三途の川の不思議な骸骨
初回サービス連投第二弾です。
今回方言が登場しますがひっじょーに適当なのでそう言った地域にお住まいの方には不快感を与えてしまうかも知れません。
方言に関して修整が必要と感じた方はご連絡下さい、直します。
20151126修整※修整内容はあとがきに。
「はっ!」
有名はガバリと身を起こしあたりをキョロキョロと見回した。
「ど、どこだここ!?」
彼が倒れていたのは幅の広い川の岸だった。
すると有名に声がかかる。
「おぉ、おめぇさんやぁっと起きただかぁ」
有名は突然の声に驚き、声のする方へと顔を向けた。
「が、がが、骸骨が喋ってる!?」
時代劇とかでよく見る笠をかぶった舟渡の格好をした喋る骸骨がいた。
「おうおう、そう驚くでねぇよ」
骸骨は腰につけた袋から急須と茶葉を取り出してお茶を淹れ始めた。
「んまぁこんでも飲んで落ち着きなんし」
「え、あ、どうも」
有名は骸骨から緑色の液体が入った湯飲みを手に取りクンクンと匂いを嗅いだ。
「別に毒さ入っちょらん、ただの緑茶だ」
有名はその言葉を信じてグッと飲み干...
「まっずぅぅぅぅうううううう!!!!」
せなかった。
「かっかっかっかっかっか」
骸骨はお茶を盛大に吹き咳き込む有名を指差し腹を抱えカタカタと笑った。
「ゲホ、えほ、て、テメェ!なんてもん飲ませやがる!!」
「ただの緑茶じゃき」
「あとその方言も一箇所に特定しろよ!!」
「そげなこと言われとってのぉ、おめぇさんたちが喋る言葉を一人一人真似してみただけやで」
「知るか!」
有名はゼーハーゼーハーと肩で息をしていた。
「まぁまぁ、落ち着きなんし。もうオラんこと怖かねぇだろ?」
「それは、まぁ...そうだけど」
「せやろ」
有名はふぅと息をつき気になっていたことを骸骨に聞いた。
「それで、ここはどこだ?と言うかアンタは一体何者だ?なんで俺生きてんの?」
「まず初めにオラんことじゃが、オラはおめぇさんたちさ言うところの死神だがや」
「死神?え?死神?」
「せやで、死神やで」
一瞬の間を開けて有名が口を開いた。
「死神って、魂を刈り取るとかそう言う...」
「あぁ、そげな部署もあるでな」
「ぶ、部署?」
有名は口をポカンと開けて目を点にしている。
「オラはただ魂を向こう岸に送り届けんだけの死神で、鎌なんて持ってなければんなことも出来ねぇっぺ」
「そ、そうなんだ...」
なんとなく納得の行かない自分を無理やり納得させる有名であった。
「今までの会話でなんとなくわかったけどつまりここは三途の川ってことか?」
「おめぇさんたちの言葉で表すならそげなとこだべな」
「てことはココを渡ると俺死んじゃうってこと?」
「ココさ渡るとって言うかもうとっくに死んどるんじゃが」
「マジか...」
ガックリと項垂れる有名。その姿を見ながらズズっと茶をすする死神。茶を飲み込んだ死神は有名に1つ解説を入れた。
「本来ならここに来た人間を生き返らせるすべは無くはないんやけど...」
「ホントか!?」
「おめぇさんにゃあ無理だべ」
「なぜ!?」
「おめぇさんは魂を入れる器である肉体が現世に存在しないんじゃ、どうすることも出来んわい」
「そんな...」
有名は再びガックリと項垂れた。
「まぁ来世は良いことあるさね」
死神に励まされた。
「そういえば、俺が死んだあと、あの出どころ知らずはどうなったんだ?」
「おぉ、あの化けもんか。おめぇさんがそこで寝てるあいだに帰ったで」
「そうか、帰って...帰った!?」
「こう、パァーっと青っぽい光に飲み込まれて消えちまったんやで」
「そ、そうか。良かった...のか?」
「まぁ良いことなんじゃねぇかのう、あの世界にもう二度とあんな化け物は現れんようになったはずじゃけん」
「は?もう二度と?」
「おめぇさんがあのデッケェ化け物に殺されたおかげで世界のバランスが元に戻った、そのためもうあぁいう存在は二度と現れん」
「お、俺のおかげ?」
「ある意味では、じゃな」
「そっか、俺が世界を守ったんだな」
有名はふふっと笑みをこぼした。
「そっかそっか、俺が救ったんだな。よし!」
そう言ってスッと立ち上がる有名。
「死神、俺を向こう岸に運んでくれ」
「もう良いんでな?」
「おう!もう未練は何もねぇ」
「こん川を渡っとおめぇさんは今までの記憶さ全て失ってしまう、それでもか?」
「あぁ、どうせもう死んじまったんだ、いつまでも昔を引きずってられっかっての」
有名はグッと親指を立てて死神に向けた。
「おし、そかそか。おめぇさんの覚悟にオラは感動した!ココを渡る前にちぃとオマケしてやらぁ」
死神はそう言うと青白い光の玉を有名に手渡した。
「これは?」
「ちょっとした幸運のお守りじゃき、来世で幸運が訪れるはずだがや」
「良いのかこんなもの」
