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出どころ知れない異世界より  作者: 耳朶楽
第一章
13/39

グリフォンの嘆き、花子のカタキ

「Fiiiiiiiiiiiiii!!!!」


グリフォン。大空(そら)()ける鷲獅子と称されるその姿はまさしく空の王者。

鷲の頭に獅子の身体、巨大な翼は嵐を巻き起こすと言われている。

ドラゴン、クラーケン、ユニコーンなどと並び地球でもさまざまな伝説に登場するほどメジャーな生き物だ。この世界でもそれは例外ではなく、さまざまなおとぎ話や伝記に登場する存在。その圧倒的強さは並の冒険者では歯が立たない。Aランク上位、もしくはSランク指定の魔物である。かのシャスティナであっても一人では狩ることが出来ないほどだ。

そんな相手に6歳になったばかりの人間と大人になりきっていない犬っころ、戦力差は絶望的であった。現に二人はグリフォンが立ち去るのを待って身を潜めている。しかし・・・。


「Fiiiiiiiii...」


ガッ、バクン・・・


前足で押さえつけていた三匹の芝山羊(グラスゴート)をグリフォンは一口で平らげると、途轍も無い魔力の奔流に飲まれた。


「Fi!?!?」


「てんめぇ・・・」


「ガルルルルルル・・・」


その正体はティアリスと花子の二人。自分達の獲物を横取りされた事に対して伝説の存在グリフォンに怒りを顕にする。


「俺ら“二人”の獲物を横取りすんじゃねええええええええええ!!!!!」


「GyaooooooooooooooN!!!!!!」


ティアリスから“漏れ出す”魔力を加えた恐怖の咆哮、それはさっきの芝山羊(グラスゴート)に充てたものとは比べ物にならない程だ。おそらくこのレベルの咆哮を先程の芝山羊(グラスゴート)が受けたらそれだけで絶命してしまう。

だがそこは天下のグリフォン、これをなんとか耐える。しかしそれでもティアリスに十分なほどの時間を与えた。


「っらぁ!!」


全力で魔力を込めた土魔術を使い、家を作る時の要領で捕縛用の虎鋏をグリフォンの身体に噛ませる。動きを封じた後、筋肉増強で力強く飛び出すとまたも全力の火魔術、青いバーナーをさらに巨大化させグリフォンの顔面目掛けて押し当てる。


「Fviiiiiiiiii!?!?!?!?」


今まで感じた事のないような超高熱、ドラゴンのブレスを軽く越す程の熱量に流石のグリフォンも悶え苦しむ。その声は熱で溶けた(くちばし)のせいで若干濁音を混ぜている。

だがグリフォンも黙ってやられるわけにはいかない。こちらも全力の風魔術で虎鋏を破壊、そのまま鎌鼬の嵐を二人にぶつける。

ティアリスが土魔術で壁を作るが強力な鎌鼬はまるで豆腐を切るように土壁を切り裂く。

壁が役に立たないと理解したティアリスは次の策に移った。右手に熱気、左手に冷気を纏い、地面に向けて撃ち込む。シュウウウと音を立て猛烈な上昇気流に嵐は相殺された。


「ガウゥ!」


いつの間にか背後に回っていた花子はグリフォンの翼に噛み付く。


「Fviiiii!?!?」


痛烈な噛み付きに躍起になって花子を振り落とそうと暴れる。しかし動けば動くほど歯は翼に食い込み痛みを増す。

そしてそんなスキを逃すようなティアリスでもない。


「顔、(あち)ぃんだろ?冷ましてやるよ!!」


バーナーで焼け爛れた顔面に続いてぶつけるのは何物をも凍らせる絶対零度。そのままぶつければ花子をも巻き込みかねないものだ。

ここで花子がそれを回避すべく顎の力を緩めればグリフォンは急速上昇で空に逃げることが出来る。グリフォンもそれを予想し、逃げられる確信をした。

だが花子の顎の力は一向に弱まる気配が無い、それどころかむしろ力を増している。そして花子の力に耐え切れなくなったのは翼。


バギンッ!!


「Fiiiiiiiii!!!!!!!」


翼を支える骨の一本が花子にそのまま食いちぎられたのだ。花子が離脱するも痛みと中折れした翼では到底飛ぶことなど叶わず・・・。


「そらぁああああ!!!」


「Fiiiiiiiii...iii...i...」


カチコチと氷像と化すグリフォン。


ティアリスと花子の二人はことのほかあっさり伝説の存在に勝利した。


「だぁああああああ!!!!クソッタレがッ!!三匹全部持っていきやがっておらぁ!!」


「ギャン!ギャンギャン!ガウゥ!!」


氷のグリフォンを殴る蹴る噛み付く引っ掻くと暴行を加える二人、失ったものはもう二度と戻って来ないと改めて痛感した二人であった。


その後、グリフォンの氷像を自宅まで持ち帰り、偶然訪れたシャスティナに何度目かわからない驚きを与えたのであった。


「アタシもこんなんになるところだったのか・・・」



★☆★☆★



時間は大きく遡り、花子との初めての狩りから二日後。ティアリスがいつものようにランニングから帰宅するとシャスティナが留守番していた花子に吠えられていた。


「な、なんだコイツ!吠えんなって!」


「きゃんきゃん!!ぐるるるるぅ・・・」


「おいおい、花子に何したんだよお前」


ティアリスはシャスティナにタメ口でそう訊ねる。既にこの頃にはシャスティナもティアリスの異常性には気付いており、時折年不相応な知識を披露することもあった。それを踏まえた上でシャスティナの彼に対する結論は“あまり詮索しない”であった。


