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出どころ知れない異世界より  作者: 耳朶楽
第二章
15/39

最初の試練ととある国のとある話

二本目です。

扉を開き、長く続く廊下を進むとこれまた大きな扉が立ち塞がった。

炎をデザインとした真っ赤な両開きの扉、扉にはまたも見たことの無い文字でこう書かれていた。


『第一の試練 ―身を焦がす邪炎を己が物とし、飛び掛る闇を焼き払え。さすれば古代への一歩を踏み出さん―』


「えっらそうな口ぶりだなぁコイツは。まぁいいや、行くぞ。花子」


「きゃん!」


ティアリスが扉に触れると、扉は激しく燃え上がりその姿を消した。


「あっつ!?」


それは扉が燃えたから出た言葉ではない。扉の向こうから肌が焼けるような熱気を浴びたからだ。


「おいおい、なんで“空”がある、なんで“太陽”がある!なんで!」


ティアリスは一泊置いて大きく口を開け。


「なんで“砂漠”がある!!」


二人の目の前には灼熱の大地砂漠が延々と広がり、青い空と眩い太陽がそれを照らしていた。

空はどこまでも高く、決してそこが今までいた地下空間でない事を如実に表していた。

その非現実的光景を目にした二人は茫然自失、目を点にして口をポカンと開いたまま沈黙した。


一時間後、二人はとにかく砂漠の中を進み、試練のクリアに勤しむ。


「だぁ!クッソ!!試練っつったって何すりゃあ良いんだよ!!」


「くぅ・・・」


ティアリスは苛立ちを隠せず、花子は慣れない暑さに参っている。


「身を焦がす邪炎を己が物とし、飛び掛る闇を焼き払え。さすれば古代への一歩を踏み出さん・・・だっけか?意味がわっかんねぇっ!」


扉に書かれた言葉を思い出し、分析をしようとするが強烈な陽射しが彼の思考を邪魔した。


「とりあえず・・・日陰を探そう・・・」


「きゃん・・・」


重い足取りは砂漠の砂に埋まり苛立ちを更に際立たせるのであった。


★☆★☆★


ドラゴンという生き物がこの世界には存在する。先日ティアリスが討伐したグリフォンと同等、あるいはそれ以上に強力な存在。

その種類は確認されているものだけでも200種を超える。大まかに分けても翼竜、飛竜などの空を制す種類。翼を持たず、地上又は地下を住処にする種類。海を悠々と泳ぎ、船乗り達を脅かす海竜と言った種類。陸海空全てを等しく制するドラゴンは伝説にも登場する魔物の中ではおそらく一番馴染みが深く、頭一つ飛び抜けた存在であるだろう。

グリフォン、クラーケン、ユニコーン。彼らも伝説の存在ではあるがドラゴンには及ばない。あくまで希少性が高いだけであろう。

大空翔ける鷲獅子、大海に潜む魔王、大地を舞う幻酔の星。これだけ大層な二つ名を付けられる彼らでも、たった一言で表されるドラゴンに力量で圧倒的に劣っている。『災害』全てのドラゴンに比喩される言葉はたったこれだけ。

空の竜は嵐、地の竜は地震、海の竜は津波を表しているのだろう。


そんな“災害”を今まさに彼らは追っていた。


「テスィシート王国騎士団の名に懸け、憎き災害、赤翼の竜を今!我らが討ち取る!!」


入口手前でそう叫ぶは王国騎士統括第一騎士団団長『オルフィン・フォン・カルネマル』であった。


「「「「「「おぉおおおおおおおおお!!!!」」」」」」


「誇り高き第一騎士団の諸君!ヤツの首は既に我々の手にある!!」


「「「「「「うぉおおおおおおおおお!!!!」」」」」」


「決して腑抜けの第二に武勲を渡すな!我らこそが真なる王国騎士団であり!我らこそが王の剣であり盾である事を今示せ!!」


「「「「「「うぉおおおおおおおおお!!!!」」」」」」


「総員!」


「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」


「突撃ぃ!!!!!」


「「「「「「おぉおおおおおおおおお!!!!」」」」」」


赤竜の(あなぐら)と呼ばれる王都テスィシート北東部にそびえ立つボリグシナ山の中腹にぽつんとある洞窟。その名の通りドラゴンが住処にしている洞窟だ。そこに住むドラゴンは真っ赤な翼竜、口から火炎を吐き、鉤爪は鉄をも切り裂く威力を持っている。その姿、見る者が見たのならこう呟くだろう。“レッドベビー”と。


洞窟へと突撃して行った第一騎士団。奥に進むにつれ空気が熱を帯びている事を肌で感じた。

ようやく最奥まで到達すると、そこには広い空間ともぬけの殻となった竜の巣があるだけだった。


「ん?何故何もいない」


「エサを取りにでも行ったのでしょうか・・・?」


「そんなわけあるか!入口は四日も前から偵察が見張っていただろう!それに出入口はあそこにしか無いはずだ!!」


「も、申し訳ありません!団長!!」


「もういい、さっさと搜索にあたれ!」


「はっ!」


そう、ドラゴンはこの窖から出ていない。熱気を帯びた空気が何よりの証拠だ。

では一体どこに・・・。


「ん?」


ブォアアアアアアアアアアア!!!


