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出どころ知れない異世界より  作者: 耳朶楽
第二章
16/39

内の闇

第一の試練を始めてから既に半日が経過していた。

焼けるように暑かった砂漠は逆に凍えるほど冷え切っていた。

なんとか洞窟を見つけ避難することに成功したティアリスと花子であったが、外から吹きすさぶ冷気に身を寄せ合い震えていた。


「は、花子・・・ささ、さぶっ、さぶくないかかか・・・?」


花子は応えずただ震えるだけ、寒くて鳴くことも出来ないのだ。

ティアリスは百合猿(リリーモンキー)の尻尾で作った袋から取り出した羊毛狼(ウールウルフ)の毛皮毛布を羽織っているが尚も寒い。砂漠だからか草木は無く火をたくことが出来ない、そのでいでティアリスは自身の魔力で火を作り出していた。ティアリスが寝てしまえば魔力の供給が途切れ火は消えてしまう。そうなれば二人揃って凍え死んでしまう。ティアリスの試練に対して軽い気持ちで挑んでしまったが故の落ち度だ。


その晩はなんとか生き延びることが出来た二人、特にティアリスは寝ずに火をたいていたため疲労が抜けきらずまた炎天下を歩くハメになった。


「うぅ・・・」


「くぅ・・・?」


「あぁ、大丈夫だから、一晩くらい・・・」


「きゃん・・・」


ティアリスは昨晩の内に決意した。


「今日中にココを突破する。何をすればいいかもだいたい分かったしな」


「くぅ?」


「『古代への一歩を踏み出さん』つまりこの砂漠にあるはずの遺跡を探せばいいはずだ」


扉に書かれていた事を読み取り、試練の目的を見つけたティアリス。だが、発見出来たのは目的だけであった・・・。


「目的さえ分かればあとはクリアするだけだ。花子、“飛ぶぞ”」


「きゃん!」


花子を片手で抱えたティアリスは地面に向けて強力な風を当てた。自身の身を浮かせるほど強い風。遺跡らしきものを空から探そうと言うのだ。


ブォオウン!


「ぶわっぷ!?」


だが風は砂を激しく巻き上げただけでティアリスを浮かせることは無かった。


「足場が悪かったか・・・」


その失敗点を改善するため土属性で足場を固めた。その瞬間ティアリスに衝撃が走る。


「・・・これで壁作れば洞窟でモロに風を浴びずにすんだんじゃねぇの?」


ティアリスもたいがいアホの子だった。

何はともあれ土属性で強固な(自分のボンクラ加減に腹が立ち通常より魔力をかけすぎた結果の)足場を作り出し今度こそ飛ぼうとしたその時。


「Vyaaaaaaaaaaaaaaaaaaan!!!!」


突如地中から巨大なワーム型の魔物が現れた。


「なんだってんだよ!どいつもコイツも邪魔しやがって!」


「きゃんきゃん!!」


「Vyaaaaaaaaaaaan!!!!」


砂長蟲(デザートワーム)と呼称されるこの魔物は名前の通り砂の中に潜み、真上に来た獲物を下から襲う。目や鼻は無く、幾本もの牙が生えた口があるだけ、この口に飲み込まれた生物は無数の牙でバラバラにされ、原型を留めず飲み込まれる。

だが、それでもランク的に見ればCランク。二人にとってはそれこそ虫けら程度のはずだ。しかし彼らが対峙する砂長蟲(デザートワーム)は基準のサイズから大きく外れ、異常なまでに巨大化していた。本来ならどれだけ大きくても全長2m、口の大きさは腕一本飲み込むのがせいぜいと言ったところだ。だが目の前の個体はどうだろうか、全貌が見えないが軽く見て10倍の20mはある。口の大きさも腕どころか人の一人や二人まるっと飲み込めるだろうと容易に想像がつく。

