帰ってきた場所
今回から二章です。
氷漬けになったグリフォンを解体し、使える素材を剥ぎ取っている時。
「ん?なんだこの堅ぇの」
明らかに羽根のそれとは違う硬質の物体。
「いって!」
まさぐる指先に刺激が走った。急いで手を引っ込めると指に切り傷があった。
「何じゃあこりゃあ」
「どうした?」
ティアリスの声に駆け付けたシャスティナにティアリスは尋ねた。
「いや、なんか羽根の中に明らかに羽根じゃない硬いものがあってさぁ、それで指切っちまった」
「硬いもの・・・?まさか!」
シャスティナは何かの衝動に刈られたように乱暴にグリフォンの羽根を引きちぎる。
「おいおい、そんな乱暴にすんなよ、羽根布団作んだから」
「あった・・・」
「んあ?」
シャスティナによって羽根の禿げたところを見ると半透明な琥珀色の石が生えていた。
「おいおい、なんだこれ。生えてるのか?羽根みたく」
「すげぇ・・・初めて見た・・・それにこの大きさ」
「シャスティナ?おーい、シャスティナさーん?」
ティアリスが呼びかけるも応じる様子がない。琥珀色の石に見蕩れている。
パンッ
「うわぁ!なん、なんだ!?」
「おぉ、気付いた気付いた」
シャスティナの耳元で大きく手を叩くとようやく元の世界に戻ってきた。
「で、そりゃあなんだ?そんなにすげぇもんなのか?」
「すげぇも何も、これ一つで人生二回分は遊んで暮らせる程の大金が手に入るぞ!」
「ふーん・・・」
「ふーんて、ふーんてお前・・・興味ないのか?」
「興味はあるよ、そりゃあ。けどなぁ、そんな大金持つだけ損だぜ?」
ティアリスは地球で宝くじを当てた人間の話を知っている。故に大金を持つことに忌避感を覚えるのだ。
「なんでそんなに価値があるんだ?珍しいってだけじゃないんだろ?」
「あ、あぁ、これは魔石の一種で『羽石』って言って、見ての通り羽に生えている石だから羽石。宝石と同じように装飾としても贈り物にも人気だ」
「ほうほう」
「それだけじゃない、金剛石並の堅さがある」
「へぇ」
「しかし金剛石ほど衝撃に弱くない。だから武器にもよく使われるな」
「ずいぶんと詳しいんだな」
「え?あぁ、アタシが冒険者になりたての頃は資金稼ぎで宝石店にバイトしてたからな」
シャスティナの意外な過去に感心しつつ視線を羽石に移した。
「ふーん、これがねぇ・・・そんなに堅いんなら加工にも苦労するんじゃ?」
「そこがこの羽石の面白いとこなんだ。この羽石に成形したいイメージを思い浮かべながら魔力を込めるとその通りの形に変形するんだ。イメージが強ければ強いほど、魔力を込めれば込めるほど明確な形に近付く」
「おぉ!すげぇ!」
「けどなぁ、それをする度に羽石が酷く劣化するから・・・って何してんだ!!」
シャスティナが静止を掛けた時には既にティアリスが羽石を変形させた後だった。
「おぉ・・・すっげ」
「あぁ・・・初物の羽石が・・・」
「コイツは俺と花子のもんだ、俺がどう使おうと俺の勝手だろ」
「そりゃあ・・・そうだけどさぁ」
ティアリスが変形させたのはサバイバルナイフ。近接武器に未だ難があった彼にとって願ってもないチャンスだったのだろう。村に戻るわけにはいかないため鉄は手に入らず、魔物の骨や牙でも限界がある。石器なんて論外だ。
それなのにこの羽石、素晴らしい出来である。まるで虫の羽のような薄さと透明感があり、それでいて刃物としての切れ味を損なわずに強度も十分。素晴らしいの一言に尽きる。
「おぉー」
スッ・・・
「おぉー!」
手頃な木を切りつけると、まるで抵抗無く歯が通り抜けてしまった。おそらくコレで切られたやつは自分が切られたことに気付かず死んでいくんだろう、ティアリスはそう考えると恐ろしく感じ、酷く興奮した。
「これなら・・・」
「なんか言ったか?」
「いや、何でもねぇ」
ひとまず柄に魔物の革を巻いてそれらしくし、その日はそれで終わった。
〜翌日〜
「やっぱでけぇな・・・」
「くぅ・・・」
ティアリスと花子はボロ屋の地下にいた。
『日の光浴びて地に根を張り、嵐を耐えては雨を吸う。樹は正しく魔の頂点、寿深く父が如し。彼の父成る者此処に眠り、妨げるは新たな父。幾年月を超え此処を開くは新なる父。生の原点にして死の終点を委ねし彼の新なる父に試練を与え、乗り越えし父に真なる魔の原点を与えん。』
「うん、そのまんまだな」
地球上の言語でもエルフ語でもなく何故か読むことが出来るこの文字。
「試練、なんて言ってんだからなんかあるんだろうな」
「きゃん!」
「おう、俺とお前なら何が来ても怖かねぇ。試練だろうが何だろうがねじ伏せるだけだ」
「きゃん!!」
ティアリスは花子の頭を一撫ですると、螺旋状の木の根に手を添えた。
「ふっ」
今まで幾度かこの“扉”を破壊しようと画策したが、結果はどれも失敗。傷一つ付かなかった。だが、何の気なしに魔力を少し注ぐと微かに螺旋を作る根が緩んだ気がした。つまりこの扉は魔力で開けることが出来るのだ。
5分ほど扉に吸われると扉の根はメキメキと音を立て壁に吸い込まれていった。塞ぐ物が無くなり、扉の向こう側から風が流れた。
「風・・・こりゃあ長そうだな」
「ぐるるぅ・・・」
ティアリスは羽石のナイフを手に、花子は構えを低くし本格的な戦闘体制へと移った。
流石に2000字は少なすぎるのでもう一本。