ドラゴンの寝床である砕けた岩々の中央に立った一人の騎士が“下から”の炎に飲み込まれた。


「Ghrrrrrrrrrrrrrr......」


「で、出たああああああ!!赤竜だぁあああ!!」


岩の下から這い上がってきたのはターゲットの赤竜。搜索のためばらけた騎士団は混乱が生じていた。


「ひ、怯むな!連携を取れ!!大盾兵は前、長槍兵を後続に付けさせ攻守を同時に制せ!その間魔術師は射程圏内ギリギリまで前進、詠唱を開始しろ!!」


「「「「「「おぉおおおおお!!!!」」」」」」


「Ghrrrrrrrrr...」


ゆっくりと近付く大盾兵達を見ながら赤竜は大きく息を吸い込んだ。


「ブレスが来るぞ!しっかり防げぇ!!」


ガッと互いに身を寄せ、大盾で隙間を無くす騎士達であったが。


ブォアアアアアアアアアアア


「「「「「「うわぁああああああああ!!!!」」」」」」


赤竜の火炎はオルフィンの予想を上回る威力を持ち、大盾兵をまるごと飲み込み前衛の騎士達を丸焼きにした。


「そ、そんな・・・」


「Ghrrrrrrrrrrr...」


先程から大声で指揮しているオルフィンへ赤竜はギロリと視線を向けると。


「う、うわ、たた、退却ぅううううううう!!!!」


オルフィンは情けない声をあげながら無様に走り去った。そして残された騎士団員達は頭が逃げ出したことでパニックに陥った。騎士達は武具をかなぐり捨て慌ててその後を追う。

しかしそれをぬけぬけと逃がす赤竜でもない。大きく翼をはためかせると、その巨体を持ち上げ彼らを追いかけた。


「Ghrrrrrrrrr......suuuuuuuuuu...」


またも息を吸い込み逃げ惑う騎士の背中にブレスを吐いた。


「「「「「「うわぁああああああああ!!!!」」」」」」


「ひぃっ!?」


真っ先に逃げ出したオルフィンは団員達の断末魔と迫り来る炎を背に必死に走った。


「ぐわぁああ!!」


猛然と走り、なんとか炎から逃げることが出来たオルフィンは外へと脱出。転げながらも麓へ急いだ。その背後に連れてきたはずの団員は一人もおらず、いるのは迫り来る“災害”だけであった。