だが元の大きさを知らない二人には全くもって関係無かった。


「デケェ図体した蛆虫だなぁ」


「ガウゥ・・・」


二人の目に宿るは狩人の目、規格外の砂長蟲(デザートワーム)に対して恐怖は微塵も無かった。


「Vyaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」


砂長蟲(デザートワーム)は悲鳴のような鳴き声で二人のいる足場に食いついた。

しかし二人は瞬時に左右へ飛び避けた。


「折角だ、コイツの試し斬りに使ってやるよ!」


ティアリスが取り出したのは羽石のナイフ。それを逆手持ちし、前世で出どころ知らず(ホームレス)と戦っていたスタイルをとった。


「懐かしいなぁ、そうそうこうやって通り過ぎるようにぃ!!」


ティアリスを標的に食いついてくる砂長蟲(デザートワーム)をギリギリで避け、通り過ぎる巨体にナイフを這わせるように切る。


「Vyaaaaaaaaaaaaaaaaaan!!!!!」


「ハッハーッ!まるで豆腐だなぁ!!色も白いし今日からお前の名前豆腐な」


悲痛な叫び声を上げる砂長蟲(デザートワーム)に理不尽な名付けを行う。この様子だと大半の魔物が豆腐となるだろう。


「ギャンギャン!!」


飛び上がる花子が空中で爪を立て前転すると両方の前足から合計6本の爪撃が飛んだ。先日のグリフォン戦でグリフォンが使った鎌鼬の嵐をインスピレーションに作り上げた風の魔術だ。


「おぉ?花子ぉ!おもしれぇもん使うじゃねぇか!!」


「ギャン!!」


その後数回に渡って切りつけるが砂長蟲(デザートワーム)は一向に弱まる気配を見せない。


「ちっ、もうめんどくせぇし焼き払っちまうか・・・」


「がるるるぅ・・・」


「Vyaaaaaaaaaaaaaaaan!!!!!」


砂長蟲(デザートワーム)は尚も二人を食らいに来る。もうパターンを読んでしまったティアリスは視界にチラつく太陽と砂漠を見てある事に気付き悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「花子!ちょっとソイツと遊んでてくれ、おもしれぇこと見せてやる」


「ぐぅ?」


「まぁ楽しみにしてろって」


ティアリスは不敵に笑いその場を一時離脱した。




ティアリスがいなくなったことで砂長蟲(デザートワーム)の攻撃は全て花子へと向くわけだが彼女からして見ればなんの問題にもならない。強いて言うなれば“二人”が“一匹”になってしまった事に不安感を覚えているくらいである。


花子は一匹になる事を酷く嫌う。それは自身がかつてそれで苦しんだと言うトラウマから来るものだろう。父親はどこぞの盛りのついたドレッドウルフで母親と交尾をすればそれ以来何処かへ行ってしまった。だがそれは人間界で見れば非道と言えるがあくまで自然界の話、当たり前の出来事だ。

そんな当たり前の両親から産まれた花子は母親と言う存在がそばにいた。トコトコとどこに行くにも母親と一緒だった、どこでも母親と“二匹”だった。だがその母親も人間に殺されてしまった。親の敵自体には出会っているしその件についてはもう終結している。しかし“一匹”と言うトラウマが無くなったわけではない。今でも彼女の奥深くに根を張り、ティアリスの姿を見失うとトラウマと言う芽が出てくるのだ。

それ故に今この状況は非常に彼女のトラウマを刺激する。早く戻ってこないかな、いつ戻ってくるのかな、もう戻ってこないのかな、また“一匹”なのかな・・・。

彼女の心は次第に冷たくなっていく、深く深く暗く暗く・・・。闇が深くなり身も心も冷たくなっていく。砂漠の炎天下であろうとも彼女のトラウマの種を明るく照らすことは出来ない、暖かく包むことは出来ない。

