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出どころ知れない異世界より  作者: 耳朶楽
第二章
17/39

古代神殿の動く泉

古代神殿。厳かな雰囲気を醸し出すそこは暗く深い洞窟の中、しかし不思議と真っ暗ではなく地面や壁面に生えた鈴蘭のような白い花が微かな光を放っていた。

二人は神殿の入口と思しき門の前にいた。

その流れ落ちる滝をモチーフにした試練の扉にはこう書かれている。


『第二の試練 ―濁流に潜みし悪魔の涙。してそれを天に召すは水面の聖女の歌か、悪魔の懺悔か。見つけし者には天への道開かれん―』


「二回目でこれが試練の内容だって理解してても意味はわかんねぇな」


「きゃん?」


ティアリスは内容を紐解けず、花子は単に字が読めず。首を傾げて座り込む。


「とりあえずさぁ、寝ていい?」


「きゃん」


砂漠で睡眠を摂らずに過ごしていたティアリスの目は瞼で三分の二を塞がれている。砂長蟲(デザートワーム)戦で巨大レンズ作成のため大量の魔力を消費したことも要因として重なるだろう。

周囲に魔物の反応が一切感じられないことから、ここは休憩ポイントだと判断し、二人はたっぷり五時間ほど睡眠を摂った。


「うっし、元気ハツラツ、目ん玉パッチリだ」


「きゃんきゃん!」


たっぷり休憩した二人はそれぞれ魔力を完全回復させ、緊褌一番の思いで扉に触れた。第一の試練の時と同じで滝の形をした扉は地面に流れて消えた。


「これ、風と土だとどうなるんだ?土はまだしも風の形ってなんだよ・・・」


開いた扉の先は砂漠の時と違い、外観と同じ薄暗い神殿の内部が普通に続いていた。


「ほぉ〜、中は広そうだなぁ」


「くぅ〜・・・」


古ぼけた作りだが、仄かに照らす花と相まって神秘性を増していた。

静かな空間には天井から水滴がぽたりぽたりと落ちる音がやけに響いた。


「どこから行くべきか、皆目検討もつかねぇな」


通路は無数にあり、階層も二階三階と続いていた。試練の詳しい内容も把握出来ないままでは行き当たりばったりな道選びにならざるを得なかった。


当てずっぽうで神殿の奥まで入り込むと、ある魔物をよく見かけるようになった。


「キィ?」


「ん?わらび・・・餅?」


スライムである。

バケツ一杯に収まりそうなほどの半透明なそれは神殿に生えた鈴蘭の明かりで青白く見える。

顔などは無いがどこからか囀るような鳴き声を出し、二人を見上げる。しかし見つめるだけで一切の危害は加えてこない、キィと小さく鳴き二人の横を通り過ぎるだけだった。


「ふむ・・・」


「キィー!キィ!」


ティアリスが何の気なしにスライムを摘んで見ると、その不思議な感触に胸を射たれた。


「お、おほほ!なんだこれ、気に入った!ぷにぷにしててなんか良いな!」


「キィ〜!」


「あっ・・・」


嫌がるスライムは小刻みに身を震わせると風船が割れたようにただの水となった。バシャリとティアリスの指の隙間から流れ出た水は地面で再びスライムの形を成形し、そのまま走り去って行った。

