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断罪の咎人トーマ  作者: 橋比呂コー
Mission1 通り魔を退治せよ
8/30

2-4 成敗

「待てよ。お前ら何やってんだ」

 そうして因縁をつけたため、盗賊たちの攻撃目標は当然當間へと移行する。ひと悶着後、手下と思われる盗賊二人が魔法を発動してきた。

「マギス・バレット」

 カムゥ曰く「とるに足らない低級魔法」だそうだ。しかし、実際に標的にされるとなると、そんな達観した気分ではいられなくなる。うろたえる當間であったが、ふと脳裏にある光景が映し出された。


 渦巻く水流があらゆる攻撃を防ぐ盾となる。どうやら防御の魔法のようである。それと同時にやや複雑な呪文も浮かんだ。

 盗賊二人が仕掛けて来たエネルギー弾は當間の胸へと到達しようとしている。もはや迷っている暇などない。

「レマモ ヲレワ テリナ トキヘウショ ヨズミ」

 手のひらが青白く発光したかと思うと、水の中に手を入れたような感覚になる。実際には濡れていないのに、両手がびしょびしょになったみたいで気持ち悪いのだ。

 そんな不可思議な感触に戸惑っている暇はないことは、凶弾の接近がはっきりと通告している。


「アクルア・クライペウス」

 魔法発動のキーとなる呪文を叫ぶ。すると、當間の胸元を守るかのごとく、水流が渦巻いていく。不可視であるはずのオーラを具現化し、エネルギーの塊を生成している。そこまでは盗賊の魔法と同様だ。しかし、その後、そのエネルギーを即座に水へと変換。そのうえ形状までも変化させ、渦巻の盾を形成したのだ。

 盗賊の凶弾は盾に呑まれ、呆気なく消滅してしまう。


 當間がいきなり魔法を発動したこともさることながら、自慢の魔法が即座に打ち消されたのだ。愕然とする手下たちであったが、それを尻目にボスは声を張り上げる。

「てめぇ、一体何者だ」

 そこで當間は素直に自分の名をフルネームで名乗ろうとした。しかし、そのフルネームを想起しようとして、思い起こされたのがこの名であった。

「俺の名はトーマというんだ」

 當間自身はこう名乗ったことに違和感はなかった。だが、これはカムゥが異世界転移を施す際に施した決別の儀式のようなものであった。

 別世界の人間として暮らすのであれば、当然名前もそれにふさわしいものでなくてはならない。そこで、魔法や言語能力を付与する際に記憶を弄り、マギカの言語体系にふさわしい名に改名させたのだ。


 こうして、當間改めトーマはならず者に堂々と名乗りを上げたのだが、事態は己の名うんぬんを気にしている場合ではなかった。

「トーマか。聞いたことねえ名前だな。いずれにせよ、俺たちに刃向うつもりなら容赦はしねえ。

 てめえら、防御魔法を出されたぐらいでビビッてんじゃねえぞ。このくらい俺の魔法で粉砕してやる。マギス・スぺリオス・バレット」

 すでに発動直前まで魔力構築は完了していたのだが、突然のトーマの介入でキャンセルさせられた魔法だ。発動キーとなる呪文が唱えられたことでエネルギー弾が生成され、巨大な弾道としてトーマへと放たれる。


 トーマは引き続き防御魔法を展開する。盾の魔法の場合、わざわざ呪文を唱え直さなくても、両手に力を入れるだけで魔力障壁を維持し続けることが可能だ。


 先ほど防いだ銃弾の魔法の上位互換となる一撃だ。さすがに衝突した際にトーマの両手に伝わる反動も大きい。だが、防ぎきれないほどではない。痺れるような痛みに耐えつつ、一層両手に力を入れる。

