有名の最後
初めまして、耳朶楽と申します。
処女作で拙い点や誤字脱字、ガバガバ文法やゴリ押し理論などなど至らぬ部分もありますがよろしくお願いします。
コンクリートジャングル、東京。都会のとある大学に通う青年。
彼の名前は『若白樺 有名』親しい友人からは『有名さん』と呼ばれている。実際、彼の通っている大学ではちょっとした有名人だ。
有名と言われてもその内容はなかなか褒められたものではない。曰く「女をとっかえひっかえ」曰く「大学1のプレイボーイ」曰く「一度に十人の女を相手にしたらしい」曰く「超絶倫」などなど、主に女絡みで多くの噂がある。だがそれらの噂は全て嘘である。真っ赤な大嘘。彼の20年の人生のうちに女性を侍らした時間は1秒たりとも存在しない。
ではなぜこれらの噂が学校中に流れているのか、それはいつも彼と行動を共にする4人の友人のうちの女性2人が自他共に認める美人。『彩鳥 海咲』と『九錆 風莉』だからだ。有名にとってこの2人は彼と恋仲などではなく、偶然講義が重なり、偶然両隣が彼女達で、偶然話す機会があっただけだ。その後彼女達の友人である『焼房芽 翔』と『波白 漠』を紹介してもらいよくつるむようになった訳だが、それを良く思わない連中が有名を標的とした悪意ある噂を大学に流したのだ。その広まり具合は近隣校や他のキャンパスまで広まっている次第だ。
有名の他にも2人の男がいるが何故か彼のみ標的にされている理由。それはおそらく彼の人相のせいだろう。目元まで隠れる長いくせっ毛、そこから覗くお世辞にも良いとは言えないキツい目付きと一々突っかかるような印象を受ける攻撃的な口調が癪に障った故の標的だろう。
翔はイケメン中のイケメンでアイドルやモデルのスカウトなどをしょっちゅう受けている、だがそれでいて自惚れる事は無く、より自分を向上させようとする努力や優しさがあるお伽噺の主人公のような男だ。ただ1つ欠点とするなら非常に熱血馬鹿であることだ。
さらに獏も翔程ではないが整った顔付きと見上げるほどの長身とガタイの良さを持っている。そんな2人を敵に回すのは大学生活において色々と厄介な事になるだろうと言う危惧も重なり、1番パッとしない有名の噂を流布しているのだ。まぁ、本人は全く微塵も気にしていないようだが。
それが彼の表の姿。
彼の真の実態は幼少期から培われた野性的感と高い身体能力を買われ、政府直属の秘匿機関に所属している構成員である。
その秘匿機関の名を『HoH(Hunt of Homeless)』と言う。政府が秘密裏に研究を続けている異形の化け物を人知れず捕獲し研究施設へ搬送すると言う単純な役職だ。
異形の化け物、世間ではUMAとも言われているがネッシーやビッグフットやフライングヒューマノイドと言った昔から慣れ親しんだ彼らとは別物だ。政府や一部の関係者は『出どころ知らず』と呼んでいる。
この出どころ知らずはつい16年ほど前に富士の樹海で初めて発見された火を吐く真っ赤な翼竜、通称『レッドベビー』を皮切りに全世界の至るところで突発的に出現する。
その姿形は大小様々で色とりどり。大型バスほどの大きさのある亀や、手のひらサイズほどの液状生物であったり。かれこれ40体を突破した今、色々と研究が進みこれらの出どころ知らずはその名の通りこの世界の生き物では無いと断言された。遺伝子を解析しても全く不明の因子が発見されたり、少なくともこの地球上には存在しないような鉱石や植物が付着していたりと。“不明”なこと以外何一つ発見が無い不思議な生き物である。
そして本日12月24日クリスマスイブ、本来ならこの時間、親しい友人と5人でカラオケでも行って聖夜を祝っていたはずだったが「バイトで先輩が急用で出れなくなったからシフト変わってくれって言われた」と見え透いた嘘で説明し、有名は今日も今日とて中国の山奥に出どころ知らずの出現反応を感知したと報告を受けて訪れていた。
ここ2、3年で発表された研究結果だが、出どころ知らずが出現する際その付近には地球上に存在しない粒子が発生する。現在ではその粒子の出現を衛星が感知してそこから一番近い支部に連絡が入るシステムが確立された。それによって出どころ知らずの出現をより迅速に察知することが可能となった。
そして今回の有名に課された任務だが、普段通り出どころ知らずの捕縛と粒子の採取である。粒子に特に害は無いが、研究のため採取して欲しいと研究機関直々の任務だ。
「あー、あー、こちらフェイマス。出現予定地に到着した。四川省支部が行けばいいのにと思う、どーぞ」
『こちら東京支部、そのまま待機せよ。それと四川省支部は捕獲した出どころ知らずの暴走によって酷い損害が出ているため活動不可だと説明しただろ、どうぞ』
