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出どころ知れない異世界より  作者: 耳朶楽
第二章
19/39

風の試練〜Fly Away〜

ノワールスライムが衝突し、鐘の音を鳴らすと波が発生した。視覚化された波が輪のように広がる。壁や地面などの障害物に反射。二人の四方八方を縦横無尽に駆け巡る。砂漠の時と似たような現象である。


「クリアか、砂漠よりは短かったな」


ティアリスがそう呟く間にも音の波紋は広がり、周囲の空間を包み込んでいた。

とうとう神殿が跡形もなく見えなくなると、波紋は消え、新たな景色が二人の目に広がった。

上下に別れた二色の世界。上は何処までも澄み渡って青く、下は延々と続く緑。“草原”であった。


「ッ・・・、眩し」


今の今まで仄暗い神殿に居たためか、暗闇に慣れた目は強烈な痛みを発した。

次第に明るさにも慣れ、景色が明確に見えてきた。

そこで目にした物は。


「扉か・・・」


いつものアレである。

淡い緑色で竜巻状に表現された風が装飾されていた。そこに書かれていた言葉、つまり気になる試練の内容は・・・。


『第三の試練 ―飛べ―』


「はぁ?」


次の瞬間。


ブワァッ


「どぅわぁ!?」


「きゃいん!?」


扉が一瞬でつむじ風に変化し、二人を天高く空へ吹き飛ばした。


「うぉわああああああああああああああああ!?!?!?」


「キャンキャン!?あぅおおおおおおおおおおおん!!」


木の葉のように巻き上げられた二人は既に地上2000mを超えた。その間何故か風圧による押しつぶされるような感覚や、風をまともに受けても寒さを感じなかった。試練に挑む者への気遣いだろうか。

そんな二人の視界に不思議な物が見えた。

遥か上空、自分達が飛ばされた今の高さよりも先に“扉”があった。


「あぁ!?扉!?」


その扉は重厚感のある茶色い物。おそらく第四の試練である土属性の特徴だろう。

二人がそう考えている間に吹き飛ばされた最高高度まで来たのか、一瞬ふわりと無重力体験をして、自由落下を始めた。


「ハッ!あそこまで“飛べ”ってか!分かりやすくてイイじゃねぇか!!」


「ギャン!!」


落下する二人は既に高さを克服し、目下に広がる地面など見向きもせず、ただひたすらに上空の扉を見つめていた。


「ギャン!!」


風属性を得意とする花子は既に落下の勢いを“風を踏みしめる”という方法で殺していた。


「花子ぉ!やるじゃねぇか!!こうなりゃ競争だ!先に着いた方の勝ち!!」


「キャン!」


その言葉を聞いた花子は未だ落下し続けるティアリスを置き去りにして空を跳ねた。


一方ティアリスは魔力をふんだんに使い、お得意の火と水を掛け合わせ、水蒸気による上昇を試みた。

勢い良く噴出された蒸気に押され、かなりの高さを稼いだが一つ問題を発見した。


「馬鹿か俺は!こんなん熱いに決まってんだろうがっ!!」


魔術で作り出した水を、これまた魔術で作り出した炎で急速に熱したためか、火傷して当然なほど熱かった。間歇泉もかくやと言ったところだ。


「別の方法で行くか」


折角稼いだ高度も、別の策を考えるためおじゃんとなった。


花子は風、ティアリスは火と水を得意としており、お互いに別の属性を使えないわけではないが効率が段違いである。

得意な属性を使う場合、それこそ息を吸うように扱う事が出来るが、それ以外の属性を使う時はある程度の集中と、数倍消費する魔力が増えるのだ。

例えばティアリスがよく使うバーナーは最初こそ消費が激しく魔力切れを起こしたものだが、今となっては扱いに慣れたこともあり、丸二日は使いっぱなしでも魔力切れを起こさないようになっている。ただし彼の眠気がそれを許してくれるかは別問題である。

花子も例外ではなく、風属性に関してはティアリスを完全に凌ぐほど扱える。彼女の場合ティアリスよりも魔力が圧倒的に少ないものの、それなりの性能を発揮する魔術を放てるのはズバ抜けたセンスのおかげである。