 すると、渦巻く水流に呑み込まれるように、巨大な弾丸が打ち消されていく。やがて、トーマが両手を払うと、渦巻の盾と一緒に弾丸も消滅してしまったのだ。


 盾を貫通してトーマを仕留める。そんな未来を予測していただけに、盗賊の動揺も一塩であった。

「どうなってんだ。俺の魔法が通じないなんて」

 盗賊のボスが使用したのは、持ちうる魔法の中で最大の威力を持つものであった。武器を削がれた以上、力関係は完全に逆転していた。


 ざわめいている盗賊一行であったが、トーマもまた戸惑いを隠せないでいた。カムゥから聞かされていたとはいえ、本当に呪文を唱えただけで魔法が発動できたのだ。夢幻かとも思ったのだが、わずかに残る濡れ手の感触が嘘偽りではないと告げていた。


 カムゥの話では、異世界にはびこる犯罪者を討伐するのがトーマの使命であった。状況からして傍にいる少女を暴行していたのは明らか。それ以前に、トーマに対して真っ向から傷害を負わせようとしていたのだ。異世界の法律はどうだか知らないが、立派な傷害罪が成立する。

 とはいえ、必要以上に怯えるさまを前に、この盗賊たちの小物臭が否めなかった。脅しをかければ尻尾を巻いて逃げるのではないだろうか。試しに、胸を張って迫っていった。


「く、来るな」

 気が動転した盗賊の手下が両手を光らせた。こいつ、まさか。そう思った矢先、「ケヌチウ テリナ トンガンダ ヨクリョマ」と再度エネルギー弾を充填し始めたのだ。

 先ほどよりも距離が詰まっているため、盾を再構築する時間は残されていないだろう。ならば、先に攻撃魔法で反撃できれば。


 すると、トーマの脳裏に鉄砲水のイメージが投影される。それとともに発動の文言も付与される。

「ケヌチウ テリナ トンガンダ ヨズミ」

 わずかに遅れたが、トーマの両手にもエネルギーが満ち溢れる。相変わらず濡れてはいないのに濡れているという気色悪い感覚に見舞われることとなる。


「マギス・バレット」

「アクルア・バレット」

 盗賊の攻撃から数秒遅れて、トーマも弾丸の魔法を発動する。トーマの魔法はエネルギーの塊を水へと変換し、それをそのまま銃弾として放つという初歩的な攻撃魔法であった。


 属性は違えど、同一の銃弾魔法が真正面からぶつかり合う。こうなれば、より強く魔力を込めた方が打ち勝つ。そして、その勝敗は呆気なく決した。


 競り合いに発展することもなく、盗賊のエネルギー弾がぶつかると同時に爆散した。それでもトーマの水の銃撃は威力が減ることはなく、まっすぐに盗賊の胸へと飛来していく。もはや盾の魔法を発動する猶予など残されていなかった。

 衝撃音とともに、盗賊の上着がびしょ濡れになる。被害がそれだけで済めばかわいいものであった。あまりの衝動にたたらを踏み、ついには仰向けにのけ反ったのだ。

「おい、大丈夫かよ」

 片割れの盗賊がその体を揺らすが、反応することはない。下腹部が上下することから、最悪の事態は免れているが、それでも異常な現象が発生したことには変わりなかった。


 トーマが発動したのは、盗賊がマーヤに浴びせ続けていた低級攻撃魔法に水の属性を付与しただけのものだ。本来なら護身用に相手の気を逸らす程度の威力しか出せないはず。連続で受けていたにも関わらず、マーヤが未だ行動可能であることが何よりの証拠だ。

 だが、トーマはその魔法一撃で盗賊を気絶させてしまったのだ。ここでカラクリを問われたとしても、発動した当人が出しうる威力さえ把握していないのだから詮無きことである。


 それに、これで完全に勝負は決したようだ。

「お、お前。こんなことしてただで済むと思うな。いつか仕返ししてやるから覚えてろ」

 トーマが魔法を発動した自らの両手を気にしている間に、盗賊は気絶している輩を背負い担ぎ、そそくさと退散していった。

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