「ずぅっとそれを落とさず持ち続けてりゃあモーマンタイやで」
「モーマンタイて」
有名は少し悩んだが、厚意を無駄には出来ないのでありがたく受け取ることにした。
「じゃあお言葉に甘えようかな」
「そーそ、貰えるもんは貰っとけ」
死神はそう言うと有名を舟まで案内した。
「コレがオラの舟だぎゃ」
死神の舟はそれ程大きいものではなく、2、3人乗れれば十分と言えるものだった。
「意外と手狭なんだな」
「そりゃあ一度に何人も乗せんからのぉ」
死神はそう言うと有名に舟に乗るよう促す。
舟に乗り込んだ有名は乗り心地は思いのほか快適だと思った。
しばらく舟に揺られていると死神が口を開いた。
「おめぇさん、なかなか苦労の多い人生だったんだのぉ」
「そういうのが判るのか?」
「長年の感と川の様子でだいたいわかる。この川は渡る人間の魂の経験を川幅で表す特性があるんや」
「経験を川幅で表す?」
「んだ、んで大抵が苦労話が魂に印象深く刻まれてっから川幅の広いヤツは苦労の多い人生だったって推測がつくんだべ」
「なるほど、まああまり人に聞かせて気持ちのいい話ではないのが多いよ。聞くか?」
「...いんや、おめぇさんが話したくねぇんなら聞かん」
「そっか」
有名が一言そう呟くと少しの沈黙が流れた。
しばらくして有名はとある疑問が思い浮かんだ。
「なぁ死神?」
「んー?なんだぁ?」
「この川の水って普通の水?じゃないよな?」
「おぉー、おめぇさんそこに気づくだか」
「その反応はつまりただの水ってわけじゃあないんだな?」
「んだ」
死神がそう頷くとコホンと軽く咳き込み語り始めた。
「この川の水は、いわば“現世の垢”ってもんだべ」
「現世の...垢?」
「んだ、まあまずこの川の概要から教えるだ。この川は渡っている最中に現世で魂にこべりついた全てのものを洗い流すためにあるんだべ」
「洗い流す、ねぇ」
「記憶はもちろん性格や積み上げた時間もいっせいに洗い流すんや、他にも霊力だとか魔力だとかも洗い流すがおめぇさんの世界では意味のねぇもんだろ」
「で、その洗い流したものは?」
「一切合切この川の水となって流れてくで」
「え、じゃあこれ全部?」
「んだべ、ぜぇんぶ今までココを通った人間のだべ」
「こ、これに触れると?」
「特になんもねぇ、ただの水だぎゃ。水に流すってぇやつだに」
うまい事言ったと自分でカタカタと死神は笑った。
「この水にはなんの力も無いのか?」
「いんや、そういう訳でもねぇ。この水には魂の全てと言っても過言でねぇもんがたっくさん入ってるべ、この水を魂に取り入れられれば魂そのものが強くなるんだべ」
「え、じゃあ俺がこの水飲めば強くなんの?」
「まあなるっちゃなるがよ、どうせ渡る最中で全部流しちまうんじゃけぇの」
「意味ねぇってことか」
「そういうことやな」
しばらくすると、舟に異変が起きた。
「なんや今日は川の様子がおかしい...うぉ!?」
バシャン
ガタンッと大きな音を立て、舟全体が大きく揺れた。
「ほへぇ、あっぶねぇあっぶねぇ。おめぇさん大丈夫だかー?おろ?」
「あっぷ、ぶふ、ごぼばっ!?」
溺れていた。
「おめぇさんなぁにやってんだべ」
死神が呆れたような口調でそう言うと、有名は怒りをあらわにして言った。
「い、いいかがばぼぼ、たす、助けぼぶぁ!」
有名は決してカナヅチではなかったはずだが、川の何らかの作用で泳げなくなっていた。
「おぉ、ちぃっと待っとれ...ホレ、こいでも掴みなんし」
そう言って死神が差し出したのは櫂。舟を漕ぐために必要な、つまりオールだ。
「がぼばっ!」
「これしかなかったんじゃけ、ホレ、早ぇとこ掴むべ」
有名は差し出された櫂に手を伸ばす。
「かっ、ぼぐぶ、すべ...滑る!」
水で櫂が掴みづらく有名の身体はさらに流されていく。
「うぐぶ...がぁ!!」
有名は意を決し、櫂を強く握った。
つるん...
そんな音が聞こえた気がした。
櫂を掴んだと思えばその実、長きに渡ってこべりついた水苔で滑り手を離してしまった。
「え?」
「あっ」
そんな間抜けな声を残し、有名は水流に乗って船から遠ざかって行った。
「いやぁぁあああああがあばぼぼ」
有名の絶叫も虚しく大量の水を飲み込んで沈んで行った。
そして、残された死神は。
「あれまぁ、達者でなー」
有名の沈んだ方に向かって呑気に手を振っていた。
「......なんつって」
次で最後です。
方言の件や誤字脱字、その他気になる点やご意見ご感想頂ければ幸いです。
20151126修整
死神が「オラはただ魂を向こう岸に送り届けんだけの死神で、鎌なんて持ってなければんなことも出来ねぇっぺ」と言っていたにも関わらず終盤溺れた有名を助けるシーンで鎌を差し出していた矛盾を修整。本編解説通り『櫂』に変更。