ちなみにこの二人が使う魔術の大半に名前が無い。完全なオリジナルであったり、似ていてもどこか違ったりするからである。


ここでティアリスが新たな案を思い付いたのか、強力な魔力をその手に組んだ。


「さっきのスライム戦が役立ったな、“前方のみに指定して”空気を吸い込む!」


数トンのスライムを吸い込んだダ〇ソン・・・もとい真空空間を作り出し、吸引の方向を上空に向けた。


ギュォォォオオオオオオオオ


盛大な音を鳴らし、一直線に空気を吸い取った。


が、しかし。


「うぉ!?飛ばねぇ!!」


空気を吸い込むものの、それ自体が推進力にはならず、おかしなまでの空気を一直線上から消し去るだけであった。


「飛べないのなら!」


手の平を下に向け、真空空間に吸引した空気を一斉に放出、瞬時に身体を飛ばした。


「この方法じゃあ届かねぇなぁ。・・・しゃあなしだ別の方法考えるか」


再び思案に耽るティアリスであった。


★☆★☆★



その一方で先に歩を進めた花子は。


「くぅん・・・」


いつまで経っても上がってこないティアリスを見つめて寂しげな声を漏らしていた。

見える範囲にいても不安になってしまうのである。


ひとまず勝負ということなので寂しさにめげずに先へ進んだ花子は目当ての扉までは残り500m。スタートから半分を過ぎていた。

このまま行けば圧勝である。が・・・。


「Pyaaaaaaaaaa!!!!」


「!?」


猛スピードで花子に接近するものがいた。

青い鱗を纏い、尾を振り、ヒレをはためかせながら近付いてくるそれは、魚であった。


空泳鯉(エアレートカープ)、空を自由に泳ぐことが出来る鯉である。鯉が滝を登りきったらそのまま空へ出たと言った感じである。しかし水中を泳ぐことを苦手とし、呼吸もエラ呼吸でない。そのためか声帯を持ち、先程のような鳴き声を発する事が出来る。

性格は非常に獰猛で、エサと判断した物に対して高速で食いつきに来る。例えそれが何であろうとだ、鳥や虫はもちろん、地上を歩く人でも、自分より大きな生き物でも食べる。岩や木にも飛び付くため知能は低く、普通の鯉同様歯は無い。そのかわり直線でのスピードは目を見張るものがあり、そのスピードに任せて対象に食らいつき引きちぎるのだ。

その様から“空の猪”と呼ばれることもあり、一部の人間が猪か鯉かで揉めることがある。


そんな空泳鯉(エアレートカープ)だが、どうやら花子をエサと判断して鯉とは思えない速度で彼女に肉薄した。


「ギャン!」


なんの捻りも無く直線で突っ込んでくる空泳鯉(エアレートカープ)如き、花子の前では何ら障害にならない。それどころか。


「ガウ!」


「Pya!?」


空泳鯉(エアレートカープ)を足場にして飛び上がった。御丁寧に爪に風を纏わせて空泳鯉(エアレートカープ)を切り裂きながら。


「「「「「Pyaaaaaaaa...」」」」」


遠くで複数の空泳鯉(エアレートカープ)が見えた。花子は「補充が来た」と内心牙を向いた。

いつの間にか滞空すら難なくこなし始めた花子は迫り来る空泳鯉(エアレートカープ)に対峙した。


「グルルルルゥ・・・」


「「「「「Pyaaaaaaaaaa!!!」」」」」


接触まで後数秒、多対一の熾烈な戦いが今、始ま「先行くぜぇ!!」・・・る・・・?


空泳鯉(エアレートカープ)よりも速く花子の目の前を過ぎていった少年、ティアリスだ。ナレーションの邪魔までして飛び上がる彼は下に見える花子にしてやったり顔をしていた。


「ガゥ!?」


「「「「「Pya!?!?」」」」」


霧状に吹き抜ける水飛沫と暴風を身に受け、驚きの声を漏らす双方。特に空泳鯉(エアレートカープ)に関しては突然の飛行物体に身をよじり、あらぬ方向へと飛んでいってしまった。