「わぁってるよ、どーぞ」
有名は出どころ知らずの出現を支部から盗んできた支部長のお気に入り高級プリンをクリスマスケーキに見立てて食べながら待つことにした。
「お、これ美味いなぁ。帰ったら部長にどこで買ったか聞こう」
そこから更に待つこと1時間、有名も流石におかしいと思い始めた頃、支部から連絡が入った。
『こちら東京支部、どうも今回は粒子の様子がおかしい。四川省支部から応援を要請するから予定ポイントから一時移動せよ』
「こちらフェイマス、了解し...た...?」
有名がある異変に気づいた。
『どうした?何かあったかフェイマス』
「出た」
『何が出た!』
有名の視線の先で粒子が激しく輝き、その奥から巨大な影のような物が現れた。
「出やがった!出どころ知らずだ!!かなりデカい!!過去最大かもしれない!」
『なに!?フェイマス!いち早く距離を取れ!!いくらお前でも流石に無理だ!』
「分かってる!!とりあえず映像を撮るからそっちに送る!」
『ダメだ!早く逃げろ!!フェイマス!!』
有名が撮影の準備をし終える頃には出どころ知らずは成形を終え、巨大な目がぎょろりと有名を捉えていた。
「コイツぁ...逃げらんねぇな」
有名がそう言うのも無理は無い。今までで一番大きかった個体ですら五階建てマンション程度であったが、今回の個体はそれをゆうに越える。見上げても顔が見えないほどだ。具体的にいうと全長30mと言ったところだろうか。まるで怪獣映画の世界である。
「こちらフェイマス!!逃走は不可能と判断した!だから出来る限りこちらから詳しい情報を送る!耳の穴かっぽじってよく聞け!!」
『フェイマス!何を言っている!!まだ間に合う!早く逃げろ!!』
「だから無理だっつってんだろ!!いい加減腹くくれ馬鹿!!」
有名が叱責をマイク越しに飛ばすとイヤホンの向こうは水を打ったように静かになった。
「ふぅ、いいか?映像を見てわかるだろうがコイツは規格外にデカい、オマケに焼けそうな程の熱を放出している...」
そこから有名は早口に出どころ知らずの特徴を挙げていく。色、容姿、肌質、柄、背中に生えた棘の数までキッチリ、伝えられることをなるべく明確に。
その最中、この巨大出どころ知らずはゆっくりと上を向き大きく息を吸って...
『ッ!?ブレスだ!!避けろフェイマス!!』
その声に若干遅れて飛び避ける有名、しかし間に合わず右足とカメラがブレスに巻き込まれた。
「ちぃぃ!!」
東京支部のオペレーターは映像が途切れたため、早々に有名に連絡を取った。
『フェイマス!応答しろフェイマス!!』
「聞こえてるよ」
『無事だったか!』
「いんや、そうでもねぇ。今ので右足が持ってかれた。もう完全に逃走は無理だ」
『そんな...』
「だからこれが最後の報告だ。よく聞け」
有名は今のブレスによる被害をとても落ち着いた声で説明した。
「今の青白いブレスに熱は感じられなかった。だが飲み込まれた俺の右足はまるで鋭利な刃物でスパッと切られたように綺麗な断面が見える、痛みすら感じねぇほどに」
ゴクリと唾を飲み込みブレスが撃たれた地面を見る。
「そしてブレスの当たった地面は綺麗さっぱり“消滅した”」
『消滅した...だと?』
「あぁ、まるで切り取られたかのように消え去った。底はどこまで続いているのか皆目検討も付かねぇ」
有名が覚悟を決め説明をしていると出どころ知らずは再度ブレスを吐く体勢へ移った。
「どうやらもう一発俺のためだけに撃ってくれるらしい。これでお別れだな」
『何をっ!』
「この足じゃあ流石に逃げらんねぇよ」
『フェイマス...』
「じゃあな、俺が命懸けで伝えた情報だ。上手く活かせよ」
有名はそう言うと、青白い光に包まれた。
★☆★☆★
有名の死後数時間後、巨大出どころ知らずはその暴れっぷりから『カラミティ』と呼称されるようになった。
カラミティはその後3日3晩に渡る各国から派遣された軍の集中砲火を受けるもほぼ無傷。3回のブレスによって人間側は壊滅的被害を被ることとなった。そして4日目の朝、カラミティは突如出現時と同じ青白い光に包まれ忽然と姿を消した。
カラミティと戦っていた連合軍の一部兵士は言っていた。
“光の向こうに景色が見えた”
その後、出どころ知らずがこの世界に現れることは二度となかった。
今回はプロローグの位置付けです。
プロローグとかいいながらもう二話分くらいプロローグが続きます。初回サービスみたいな感じでドドンと残り二話も上げちゃいますので。
誤字脱字、気になる点がありましたら感想の方へご意見ご感想頂ければ幸いです。