まだ、まだ、まだ、また・・・・・・・・・・・・。




「待たせたなぁ花子ぉ!!」




「!!!」


彼女がバッと振り返るとそこには彼女を照らす太陽(ティアリス)がいた。頭を出した(トラウマ)は引っ込み、冷たくなった心を温める。自然と冷えきった身体が熱くなり、炎天下であった事を思い出させる。


「きゃうん!!」


歓喜に満ちた声で彼女はティアリス飛び掛かった。


「Vyaaaaaaaaaaaaaan!!!!!!!!」


またそれを追うように彼女に飛び掛かる砂長蟲(デザートワーム)。漠然と開いた口の中は太陽に照らされることなく深淵で闇が支配していた。


「その真っ暗な中、明るくしてやるよ!!」


ティアリスが取り出したのは巨大な丸いガラスのレンズ、太陽を背に砂長蟲(デザートワーム)の口内と重ねる。


「ちと熱ぃぞ!!」


シュビィィィィィイイイイイイイ!!!!


太陽光がレンズを通してまるでレーザーのような直線の光が走る。それは真っ直ぐ花子の横を通り砂長蟲(デザートワーム)の口の中へと入っていった。


ジュゥゥウウウウウッッッ!!


焼けるを通り越して溶けるほどの熱を持つ光はアッサリと砂長蟲(デザートワーム)を貫通し、一瞬で絶命させた。


「きゃんきゃん!!」


「おぉ?どうした、なんかスキンシップが過剰じゃねぇの」


飛びついた花子はティアリスに抱き止められ暖かく抱擁された。


まだでもまたでもない、ずっとだ。






ティアリスが放ったレーザー、ただ虫眼鏡で太陽光を通すと黒い所を焼けると言う小学生がやりそうな事をビッグサイズにしただけである。

巨大なレンズは眼下に広がる砂漠の砂を魔術で錬成して作っただけのだ。


そしてそのレンズから放たれたレーザーは砂長蟲(デザートワーム)を貫通するとそのまま直進し、砂坂へと直撃した。

すると光は砂上で乱反射し、何かを形作っていく。


「な、なんじゃありゃあ」


「きゃん?」


キンッ、キンッ、キンッ、キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン


光が何処かにぶつかり跳ね返る度にそんな金属音に似たような音を発した。次第に光は砂漠を包み、空を包み、太陽を包んだ。二人は光に飲まれ、反射的にキツく目を瞑る。

ゆっくりと再び目を開けると・・・。


「んだこれ・・・・・・神殿?」


「くぅん?」


二人は周囲をキョロキョロと見回した。さっきまでいた砂漠とは逆に薄暗く、少し肌寒い。砂漠の猛烈な熱さや強烈な寒さなどは無く、上着一枚羽織れば済む程度だ。


「これは・・・クリアしたのか?あのデカ蛆虫ぶっ倒せば良かったのか?」


頭上にはてなを浮かべるティアリスは改めて扉の言葉を思い返した。


「『身を焦がす邪炎を己が物とし、飛び掛る闇を焼き払え。さすれば古代への一歩を踏み出さん』・・・“身を焦がす邪炎”ってのはあのクソ忌々しい太陽のあんちくしょうか、“己が物とし”・・・レンズ通しただけで物にしたって言えるんか?“飛び掛る闇を”闇・・・闇・・・あぁ、デカ蛆虫か、口ん中真っ暗だったしな。飛び掛かってきたし、焼き払ったし。」


んで、とティアリスは頭を上げ目の前に佇むそれを見た。


「“古代への一歩”これか・・・・・・」


「くぅん・・・」


古代神殿。第二の試練の舞台である。



ルビ振りが楽しくてめんどくさくてもついやっちゃう。

今回のレンズの件、もちろん色々と突っ込みたいところは皆さんあるでしょう。けどやりたかったの!虫眼鏡巨大化させたところでビーム兵器みたいになるわけじゃないって私知ってるもん!やりたくなっていいじゃない、だってにんげんだもの。耳朶楽

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