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出どころ知れない異世界より  作者: 耳朶楽
第一章
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命名「花子」

昨晩予定してた朝ねって時間はもっと早いつもりだったんだけど・・・


一旦家へ帰ってきたティアリスは今日の収穫物を確認した。羊毛狼(ウールウルフ)を奪われ、収穫が百合猿(リリーモンキー)の爪と尻尾の袋、それと傷ついた子恐狼(ドレッドウルフ)のみだった。


「クッソ、あのホモ猿・・・次会ったら八つ裂きにしてやる・・・」


薔薇猿(ローズモンキー)に対して悪態をつくが、すぐに気持ちを切り替え子恐狼(ドレッドウルフ)を診る。


「思わず連れて帰ってきたけど・・・息はしてるな。とりあえず手当てだな」


部屋の片隅に置いてある救急箱を取り出し、簡単に調合した回復薬を塗っていく。


「包帯とかあればいいんだけどなぁ」


無いものはしょうがないと割り切り、続いて内部からの治療を行った。

魔力をゆっくりと流し込み、操作。傷口付近の皮膚を魔力で活性化させて修復を早める。細々とした傷はそれで完全に塞がった。しかしやはり大きな傷はなかなか回復せず、要経過観察とするしかなかった。


「・・・飯作るか・・・・・・」


やることを無くしたティアリスは台所へ向かった。


★☆★☆★


ティアリスが台所に立ってから10分ほど。むくりと子恐狼(ドレッドウルフ)が起き上がった。


「くぅ・・・」


ズキズキと足が痛み上手く起き上がれない、それでもふらふらとした足取りで美味しそうな匂いのする方へと歩いて行った。


「ん?あぁ、起きたのか。ちょっと待ってろ、もうちょいしたらお前が食えそうなもん作ってやる」


視界の端で子恐狼(ドレッドウルフ)を捉えたティアリスはそう言った。


「ぐるるぅ・・・」


「おいおい、そう唸るなって」


ティアリスはそう言うが人語を解さない恐狼(ドレッドウルフ)には理解出来なかった。


「ぐるるるる・・・がっ!?きゃいん!!」


「あー、お前アホの子か、その怪我で足に力入れたら痛いに決まってんだろうに」


ティアリスを襲おうとしていつも通りに足に力を入れたら強烈な痛みが走り転げ回った。


「あーもー、落ち着けって」


料理の手を止め、悶える恐狼(ドレッドウルフ)を抱き抱えると優しく頭を撫でた。


「ほら、痛くない痛くない・・・あ、こら噛むなって」


優しく声を掛け、敵ではないことをアピールするが上手くいかず服を力強く噛まれる始末だ。


「ぐるるぅ・・・」


ティアリスは一向に警戒心を解いてくれない恐狼(ドレッドウルフ)をこの際無視し調理に戻った。

恐狼(ドレッドウルフ)も怪我で逃げられないと悟ると唸り声をそのままに大人しくすることにした。


数十分後、ティアリスが料理を完成させた


「うっし、出来た出来た。お前のはコッチな」


差し出された皿の中には(ほぐ)された鳥肉に森で取れた豆を水で煮た物を混ぜた質素なものだった。


「すん、すんすん」


「食わねぇのか?」


ほれと出され、恐狼(ドレッドウルフ)はようやっと口にした。


「ま、美味いもんではねぇがな。俺も食うか」


カタカタガツガツと食器同士が当たる音と咀嚼音だけがその空間を包む。


そんな心地よい静寂を打ち破る者が現れた。


「ティーちゃん!お昼作ってきたよ!!」


チターナであった。


「・・・・・・ねーちゃん、もう“僕”に関わっちゃダメって言われたでしょう?」


「で、でも。ティーちゃんの事が心配なんだもん・・・」


「はぁ・・・コレがバレたら僕、ここを出て行かなくちゃならないんだよ?」


