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出どころ知れない異世界より  作者: 耳朶楽
第二章
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最終試練は反則技で

「ひ、ひどい目に遭った・・・」


落下中を花子の風魔術で救出され、なんとか生きて扉まで来ることが出来たティアリス。


「ふぅ、さて、次行くか」


「きゃん!」


気を取り直し、扉へと向き合う二人。次なる試練の内容は。


『第四の試練 -父を支えし母なる大地、犯されしその時かの父は何を成す。(おわり)の扉は何処(いずこ)へあるか、邪のものを払いしとき、道は開かれん-』


「“父”ってのは俺か、イッチャン最初の入口にそんなの書いてたし、つまり俺が地面を何かから守ればいいわけか」


最後の扉というわけで、ティアリスは弱い頭を捻って試練を解読する。


「まぁ、さっきの“飛べ”とか言う変なのもあるからなぁ、予想を盛大に裏切る可能性も大いにある」


深く考えたいところだが、そうも言ってられない。そろそろ彼の腕が限界に近い。

今の二人の状況を説明すると、花子は扉の上に座っており、ティアリスは淵に手を掛けて落ちないように身体を支えているのだ。悠長に話していられない。


「サクッと片して家に帰るぞ、そろそろ家の布団で寝たいんだ」


「キャン!」


考えてみればグリフォンの羽製羽毛布団も作れていない、小さくそう言ってノブに手をかけた。


ザァァアアアアアアアアア


「あー、そうか、今度は雨か。そうか・・・」


「くぅ・・・・・・」


ティアリスは扉の向こうに広がる景色を見て今更どこに繋がっていようが驚かないといった風に呟き、花子は濡れるのが嫌だと心底思っていた。


二人がくぐり抜けた先は強い雨が降り注ぎ猛烈な風が吹く嵐、真夜中の孤島。それも飛びっきり小さい。大人が30人ほどで孤島の面積の殆どを占めてしまうほどに。丁度中心部には今にも嵐で吹き飛ばされそうな掘っ立て小屋がガタガタと暴風に煽られていた。


そしてこの孤島は今まさに沈没しつつある。


「“母なる大地”がこの孤島で、“邪の物”ってのがこの雨、“犯される”は“浸される”の意味で海に侵食されているってところだな。“(おわり)の扉”ってのは・・・・・・・・・あぁ、あれか」


ティアリスの視線の先には海中で仄かに光る何か、夜中なのと水が濁っているせいでハッキリと確認出来ないが、おそらくあれが(おわり)の扉であろう。


「邪の物を払いしとき・・・って、まさか雨と海をまるまる消せってか!?」


そんな無茶な、とティアリスは匙を投げそうになったが、すぐさま別の方向から打開策の模索に移った。


「“母”が“犯されしとき”“父”は何をするか・・・・・・普通なら捨て身の覚悟で助けに入るところだけど・・・」


そう、試練の中には“母を救え”といった内容は一切含まれていない。この際この孤島を捨てても試練の内容には反しないのだ。

だが。


「父親なんかになったことないけど・・・家族を救うのは当然の義務ってもんだろ!」


そう言って嵐の原因である暗雲に照準を合わせ、全身の魔力をかざした腕に集中させる。今彼が使おうとしている魔術は周囲の物質を吸引、圧縮を同時に行う風属性魔術。スライム戦、土ロケット時に使っていたものに細かな改良を加えたものだ。名前は例のごとくまだ無い。便宜上『吸縮』としておこう。

ティアリスはその吸縮に魔力を込めに込めるが、込めた先から魔力が霧散して、上手く魔術として形成が出来ない。

霧散、という表現には多少の違いがある。正確には“洗浄”だ。腕部に集めた魔力が洗い流されるような感覚、その原因もやはり。


「この雨か・・・」


降り注ぐ雨が二人の魔力を須らく流してしまい、魔術を扱うことが出来ないのだ。


「ぐぅ〜、とりあえずあの小屋に入るぞ、花子」


「キャン!」


二人は小屋へと駆けた。



★☆★☆★



赤竜は探していた。


傷ついた身体を休められる居場所を。


人間共にやられた翼を、尾を、脚を、顔を、目を。


癒せる場所を探していた。


そして、


見つけた。


魔力量が多く、餌が多く、ひっそりと身を潜められる場所。


眼下に広がる森の中にある暗い洞窟。


鼻腔に広がる濃厚な血の匂い。


奥へ進むとそこには“ちっぽけな”熊が居た。


口元を血に濡らし、滾る瞳で赤竜を睨む全長3mの“ちっぽけな”熊。熊。熊。


その数はゆうに二十を超え、侵入者に対して凶悪な威圧感を放っている。


が、赤竜は悠然とそれを受け流し、洞窟全体を眺めた。


―気に入った―


赤竜はそこを自分の住処とした。


故に赤竜は“自分の”テリトリーにいる不届きな熊を“排除”することにした。


人間共にやられた傷が痛むが、其の程度と気を逸らし、息を大きく吸い込んだ。


―出てけ―


ブォアアアアアアアアアアア!!!!