「花子?この恐狼(ドレッドウルフ)のことか?」


「あぁ、俺の新しい家族だ。で、コイツをこんなに怒らせるってお前何したんだよ」


「何もしてねぇよ!ただお前を訪ねてきたら急に吠えられたんだ!」


「がるるるるるぅ・・・」


「めっちゃ怒ってますけど、いい加減真実を話してくれよ」


「全部真実だ!」


「ぐるるるるぅ・・・きゃん!」


「あ、こら!」


花子がスキを見て噛み付いたのはシャスティナの腰に巻いている毛皮の防具だった。噛み付いたまま離そうとしない花子をブンブン振り回し引き離そうとする。


「・・・・・・なぁ、その腰巻きさぁ、何の毛皮使ってる?」


「あ?これはアタシが村に戻る時に狩った・・・・・・あっ」


ティアリスとシャスティナの間に不安が過ぎる。


恐狼(ドレッドウルフ)か、恐狼(ドレッドウルフ)なのか?」


「あ、あぁ・・・」


その言葉を聞いてティアリスは納得した。恐狼(ドレッドウルフ)とはいえ“なぜ子供が一匹でいたのか”。


「っかぁ〜。多分その毛皮、花子の親だ・・・」


「ぐぅぅうううう・・・」


花子の親とのまさかの邂逅に眉間を抑えるティアリスであった。


シャスティナが腰巻きを取り、花子に渡してティアリス宅へと入り対面にティアリスを見ながら椅子に腰掛けた。花子はと言うと無残な親の毛皮を持ってティアリスのベッドに潜ってしまった。


「おかしいと思ったんだ。あんなガキを親が放ったらかしてんのが」


「うぅ、気まず・・・」


「気まずいのは俺だって同じだ、まさか俺の知り合いが新しい家族の(かたき)だとは・・・」


「うぐぐ・・・」


「あれ、オスだったか?メスだったか?」


「確か・・・メスだったはずだ」


「母親かぁ・・・」


「まさか魔物相手にこんな事になるとは・・・」


胃がキリキリと痛むシャスティナであった。


「とりあえずさ、謝ってこいよ。花子に」


「あ、謝るっつったって、あれは正当防衛で・・・」


「知らないならまだしもこうして知っちまったんだ。知ったならちゃんとケジメをつけるべきだと俺は思うぞ」


「で、でもよぉ・・・」


「じゃないとアイツはいつかお前を殺すぞ」


「うぐっ」


「お前の母親が魔物に殺されたらお前だってその魔物に復讐するだろう?」


「うっ」


「魔物だって同じだ。親の敵であるお前をいつか力をつけた時に殺しに来る。俺はアイツにそれが出来るだけの力をつけてやるつもりだ」


「な、なんで・・・」


シャスティナはティアリスがあの恐狼(ドレッドウルフ)に自分を殺すために力を与えると思ったのか、青ざめながら問いた。


「アイツ、花子はこれから俺と共に狩りをするつもりだ。そのためには俺と戦えるほどの力をつけなきゃなんねぇ。結果としてシャスティナ、お前を越えるほどの力を身に付けるつもりだ」


「そ、そうだったのか・・・」


ティアリスが自分を殺すために力を貸すわけではないことにホッとし、いずれそんな化物が殺しに来るかもしれないと言う恐怖に身が震えた。


「だからさっさと謝ってこい。謝らなかったらお前は魔物と同じだ。人を襲い、食ったところで人語を話せない魔物と」


「わ、わかった。謝る。謝るから・・・付いて来て・・・」


意外と少女な一面を見たティアリスは快くシャスティナに付いて行った。


「フーッ、フーッ」


花子は布団の中で泣くような声を出していた。


「花子、お前に謝りたいんだってさ」


布団を退けると毛皮に顔を埋める花子の姿があった。


「その、アタシは・・・・・・・・・す、すまない!!!知らなかったとはいえ、いや、知らなかったじゃすまないのは分かっている!けど、ホントに申し訳ない!!」


全力で頭を下げるシャスティナを花子は視界の端に捉えた。


「ぐぅぅうううう・・・フーッフーッ」


「すまない!!」


花子は怒り心頭と言った感じだが、シャスティナの姿に気持ちを落ち着けようとする。

怒りを押さえ込みトコトコとシャスティナに近付いた花子は。


「いっつ!?」


力強くシャスティナの肩に噛み付いた。


「きゃん!」


「コレで許してやるってさ」


ぷいっとそっぽを向く花子に代わってティアリスが代弁した。


「コレで・・・はは、この傷だけは死ぬまで残しとかないとな」


「いつかその傷が治ってたらその時がコイツがお前を殺しに来る時だな」


「そうだな、絶対に残しておく」


こうして花子とシャスティナの邂逅は幕を閉じたのであった。




その晩から花子はティアリスの布団の中に潜り込むようになった。ティアリスの匂いが気に入ったらしい、ティアリス自身もくっついていると暖かいため無下にはしなかった。

これにて第一章は終了です。次回から第二章に突入します。

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