「でもでも!シャス姉はたまに来てるじゃん!」


「あの人はちゃんと許可取ってんの、ねーちゃんは許してもらってないでしょ」


「うう・・・・・・あれ?この子は?」


こうやって論点をずらすのがいつもの手である。もはやどっちが姉かわかったもんじゃない。


「あぁ、ソイツは・・・そこら辺で怪我してたから治療してあげた」


「ホントだあ!この子怪我してる!!」


チターナは恐狼(ドレッドウルフ)に手をかざすと詠唱を始めた。


「魔の(もと)は命の根源たる(せい)(みなもと)、我が手にかの力を宿しかの者を癒したまえ。ラージヒール!」


チターナの手が強く輝くと恐狼(ドレッドウルフ)の怪我がみるみるうちに治っていく。

しかし完治とはいかず多少の傷が残ってしまった。


「くぅん?」


急に足の痛みが引き、身体が軽くなったような感覚に疑問符を浮かべる恐狼(ドレッドウルフ)。その要因がチターナにあると即座に理解し彼女に対しての警戒心を解いた。


「くぅん、くぅん」


「アハハ、やだくすぐったい」


チターナにじゃれつく恐狼(ドレッドウルフ)を見てティアリスは現金なヤツと呟いた。


「ティーちゃんこの子どうするの?」


「あー、怪我が治ったらそのまま帰そうかと思っているよ、ねーちゃんが良いならそのまま持って帰って飼えば?」


「うーん、この子なんて子?」


「なんて子?魔物名なら恐狼(ドレッドウルフ)だよ」


「え!?恐狼(ドレッドウルフ)!?シャス姉がすっごい強くて怖い魔物だって言ってたよ!!」


恐狼(ドレッドウルフ)の名を聞くとチターナは一瞬で子恐狼(ドレッドウルフ)から距離を取った。

恐狼(ドレッドウルフ)はかすかに悲しそうな表情をした。


「大丈夫だよ、今だってねーちゃんに懐いてるんだから。子供の頃から育てれば魔物だって人を襲わなくなるよ、きっと」


「じゃあティーちゃんが育てようよ!一人じゃなくなるよ!!」


「え?俺が?」


「おれ?」


「あぁ、いや、僕が?」


「そう!そうすれば私も遊びに来るよ!」


「いや、今だって遊びに来てんじゃん」


「気にしなーい、気にしなーい」


ティアリスはちらりと恐狼(ドレッドウルフ)のほうを見ると。


「くへっ」


嘲笑われた。


「コノヤロウ・・・」


「ん?何か言った?」


「いーや、なんでもないよ」


「そう?」


ティアリスは恐狼(ドレッドウルフ)を睨みつけるがプイと逸らされてしまった。


「折角だからこの子に名前付けてあげようよ!」


「やっぱり世話すんの?」


「あったりまえだよ!」


「さいですか・・・」


ティアリスは言い返す気も起きなくなってしまった。


「うーん・・・恐狼(ドレッドウルフ)だからぁ・・・ドレちゃん?ドッちゃん?」


「そもそもメスなの?」


そう言うとティアリスは恐狼(ドレッドウルフ)をひっくり返して性別を確認した。


「メスか」


ペシン


「ティーちゃん、めっ!女の子にいきなりそんなことしちゃめっ」


「めって・・・」


疲労がかさむティアリスであった。


「うーん、う〜〜〜〜ん・・・・・・うむむぅ」


「もうおれ・・・僕が決めちゃうよ、ねーちゃん」


「うーん、そうだね、ティーちゃんが一番一緒にいるんだもんね、なんて名前に「花子」する・・・の・・・え?」


「花子」


「花子?」


「そう、花子」


「えー・・・」


「はい、もう決まり!コイツは今日から花子です!はい拍手」


二人だけのまばらな拍手で「花子」の誕生を祝った。

これからメインヒロイン花子の活躍をこうご期待。

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