その光景を見たティアリスは瞠若驚嘆とした。


「マジかよ・・・あんなこと出来んのかよ」


「くぅん?」


地球でのスライムのイメージ違い呆然とするが、最初からこの世界の住人である花子は一体何がおかしいの?と言った表情で首を傾げている。


更に奥へと進むと不思議な空間へと出た。少し広いくらいの泉、そして泉の中心には大きな鐘が浮かんでいた。


「ん〜、ここいらで一旦休憩でもするか」


「きゃん!」


幻想的な景色の良さにティアリスの機嫌も良くなり、そこら辺の石畳に尻を着き魔物料理を食べ始めた。


「あの鐘、なんだろうな」


「きゃぅん?」


視線の向かう先はやはり浮かぶ鐘。ガラス工芸のように透き通り、触れたそばから崩れてしまいそうな儚さを魅せている。

ティアリスが美しい鐘に思わず見蕩れていると、さして興味を持たない花子は泉に水を飲もうと口をつけた。


「!? へっ!けへっ!」


「お、おいどうした?」


「きゃん!きゃん!」


ティアリスは花子が吠える泉を覗き込むが特に何の変哲もないただの水のように見えた。

試しに一つ手でその水を掬ってみると。


「キィ?」


「え・・・?」


掬った水はプルンと丸みを帯びてスライムとなった。


「てぇことは・・・」


「「「「「「「「「「キィ?」」」」」」」」」」


水面がポコポコと膨らみ、大量のスライムが鳴いた。


「やっぱり・・・」


幾十、幾百、幾千ものスライムは大きさが大小様々だ。手のひらサイズの個体がいたと思えば次の瞬間には車ほどの個体に吸収されている。またその逆も然り。


「ギィ」


二人の耳にそんな鳴き声が天井から聞こえ、そこに目を向けると他のスライムとは一線を画した禍々しい雰囲気を醸す黒いスライムがへばりついていた。


「あん?んだありゃあ・・・」


「「「「「「「「「「キ!?キキィ!!」」」」」」」」」」


ぽたりと落ちる黒いスライムを避けるように泉のスライムは身を退けた。

泉の底まで落ちた黒いスライムは某大作ゲームが如く上部がツンと角のように立っている。

その正体は『ノワールスライム』文字通り黒いスライムであるが、他のスライムには無い特徴がある。

それは“洗脳”。

対象がスライム限定ではあるが、ノワールスライムが特殊な魔力を放出すると周囲のスライムは洗脳され、人を襲わない温厚な魔物であるスライムであろうとノワールスライムの意のままに操られてしまう。