肉の焦げる匂いに包まれながら赤竜はグルルと満足そうに一鳴き。



―良い所だ―



その日、森における魔物の頂点に君臨していたSランク指定の『マイティベアー』は焼失した。



★☆★☆★



小屋の中に入ってから二時間ほど経った二人は、いくつかの実験結果をまとめていた。


「まず最初にこの雨、やっぱり魔力を何らかの影響で使えなくしている。次に海、コイツも雨と同じで魔力を阻害している。そして・・・」


ゴトッと音を立ててティアリスが取り出した物は土でできた桶、彼がこの小屋の中で作り出したものである。


「一度魔力で作り出した物はその影響を受けない、と」


その桶は雨に触れても、海水を汲んでも崩れる事はなく、桶としての機能をそのままに保っていた。


「つまり魔術を行使出来るのはこの小屋の中だけか・・・」


確かに室内からなら魔術を使い、この試練の突破も難くない。しかし、それはあくまで照準が定まっている場合のみである。

先程ティアリスは吸縮で集めた空気を暗雲目掛けて撃ち出し、その爆発力にて雨雲ごと散らす作戦だった。だがそれも距離を視覚で捉えていたからこそである。室内から撃ち出したものなら圧倒的な爆風が室内を蹂躙し、小屋どころかこの孤島そのものを吹き飛ばしてしまう。

ティアリスは顎に手を当て、他の策を講じるがそんな時間は無い。

今も尚、海水は雨によって増加し、着々と孤島に浸食して来ているのだ。


「どうしたもんか」


「キャンキャン!」


「ん?どうしたぁ?」


悩むティアリスを呼び掛けるように鳴く花子は、小屋の地面をその前足で掘っていた。ここ掘れワンワンと言ったところか。


「あれ?こっから地下通って直接扉まで行けばいんじゃね?」


なんというショートカット。なんという暴論。さっきの「家族を救うのは当然の義務」発言は何だったのであろうか。

もはや試練突破しか頭にないティアリスは一度外に出て海中の光の位置を確認した。


「ざっと50m先ってとこか、花子、行くぞ」


「キャン!」


ティアリスは小屋の地面を魔術で掘り、光の元へ目指した。

掘ったところから壁を固め、安全を確保する。幸い浜辺の砂のように柔らかいせいか、大した魔力を消費せずに掘ることが出来た。




ティアリスが約20mを掘り進めた時。


「ん?なんだこの音・・・」


ザァアアアアと耳障りな音が二人の背後から聞こえた。

そしてその正体もすぐにわかった。


「マズッ!?海水が流れ込んできやがった!!」


「キャイン!?」


とうとう海面が孤島を飲み込み、小屋の中まで流れ込んで来たのだ。



「い、急げ急げ!」


焦りが火事場の馬鹿力を引き起こしたのか、作業スピードが今までの比ではなくなった。

だが、それに際して判断能力も落ちた。若干上部へ掘ったり、蓋や壁でも張っておけば海水の進行を抑えられるのだが、ティアリスはただひたすらに下部へと掘り進めた。

坂を下り、海水は流れの勢いを増す。


「クソッタレが!全身消滅した身だけど溺死は嫌だ!!」


「ギャン!!」


悪態つくティアリスを尻目に、迫り来る海水に立ち向かったのは花子。隣で自分よりもあわてふためく人がいると逆に冷静になる、というものだろうか。落ち着けとでも言うかのようにティアリスに一喝すると。口内に魔力を貯め、一鳴き。


「GyaooooooOOOOOOOON!!!!!」


甲高い遠吠えは周囲を激しく揺らし、海水を“蒸発”させた。

声の振動で海水を激しく揺らし、それが沸騰に繋がったのだ。


そして、それを見ていたティアリスはと言うと。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


口をぽっかりと開け、目を見開いていた。

正直、魔術センスならティアリスより花子の方が上手である。


「きゃん、きゃん」


「・・・・・・え?あ、あぁ何?」


呆けるティアリスを呼び起こし、前足でココに壁を作れとジェスチャーを送った。


「あっはい」


指示された通りティアリスは防壁を建てた。念には念をと言うことでキッチリ3重分固めた。


そこからは何とも呆気ないものか、海水の心配が無くなった二人は黙々と土を掘り続け、お目当てである光の元へたどり着いた。

光の正体はやはり扉であり、今度の扉は一番最初の扉のように木のような質感であった。


「金色に光る木の扉、なんかかぐや姫みてぇだな」


叩き割ったら女の子でも入っているのではないかとティアリスは思ったが、その考えは簡単に崩壊した。


ギィィ・・・と音を立てて扉が開くと、そこには眩く輝く広い空間があった。


「やっと・・・来たか・・・・・・・・・」


中にいたのは女の子ではなく。


“巨木に埋まった老人”であった。

さて、そろそろ第二章も盛り上げて行きましょう。

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