「ガ・・・・・・・・・!キャンキャン!!」


しばらく呆けた花子であったが、抜かされたことを理解してティアリスを追いかけ空を跳ねた。


★☆★☆★


時間は数分戻りティアリス。


「折角風の試練なんだから風を駆使して勝ちたいよなぁ・・・」


只今絶賛落下中である。既に最初に飛ばされた高度を下回り、落下速度も重力加速度に則って右肩上がりである。

と言うか地上が目と鼻の先である。


「このまま行けば腐ったトマトみたいにべチャリだな、ふむ」


ふっとティアリスが魔力を込めると、強烈な風がその背中を押し上げた。だがそれくらいでは気休め程度にしか減速せず、依然として落下の一途を辿っている。

余念の無いティアリスはとうとう魔力を込めるという動作すら呼吸と同じように行い、水の薄い層を数十枚に渡り作り出した。クッション代わりである。


「よっと、あらら、スタート地点まで戻って来ちまった」


地上にびしょびしょになった足をつけたティアリスは遥か空にいる花子を探したが、やはり確認出来なかった。

そのままボーっと空を見上げていると、生前の記憶を思い出した。


「(こんな晴れた日に、アレで遊んだな、なんだっけ、アレ。あ、そうだ。ペットボトルロケット)」


吹き抜ける爽やかな風にさらされ、眠気が彼を襲った。


「ふわぁ〜・・・・・・・・・ペットボトルロケット?」


一泊置いてそれに気付く辺り、やはりティアリスである。


「確か、水を少し入れて、空気を入れて・・・」


イメージに従い魔力は水と空気を混ぜ、ギュッと圧縮に圧縮を重ねた。ペットボトルは無いので土で作った筒である。


「噴出口から一気に・・・」


バシュゥン!


「うぉお!?」


勢い良く発射されたそれはティアリスの予想以上に天高く射出された。


「おぉ・・・、これなら・・・」


ゴクリと生唾を飲み込んだティアリスはVS花子戦での起死回生の一手に着手した。

先と同じく土を筒状に成形した土ロケットに空気と水を入れて圧縮、最大容量の数十倍は圧縮を行い、準備は完了である。ただし今回はそれのサイズがドラム缶並だと言うこと。見た目はまるっきりドラム缶な上、ティアリスが搭乗する部分はただ乗っかるだけ、安全性というものをかなぐり捨てた傑作である。

ティアリスはそれに跨り、発射の衝撃に耐えられるように魔力を送り続けた。


「ロケットよーし、安全確認よーし、目標、第四の試練の扉。スタンバイ、カウント3、2、1・・・」


目指すは上空3000m、目視は出来ないがそこにあるであろう扉を見据えて目を細めた。


「発射!!」


ドゥバシュゥン!!


とても水と空気だけで発せられるような音をではない炸裂音を鳴らし、それこそ消えたように見えた。

その数十秒後、花子と空泳鯉(エアレートカープ)を抜き去ったのであった。


「うぉっほぉお〜〜〜!!」


天高く飛び上がるティアリスは花子を追い抜き既に地上2800m。(ゴール)まで残り200mほど、ここまで来れば後は下手な風魔術でも十分届くはずだが。


「第二エンジン点火!!」


もしもの時に備えておいた第二エンジンという名のドラム缶上部。実は二層構造だったのだ。

土ロケットを1:2の割合で分け、ここまで飛んできたのは三分の二を消費したからだ。そして開けられた残りの三分の一、調子に乗った彼の有志をとくとご覧あれ。


シュッバァッ!!


「あ、マズっ」


三分の二で2800mを飛んできたロケット、圧縮の割合は同じである三分の一を使えば、単純計算で半分の1400mが追加である。

地面からのスタートではないので空気を押しただけの反作用の少ない分ぴったり1400mではないだろうが、どっちにしろ扉を越すことは間違いないだろう。


「どわああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」


予定調和。土の扉を軽々と超え、その身をさらに1000mほど打ち上げた。


「くぅーん・・・」


ティアリスを追いかけて来た花子は既に到着し、扉の上に乗っかっている。

いつだったかの虫眼鏡同様またもメチャクチャ理論の展開です。ペットボトルロケット巨大化させたところで何キロメートルも飛ぶわけないって私知ってるもん!耐久性の問題やら推進力の問題やら空気抵抗重力と色々考えてファンタジーが書けるかってんだ!ごめんなさい今後もこういった事が度々あると思うのでその時はどうかご容赦くださいますようお願い申し上げます。


ホントはもっとシリアスとか数話に渡るバトルとか書いてみたいんですけどね、シリアスはまだしもバトルシーンがヘタでヘタで・・・。

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