、君は晴れて・・・樹属性の使い手だ・・・」


「そうか、分かった」


「詳しい事は・・・この木の奥に・・・ワシが記した手記がある・・・・・・ここから出るには・・・入って来た扉を出れば・・・最初の場所に行く・・・」


「何から何まで用意周到だな」


「それだけ・・・長かったんだ・・・・・・長かったんだ・・・」


木爺は記憶を振り返り、感傷に浸った声音でそう言った。


「さぁ・・・言うことはもう無い・・・・・・一思いに・・・やってくれ・・・・・・」


「分かった・・・」


ティアリスはそう低く答えると、懐から羽石のナイフを取り出して一閃。木爺の首を掻っ切った。

木爺は即死、嬉しそうな表情で、絶命した。


木爺の血が付いたナイフを拭うティアリス、その瞳には、大粒の涙が溜まっていた。


「あれ?なんだよ、なんで、なんで泣いてんだよ・・・俺は・・・人を殺したからか?違うだろ、初めて会った人間に、そんな・・・泣くような・・・うっ・・・」


ボロボロと涙を流すティアリス、そこにピタリと花子は寄り添った。


「あぁ、悪い、もうちっとで・・・治まるから・・・」


「くぅん・・・」


乱暴に涙を拭うと、腫れた目に眩い光が入り込んだ。

その光の発生源は木爺の死体。その胸元から光の塊が浮かび上がった。


樹属性の種、継承の証。


「これが・・・樹属性・・・・・・」


恐る恐る手を伸ばしてそれに触れる。ティアリスが指で摘んだそれはまさしく“種”。親指ほどの大きさをした種をギュッと握ると、自然とその手は自分の胸へと動かされた。

種がティアリスの胸にゆっくりと沈み込み、光は完全に中へ消えた。


その瞬間。


「ぐっ!!ぐあ!あがあああああああああああああああああああああ!?!?!?!?」


ティアリスの胸に激しい痛みが走る。まるで心臓を縛り付けるかのような感覚。樹属性が、樹属性の種が。心臓に“根を張った”。


「あぁ!!あぁ!!んがぁああああああああああ!!!!!あっ・・・・・・・・・」


痛みに耐えかねたティアリスの身体は意識を手放した。












★☆★☆★


「はっ!」


有名(ありな)”が目を覚ますと見覚えのある河原。そして見覚えのあるその顔。


「おぉ、おめぇさん起きただかぁ〜?」


死神だった。


「んあ?なんで、テメェが・・・あ?この身体・・・」


「聞きてぇのはコッチのほうだがや、川に落っこちたおめぇさんがぁどげかして戻って来ただかぁ?」


「いや、俺にもサッパリ・・・」


「んー、まぁ心配すっでねぇ、オラが見たとこ、おめぇさんは今“半霊体”って状態だべ」


「半霊体?」


「せや、なんでか知らんが、おめぇさんはあの後運良く新しい身体に入り込んだんやな、今はその身体と一時的に離れてしまった、っちゅう状態や」


「それ、大丈夫か?」


「なーんも心配する必要はねぇ。離れてるっても、芯では身体と繋がっちょるけん。多分、身体の方に異常が出よったから魂を避難させただけさね」


「へぇー」


サラサラと流れる三途の川を見ながら、死神の言葉に生返事で返す有名。


「あ、そう言えばなんで俺の今の身体はコッチなわけ?」


「あぁ、それなぁ。おめぇさんが今居座ってる身体は既に一度死んだ身体なんや」


「へ?」


「一度死んだ身に、おめぇさんの魂が乗り移ったんじゃな、じゃからおめぇさんが今生きている身体は本当はおめぇさんの身体じゃないんじゃ」


「まぁ、それはまぁわかるけども」


「本来あるべき身体は失われちょる、行き場を無くしたおめぇさんは自然と魂と合致する“中身の無い”身体へ入り込んだ。滅多にある事じゃないんじゃが、偶然おめぇさんがピッタリ納まる他人の身体があったんじゃのぅ」


よかったよかったとカタカタ笑う死神。有名はなんだか自分の今の身体に申し訳ない気持ちでいっぱいである。


「気にするこっでねぇ、まだ幼いおめぇさんの身体は自然とおめぇさんの魂に近付く、気長に待てば生前の身体と同じようなカタチになるでな」


「そう、なのか?」


「良ぉあることやで、前世の魂のカタチに身体が近付き、記憶は無くとも見た目だけが前世の頃と同じようになるんや」


「なるほど」


死神の説明で納得のいった有名。ほい、と手渡された緑茶に口を付け。


「まっずぅぅぅぅぅぅうううううううう!!!!」


「かっかっかっかっか!」


何時ぞやのやり取りをぶり返していた。


数時間後、有名がティアリスの身体に戻るまでの間、死神と話し込んでいた。


「そいでなぁ!そのお嬢さんがこう言ったんや、“首がなければケーキどころかパンも食べれないですわ”って!」


「あっはっはっは!そりゃあ首を跳ねられりゃあ食えんわな!!」


「イイトコの貴族さんらしかったっちゃが・・・・・・おろ、おめぇさん」


「あ?どした?」


「身体、見てみぃ」


死神が有名の身体を指さ差すと。


「ん?うおぉ!?なんだこりゃ」


足元から青い光の粒子となって消えていた。


「現実の身体が魂を受け入れる準備が整ったっちゅうところやな」


「やっと戻れんのか」


「ここもまた寂しゅうなるでな・・・」


「まぁまたなんか機会があれば来れるだろうよ、またな」


「はいよ、またいつか」


有名は死神に手を振り、姿を消した。














☆★☆★☆


ぴちゃぴちゃ・・・


れろれろ・・・


ハッハッハッ・・・


すんすん・・・


「んぅ・・・」


「キャン!」


「んあ?花・・・子?ってうわ、なんだこれ。顔ベチャベチャ・・・」


「キャン!!キャンキャン!くぅん・・・」


ティアリスが目を覚ますと花子は顔を舐めるのを止め、彼の胸に顔を擦り付けた。


「あぁ、起こそうとしてくれてたのか。ありがとう」


「くぅ〜ん」


ティアリスが花子の頭を撫でると心底嬉しそうな声を漏らした。

グッと身を起こすと、ティアリスは今までに無い不思議な感覚を感じた。身体が軽いと言うか。今まで以上に馴染むと言うか。言いようの無い感覚。とにかく絶好調というのが一番伝えやすいのかも知れない。


「コレが樹属性の力か、とんでもない力が漲ってくるようだ」


しきりに身体を動かし、身のこなしを確認する。


「ん、良い具合」


ティアリスは樹属性という物がどういったものかはまだ分からない。分からないが一言。


「ありがとな」


幸せそうな顔を浮かべる木爺にそう告げた。自然と口から出た言葉だった。


「行くか」


「キャン!」


そうしてティアリスは奥を目指した。

次回、第二章完結!




















前編がね。

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