「はっ、はっ、あ、あれは!」


走るオルフィンが見つけたものは、先程腑抜けと罵った第二騎士団であった。


「た、助けてくれぇえ!!」


「ん?あれは・・・!?総員!隊列を整え武器を構えよ!!」


無様に走ってくるオルフィンの姿と背後の赤竜を確認した第二騎士団団長『アルネージ・ギルフリッド』は後ろに付く団員に指示を出した。

ガチャガチャと金属音を鳴らし武器を構えたのをアルネージが確認すると、冷静に新たな指示を出した。


「第一魔術隊、魔道障壁の準備を!赤竜がブレスを吐いたらすぐに対応出来るようにしておけ!!」


「「「「はっ!」」」」


魔術隊はそう言われ、魔道障壁の詠唱を始めた。


「次!弓兵隊は魔術隊のために時間を稼ぐ!赤竜の目を集中的に狙え!くれぐれもオルフィン殿に当てるなよ!」


「「「「了解!」」」」


弓兵隊は即座に弓を番え、一斉に矢を赤竜に放った。

綺麗な放物線を描く矢は狙い通り赤竜の顔へと降り注いだ。が・・・


「Ghuuuuuuuuu......」


赤竜は少し鬱陶しがるだけでなんのダメージにもなっていない。


「くっ、わかってはいたが・・・。弓兵隊は引き続き矢を放て!第二魔術隊は初級魔術でフォロー!オルフィン殿を保護するまでブレスを吐かせるな!!」


再び矢の雨が赤竜に降り注ぐ、だがその中には第二魔術隊の水属性初級魔術が混じっている。

それらが既に息を吸い込みブレスの体制に移っている赤竜を邪魔した。


「Ghrrrrrrrrrrrr...」


水属性魔術によって身体が急に冷やされた赤竜はブレスを中止せざるを得なかった。

だが赤竜はブレスが無理だと判断すると大きく翼を羽ばたくと天高く飛翔した。赤竜が何をしようとしているのか、その場で理解したのはアルネージだけであった。


「っ!?魔術隊!魔道障壁を直上へ修整!急げ!!」


「Ghooaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」


赤竜は高熱の炎を吐きながら急速で降下してきた。急いで上空へ魔道障壁を向けるも直撃を避けるのが精一杯、余波が脇を通って侵入して来た。


「ぐっ・・・!持ち堪えてくれ!!」


圧倒的な火力に魔道障壁はピキピキと嫌な音をたてた。

だがなんとか魔道障壁は持ち堪え、ブレスの止んだことで魔術隊の手にフッと軽くなる感覚が走った。

しかしそれはあくまでブレスの終わり、急速に落下してくる赤竜の衝撃に魔道障壁はあっさり砕け散った。


「くぅっ!!弓兵隊と魔術隊は急いで下がれ!前衛隊は直接赤竜を討つ!小隊を作れ!!」


「「「「了解!!」」」」


アルネージは赤竜に対して逃走は不可、討伐も厳しいと判断し撃退を試みた。持久戦に持ち込み赤竜の魔力切れを待つことにしたのだ。


「第三から第六までは連携して赤竜の背後を取り攻撃、即座に退避で牽制!第七はそのスキに負傷者を回収!第一、第二は俺と共に正面から赤竜の気を引く!」


「「「「はっ!!」」」」


「魔術隊は俺らが気を引いているうちに上級魔術を!弓兵隊は魔術隊を回復役でサポートしつつ赤竜の動きを観察、異変を見つけたら報告!」


「「「「了解!」」」」


アルネージの指示通り彼を含む第一小隊と第二小隊で赤竜に対峙し、その裏に回った第三から第六小隊が赤竜を攻撃退避のヒットアンドアウェイを決行、上空からの攻撃で負傷した騎士達を第七小隊が安全地帯へと避難させた。

前衛隊が赤竜と戦っている間に第一魔術隊は大規模な魔術を詠唱し、第二魔術隊は前衛隊に回復魔術を掛ける。弓兵隊はそんな魔術隊を回復薬でサポート、他の魔物が現れないか周囲を警戒し前衛隊に赤竜の情報を外から伝える。


作戦が功を奏し赤竜は次々と切られていく。翼を貫かれ、尻尾の先を切り落とし、足の腱を切り裂き。そして決定的だったのはアルネージの直剣が赤竜の眼に突き刺さったことだ。


「くらえええええええええ!!!」


ザシュッ!


「Gyaaaaaaaaaaaaaaaa!?!?!?!?」


痛みで頭を振り回す赤竜にアルネージは剣を手放し振り落とされた。


「ぐふっ!」


「大丈夫ですか団長!!」


「だ、大丈夫だ。それより見ろ、赤竜が悶える姿を!」


「素晴らしい一撃でした!」


「おう!お前もいつかあれぐらい出来るように・・・「魔術隊!準備完了しました!!」来たか!」


アルネージが振り返る先には数人の魔術師が巨大な風の大鎌を作り出していた。


「総員!!伏せろ!!!」


アルネージがそう叫ぶと前衛隊は一斉に屈みこみ、その上を風の大鎌が過ぎ去っていく。


「!?!?」


眼の痛みで暴れていた赤竜もその大鎌を一番の危険因子だと認識して上空に逃げようとした。

だが少し遅く、大鎌は赤竜の尻尾を根元から切断してみせた。


「Gyaoooooooooooooo!?!?!?!?」


流石の赤竜もこれにはたまらず叫び声を上げた。よろよろと羽ばたきながら眼下に見える森の中へと逃げて行った。


「団長、追いましょう!」


「ダメだ。あの森は“森人の隠れ家”だ、追いかけたが最後帰って来れないぞ」


「了解しました!」


「よし!無事な騎士は負傷者の手当て、周囲の警戒にあたれ!その後は一旦休憩を挟み麓へ戻る!」


「「「「了解!!」」」」


騎士達はそれぞれのすべき作業へと移った。

指示を出したアルネージに一人の若い騎士が近付いた。


「あの、団長・・・」


「どうした?」


「その、オルフィン様の事なのですが・・・」


「あぁ、そうだ。オルフィン殿には色々と聞かなくてはいかんのだった。それで、オルフィン殿はどこに?」


「それが・・・こちらなのですが・・・」


アルネージが若い騎士に連れられた所には真っ黒い物体があった。かろうじて人の形を保っているそれは・・・。


「まさか・・・」


「はい、オルフィン様です・・・」


「それは確実なのか?」


「えぇ、第二騎士団は全員の生存を確認したため間違いないと思います」


アルネージはそっとそれに近付き、装備であるメイルプレートの煤をはらいそこに彫られている名前を確認した。


『オルフィン・フォン・カルネマル』


「あぁ・・・」


オルフィンは真上からのブレスをモロに浴びたせいで燃やし尽くされていた。


「団長・・・」


「大問題だな・・・これは・・・」


テスィシート王国騎士団のトップが死んでしまった。そしてそこの穴を埋めるのは・・・。


「第二騎士団団長である俺がやらなくちゃならんのか・・・」


降りかかる面倒を想像し、ガックリと肩を落とすアルネージであった。

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