しかしそのかわりにスライムの特徴である“液状化”が出来ず、耐久力も通常のスライム並である。


「ギギ、ギィ・・・」


「「「「「「「「「「キキキィ!?」」」」」」」」」」


ノワールスライムをまるで忌避するかのような鳴き声と動きをしている。今にも泉から溢れ出すかのように。


「ギィッ!!」


「「「「「「「「「「キィイッ!?・・・・・・・・・キィ」」」」」」」」」」


「え?」


「きゃん?」


ノワールスライムが鋭く鳴くと、他のスライムたちはビクンと水面を揺らしすぐに静まった。


「ギィ・・・ギギ!」


「「「「「「「「「「・・・キィ」」」」」」」」」」


ノワールスライムが何かを指示するとスライムたちは洗脳されたようでそれを承知し、二人に見やった。


「ちぃとマズいかも・・・」


「くぅん・・・」


二人は何か来ると身構えた。


「ギッ・・・ギィッ!!」


「「「「「「「「「「キィ!!」」」」」」」」」」


瞬間、泉のスライムたちは爆発が起きたかのように飛び上がると、二人に向かって滝のように降り注いだ。


「っ!逃げろ!!」


「きゃん!!」


急いで来た道を引き返す。その後にはやはり大量のスライムが押し寄せている。


「うげっ」


「「「「「「「「「「キィ!」」」」」」」」」」


ティアリスは足に筋肉増強を施し全力で距離を作るが、それをスライムたちはさも当然かのように詰めてくる。まさに“濁流”のように。


「濁流ってこれの事かよ!じゃあ悪魔ってあの黒いのか!」


試練の内容がだんだん明瞭なものとなった。そしてそこからの理解は非常に楽なものであった。


「天に召すだぁ?だったら蒸発させりゃあいいんじゃねぇの。ともなりゃあ・・・」


走る足を急に止め、キィー!と摩擦音がなりそうな方向転換で迫り来るスライムに対峙した。


「クソッタレが!テメェら全員焼き尽くしてやらぁ!!」


「きゃんきゃん!」


ティアリスは青筋立てながら両手にバーナーを作り出し迎え討つ覚悟だ。


ゴゴゴゴゴゴ・・・


ツーっとティアリスの額から汗が流れ落ちる。


ドドドドドドドド・・・


背筋にビッシリと汗が浮き出す。


ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


ダラダラダラダラと顔から汗が滝のように流れる。


「「「「「「「「「「キキィー!」」」」」」」」」」


「やっぱ無理!!」


「きゃいーん!!」


ティアリスは花子を脇に抱えると地面を砕くほどの勢いで走り出した。


逃げ続ける間にいくつもの曲がり角があったがスライムは全く速度を落とさず、それどころか道中のはぐれたスライムを吸収して更に巨大化していた。


「ひぃっ!?」


ティアリスがこの世界に来て二度目の本気の恐怖だった。ちなみに一度目は目が覚めた最初の日である。


逃げる二人は廊下の途中に重厚な鉄の扉を見つけた。


「あ、あそこに入るぞ!」


「きゃんきゃん!!」


筋肉増強を可能な限り行いスライムから距離を取り、重苦しい扉を開け中に入るとすぐさま扉を閉じた。

外でスライムの鳴き声や音が過ぎ去ったのを確認すると扉を背にズルズルと地面に腰を下ろしたティアリスは。


「はぁ、はぁ、っぶねぇー!」


「くぅん・・・」


「あの黒いの、後でぶっ飛ばす」


ノワールスライムに並々ならぬ殺意を燃やしていた。


急いで入った部屋は真っ暗で、光る鈴蘭の一本も無かった。

ティアリスはひとまず状況を確認するため『シャイン』を使った。何故かシャインだけは非常に効率的でなおかつそれなりの光量を持っているのでアレンジも加えず重用していた。


「うぉっ、びっくりした、人の像か?」


明るくなった部屋は泉のあった場所と同じくらい広く、中央には右手を前に突き出した翼の生えた女性の像が置いてあった。


「・・・なるほど、“聖女”ね」


ティアリスは一目でそれが扉に書いてあった聖女だと察した。


「“濁流”“悪魔の涙”“聖女”・・・あとは“歌”“懺悔”がわかんねぇな・・・ん?」


ふと突き出されている右手を見ると指先がフックのようになっている事がわかった。


「なるほど・・・な」


「きゃん?」


思わせぶりな聖女像、孤立した鐘おそらくどちらかを動かして聖女像に鐘を持たせればいいのだろうとティアリスは予想した。


「現実的には鐘の方を動かすべきだけど・・・“水面の”なんて書いてあったわけだからコッチを持ってくんだろうなぁ・・・」


大きさは台座を含めて3m、素材は触れた感じから石、いくら筋肉増強を使ったとしても無理がある。


「どうすんだこれ」


古来より重い物を運ぶために人間は様々な方法を考え、駆使してきた。エジプトのピラミッドを作るために丸太をいくつも敷いて石を運ばせたのは有名だろう。

そしてティアリスもそういった方法を考えている一人だ。現状、労力は二人(一人と一匹)しかなく、敷かせるような丸太も無い。そこで約四十分悩んだ末にたどり着いた答えは・・・。


「神経ブチ切れる覚悟で筋肉増強、無理くり担いでく」


彼はあまり頭がよろしくないようだ。


言葉通りティアリスはこめかみに血管を浮き上がらせながら聖女像を傾かせ、台座の下に手を入れた。


「ふんぐぐぐぐぐぅ・・・んぎぃいいいいいいいいっ!!!」


ズズ・・・


浮き上がった。なんとティアリスは誰もが諦めるような方法を五歳児の身で決行、そして四トンもある聖女像を持ち上げたのだ。


「あ、上がっだぁ!・・・ッハァ!いぐぞぉ」


もはや息も絶え絶え、一歩歩く度に死にそうな声を上げて地響きを起こしていた。そして担ぎ上げて五歩目。


「も・・・む、り・・・だはぁっ!!」


素早く聖女像の下から手を引き抜くと、支えを無くした聖女像はドシーンと轟音を鳴らして“砕け散った”。


「あっ・・・」


バラバラになった像を見て一言。


「は、運びやすくなったな!はは・・・」


乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

スライム達の「」の多さでスマホでご覧の方々は文字サイズの関係上見づらくなっていると思います。横持ちで見るか我慢してください。

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